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転生輪廻の意志




        辺りは、真っ白だった。




 霧の中を歩いているの。 前も、後ろも、右も、左も、何も見えない。 心細いね。 心細い時には、あの人が直ぐ側に居るって、思う事にしてる。 




        それだけで、何も怖くなくなるの。 




 でも、本物のあの人が居て欲しい。 ”何処に行っても、どんな来世であっても、絶対に探し出すから” その言葉を胸に進むの。 




            白い霧の中を……







************************************






 幸せは自分で掴むもの。 そう、心に決めていた。 自分の望むものを手に入れる為に、努力してきた。 平凡な毎日の繰り返しだけど、やっと捕まえた、大切な 「 平凡 」 だったから。


 望んだものは、ささやかな温かい家庭。 誰にも邪険にされない生活。 優しい夫。 そう、ささやかな願いだよね。


 高校を卒業して、直ぐに事務職として働き始めた。 なけなしのお給料の半分は、親元に送る。 奴等の遊興費やら、弟妹達のお小遣いに成るのは、知ってたけど、文句を言われず一人暮らしする為の、必要な対価だった。 残った僅かなお金で、生活するの。 でも、今までより遥かにマシ。 誰にも邪魔されない、平凡で、平穏な生活が、そこには有ったから。


 生みの母親が、私を置いて若い男とどっかに行ってしまった。 まぁ、浮気だろうね。 父親は、仕方なく私を引き取って、育ててくれた。 その内、そんな父親に恋人が出来た。 父親、よく頑張ってたもんね。 親戚にも、押されたみたい。 割と直ぐに結婚したよ。 で、その御義母さんとは、仲良くなりたかったんだけど、やっぱり、自分達の子供が出来たら、そっちに掛かり切りでね。 


 邪険にされたよ。 父親は、だんだんと、飛び出して行った、実母に似て来る私を疎ましく思うだろうね。 判るよ。 子供の頃は、「 愛情 」が欲しくて…… 私、頑張ってたよ。 でも、やっぱり異分子なんだよね、あの家じゃね。 結局は、搾取子に成っちゃったよ。 高校を卒業する辺りで、なんか、疲れちゃったのよ。 だから、”お金”で、解決することにしたの。 そっちへ行かないでいいなら、送金するよってね。


 資格も色々と取った。 事務職だけど、色んな仕事をした。 出来ないと、馬鹿にされるから。 同期の女の子たちは、大学卒の人達。 高校卒業枠で入ったから、全然話について行けなかった。 でも多分、同じ高卒の人が居ても、変わんなかったと思うよ。 仕事覚えようと、残業もバンバンして必死だった。遊ぶ時間もお金もなかったしね。


 仕事して、資格試験の勉強して、ご飯食べて、お風呂に入って眠る。 職業能力的には、二、三年でかなり向上したと思う。 課長さんや、部長代理さんなんかにも可愛がってもらった。 勿論仕事的な意味でだけど。


 使える者は、男女問わず、使い倒す処だったから、私の事を良く思ってくれたのかもね。 夜遊びしない、真面目に仕事はこなす。 陰口、悪口の類も一切しない。 無表情なのは、仕方ないよね。 家に居た時は、無視されるか、罵詈雑言を貰ってたしね。 なんか、猫なで声出される時は、決まって、” お金の事 ”だったし……。


 そんな私は、当然、女子社員からは浮いてた。 噂に聞く、「合コン」なんか、呼ばれた事も無い。 数合わせにすら入らないから。 土台、生活環境がまるで違う。 「普通」って……、普通ってなんだろ。 着飾る事も、お化粧も、持ち物だって、そんな事に掛けるお金なんて、まるで無かったもの。


 そんな中、課長代理が二つ上の、一人の男の人を紹介してくれた。 社内でも有数のお人好し。 のんびり屋で通っていたけど、私は知ってるよ。 その人、人一倍「努力の人」だもん。 無茶な仕事押し付けられても、ニコニコしながら受け取ってて、それで、一定の成果を出していくの。


 失敗しない様に、抑える所しっかり押さえて、誰にも迷惑かけない様に、判んなかったら、「報連相」確実にしてたし。 


 なんか、嬉しかったのと共に、” 私なんかで……いいのかな? ” って思ってた。 引き合してくれた、課長代理は、モテないもの同士のカップリングだと思っていたみたいだけど、彼、別段気にしてなかった。


