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第10話 最後の辻褄合わせ






 もう、夜の帳が降りていたわ。 辺りは、魔法灯火でぼんやりと明るいけど、昼の光とはまるで違う。 宮殿群が立ち並ぶ様子を見ながら、ふっと溜息をついたの。 場所は、【金牛宮(トーラス宮)】入口。 ちょっと草臥れた侍従さんとお別れしたのは、控えの間。 そこで、御父様を待っていたのだけど、色々とお話が長引きそうなので、先に帰っておけと、お使いが来たの。




     間違いなく、準備してるね、エルグリッド卿。




 御父様には、王宮で用事なんか無いもの。 だって、国王陛下直々に、家業だった御父様の「お仕事」を廃止されたんだもの。 そう、部署ごとね。



      ――――――――――



 御父様が王国の耳と目の役目から切り離された 「その日」から、我が男爵家は、その辺の新男爵と同じく、無役の一貴族になったし、耳と目の「お仕事」なんかは、四大公爵家の傍系の家の人達が、ガッツリ既得権益として確保してるから、御父様への「お話」なんか無いもの。


 だから、タウンハウスに詰めて居るんじゃん。 なにかあった時には駆けつけられるようにって、義務付けだけは外れて無いからね。 穿った見方に成るけど、国王陛下の側近共が監視も兼ねて、留置かれているって感じ。 盾の男爵家って、どうも、この国のトップからは好かれて居ないらしいからね。 


 王都を出る時は、ちゃんと許可申請を出すの。 要件を満たしてさえいれば、許可が下りる。 領地に戻った時も、ちゃんと申請書出して、問題も何もありはしないよ。 その辺は、ルールに則って、揚げ足取りされない様に細心の注意を払っているもの。


 


     御父様の退出が遅れたのは……。



 ……単に、御父様と、私を引き離す為だけに、何かしらの会合を開いたみたいね。 決して王家の人達の話だけでは、こんなに遅くには成らない筈だもの。 会合の相手は、あっち側の、盾の男爵家の末裔の人かもしれないし、魔物暴走スタンピートの痛手を被っている、辺境侯爵家の呼び出しかもしれない。 取り敢えず、エルグリッド卿のヤツは、そんな足止め工作くらい、簡単にしてのける、政治力は持っているからね。




 つまりは、こっから、タウンハウスまでは無防備になるんだ。




「ソフィア様? 如何されました?」


「ミャー、帰ります。 《 馬車の用意 》を」


「はい、お嬢様」




 宮殿では、誰が聴いているかも知れないから、符丁をつかったの。 私がわざわざ、《 馬車の用意 》って言葉を使うと、臨戦態勢に移行する事になってるの。 ミャーも心得た物で、顔色一つ変えずに、部屋を出たのね。


 此処はまだ、王宮内。 だから、相手もヘタな手は打てない筈。 でも、毒殺の可能性があるから、何も飲み食いしない。 ただ、じっと、ミャーを待ってるの。


 窓から差し込む魔法灯火の光が、とっても綺麗でね。 調度品は豪華だし、思わず居眠りしそうな程のフカフカのソファに座ってたの。


 ややあってから、ミャーが戻って来た。




「馬車の準備、整いましてございます」


「有難う。 わたくし()、出ますね」


「御意に。 御側にて控えます」


「準備は、宜しくて?」


「はい、お嬢様」




 極上の微笑みを浮かべてから、玄関に向かって歩き出したの。 バッチリと探知魔法を掛けてるんだよ、私。 謁見の間とか、控室とかは、対魔法障壁が立ってるから、展開出来ないけど、廊下は違うみたいね。 


 細く細く研ぎ澄ました魔力しか使ってないから、王宮の人達に知られる心配はあんまりしてない。 近寄ってくる人と、遠ざかる人達の気配を感じるだけだから、魔法の行使って言っても、護身術の範囲内だもんね。 探ってみたけど、さっきの視線を投げた人は居なかった。 それは、もう、完全に。 その辺りをウロウロする人すら居なかった。


