第102話 魔力と理力 そして、あの人に逢うために……
【ご注意】 超絶 長文です。 説明回でもあります。 楽しんで頂ければ、幸いです。
「色々と大変だったんだな」
ウリューネ様と御会いして、尋ねられるまま、色々と御答えしていたんだよ。 まぁ、時間もあるし、餓死しちゃう恐れも、まぁ無くなったからね。 案外、落ち着いて御答え出来たんだ、相手が霊体であったとしてもね。
だって、” 一人ぼっち決定! ” みたいなモノでしょ、此処に放り込まれた時点で。 人恋しくも成るよ。 それに、この御方はウリューネ=エルガン初代エルガンルース王国の国王陛下にして、エルガンズの頭領だった人だ。 だから、レーベンシュタインの娘である、私としては、かなり関係性の高い人だったりもするんだ。
だからと云う訳では無いんだけど、親近感みたいなものが湧き出てきたんだよ。
「ところでさ、お前のその喋り方……、 なんとかならんか?」
「はい?」
「アデューの末裔、ソフィア。 アイツの子孫なら、そんな喋り方が地じゃ無いだろ。 もっと、こう……砕けたというか、ゾンザイな感じ? みたいな?」
「あ、あの?」
「すまん、ハッキリ言えば、気持ち悪いんだ。 俺は霊体に成ってるから、お前の考えている事が、割と流れ込んで来るんだよ。 言葉にしないでもな。 その思考というか、直接読み取れる言葉と言うか、そのなんだ……。ぶっちゃけ言えば、お前、口悪いだろ」
「え、……まぁ……その……」
「いいんだよ、アデューもそうだったんだから。 俺を罵倒したの、奴くらいだからな。 それも、他のエルガンズの目の前で! いきなり ”お前、阿呆か?” とか、平気で言ってくる奴だったんだ。 まぁ、気の良い奴だから、こっちも気にはしなかったけどな……」
「あっ、はい……。 もうちょっと、砕けた感じでも宜しいの?」
「そうだな、その方が話しやすい。 お前、ココから出たいんだろ?」
「……うん……」
なんか、お見通しって感じ。 紳士かと思ってたら、なんか庶民的な人ね。 孤児院モードでお話出来そう……ね。
「方法は有るんだ。 ただな、ちっとばかし、厄介なんだ。 お前、半妖なんだろ? 理力ってわかるか? というより、知ってるか?」
「理力?」
なんだそれ? 聞いた事無いなぁ。 ウリューネ様がなんか難しい顔してるね。 どっから説明しようかって顔してるよ。
「わかった、何も知らない事が判った。 最初から説明するから、疑問があったら、後でまとめて質問してくれ。 取り敢えず、お前には知っておくべきことが、わんさか有る。 時間は……かかるがな。 知らないと、ココから出られないしな」
そう言ってから、ウリューネ様は語り始めたんだ。 そう、私の知らない事ばかりだったよ。
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ウリューネ様、この世界の人じゃ無かった。 招かれし人 だったんだよ。 それも、日本からの……。 関東の地方都市出身だった。 日本人なら誰でも知ってる、有名国立大学の大学生だったんだって。 山歩きが好きで、アウトドアが趣味だったんだって。 秋口の寒い日に、山の中でテントはって、晩御飯食べて、寝袋に入って、眠って……翌朝起きたら、この世界に来てたんだって……。
強制転移させられちゃったらしいんだ。 召喚主は、ルース王国の宮廷魔術師さんだったんだって。 召喚の目的は魔人族との百年条約を結ぶ為の護衛だったんだってさ。 今と変わんないね! そんで、ウリューネ様の、日本での御名前が、瓜生 和人さん。 日本人っぽいね。 日本人だけど。 そこから、ウリューネって呼ばれる事になったんだって。
日本で生きていた時代って、大体 私と被ってるよ。 同世代の人だったんだ……。 数百年程、この世界に来た時期は違うけどね。 でね、この世界には、招かれし人ってのは、割と沢山いるらしいの。 でも、送還する術が無くて、いずれこの世界の土になるんだって。
ほら、よくあるラノベみたいに、神様出て来て、ギフト呉れたりする……てな事は、無かったんだって。 ただ、この世界に召喚された時に使える「力」は、直ぐに覚醒したんだってさ。 言葉とか、ある程度の知識とかね。 あと、瓜生さん自身が使える固有の魔法とかね! でも、問題は、この世界の魔法とは、成り立ちが違うって所。