 お話してみたら、思った通りの人で……なんか、心が穏やかになったよ。 お付き合いして貰えた。 忙しい仕事の合間にデートして……って言っても、私が彼の部屋に行くくらい。 綺麗な服も持ってないし、綺麗なお化粧も出来なかったから、外には行きたくなかったから。




「可愛いのに……、勿体ないよ。 でも、僕だけが、君の笑顔を見れるから、コレもいいよね」




 ゲームのコントローラーを持ちながら、二人してテレビの前に陣取って、色々話しながら攻略していくのが、私達の ” デート ” だったの。 


 私の唯一と言っても良い趣味は、「ゲーム」 ”何でも御座れ”で、遊んでいたのよ。 時間潰れるし、外に行かなくても済むし、初期費用だけで、お金掛かんないし。 そんな理由から、ソシャゲはしなかったけどね。 ほんと、色んな「ゲーム」 を、二人でしたのよ。 


    楽しかったよ。 


 ゲームの中だけど、一緒に色んな所に行けた。 MMORPGなんかで、二人ギルド組んだりね。 モンスター倒したり、家作ったり…… どんなゲームをしても、常にハンドルネームは同じなんだ。 休みの日には、二十時間ぶっ続けで、遊んだことも有ったよ。  



 彼とのお付き合いは、順調に進んで、「結婚」の意識が芽生えて…… 




「僕の奥さんになって欲しい。 君が良ければ、君と一緒に生きて生きたい」




 プロポーズは、やっぱり、彼の部屋だった。 珍しく、ゲーム画面が映し出されてない、真っ黒なテレビの前。 二人の間に有ったのは、ちゃぶ台に乗った、マグカップと、小さな指輪のケース。




「お願いしたいな。 どうかな」




 はにかんだ笑顔が、愛おしくて、切なくて。 答えは勿論一つしかなかったよ。




「不束者ですが、私で良ければ、お嫁さんにして下さい」




 恐々と彼の顔を見ると、爽やかで、嬉し気な笑顔があったの。 心の底から喜びが浮かび上がって来たわ。 だって、私が今まで望んでも、望んでも、手に入れられなかった、「幸せが」 其処に、現実に、紛れもなく、存在してたんだから。




************************************




 私の意思は決まった。




 だから、即、上司に報告した。 良かったねって、言ってもらえた。 まぁ、そうだよね。 カップリングしたの、上司だものね。 それでも、少し不安があったの。 




      身体の事。




 小さい頃から、色々と病気持ちだったから、病院に行って、”ブライダルチェック” って奴を受けたの。 色々とあるからね。 でもね、検査結果を聞いて、目の前が真っ暗になったのよ。


 子供が望めない……。自然妊娠の可能性は極めて低い。


 って。 隠して置けなかった。 幸せな気分を味合せてくれた彼に、申し訳なかった。 彼、子供好きだもの。 真剣に悩んで…… そして、やっぱり、彼に別れを告げようと思ったのよ。 




「それでも、君だけが僕の奥さんだよ」




 彼の真剣な瞳に……泣けて来た。 本当にいいのかと何度も何度もきいたのよ。 彼が言うには、彼も私と同じ位、「家族の縁」に薄い人だった。 だから、いいんだって。 




「君には、苦労を掛けると思う。 でも、僕の精一杯を以て、君を幸せにしたい。怒って、泣いて、悔やんで、灰色の世界に生きて来た自分。 君と出逢ってから、一気に辺りが色付いた。 喜んで、楽しんで、愛するって事を学べた。 手放したくない。 せっかく見つけた、()()()の宝物なんだから」




 その言葉に…… 私は落ちた。


 泣いて、泣いて、泣いて…… もう息が出来ない程泣いて、決めた。 なにが有ろうと、自分はこの人と共に歩んでいこうって。




************************************




 結婚した後も、私は退職せず働く事になったのよ。 よく話し合ったの。 会社の方も、その方が都合が良かったみたい。 上司と相談してね、もう、婚約状態なんだからって、寮を出て、彼の家に転がり込んだの。 寮の部屋も空きが無くて、私に出て行って貰いたかったみたいだったしね。



 同棲を始めて、彼が同棲記念だからって、ゲームを買ってくれた。 同じゲーム会社から出てる二枚組のゲーム。 『瑠璃色の幸せ』 と 『君と何時までも』 っての。



『瑠璃色の幸せ』は、いわゆる学園物乙女ゲー。 主人公が色んな男を落していく奴。 ただし、最高の目標は王子様。 婚約者持ちのね。 なんか、無性に腹が立った。 『 C 』評価以上のクリアだったら、プレーヤーが王妃様に成るのよ。