 襲撃は、確実ね。


 まるで、人払いをしたかの様に、ほんと、誰も居なかったわ。




―――――




 控えの間から、すぐの所に有る、昼前に到着したばかりの玄関ホールみたいな場所に向かった。 私の魔法の警戒線には、何も引っ掛かっていない。 このまま、オトナシクお家に帰してくれたら、文句ないだけどね。 きっと違うけどね。 ことさらに、誰も居ない様にされて居る感じがするのよ。 それは、きっと、後でどうとでも言い訳できる様にだろうけどね。


 やり方が、汚いよね。


 ミャーが用意してくれた、馬車に乗り込む。 玄関には衛兵さん以外、誰も居ない。 まぁ、お見送りなんて、される筈が無いし、気が楽っちゃぁ、そうだし。 ちらりと御者台の上を見ると、何時もの人じゃなくて、違う人が座っていたよ。 馬車も特別製の無紋の馬車に変わってる。 ミャー仕事が早い上に的確だね!


 ゴツイ御者のおっちゃん、無言で馬車の扉を開いてくれた。 ニッコリと極上の微笑みを浮かべて、軽く頭を下げ、囁くように呟いた。




「ゆっくり、進んで下さいね」


「御意に」




 薄っすらと、御者のおっちゃんの頬に笑みが浮かんだの。 ミャーが続いて馬車に入って来た。 扉が閉まる。




「あの人、あんな笑い浮かべられるんだ」




 ミャーが驚いて居ていたよ。 一体、誰を連れて来たんだ! 手早く着ているドレスを脱ぎ、いつもの運動着に着替えるの。 軽くて動ける奴。 ミャーが「もしも」の時用に付けてくれてた、菱玉のアクセサリーは、そのままガーターベルトについてるのよ。 


 ポケットに細工がしてあって、手を突っ込んで内側のボタンを外すと、ガーターに付けてある、その菱玉に手が届くようになってる。 後は、ドレスのデコルテに仕込んであった、両方に輪っかのついてる鋼線を取り出し、ポケットにねじ込んでおいた。




「ソフィア…… それ使うの?」


「うん、弓よりかさ張らないし、飛距離の問題は、風の精霊様にお願いしてあるから、解決済みだもん」


「そっか。 なら、安心だね。 出る?」


「うん、行こう。 仕掛けて来れば、対処するよ」


「だよね! じゃぁ、開けるよ!」




 ミャーはそう言うと、馬車の床面に有る、隠し扉を開いたの。 少し狭いけど、運動着なら簡単に出入り出来るくらいの穴。 特別製の馬車本体は、そんじょそこらの武器じゃ、貫けないから、良い目標になるしね。 【 隠形 】の呪印を結んで、気配を消して、馬車から抜け出してある程度、距離を置いた。 当然、衛兵さんには見られない様にね。 バッチリだったよ。




     ――――――――――




【探知魔法】 をつかって、周囲を伺うの。 馬車は私達が抜け出したあと、じつにゆっくりと動き出した。 ()()()()とね。 営門を抜けて、宮殿の外までは何の問題も無く進む。 【遠話】で、ミャーに伝えたの。 近距離ならまず間違いなく「会話」出来て、その上、誰にも聞かれなくて済むからね。




( そろそろ、仕掛けてきそうね )


( ミャーは、襲撃犯をマーキングするね。 弓も使って来るだろうから、気を付けて )


( 判ってるって。 ミャー、宜しくね )


( 任せろ! )




 王宮の営門を抜けて市街地へ入る、うちの馬車。 【探知魔法】に、害意の有る ”人” が、結構な数 引っかかって来たね。 う~ん、何処で仕掛けるのかな……


 大通りから、タウンハウスのある、王都の外環部に続く道に出た。 割と真っ直ぐなその道。 道幅は有るんだけど、周りにお店とか、宿とかは無いの。 住宅街だからね。 日も沈んでしまえば、大通りとは比べられない位、ひっそりしている。


