第九十八話 『隠し事って色々と面倒だよね』
「ただいま~」
「おうレイジ、やっと帰って来たか。ったく、さっきはいきなり出て行きやがって……何してたんだ?」
俺がギルドに入ると、ずっと待っていたらしいグライツさんが一番に声をかけてきた。
正直すっかり忘れていたが……さて、なんと説明したものか……
「レイジ様!! ご無事で何よりです!!」
俺が返答に困っていると、上の階からフィルスが駆け足で降りてきて、そのまま俺に抱きついて来た。
うむ……普通に嬉しいし、グライツさんへの返答を誤魔化せるかもだし、ダブルで美味しい。ありがとうフィルス。
「悪かったな、心配をかけた」
「いえ……あ、それより、頼まれていたカバンなのですが……」
「ん? もうできたのか? 正直駄目元だったから、こんなに早いとは――――」
「あ、いえ……それは、まだなのですが……というより、私ではどうしようもなさそうというか……すみません」
おっと、変に期待したせいで、フィルスをしょんぼりさせてしまった。
「いやいや、いいんだよ。できたらいいかなー? くらいの軽い気持ちで頼んだことだし、むしろ面倒なことさせてしまって、悪かったな」
俺は慰めるように、フィルスの頭を優しく撫でる。
すると、フィルスは顔をほころばせ、額を俺の胸にすり寄せてきてくれた。
あぁ……マジでフィルスが天使すぎるんだが。
恋人になる前も可愛かったが、恋人になった昨日の晩から、甘えに遠慮が無くなったせいか、めちゃくちゃ可愛い。
「あーなんだ。二人でイチャイチャしてるとこ悪いんだが、そろそろ俺の問いに答えて――――」
「おっじゃまっしまーす!! レイジにぃ~、いる~?」
グライツさんの俺へのツッコミは、今度は思ったより早く到着した香奈の声にかき消され、再び不発に終わる。
俺としては助かるが……流石にちょっとかわいそうに思えてくるな……
「香奈か? 早かったな。来るのはわかってたけど、準備してからじゃなかったのか? それに、馬車の音も聞こえなかったけど……」
「あ、うん! それはね~……って、えええ!? え、何? え!? そ、その抱き合ってる人って……も、もしかして恋人的なアレだったりするのでしょうか?」
「ん? ああ、そういえば話してなかったな。彼女はフィルス。俺の仲間で……昨日、恋人になったばかりだ」
「あ、えと……フィルス=レーヴェ・ゼムレニアです。よろしくお願いします。えっと……」
「……宮辻香奈、です…………くそぅ、可愛いじゃないか……ケモミミとかズルい……」
「あ~、えっと……宮下里香です。よろしくお願いします、フィルスさん」
苦虫を嚙み潰したような表情で香奈が一応の挨拶をすると、リカちゃんがちょっと困った顔でそれに続く。
というか香奈。最後の小声のつぶやきも、きちんと聞こえているぞ? たぶんフィルスにも。
ほら、その証拠に、なんだかよくわからない困り照れみたいな顔になっちゃってるし。
「は!? え!? 勇者!!? な、なんで……ていうか、レイジお前! 勇者と知り合いなのか!?」
「んあ? あー……まあ、なんだ……それはだな……」
う~ん……状況が悪化した。
というか、香奈と一緒に行動してて、隠せる気がしない。主に呼び方のせいで。
ていうか、身内にまで隠し続けてるのって結構面倒だし、もう話しちゃおうかな?
いや~、でもなぁ……ギルドの仲間はまだしも、グライツさんは会ったばっかでまだ信用しきれてないし、何よりこのオッサン、微妙に口が軽そうというか、いい加減というか……不安だ。
「あ~、まあ……話しにくいなら別に話さなくてもいいぜ? 勇者なんて、国の上の方が絡んでくるような話もありそうだし、言えないことがあっても不思議じゃない。ついびっくりして聞いちまったが、そもそも冒険者は他人への詮索は御法度だしな」
「……まあ、そう言ってもらえると助かる」
まあ、バレたときはバレた時ってことで、自分からはわざわざ話さないくらいの気持ちでいればいいかな。
「で、だ。旅に出るんだって? マスターから聞いたぜ? どこに行くんだよ」
「いや、それはまだ……特には決めてないかな。最終的には全部回りたいとは思ってるけど」
「ふむ……じゃあ、興味のあることとか、欲しいものとかは?」
む? これはあれかな。先輩からのアドバイス的なヤツかな? それならちょっと興味あるかも。
「そうだな……アーティファクトとかは見てみたいかも。できればなるべく多く」
「ほう……アーティファクト、ね」
そう言いながら、グライツがちらりと俺の腰に刺さった白雪を見る。
あ、そういえば、香奈たちに白雪も紹介しないとな……
「数だけなら、スレブメリナが一番多いが……あそこは研究用に揃ってるだけで、コネが無いと見るのは厳しいからな……実際に手に取って見たいなら、ザストールの遺跡群で探してみるのも手かもしれないな」
「ふむ……」
スレブメリナ王国は確か、魔導研究の盛んな国だったな。王都にはデカい学園があって、大陸中から魔導を学ぶために人が集まるのだとか。
一方で、ザストール王国は、国土の七割近くが砂漠という、環境の厳しい国と聞く。だが、砂漠には未探索の遺跡やダンジョンが多く存在しており、一攫千金を狙う上級冒険者が多く集まるらしい。
ううむ……どちらにも違った魅力があり、とても悩ましいが……邪神教徒のことを考えると、戦力増強は急務。
ならば、古龍という名の最強のコネを使ってでも、スレブメリナでアーティファクトに触れ、空属性以外の未確認の属性も発見しておきたい。
最悪古龍のコネが効かなくても、色々と情報はありそうだし――――よしっ!
「それでは、まずはスレブメリナ王国に行ってみようと思います」
「そうか。ま、お前さんのことだから、トラブルがあってもどうにかしちまうんだろうが……一応、気をつけてな」
「ええ、もちろんです。一人旅ならまだしも、大事な仲間もいることですしね」
そう言って俺は、フィルスと香奈の肩を抱き寄せる。
「ははははっ! そうだな! でもあれだな。今の構図だけ見ると、なんかお前がハーレム王みたいで笑える」
「は!? あ、いや……そういう意図は無かったんだが……」
俺は慌てて否定しながら、二人の肩から手をどける。
なんだか両端から残念がるようなため息が聞こえてきたが、気にしたら負けだ。
「わーってるよ……くっくっくっ……んじゃ、俺はそろそろ帰るわ。じゃあな」
「ああ、またな」
軽めの挨拶を交わすと、グライツさんはクリスタリアを出て、自分のギルドへと帰って行くのだった――――
な、何とか日刊維持(^^;)
日刊一ヶ月維持できたし、そろそろ休んでもいいかな?(笑)
明日は色々予定あるので、投稿かなり怪しいです。
とか言って結局投稿するかもしれませんが、まあそんな感じでよろしくお願いします(?)