現代日本には無いものね。 当然「魔力」ナンテモノ理解の範疇の外だったんだって。 結構 戸惑って最初の頃は、” 力こそパワーだ! ” を、地で行ったそうよ。 暫く訓練を受けてから、魔獣討伐の任務に就かされるようになったのよ。 強い魔獣なんかを討伐してたんだって。 訓練の一環でね。
でもさ、その時すでに、ルース王国の上層部は、その時、道を誤り始めてたんだって。
ほら、今の《ガンクート帝国》と同じよ。 人族が一番偉いんだってね。 勘違いも甚だしい事にね。 やっぱりその思想は、今と同じく南の方から来てたみたいね。 市井に出て、冒険者とかと寝食を共にして、魔獣狩りで技能を磨いてた、瓜生さん。 だんだんとこの世界の事情を理解して来たんだって。
市井の人達は、沢山いらっしゃる、精霊神様達を深く信奉してて、さらに大協約ってモノが存在するって知ったんだって。 流石は有名国立大学の大学生ね。熾烈な受験戦争を潜り抜けただけはあるわ。 専攻が、政経学部だっただから余計ね……。 制度矛盾とか、格差とかを、真剣に考え始めたんだって。
瓜生さんを召喚した、宮廷魔術師さんも、国の上層部に不信感バリバリだったんだって。 それで、彼は協力的で文献とか「大協約」とかを一緒に調べてくれたんだって。 結局最後には、その宮廷魔術師さんの養子に入ってね、御名前がウリューネ=エルガンになったそうなのよ。
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でね、この世界の神聖言語、《神代言葉》が、日本語だと判った時、「精霊神様」の事に共感が持てるようになったんだって。 そして、この世界には、人族系の者達と、魔人族系の人達がいるってわかったんだって。
そして、ウリューネ様は、自身がそのどちらにも、帰属しない、特殊な存在だと、気が付かれたんだ。
魔人族の領域には、領域をひとっ飛び出来る様な、巨大な龍人族とか、水の中でも息のできる魚人族とか、巨体の巨人族とかいる訳じゃん。 人族系の人達からしてみれば、いつ攻めて来られるかと思うと、オチオチしてらんないからね。 だから、人族系の人達は、精霊神様に助力を……助けを乞うたんだよ。 で、光と、闇の精霊神様とか達が協議して、それぞれの領域で暮しましょうねって事になったらしいのよ。
それが大協約の骨子。
でも、全く交流が無い訳じゃ無い。 魔人族も一枚岩じゃない。 大協約で縛られていても、ちょっかいを出す奴は居るんだ。 そこで、百年に一回、大協約の元、人族系の人と、魔人族系の人が、相互不干渉条約を結んで、ちょっかいを出す奴等には、精霊神様達の御力で一方的に殲滅する事になったんだと。
元々は一対一での条約だったんだけど、やっぱり、ほら、どちらの領域も一枚岩じゃないから、だんだんと分裂して行ってね。 今じゃ大国と言われる国々が、独自でその条約を結んでいるって訳なのよ。 直接結べない様な小国は、大国の属国なり、保護領となって、その傘下に入る事によって、同様の恩恵を受けるって寸法ね。
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そっからは、早かったって。 大協約の内容とか、周囲の国の状況とかを鑑みて決断したんだって。 ルース王国の上層部、特に阿呆な宣言をした、国王陛下と側近さん達に見切りをつけたんだと。
そして、目を付けられない様にしながら、大協約遵守派の貴族さんとか、市井の冒険者さんとかを組織していったんだって。 最後には、国王陛下の命令を無視して、パーティ組んで、百年契約を結びに、魔人族の領域に向かったんだって。
人族の領域は、ミッドガルド。 魔人族の領域は、オブリビオン。 間に有るのが、レテの大河。 両岸には魔力の濃い森が連なって、それぞれの領域の往来が出来にくくしてあるんだって。 カロの渡しって所から対岸に渡るんだってね。
瓜生さんは、ウリューネとして、エルガンズを率いて、魔人族の領域に渡河してあちらの有力魔人族との間に条約を無事締結する事が出来たんだって。 そんで、こっちの領域に帰って来て、ルース王国との交渉が始まったんだよ。
結果、物別れ。
歴史の真実を知って、後代の人の書いた書とは、全然違うって事に、唯々驚くばかりだったわよ。 まぁ、そっからは、歴史書に有る通り、ウリューネ=エルガン様が初代エルガンルース王国の国王陛下になったって事ね。 ……大体の流れはこれで理解出来た。 此処からが問題なのよ。