 絶好の機会だね。 【探知魔法】に引っかかってた ” 人達 ” の距離が一気に詰まって来たよ。 私? うん、屋根の上に居る。 馬車を見下ろせる位置。 


 突然、一本の矢が、御者さんの近くに突き立った。 ビ~ン って音まで聞こえた。 御者さん、慌てる事も無く、御者台から飛び降りたの。 うん、やっぱ、ミャーの人選、間違ってないね。 襲撃が有ったら、まず距離をとって、相手の動向を探る。


 お家の「お仕事」してた人達の常識だもんね。 それにしても、矢を射かけた人…… 腕、悪いんじゃない? こっちがいくら警戒してるって言っても、初撃を外すなんてね。 ……えっ、躱したの? そう、ゴメン。 


 私は、輪っかのついた鋼線を取り出し、菱玉一つ、取り出したの。 菱玉のくぼみに鋼線を引っかけて、クルクル回して…… 矢を射かけた人に向かって投擲。




     真っ直ぐに飛んでった。 




 その人、矢継ぎ早に、矢を射かけてきたんだだけど、隠れる気サラッサラ無いね。 弓持ちの冒険者崩れか何かかな? まぁ、いいや。 飛んでった菱玉 「 眉間 」に入ったから。 


 あぁ…… 当然、()る為にね。 この菱玉も、特別製。 外側が血液に触れると、爆裂するの。 ほら、眉間に当たった人…… 頭吹っ飛んだよ。


 何人かいるね、弓持ち。 馬車に射かけて居たんだけど、隠れる気無いから、いい狙撃の的だよ。 私は場所を移動しながら、【隠形】で隠れて次々に頭吹き飛ばして行ったの。



   重装備の暴漢たちが、馬車を取り囲んでいたね、そう言えば。



 でもさ、なんの手立ても打ってないこと無いじゃん。 手槍とか、戦斧とか馬車に突き立ててたよ……。 でも、びくともしないの、この馬車。 だって、特別製だもの。 外見は普通の無紋の馬車だけど、ほとんど、鋼鉄製だもんね。 簡単には打ち抜けないよ。 



 さぁ、いい感じに集まったから、【重力魔法(グラビトン)】展開しとこ! 



 この魔法、面白い特徴があってね、動けば動くほど、強く魔法が掛かるの。 普通はね、モノを軽くして、動かしやすくする魔法なんだけど、逆も出来るのよ。 時々、迷宮の罠なんかに使われてるよ? 知らなかったのかな、あいつら。


 魔法強度は、最大の倍に設定してあるの。 つまりは一回、馬車を打っ叩(ぶったた)く度に、体重が倍に成る。 次はその倍。 動くだけでも、その魔法の範囲内に居る限り体重が倍化されていくのよ。 凶悪でしょ?


 ほら、次々と倒れて行くよ……。 暴漢の人達。 まぁ、体重80Kgの人が、五回動くだけで、約2.5トンに膨れ上がるんだもの……。 80キロ、160キロ、320キロ、640キロ、1280キロ、2560キロ……。ほら、ベシャって音がした。 人ってね、大部分が水分だからね……。 風船に水入れて、叩き潰したみたいに成ったよ。


 この魔法の対処方法は、じっと動かず、術者を斃すか、魔法の効果時間が切れるのを待つかの二通りしか無いんだよ。 で、術者は私。 あいつ等、私の位置確認できてないから、最初のは無理。 で、効果時間……。 残念でした。私の魔力総量、無茶苦茶多いのよ。


    ほんと、べらぼうにね。


 だって、生まれ落ちたその日に、ママから ” その手 ” の知識、植え付けられたんだよ? 当然、増強するよね。 普通の人……。 いや、魔術の素養のある人が、訓練を開始するのは、ビューネルト王立学院に入学してからだから、十二歳に成ってからだよね。 少なくとも、十二年先行してるのよ、私。


 魔力総量の拡張とか、魔法制御の収斂化高性能化とかをね。 この訓練って、大人になってからじゃ、あんまり伸びないの。 出来るだけ小さいうちから始めないとね。 その点も私に大きなアドバンテージだったの。 だって、0歳児よ、始めたの。 成長速度は、通常の10倍を遥かに超えるから……。



 まぁ、そんなわけで、魔法の効果時間切れは、多分丸一日くらいあるよ。 



 普通の罠だったら、ニ、三分だけどね。絶望感半端ないでしょ?これ。 あとは、ほっといても、自滅する。 




( ソフィア…… なんて、凶悪な魔法使ったんだ……)


(あら、自業自得よ。 それで?)


