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――― ミャー=ブヨ=ドロワマーノ ーーー 

閑話です。


ミャー視点。

 



       あたしの名前は ミャー 


      



 娼館【レッドローゼズ】の裏手にある孤児院で生まれた。 獣人族と人族のハーフ。 生まれたての時に、ミャーミャーって泣いてたから、その名が付けられた。





       今は…… 泣かない。 泣いて何て居られない。





 孤児院で、一人の女の子と一緒に育ったんだ。 名前はソフィア。 紅い目、銀色の髪の人族の女の子。 生まれた時が大体一緒だったからか、ほんとに一緒に育ったんだよ。 ” おかあさん ”も、二人一緒の方が何かと便利だからだと、思っていたんだ。


 抜き差しならない事情が、私達に有る事が判ったのは、ソフィアがレーベンシュタイン男爵家に引き取られる事になった後。


 男爵様は、ソフィアだけでなく、私も一緒に引き取って下さった。 多額の……前代未聞の身受け金を支払ってね。 ” おかあさん ”は、レーベンシュタイン男爵の本気を見て見たかったらしいんだ。 その「覚悟」 みたいな物を、アッサリとやってのけたんだ。



 男爵様にとって、ソフィアは「至高の階(王位)」にも勝る娘。 血を分けた自分の娘で在る事を確信していたから。 男爵の全てを掛けてでも、自分の手元でソフィアを育てるって……。 後で、レーベンシュタイン家の執事長のビーンズさんに聞いた話なんだ。


 コッソリだけど、ビーンズさんにソフィアの母君の事を教えて貰った。 彼女はこのエルガンルース王国の最高位の貴族である、マジェスタ公爵家の御令嬢だったの。 御名前は、




 ディジェーレ=エレクトア=マジェスタ様 




 なんで、そんな高貴な方が、娼館なんかにいて、妊娠して、ソフィアを生んだのか……それには深い事情が有ったらしいの。 その事情については、後々判るんだけどね。


 私がレーベンシュタイン男爵家にお世話になる事になったのは、「孤児院のお使い」に出てる時の事件が絡んでるんだ。 その事件ってのが、ソフィアが冒険者崩れの兄ちゃんに連れて行かれそうになった事。 その時、ヤバいと思って、制限されている爪を出して、助けようとした所を、男爵様に見られていたからなんだ。


 レーベンシュタイン家の執務室で、御当主様が言われた言葉……。 ソフィアがなんで、私を一緒に連れて来たのかと問うた後で、言われた言葉……。




「あの場で……、 暴漢が君達を襲うという危険の中で、この子は、君を護ろうと、「爪」 を出した。 見ていたよ……。 孤児院の子供なら、どんな相手に対しても危害を加えては成らない事は知っている筈だ。 また、獣人族が付けている『チョーカー』には、それを抑制する呪印も施されている筈だ。 ……あの時、相当痛かったのだろ? そんな想いをしても、その子は、ソフィアを護ろうとした。 振り返って、我が家には侍女の余裕はない。 この子には、護衛侍女になり、君専属に付いて貰おうと、その時、思ったのだ」




 この言葉を貰って…… あたしは、決心したんだ。 何処までもソフィアについて行くって。 大好きなソフィア。 姉妹と呼んでくれた、ソフィア。 彼女の側に居たくて、その為には、何だってするって、





 心のど真ん中で、……決心したんだ。





 ソフィアを護る。 その事を第一に考えていたら、御当主様から、専属メイドを仰せつかった。 その為には戦闘訓練も受けなくちゃならない。 望む処だった。 連れて行かれたのは、暗殺者ギルド…… レーベンシュタインの御家の家業が深く絡んでいる場所だったんだ。


 色々あって、片方の耳を失う結果にはなったけれど……、ソフィアに心配かけちゃったけれど……、でも、助けてくれた……。 レーベンシュタインの家の全てを掛けて、私を立派な戦闘メイドに仕立ててくれた。





 そして、私は、 暗殺者ギルドで ”闇の右手” の二つ名を手に入れたんだ。






 ずっとソフィアの側に居るって、決心は変わらない。 変えようがない。 そんな自分がソフィアの足を引っ張らないか、心配になって、自分の事も調べてみたんだ。 暗殺者ギルドの諜報部隊を使ってね。 


 ナイデン王国の、第四王女の娘……。 存在しては成らない、王族の娘。 それが……私だったんだ。 【レッドローゼス】の ” おかあさん ”が、私をソフィアと一緒に育てた理由だって、理解した。 