時が経ち、ウリューネ陛下が、ご崩御された。 陛下の身体はこの世界の地に埋葬され物質的には世界と同化されたんだけれど、その魂はこの世界の魂と同化されなかった。 ウリューネ陛下は強き魂の持ち主であられたから、死後も自我を失う事無く、有らせられた。
本来ならば、血肉を失った魂は、元の世界の魂の帰る所に送還される筈だったそうなんだ。 それを司るのは、闇の精霊神の眷属の方々。
送還されるべき魂を、選別を司る精霊神、リリン様。
送還する世界への扉を司る精霊神、ビョウド様。
送還すべき魂を、見守り導く事を司る精霊神、トーワ様。
この精霊三神が、ウリューネ陛下みたいな、召喚者を最終的に元の世界に戻す役目を負っている筈だったそうなんだ。 でも……、人族の領域であるミッドガルドでは、闇の精霊神を信奉する者がとりわけ少ないんだ。 祈りが少なければ、彼等の力も弱く、そして、頼りない。
更に悪い事に、闇の精霊神の眷属である精霊三神の依代である磐座が鎮座していたのが、この「黒き森」の中。 そう、森の民の領域なんだよ。 元来、森の民は、召喚者に対して冷淡だし、彼等が主に信奉するのは、樹の精霊神、風の精霊神、土の精霊神だからね。
闇の精霊神に祈りを捧げ、言祝ぎ、加護を得るって言う、大協約の重要な部分を無視しやがったんだよ、『召喚者の成れの果て嫌い』の、あのエロ爺は!!!
早く元の世界に帰りたい、元召喚者達の魂は、闇の精霊神の眷属である精霊三神の依代に集まってきちゃったんだって。 元よりこの世界の魂じゃ無い者が、この世界に縛り付けられている訳だから、魔力が寄って来る。 というより、彼等が引き寄せるんだよ。 だから、この森は途轍もなく魔力が濃いんだって。
「この森に、この膨大な ”「魔力」を寄せる力 ” というのが、召喚者が持ってる、” 理力 ” 世界の理の力なのさ。 この力は魔力と同様の働きを持つんだ……。 そして持ち主の記憶とか創造力とかをストレートに魔法として発現するんだ。 「理力」自体はこの世界にも存在する。 ただ、水からストレートにエネルギーを出す事が難しい様に、理力から魔術を紡ぎ出す事が、この世界の人々には難しいんだ」
でも……、 クラスの皆、私がやったら、出来るようになったよ?
「勿論、自分で見て聞いてすれば、それが経験になって、理力が発動する事も有るんだが、限定的だ。 あくまで、同じような物であって、同じものじゃない。 さっきの水で例えるなら、同じ使い勝手の良いエネルギーである電気を作り出すとするなら、この世界の人々は、頑張っても、水力発電所くらい。 召喚者は、鍛錬さえすればいきなり核融合発電所くらいになる。 適切に鍛錬さえすればね」
「なるほど、そう言う事でしたか……。 悪く言うと、この世界の人々が使える理力は、召喚者の使う「理力」の劣化コピーなわけですね」
「そうだね。 そう言うイメージでいいよ。 でね、問題のこの森からの脱出方法なんだけれど、闇の精霊神眷属達に、助力を求めなくてはならないんだ。 彼等に祈りを捧げ、此処に集う迷える魂を送還する。 そして、彼等とその依代である磐座を、魔人族の領域、オブリビオンに大転移させる。 その時一緒に行く事だけが、この森から出られる唯一の方法なんだ……。 その為には、君にはまず、「理力」の使い方を覚えて貰わなくてはならないんだよ」
精霊神様、攻略難易度高すぎます……。 でも、あの人だったら、嬉々として始めるんだろうなぁ……。 あまりにも、突飛なお話を聴かせてもらったので、混乱してきた……。 わかんない所もあるし。 聞けって言ってたから、聞くよ私は。
「……そう……ですか。 二つ、三つ、質問が有るんですが、いいでしょうか?」
「なんでも」
「その鍛錬の方法を伝授してくださるのは、ウリューネ様ですか?」
「そうだよ」
「では、貴方に、どの様な特典が有るのでしょうか?」
「決まっているだろ、元の世界に帰れるんだよ。 たとえ魂だけだとしてもね。 ここに集う皆は、帰りたがってるんだ。 強く強く、その想いは果てしなくね。 望郷の念の強さが此処まで、この森を狂わせているんだ。 エルフ達が慌てて重結界を張るくらいにね。 でも、それは自業自得な部分も有るんだけどね」
彼等が、闇の精霊神様の眷属の方々に祈りと言祝ぎを捧げていればって事ね……。 最後に一番聞いておきたかった事があるんだよ。 これだけは、聞いておかなくちゃ、ダメな気がするんだよ。
