第101話 森の中での邂逅
暗いなぁ……。
お腹も……減って来たなぁ……。
歩き始めてから、大分たつんだけど、一向にどこだか判んないよ。 足元は見えるんだけど、渦巻く魔力が何もかもを歪ませてて、まともな風景に成ってないよ。 私が生き残れる、残り時間の事を考えると、心細いとか、言ってられないんだけどね。
取り敢えずは、魔力が強い方に足を向けてみるんだ。 目標が有った方が良いじゃない。 闇雲に歩くよりもね。 魔力の濃さを目印に、ドンドン奥に進んでいくのよ。
ミャーどうしてるかなぁ……。 打ち合わせはしたけど……。 あの土人形がどのくらい、私をコピーしてるかによるよね。 普通に暮らすには、どうって事無いとは思うけど、あの魔女とか、御父様とか、サリュート殿下とか……。 一発で、偽物って判るんじゃなかろうか?
それとも、なんかの認識阻害系の魔法でも付与するんかな? でもさ、ミャーには通じないよ? だって、あの土人形が立ち上がった時、背中、綺麗だったもの。 「輝く素肌」晒してたよね……。 私の背中には、酷いケロイド痕が有るんだよ。 自分ではない、何かが居た証なんだよね。
聖賢者ハイエローホが、私の記憶とか心をいくら探って、コピーしても、判んないよね。 ほら、あのエロ爺、めっちゃ私の事を触ってたじゃんか。 あれ、きっと、身体的特徴を掴もうとしてたんだよね。 でも、素肌は晒してない。 リサーチ不足だったな! ハハハハ! はぁ~~~~
はぁぁぁ、胸、揉まれなくて良かったよ……。
あれ、あのエロ爺、きっと、膨大なサンプリングがあるから、見た目で合致するの選んでるよね。 馬鹿め! エルガンルース王国出る時と、今じゃ、滅茶苦茶スリーサイズ変わってるんだ! あのまま、帰郷すると目立つねきっと。 確実にね!
あんた誰? レベルでね!
エロ爺は、気が付かないけど、私の外見の ” 微妙でない ” 変化に、ミャーはきっと気が付く。 そんで、ノルデン大王国にオサラバするんだ。 御父様は、ミャーが側に居ないのを不審に思うね、きっと。 直ぐ後くらいに、ミャーから連絡が入るんだ。 ” そのソフィアに対し、情報遮断してほしい ” ってね。
勘の良い御父様なら、何となくだけど、状況が読める筈。 いや、きっとかなりの部分まで、想像されるよね。 処置は適切にって訳だ。 あとは、私がここから脱出するだけで、あのエロ爺の描いた絵は、御破算になるって寸法だよ。
ただねぇ……。
脱出…、 自力で出来る気が……、 しなくなって来たんだよ。
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魔力は段々と濃く、厚くなって、ほんと視界を奪うんだよ。 もはや歪みなんてもんじゃないね。 水平と垂直が、直角に交わってないんだもの。 真っ直ぐに立ってるのかも、怪しくなって来たんだ。 目からの情報って、狂ったもの見続けると、バイアスがかかって、何が正しいか、判んなくなるだよね。
今がまさに、その状態なんだ。
頭も痛くなる筈だよ。 これで、極彩色だったら、ほんと気が変になるよね。 まぁ、森の中であるから、いくら暗くても、緑色が基調になってるから、まだ、保ってられる。 で、自分はそんな状況の中、より酷い方に足を向けてるって訳だよ。
なんとか、ならんのか?
いっそ、目を瞑って歩いた方が、よくない? って、思った瞬間に、躓いた。 そんで、派手に転んだ。
あいたたた……。
木の根っこだと、思ったら、違ったよ。 ” お骨様 ” だったよ。 「黒き森」に追放された、先人様って所かね。 顔を近づけてみると、高位魔術師のローブがボロボロになって、 ” お骨様 ” を、覆っていたよ。 あのエロ爺に歯向かって、制裁喰らったんだ。 そんな所だろうね。
ナムナム……。
近くに魔法の杖が一本、落っこちてたら、拾っといた。 鋼線以外の武器、持ってないし、棍棒代わりになるかなって思ってね。 その魔法の杖は、ある意味、「拾い物」だったよ。 なんか、私の手にしっくりくるの。
どうやら、私の中から漏れだす何かに、反応してるらしいんだ。 ほら、ノルデンの舞踏会の時、小部屋でなんか私の身体から漏れだしたじゃん。 エロ爺曰く、「妖気」なんだそうだけど。
この魔法の杖……、 私の「妖気」に感応するみたいなんだ。 何気に弄ってみるとね、私の手からちょっと漏れてた妖気に反応して、鈍い緑色に発光してんだよ、全体的にね。
だからさぁ、イッチョやってみるかぁ って、思ってね、呟くように命じてみたんだ。
「魔法の杖よ、その奥底に眠る知識の深淵を明かせ」
はい、出ました!!!