 ……表にさえ出なければ……。 ソフィアの足を引っ張る事は無い。



 だから、それだけ判ればいいんだ。 誰に云うでも無い。 誰かに知ってもらう必要も無い。 たとえ、それが、ソフィアであってもね。 




 ……わたしの大切なソフィア。





 ==========







      今、あたしが居るのは……、







 ノルデン大王国の王都クレトノルト。 王城の一室。 ユキーラ姫のお部屋。 遠く山の端に掛かる夕日を、大きな窓から見てたんだ。 


 《エステルダム》大森林の奥……。 「黒き森」の側の小屋から出て来たソフィアは、何かが違った。 ……彼女であって、彼女じゃない。 私の本能がそう告げていた。 「黒き森」に向かう道すがら……ソフィアが言った事が頭に過ったんだ。





 ” 今回は、そうも言ってられないと思うのよ。 なんか、嫌な予感がするの。 もし、ミャーが何かを感じて、私が私で無いと思ったら……。 御父様に繋ぎを付けて、全ての情報を私から遮断して…… ”





 ソフィアはこの事を予見してたんだ。 表面的には、ソフィアは存在している。 困っている人を助ける為に、自分を投げ出す、そんなソフィアは、起こり得る未来も予見できたんだ。 




 ” 自分は何処かに連れて行かれるかもしれない。 貴女は自分の身を守って、安全な所で、わたしを待ってって ”




 言外にそう言われた様な気がしたんだ。 待つよ……。 ソフィアを待つ。 きっと、そのままのソフィアが帰って来る。 約束したもん。 ソフィアと。 ずっと一緒だって。


 背後から声が掛かるの……。





「ミャー、今大丈夫?」


「はい、ユキーラ姫様。 ソフィア様からの御依頼の件、如何なりましたでしょうか?」


「ソフィアの姉妹の貴女の言葉。 しかと心に留めました。 貴女の知るソフィアが戻るまで、ミャー…… 貴女をわたくしの侍女として遇します。 エルガンルース王国にある、専属侍女の役職と同じです。 ……二人で、ソフィアを待ちましょう。 いいですね」


「お心遣い、誠に有難う御座います」


「ソフィアは、きっと私達の前に戻ってきます。 それまで……宜しくね。 それと……」


「はい、ユキーラ姫」


「今いるソフィアの偽物に対しては、何も行動を起こさないように。 《エルステルダム》の魔術師に対しても、何も……。 国家間の争いの原因になります。 きっと……、 ソフィアも望みません。 彼女が帰って来てから……考えましょう。 報復には、時期があるのです」


「……で、でも…… 」


「いいですね。 ソフィアを害した、ノルデンの民である私が、言うべき言葉では有りませんが……ソフィアは、きっと……、そう言うと思います。 あの深紅の目で、未来を見通し、最善を計る……。 わたくしの朋ですもの」


「  ……御意に」


「情報の収集は怠りなきように。 貴女が出来る、一番の事です。 わたくしも望みます」


「はい、ユキーラ姫様。 レーベンシュタイン男爵には、お知らせしても?」


「構いません。 ダーも、じっくりと観察するとの事でした。 あの偽物は、レーベンシュタイン男爵家とは……、 一切関係の無いモノだと、ノルデンは決しました」


「はい。 有難き幸せ」


「ゆめゆめ忘れないでください。 ミャー。 貴女もわたくしの朋なのです。 貴女の痛みは、わたくしの痛み。 一緒に待ちましょう。 その時が来るまで」


「御意に」





 ユキーラ姫は……、王族の姫君だ。 紛う事無く、王族の姫君だ。 判った……。 此処で待つ。 情報の収集は怠りなく。 ソフィアを待ちながら、偽物の事を監視する。 それが、たとえ遠くエルガンルース王国の中で有ろうとね。 



「闇の右手」の手の届く距離は長い。 復讐するのには時期が有ると、ユキーラ姫は言った。 だから待つ。 ソフィアを待ちながら、その時が来るのを待つ。


 大切な人を害した事……、


 後悔させてやる。 


 血反吐の海に叩き込んでやる。










 振り返ると、山の端に、今まさに落ちんとする夕日に向かって、祈りを捧げるんだ。 光の精霊神様、闇の精霊神様……。 世界に満ち溢れる、全ての精霊様……。







 ソフィアを返して下さい。













    ソフィア…


            ソフィア…


                    ソフィア…………!!!










ちょっと、一息、閑話です。



楽しんで頂ければ、幸いです。

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