「あともう一つ……。 私は召喚者じゃありませんが、大丈夫なんでしょうか?」
「でも、君は半妖だろ? 妖魔ってのは、召喚者の成れの果てだから、大丈夫なんじゃない?」
絶句した。
私の身体の内で毒とか黴菌とかが私の魔力を吸って、妖魔化したと思ってた……。 それが原因で、死にかけた。 それを救って下さったのが、闇の精霊神様。 私の身の内の妖魔と、私自信の魂を、闇の精霊神様の加護によって、混ぜ合わせた結果の、半妖化だった筈……。
たしか、闇の精霊神様も、そう仰ってた……。 けれど……、 違ったんだ……。 私は前世の記憶がある……。 輪廻転生したって事だよね。 それで、思い出したのが、あの白い空間……。 あの人の後を追いかけて……、行先を探して居たのは……、紛れもなく、私自身。 そう……。 あれは、私の魂……だったんだ。 何かの拍子に、前世の世界じゃないこの世界に紛れ込んで……生まれてしまったんだ……。
あの人に逢いたい……その一念で……。
そっか……、あの人に逢うために……かぁ……。
「……判りました。 時間はかかると思いますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」
「うん、いいよ。 早速だけど、始めようか。 最初はね…… 」
こうして、ウリューネ様と、理力とやらを扱う鍛錬をを始めたんだ。 理力…… 森の民の聖賢者の云う所の妖気だったよ。 始めるもなにも、多少は扱えるからね。 ど基礎の部分はすっ飛ばせるね。 座学は無いの。 実戦あるのみなんだよね。
頑張るしか……無いか。
” あの人に逢うために ” だもんね。
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先ずは、妖気……いや、理力の使い方の勉強。 ウリューネ様って、おっかしいの! だって説明がね。
「こうな、バッと来て、グッとくるんだ。それをドッって集めて、バンって放出! てな感じ、わかる?」
「わかりませんよ、それじゃぁ」
「わかれよ!」
「無理ですって。 そんなんじゃ、理解できませんよ」
「屁理屈こねんな!」
「……はぁ。 何となく、開祖アデュラ様の御気持ちが理解出来ました」
「なんでだよ!!!」
そう言えば、ウリューネ様は……霊体になってから、言葉で説明する機会なんて、無くなってたんだよね。 霊体同士は念話とか感情とかダイレクトに判るし、そうそう人格残したままの魂なんていなかったし、更に言えば、ウリューネ様はこんな性格だし……。 最初から躓きまくってるね。 先が思いやられるよ。
とはいう物の、なんとかして体得しなきゃ、ココから出られない。 私も必死なんだ。 一応、私は生身の身体だから、ウリューネ様もそこは気を使ってくれて、プライベートな時間も作ってくれたんだ。 ご飯とか(……まぁ水だけだなんだけどね)、睡眠の時間はね。
で、気が付いたんだ、コップ見てて。 魔力が溜まる魔力保持量って有るでしょ? 同じように理力の溜まる、理力保持量って有るんかなってね。 私の魂は、妖魔と人族のそれぞれの魂がまぜこぜになってる筈。
そんで、妖魔は理力を操るってんだから、それに見合った保持量を持ってる筈。 なんだよね。 そんで、漏れ出ている理力を辿ってみるんだ。 身体の中に。 チョロチョロ、手とかから出てるからね。
ハッキリさせるために、あの魔法の杖を握り込んだんだ、プライベート時間にね。 チョロチョロ流れている先を辿って、辿って……先の方に、そのまた先の方まで……。
でもって漏れ出してる先が判明したんだ。 背中……そう、あのケロイド痕の有る場所なんだよ。 意識を集中させるとね、ボンヤリとその存在が判った。 漏れ出す経路もどんな回路なのかもわかって来た。 要は魔力と同じ。
で、イメージしてみたんだ。 例えるなら、アイスクリームのベンダー。 ほら、カップとかコーンとかもって、レバー引っ張って、アイス盛るじゃん。 食べ放題のビュフェに有る奴だよ! あんな感じの。 理力の方のタンクには取り出し口が無いから、あっちこっちから漏れてる感じなんだよ。
魔力の方の取り出し口と同様なモノをイメージして、理力で作って、そのタンクにくっ付けてみたんだ。 で、少ーし「理力」を意識して出してみる……。 魔力の通路を伝って、理力が流れたんだよ……。 コレだよ、コレ。
後は、通常の手順と同じ。 入ってるタンクを切り替えるだけなんだよね!