 コレって、最初の婚約者どうなのよって思っていたの。 ゲーム序盤には、主人公を ”イジメる” なんてことはせずに、学園の常識とか、貴族の常識とかを親切に、細々とした所まで、教えてくれるのよ? 優しく微笑んでくれるスチルに、私はこんな人が友人だったらなぁって思ったくらい。


 その人が、王子様を紹介してくれた辺りから、事態は段々悪くなるの。 王子様の興味が私に移って来るのが、丹念なシナリオに沿って描かれているのよ。 もうね、なんか申し訳なくって、出来るだけ王子様と距離を置いてたんだけど…… 


 やっぱり、ゲームのシナリオには勝てなくて、結局王子様、婚約者さんと婚約破棄。 出来るだけ穏便にと思って、進めたんだけど、婚約者さん、貴族籍を抜かれて、市井に放り出されてしまうのよ。


 婚約者さんその後で一番マシなのが、そのルート。 主人公の評価は「 E マイナス 」 。 婚約者さん放り出しルートは、C、D、E、Eマイナス の四ルート有るんだけど、E マイナス以外、酷い事になってしまうの。 Aプラス、A,Bルートは処刑ルートだから、問題外ね。


 普通に何の予備知識も無く、狙ってやらないと、たいていは「C」「D」、か「E」 ルート。 婚約者さん、放り出された後、悪者に捕まって、王都の売春組織に売られちゃうのよ……。 「 E マイナス 」 ルートだけは、その描写が無いの……。


 どうして、こんなゲームを? って、彼に聞いてみたの。 そしたら彼、ニコニコ笑いながら、PC起動させて、とあるサイトを開いて私に見せたのよ。 いわゆる攻略サイト。 其処に載ってたんだ。 この 『瑠璃色の幸せ』で、「 E マイナス 」の評価って、達成するの物凄い難易度なんだって。 普通じゃ取れない評価エンドで、そのサイトが評するに、この評価を取る人物は、「規則や習慣を大事にして、穏やかに過ごすタイプ」 なんだって。 


 曰く、 ” 最後の最後まで、人としての ”常識”、 ”倫理観” をしっかと守り続け、恩人には最大限の感謝をし、状況に流される事無く、己を律し、ストイックなまでに、自分で有りたいと思う人……。” 




「君なら、きっと、この評価を取ると思ってた。 僕と同じだからね」




 彼は笑って、そう言ってくれたよ。 なんか……照れちゃうよね。 



 そして、この『瑠璃色の幸せ』のセーブデータをもう一個の方のゲームに入れると、そっちのゲームに隠し攻略対象者が現れるんだって。 そう、『君と何時までも』 いわゆる「ギャルゲー」の、隠しキャラが、この市井に落された、元婚約者さんの子供なのよ。 俄然やる気が湧いて来て、こっちのゲームは、彼と一緒に、その子を落とす事に専念したわ。



 結果、その子を良きパートナーに出来た。 うんうん、良かった!





     でもね……。





 彼が云うの。 「この子にしてみれば、この結末は、本当に幸せになるのかな?」って。 確かに、ゲームは結婚式でのシーンで終わり。 その後も、エンディングでチラッと語られて、結婚後も仲良く、めでたしめでたし。 ……彼の言い分も判る。 舅姑は、自分の母親を裏切って市井に落っことした張本人だし、国の上層部も「それ」に手を貸した人たちばかり。


 絶対に気を抜けない状況だよね。 神経すり減らして……やだな、そんな状況。 でね、『瑠璃色の幸せ』をもう一回プレイしたの。 今度は『A プラス』評価狙いでね。そのセーブデータをもって、『君と何時までも』を始めてみると……。


 同じ子が出てるんだけど、完全に悪役で登場。 非攻略対象者。 そりゃそうよね、周囲は全員「敵」だもの。色んな手練手管を使って、主人公の王子様の側近共を落として行って、王子様丸裸状態。 王子様の取巻きの攻略対象者の御令嬢達とその子の悪事を暴いて、最後は断罪に持って行かれるの。