この、呪文……、 魔道具の詳細とかログとか出す奴でね。刻み込まれた、使用された魔法も、一気に吐き出すんだよ。 勿論魔力の文字でね。 で、手に持ってる限り、直に頭の中に映し出されるから、この状況でも歪まないんだ。
何か、面白い事でも、やってたのかなぁ……? 読んでみよ!
その場に座り込んで、お骨様の隣でじっくりと拝見させていただきましたよ。 時間だけは有るもんね。 最後には、寝っ転がって、読んでたよ。 時間を忘れてね。 いや~~~、興味深いもんだったよ。
最大の収穫は、俗に言う 「MP-HP変換」 「妖魔の目」の二つ。 この無くなった ” お骨様 ” もかなり頑張って習得したみたいでね、その跡がくっきり、ログに残ってたの。 ご飯……ないもんね、ココじゃ。 ちょっとでもって、可能性があるならと思って、両方とも習得出来るか試してみたんだ。
まぁ、エロ爺の云う通り、修行だよね。 やり方とか、魔法理論とか、蓄積魔力とか…… まぁ、必要条件はなんかクリアできちゃうわけよ。 さらに、この ” お骨様 ” と違って、私は半妖。 つまりは、あの何だか分からない、魔力に似た物も使える訳よ。
そしたらさ、アッサリ、習得が出来ちゃったわけよ。
【MP-HP変換】がね!
変換効率は、そこそこなんだけど、バッチリ、MP-HP変換出来たのよ。 つまりは……、 此処に渦巻く膨大な魔力は私のご飯に成るって事ね。 あとは、水さえ確保出来たら、問題無いもの。 脱出を考える時間が、めっちゃ延長されたって事だよ。
もう一つの奴。 【妖魔の目】もね。 これはね、漏れ出してた妖気を、目に集めてる感じで……出来たんだよ。 この魔法を使って、目を凝らしてみたんだ……。
一気に視界が開けた。
明る~~~~い!!!
魔力の歪みが見えなくなったら、この「黒き森」も普通の森だったよ。 まぁ、森を取り囲むように、重防御結界が張られてるけどさ。 ちゃんと樹の形してるもん。
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期待してなかった ” もの ” が有ったのよ。 村の痕跡がね有ったんだよ。 早速そっちへむかってみて、わかったの。 この森、出来てから、そう経ってないわ。 だって、村の跡にある廃墟のお家。 まだちゃんとお家の形してるんだもの。
お邪魔します!