やってみた。
【火球】の最小の奴を作ってみた。 投げないよ? 重力砲身で打ち出したりもしない。 手の上で、コントロールできるかどうか試してみたんだ。
ポンって感じで、火が付いたんだ。 青い炎だったよ。
「出来んじゃん! それだよ!! それ!!」
ウリューネ様が喜んでくれた。 コレかぁ。 流石に此処まで、ニ十回眠っただけの事は有るよね。 いい感じだ。 でもさ、滅茶苦茶制御が難しいね。 下手こきゃ、すぐ魔方陣塗りつぶしちゃうんだよ。
理力って、力強いけど、大雑把なんだよ。 これじゃ、繊細な制御を要求される、二重魔法陣とか、多段魔方陣とか書けないよ……。 「魔力」だと、思う通りに制御できるのになぁ……。 ふと思いついて聞いてみたんだ。
「すみませんが、一つ質問が」
「なに? 答えられる事ならなんでも答えるよ?」
「はい。 その、魔力と理力を混ぜ合わせる事が可能なのでしょうか?」
「混ぜるの? ……出来るとは思うけど……。 親和性高いし。 でもなんでそんな事思いついたの?」
「はい、使ってて思ったんですが、魔力は制御がしやすいんです。 でも、反対にパワーと言う点では、理力に遥かに及びません。 極小の理力で、半端ない最大出力の魔力と同等なんですよ。 そのかわり、理力で制御の方は……ちょっと繊細さに欠けて……んー、塗りつぶしちゃう感じでしょうか」
「だから、魔力で制御、魔法本体に理力を使うって事?」
「ええ、まぁ端的に言えばそうなりますね。 混ぜ合わせるので、そう厳密には行きませんが。 格段に制御しやすく、安定した魔法が使えるようになると思うんですが、如何でしょうか?」
「……こればっかりは、やってみない事には判らないね。 外に出て、的当てでもするかい?」
「【火球】では危ないので、【水球】でしたら、問題は無いかと」
「いいよ、的を用意する。 外に行こうか」
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イメージは、バニラチョコの縞模様のアイスクリーム。 ほら、ベンダーにあるじゃんか。 バニラとチョコのアイスクリームの入ったタンクと、三つ並んだ取り出し口。
バニラアイス ――― バニラチョコ ―――― チョコアイス
って感じで並んでるの。 真ん中の取り出し口は、両方のタンクから取り出してて、合わさった状態で出て来る奴だよ。 あんな感じにイメージしてみた。 そう、イメージは大切。 ハッキリ思い浮かべならが、ちょろって出してみるんだよ。
反発して、暴走でもしたら事だしね。 でね、きちんと混ざって出て来たんだ。 配合比率は変えられるからさ、取り敢えずは 50:50 でね。
最初から出来ちゃったんだよ。 ……特製の魔力と理力。 この特殊なモノを便宜上 『 魔理力 』って呼んどくね。 で、それを使って、【水球】を展開してみたの。
放たないよ? 手の上に出してみたんだ。 安定してる。 真球の水玉が手の上に浮かんでいたんだ。 歪みも、波立ちもせず。ほんとに水晶玉のように出来ちゃったんだよ。
「制御は……出来ているようだね」
「ええ、先ほどまでの状態とは、比べ物にならない位、安定しております」
「ふむ……そうか。 よし、あそこの的に向かって、一発、当ててみろよ」
「ええ、そうですわね。 では、……重力砲身展開、起動魔法展開。 ……攻撃呪文を唱えますから、ウリューネ様は私より前に出ないでくださいね」
「おう、判っているって」
「では、行きます……!