(うん、なんか、判らん内に手練れが次々と倒れるからって、奴等の御頭(おかしら)の元に、何人かが報告に行ったよ。 マーク付けといた。 どうするの?)


(報告に行った人達については、ミャー、貴女に任せるわ。 私は、その御頭(おかしら)とやらを殺る)


(わかった…… 無理しないでね)


(ミャーも、危ないと思ったら、一旦引いてね)


(うん、じゃぁ、後で!)




 ミャーが言う、マークって、魔法の印。 私の【探知魔法】に強く反応するの。 だから、遠くからでも目的の人やら、モノの位置が頭の中できちんと位置情報化できるのよ。 まるで、車のナビ(カーナビ)みたいでしょ。 判りやすくて、使い勝手良くって、好きよ。


 ミャーもこんな使い方スルって知らなかったから、最初に教えてあげた時は、戸惑っていたけど、何度か連携して()()()()を狩ったら、利便性に気が付いたみたいね。 それ以来、ミャーとは、とっても良いコンビなの。


 屋根の上から、目標を確認。 普通のおっさんと、ネエちゃんと…… ありゃ? 魔術師もいるのか? ローブを着てるから性別は判らん。 んじゃ、菱玉何発か用意してと!


 おっさんと、ネェちゃんは、弓持ちと同じ位、簡単に、頭を『 爆砕 』出来た。 問題はあの魔術師。 遠目に見ても、幾重に「なんかの障壁」たててるね。 うっすらと魔力の揺らめきが見える……。 対魔法障壁なら問題無いんだけどね……。 対物理障壁も当然立ててるよね……。 どうしよっかなぁ~~。


 まぁ、一発、魔法弾使って、意識を対魔法に向けようか?


 菱玉にさ、爆裂魔法の印呪を付加するの。 でね、魔術師に当たらない様に、そいつの結界に当たる様に、打ち出した。 めっちゃ派手な音が響いた。 やっぱり、強度の対魔法障壁たててやんの……。 周りをキョロキョロと見回してからね、対魔法使いに特化した、魔方陣を紡ぎ出した。





     あははははは! 





 思った通りの反応だよ。 これで、対物理攻撃の魔法障壁に流す魔力は激減するね! よし!!


 菱玉三連発。 同じ軌道上を真っ直ぐに魔術師に向かって飛んでった。 最初の一弾は、ちょっと弾かれて、胸に当たった。 二弾目は、やっぱり ちょっと弾かれて、肩口に当たった。




     でね、三弾目。





 綺麗に壊れた物理障壁を通り抜けて、頭に当たった。 連続した着弾。 そんで、血液と反応。 最後は、爆裂。 その魔術師、腰から上が見事に吹き飛んでたよ。 よし、排除完了!!




(ミャー、終わったよ)


(こっちも。 馬車に戻る?)


(そうだね…… うん、そうしよう。 中で、ガタガタ震えてようね)


(衛兵は、おそらく、【 鼻薬 】嗅がされてるけれど、そろそろ、騎士団が到着するよね、判った。 それじゃ、馬車で!)