 王様も、王妃様も、彼女の出自を調べて、かつて自分達が裁いた元婚約者さんの子供って判って大激怒。 処刑されちゃうのよ。 そのスチル。 物凄く綺麗だったけど、心に刺さったわ。 最後のこの子の言葉が特にね。


「並み居る貴族の方々、国王陛下、王妃殿下、よくわたくしを記憶しておきなさいませ。 不敬の代償として市井に落とされ、穢され、打ち捨てられた者の「忌まわしの子」の姿を! あなた方の誰しもの受けている幸福は、名も知らない人々の苦難の上に有るのです。 その幸福を味わう時、ちらりとでも思い出せば、その幸福がいかに薄汚れた物か、理解出来るでしょう! よくお考えあそばせ! 他人の不幸の上に立脚する幸福のなんと薄っぺらいものかを! 暗澹たる王国の未来がなんと良く見えるか!」


 なんか、その直後に王子様、国王陛下、王妃殿下がなんか言ってたけど、記憶に残んない位、軽いものだったわ。 愛がどうだか、罪人の言葉がどうかとか…… その子の血を吐くような言葉に対して、全く説得力無いのよ。


 なんか、怖いと思ったの。 彼女の復讐心が、私とシンクロして…… でも、彼女、どこかで「幸せ」を感じてたのかな? 復讐だけを心の拠り所にしてたなんて、悲し過ぎるよ。 お陰で、遣り込み過ぎて、全部のシナリオ覚えちゃったよ。 エンドロール何回見た事か…… エンドロールはね、他のゲームと違って、ブラックバックじゃなくて、スタッフロールの後ろに、セピア色のゲーム中に語られなかった、物語がスチルで紹介されたのよ。 


 作った会社の意図は、このゲームの奥行きを出したかったのかもね。 でもね、そのスチル……、主人公のその後は、ちょっとしか無いのよ。 大部分は、悪役令嬢や、その娘ばかり。感情移入してた私は、そのスチルを一時停止して、読込んじゃったわよ。 なんか、物凄く悲しかったね。





 一緒に起きて、一緒に仕事行って、平凡な一日を過ごして、先に帰って、ご飯の用意をして、彼が帰って来て、一緒にご飯を食べて、ゲームして、一緒に眠るの。 平凡で、大切な毎日だったの。 「 誰の不幸 」も土台にしない、大切な大切な時間だったの。





************************************






 一度、私の実家の両親に挨拶に行きたいと、彼は言ったの。


 あんまり乗り気じゃ無かったけど、ちゃんと筋は通そうと思ったわ。 あの人達、一応両親だから。 近県では有るけど、ちょっと遠い。



「 挨拶は大切 」 



と言う、彼の言葉に頷いて、一緒に両親の住む町まで車で向かったの。




 雨に濡れた高速道路。

 猛然と追い越しをかけて来た白い乗用車が二台。

 突然、だった。前を走っていた方がクルクル回転を始めた。

 後ろを走っていた方が避けようとはしたけれど、

車間距離を空けずに走っていたから…、




 飛んできた何かの部品。

 ハンドルを握っていたのは私。

 必死にブレーキを踏んで、ハンドルを切った。


 でも、




 間に合わなかった。




 目の前に迫るガードレール。 悪いことは、重なった。 


 その先は……大きな谷に掛かる、長い橋。


 飛んできた車に弾き飛ばされる様に、私の運転していた車は、道路を飛び出してしまった。


 ふわりとした浮遊感が有ったの。 もう、どうしようもないよね。 

 隣に座る彼を見る。 目を合わせると引き攣っていた彼の顔が、突然穏やかになった。




「次に会う時も、君のままで居てね。 何処に行っても、どんな来世であっても、絶対に探し出すから」




 頷いて……心の底から感謝した。 ……待ってるから、絶対に探し出して。

 たとえ、どんな世界に居ても、あなた以外に私は要らないの。 






      だから、絶対に探し出して。





        目の前に迫る地面。




 最後は、ハンドルを放し、彼に抱きついていた。


 激突する直前、彼のはにかんだ、優しい笑顔が目の前一杯に広がった。 




      なにも、怖く無くなった。




 目の前が真っ白になるまで、彼の顔……、眼を最後まで見続けていたの。












     気が付いたら、「私」は、真っ白な世界に居たの。









始めました。


今度は、異世界転生モノ

現代日本の言葉がバンバン出てきます。

今作は、かなりダークな感じです…… だ、大丈夫かな?


お楽しみいただければ幸いです。

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