豊穣の水よ、我が命に従い、我が敵を貫け! 【水球】!!!」
水玉が意思を持った魔物の様だった。 目標に成ってた丸太を建てたものに、突進して行ってね……バシュって、壮絶な音がしたと思ったら、その丸太のセンターをぶち抜いて、まあるい穴を開けていたんだよ。 当然それだけには留まらず、背後の森のデカい樹、二三本まとめて穴をあけていたんだよ。
「家の中でやらなくて良かったな。 ソフィアが眠る場所が無くなる所だった。 しかし、常識はずれな威力だなぁ」
「当の本人が一番驚いておりますわよ。 ウリューネ様」
ウリューネ様が大きく笑み崩れた様な気がしてね。 そっと、ウリューネ様が肩に手を置かれるような、仕草をされたんだ。 仕草ね……。 霊体だし、出来ないんだけどね。 よくやった……。 そう言われている感じがしたんだよ。
えへ、褒められちゃったよ!
でもさ……。 私、本気で自分自身に、” 驚いてる ” のよね。 だって、魔力だけの、【水球】を最大出力で撃っても、こんなに綺麗に打ち抜けないもんね。 まさか、ここまで威力があるとは、思って無かったんだ。
マジ、半端ないね。
ウリューネ様が、なにやら、ニヤニヤしながら、その端正な御顔を近づけて来た。 だから、私も精一杯、エルガンルースの礼典則に照らし合わせ、お礼の為の、めっちゃいい笑顔で、お応えしたんだよ。
うん、ガッツリ、「カテーシー」 だよね此処は!
「良い腕だ。 マジ、非常識なくらいの威力だな。 これは期待できる。 基礎編は終わりとしようか。 その代わり、ちょっとした座学をね」
「はい…… わたくしの知っている魔方陣は、全てこの中に入っております故、一つ一つ確かめてみたいと存じ上げます」
トントンって、こめかみを叩いみたのよ。 ウリューネ様、さもありなんって御顔で頷きつつ、お言葉を掛けて下さったんだよ。
「いいね、それ。 自分の能力を把握するのは、どんな時にも、有効な手段だからね。 そうだね、俺もお前が、どんな魔法が使えるのかも知りたいしね。 その後で、「理力」のみ受け付ける魔法を教えてあげるから」
さてと、それから、私の知ってる限りの魔方陣を展開して、ウリューネ様にお見せしたんだ。 最下級、下級、中級、そして、上級てな感じで私の知ってるモノを次々に、「マリカ」で描いて行ったんだよね。
余りの数に、ウリューネ様も驚いてらっしゃわよ。 ビューネルト王立学園での勉学の日々……。 思えば遠くに来たなぁ……。 エミリーベル先生! ソフィアは、先生のお陰で、頑張れます! って……そんな事、どうだっていいけどさ!
ウリューネ様からは、彼が知っている、「理力」でしか使えない魔法の関連を学んだよ。 今使っている、【妖魔の目】しかり、【魔力転換秘呪】しかり……、わりと、使い勝手の良いものが多かったよ。
うん、これで、何処に行っても、安心できるね。 其処まで進んでね、やっとウリューネ様から、闇の精霊神様の眷属の方々に会いに行こうって、手を引かれたんだ。
霊体だからスカッて、通り抜けちゃった、エルガンルース王国の開祖ウリューネ=エルガン国王陛下の手。 不敬に当たるかもって思ってたら……、 唯々、苦笑いしている陛下の顔が其処に有ったんだよ
「生きてた頃を思い出したよ。 ありがとう、ソフィア」
「勿体なく……御礼には及びませんわ。 目標に一歩近づいたという事ですわよね?」
「あぁ、その通りさ。 さて、行くか、精霊神様三柱の、磐座へ。 まずは汚れ落としからね」
「はい、御意に御座います」
気を引き締めて、
目に力を宿し、
” あの人への想い ”を胸に、
一歩、踏み出しましょうか!
副題、回収しました! 完全に「世界の意思」から、解き放たれたソフィアさんの、今後の活躍に幸有れ!