【 隠形 】は解かずに、するすると、街路に降りて馬車に向かう。 うわぁ……。 馬車の周りに血溜まりが……。 ちょっと気を付けて、馬車の下に入って、小さな扉から体を滑り込ませるの。 中でミャーが待っていてくれた。




「お帰り……。 ソフィアの魔法って……、凶悪だよね。 あれじゃあ、誰か判んないよ」


「うん、これからはちょっと、手加減する」


「ほんと、お転婆なお嬢様だね……。 で、御頭(おかしら)さん達は?」


「頭、吹き飛ばした。 この世から、オサラバしたよ?」


「ソフィア、貴方の方が、アサシンメンバーに入って方が良いんじゃない? ギルドマスターが言ってたよ。 御者さん借し出す時に、” 必要あるのか? ” って。 ” 【銀髪紅眼(シルヴェレッド)鬼姫(オーガレス)】 に、手助けなんか…… かえって足手まといになるんじゃなのか? ” って…… どんだけ、高く評価されてるの、うちのお嬢様は!!」


「えぇぇ! 知らないよ…… それに、なに、その 【銀髪紅眼(シルヴェレッド)鬼姫(オーガレス)】 って!」


「あぁ、ギルドでの、お嬢様の二つ名。 進化したねぇ…… 最初は【銀髪姫(レディシルヴァヘア)】だったのに」




 ちょっと、目頭押さえた……。 この世界で、自分の身を守る為に、死なない様にするために身に着けた技術だったのに……。 なんか、どえらい話に成ってるねぇ……。 幾らなんでも……、【鬼姫(オーガレス)】って……。


 ま、まぁ、仕方ないね。 取り敢えず、血で汚れなかったから、ドレスに着替え直した。 ミャーに手伝ってもらって、王宮での姿同然にして貰った。 うん、これで、ガタガタ震えてたらいいんだよね。 王宮方面から、エルグリッド卿がそれとなく『 凶事 』を伝えたであろう、善意の第三者たる、騎士団の一団がやってくるまで、もうちょっと時間があるだろうしね。 【重力魔法(グラビトン)】も解除したし。 後は、【探知魔法】で、周囲の警戒だけさ。




「ねぇ、ソフィア…… あいつら、雇われだったんだろ?」


「そうね」


「雇い主ちゃんと調べなかったのかな?」


「頭、悪いんでしょ?」


「……襲撃対象の情報も調べなかったのかな……」


「所詮は、十歳の小娘、二人って、思ってたんじゃない?」


「大人って……」


「そう、だから、生き残れたの。 もし、……もしさぁ、相手が暗殺者ギルドの精鋭だったら、どう思う?」


「……互角…… 相打ち…… 私達も只では済まなかった……と、思う」


「でしょ。 だから、今回は僥倖ラッキーだったの。 侮ってくれたからね。 まぁ、これで相手の手駒も潰したら、そう簡単に次の手は打たないよ。 というか、打てない」


「ソフィアは、生き残るって事に、執着するんだね」


「うん、だって、どうしても、やらなきゃならない事があるんだもん」


「…… 前に言ってた、”人探し” ?」


「うん、大事な人。 名前も何もかも、居るかどうかさえ、判らないけれど……。 でも……、あの人も、この世界に転生していたら、きっと、探してくれている筈だから……」


「……乙女だねぇ」


「悪い?」


「さすがは、ソフィアって思っただけ。 その、輪廻転生って良く判らないけど……。でも、ソフィアの想い人が、生まれていたら、いいねぇ」




 低いけど、笑い声が馬車の中に響いたの。 そう、お互いの顔を見合わせてね。 この話は、ミャーにだけは教えたの。 だって、信頼しているもの。 彼女も馬鹿にせず、聴いてくれた。 とても、嬉しかったよ。



 【探知魔法】に、王宮の騎士団の影が映った。 もうそろそろ、震えて無きゃね。



 ()()()()の私に対する干渉も、これで潰した。



 もう、私を、ソフィア=エレクトア=マジェスタ公爵令嬢にしようと、思わない筈…… 筈だよね。



 私の代わり、誰がするんだろ? 



 まぁ、いいか。 この世界で、『君と何時までも』の登場人物たちと距離を置いたら、私には関係の無い話になるもんね!! これで、「世界の意思(シナリオ)」と、オサラバできる!