ってな感じで、中に入ってみると、ふんわり柔らかな感じのお家だったよ。 ベッドもあった、キッチンも完備してた。 何より、お家の側に井戸があって、ちゃんと機能してるんだ。 天秤の先に着いた桶も、底抜けで無いしね。 ガッツリ汲み上げて、桶から思いっきり水を飲んだよ。
冷たくて、美味しかった。
よし、ココを拠点にしよう!!! 森の探索には、時間が掛かるからね。 ご飯は、魔法でMP-HP変換で済ましちゃお! さてさて、何が出てきますかね。
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RPGの主人公よろしく、取り敢えずお家の中を探索。 まぁ、逃げ出したんだから、碌な物残っては無いね。 ……親子、四人が暮らしてたんだ。 お父さん、お母さん、息子さん、 娘ちゃん。 キッチンの食器入れの中に、使い込まれた木のコップが二つと、小さな木のコップが二つならんで置いてあったんだ。
こっちのお部屋は、寝室かな? 大き目のベッド1台と、小振りのベッド一台が並んで置いてあったよ。 使わせて貰おう!! ベッドで眠れるって云うのは、とっても素敵だ。 あの土と藁の寝台の何千倍も体が休まるよ。
日が暮れると、ランタンに火を灯したりしてね。 ちょっと、雰囲気のある、森の小屋の様になったんだ。 小さなコップに水を入れて、【保温】の魔法で、白湯にする。
その辺で摘んだ、お茶代わりの薬草を手で揉んで、その中に放り込むと、あら不思議、即席の健康茶に成ったりする。 錬金術師の資格持ち、だもんね♪ ちょっと草臥れたソファに座って、あの魔法の杖のログを引き続き読んで、この杖の前の持ち主がしようとした事を考えて見たりしてたんだよ。
眠くなって、微睡んで……、 夢の中に落ち込んで行ったの。 疲れてたんだ……。
自覚はあんまり無かったけど、身体は正直だよね。
だから、目を閉じて……、 その微睡に身を委ねたの。
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揺り動かされる感覚がした。 寝起きの悪い私を、ミャーが私を興す時の様にね。 野太い……しっかりとした、男性の声が耳朶を打ったんだ。
「おい、よく眠れたな。 誰なんだ、お前」
青白く透き通っては居たんだけど、かつては、真っ黒な瞳だった目に、意志の強い光が宿ってた。 漆黒だったらしい短髪。 何よりもその優し気であり、少し怖い微笑み。 どっかで、見た様な。
はて?
でも、生きてる「人」じゃないね。 霊体だよね。 レイスにしちゃ、ちゃんと喋ってるし、ゴーストにしちゃ、敵意が無い。 その霊体をマジマジと見詰めてから、ゆっくりと、言葉を紡ぎ出したの。
「淑女の寝室に、それも、寝ている未婚の淑女の側に立つとは……、感心致しませんね。 エルガンルース王国、ブロイ=ホップ=レーベンシュタイン男爵が娘。 ソフィア=レーベンシュタインに御座いますわ。 ……それで、貴方様は?」
無防備ともいえる、寝てる私の側に立つ霊体の男の人は、ちょっとビックリした様な目をしてから、何か……、そう、なにか大切な者を思い出した様な目をして、言葉を口にしたんだ。
「エルガンズのレーベンシュタイン男爵の娘? ……アデュラの末裔……なのか、お前」
「ソフィアに御座います」
お前呼ばわりは、気にくわない。 ちょっと、ムッとして、言い返しちゃったよ。 ん? なんか、レーベンシュタインの御家の人の知り合いなのか? そんな口振りだぁ。 アデュラって、言ったよね、この霊体。
アデュラ…… アデュラ…… アデュラ…… えっと、聞いた名前だ……。 えっと、えっと、誰からだっけ……? そ、そうだ、御父様とビーンズ執事長さんが、教えてくれた名前だ。 たしか……、
「王の「目」と「耳」と「闇の手」の役割を、時を経て、世代を超えてもまだ、担っているのか? アデューの律儀で、融通の利かない所を受け継いだのか?」
今度は私の目が大きく広がる。 アデュラ。 その名前は、レーベンシュタイン家の開祖の名前。 エルガンズの情報、諜報、暗殺、調略の担当者だった人の名前。 エルガンズ仲間の一人。 エルガンズの暗い所を司る人。
なんで……、
開祖、アデュラ様を、そんな風に言える人は、只御一方しか居なかった筈。 この御姿、この威圧感……。 何より、この御顔……。 記憶が目の前の霊体と、合致した。 王宮の長い廊下に有った、一枚の肖像画。
私が気になり、侍従長様にお聞きした、あの肖像画の人…… この人…… いえ、この方は……
「俺の名は、ウリューネ=エルガンだ。 アデューの末裔、ソフィアよ。 見知り置く。 所で、なんで、こんな場所にいるんだ、お前?」
う、うわぁぁぁ!!!
エルガンルース王国の、初代様だ!!!
初代様の霊体だ!!!!!
アウアウして、ベッドから飛び降りて、身繕いもそこそこに跪拝したんだ。 不敬は私の方だった!!!
ヤベー
マジ、
ヤベーよ!!
頭を垂れて、やや冷静になった私は、その時に思ったんだ。
なんで、ウリューネ初代様、
こんな所に居るんだ?
ってね。
世界の意思ではない、ソフィアの物語が綴られ始めました。
ガンバレ、負けるな!!