 **********************************





 騎士団の人達、周囲の凄惨な光景にビックリしてた。 物凄く心配されたらしい。 彼等は、馬車の中に声を掛けて、私達を助け出してくれたの。 表面上は襲撃痕も生々しい、御者さんのいない、うちの馬車。 周囲に ”人” だった、血溜まり。  何より、中で震えていたのが、ソフィア=レーベンシュタイン男爵令嬢だったって事で、騎士団の方々は、その日【金牛宮(トーラス宮)】で起こった、前代未聞の珍事に思い当たられて、納得しておられたよ。


 騎士団の詰所で、ちょっとした事情聴取を受けて、あとは歓待してもらってた。 だって、差し金を想像できるくらい、露骨だしね。 皆、口に出さないけど、”暗殺”って言葉が頭に浮かんでたみたいね。   彼等の顔には、”よくぞ、生き残られた!” なんて、感嘆の表情が浮かび上がってるんだもの。 だから、極上の笑みを浮かべて、感謝の意をきちんと述べたの。 おい、ミャー、なんで、肩振るわせているんだ!! 帰ったら、折檻な! 擽くすぐりの刑だ!!


 御父様が駆けつけて来て下さった。 ” よしよし ” して貰った。 まぁ、対外的にだけど……。 ほら、眼が怒ってるよ……。 無茶しやがってって顔してるし……。 タウンハウスに帰ったら、一家総出で、「お叱り」だね。 お手柔らかに……。




 ――――――




 こうやって、虎口を脱した私は、次の虎口も脱しようと、ある提案を御父様にしたの。 自分の行動の自由度を上げるためにね。 ぜってえ、ビューネルト王立学院へは行かねぇ。 領地に引きこもって、” あの人 ” を、探すんだ!!


「御父様、わたくし、領地に戻りたいと……。 王都エルガムは、怖い所ですから……」


「……暫くならね。 ずっとは、難しいよ」


「はっ? どういう意味で? 領地にて皆様の御手伝いをしたいのですが?」


「……十二歳までは、いいよ」




 とっても、嫌な予感がしたの。 まだ、世界は……、シナリオは諦めて無かったのかって……。




「……ビューネルト王立学院への入学ですか?」


「そうだ。 国王陛下の私室に連れていかれただろ? あの時、アンネテーナ=エルガン 妃殿下より、直接、強力に進言された。 ソフィアのビューネルト王立学院への入学をね。 私も君を引き取った頃は、そうしようと思っていたのだが、今は反対だった。 王都は君にとってあまりに危険な場所に成ってしまったからね。 しかしだ……」


「アンネテーネ妃殿下の勅命……」




 ちょっと、眩暈がした。 せっかく……、せっかく、舞台から降りられると思ったのに……。 まだまだ、放してはくれなさそうね。 「世界の意思(シナリオ)」は。 仕方ない……覚悟を決めるか。



 勅命によって、私の、ビューネルト王立学院への入学は決まったの。



 あと、一年半後には、あの『 君と何時までも 』の舞台に上がる事になる。 それまでに、きちんと情報を収集して、来るべき時に対処できるように、準備を始めようと思う。 




 仕方ないよね……。




 ねぇ、あなた……。 今、何処に居るの?




 早く、探し出してよ。




 生き残るのに、精一杯なのよ。






 ねぇ……。 知ってる?


 今の私の望みは、たった一つなの


 あなたの胸で……、






 眠りたいだけなの……








ブックマーク、感想、評価 誠に有難うございます。


今回は、長いです。 とっても長いです。 お疲れさまでした。

色々詰め込んだ結果、こんなに長くなってしまいました。


ゴメンナサイ。


いよいよ、舞台は、学園生活に入ります。 もがくだけ、もがいだ結果、世界の意思シナリオ通りではない、立ち位置を手に入れる事が出来たソフィア。 本音では、飛び出していきたい筈なのですが、人と人の繋がりのしがらみから、大きな枷が課せられた為に、彼女は覚悟を決めて学園生活に臨みます。



なんだか、重い話になってきてしまいました。



また、明晩、お逢いしましょう!!

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