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第九十七話 『やっぱり、異世界来たら旅してみたいよね』

 もうすぐ王都に到着するという頃には、すっかり太陽は昇りきっており、背の上にいる勇者腹の虫は絶え間なく鳴き続けていた。

 リカちゃんもすでに目を覚ましており、こちらは龍の背に乗るというファンタジーな体験に随分とはしゃいでいるご様子だ。

 香奈より落ち着いている印象だったので、ちょっと意外だ。

 俺はもう目立つのは気にしていないので、龍の姿のまま王城の庭に着陸する。

 慌てて衛兵や王様が駆け出してきているが、それは彼らの自由なので俺のせいではない。

 別に出迎えだって、強制している訳ではないし。しなくたって怒りはしない。

 背中でリカちゃんが、「もう終わりか~」なんてため息をついてるのが、ちょっと微笑ましい。


 「こ、古龍様!! わざわざ勇者様方を送っていただき、ありがとうございます!」


 俺が翼を下ろして、香奈たちを下まで滑り台の要領で降ろしていると、足元まで来ていた王様が、大声でお礼を言ってくる。

 確かに巨体相手だから聞こえなそうとか思うのかもしれないが、俺は別に顔に耳がついている訳では無く、体や周囲の魔素で音の振動を拾って聞いているので、小声でも十分聞こえる。

 とはいえ、このままでは喋ることはできないか……


 俺は香奈たちが降りたことを確認すると、体を魔晶龍騎士へと再構築する。属性は面倒なのでそのまま。


 「いや、ついでだからな。それに、この二人に死なれるのはちと困る。というわけで、せめて二人が戦闘の経験を積み、きちんと戦えるようになるまでは、今回のような危険な真似はさせないでおいてもらえると嬉しい」


 いくら強いスキルを手に入れたとはいえ、中身は普通の女子高生なのだ。

 魔獣を殺すのだって気後れするだろうに、それが対人なんて……

 いやまあ、香奈は大会で一度俺を助けるために斬ってるけどさ。


 「は、はいっ!! か、かしこまりました!!」

 「というか、実際のところ、訓練などはさせているのか?」

 「あ、はい。といっても、最低限の剣術や基礎的な体力づくりだけですが……」


 ふむ……まあそれも必要だろうが、この世界で生き抜くためには、もっと色々と経験を積んだ方が良いだろう。

 あ、そうだ。あー、でも……


 「そういえば、そもそも各国に勇者を配置しているのは、どういう意図があってのことなのだ? 色々と政治的な意図もあるのだろうが、それは抜きにして」

 「は、はい。それですと……女神さまの言う、『世界の危機』に対処するため、でしょうか……」


 あ、そんなもんでしかないんだ。なら、いいかな?


 「そうか……しかし、我が聞いた話では、世界の危機とやらはまだそう深刻ではなく、そう慌てなくても良いという事であった。で、あれば、今は下手に勇者を拘束するよりも、ある程度の自由を与え、様々な経験を積ませてやるのが良いと思うのだがな。勇者も、城の中にずっとでは退屈であろう」


 俺の言葉に、二人――――特にリカちゃんの方が激しく首を縦に振っている。

 やっぱりそうか。運動部っぽいし、冒険とか好きそうだもんな。

 さっきも龍に乗ってはしゃいでたし。


 「そ、そうでしょうか? しかし……」


 強く否定しない、か。

 なら、もうひと押しかな?

 あ、でもその前に――――


 「勇者カナよ。汝はどうなのだ? 何を望む」

 「え? あ、はい! 正直、異世界に転移するってわかった時は、冒険者になって旅とかしてみたいなって思ってました!!」

 「――――勇者リカ」

 「は、はい! 私は、いろんな所へ行って、いろんなものを見て、笑いも涙もあるような、そんな冒険に、子供のことからあこがれてて、もしかしたらって……思って……ました」


 リカちゃんは言ってて恥ずかしくなったのか、語尾がだんだん小さくなっていったが、まあ二人の気持ちは分った。

 なら大丈夫そうだな。


 「本人たちも、それを望んでいるようだ。安心せよ。この二人の安全は、この我自身が保障しよう」

 「よ、よろしいのですか!?」

 「構わぬ。ただし、いくつか条件はある。まず、冒険者ギルドに所属するなら、『クリスタリア』にしてほしい。レイジがそこに所属していて、我はそこを良く見ておるのだが、分散されると面倒だ」

 「レイジにぃのいるところ!? それなら、願ったり叶ったりというか、元々そのつもりだから全然問題ないよ!!」


 俺の名前が出た途端、香奈がわかりやすくはしゃぎ始める。

 まったく、そんな呼び方したら俺との関係が勘繰られるだろうが!

 まあ? 懐いてくれてるのは? 可愛いとは思うし? 許しちゃうんだけれどもね?

 でも、もうちょっと気を付けて欲しいな~

 あーでも、俺が元々隠してた理由って、変に目立たないためだし……もう意味ないかも?


 「コホン。えーそれから、レイジはそろそろ旅に出るらしくてな。二人とも旅をしたいのなら、それに同行してもらいたいのだが――――」

 「はいはーい! 全然OKでーす!!」

 「あはは……まあ、私も別に大丈夫です。梨華も一緒ですし、悪い人じゃなさそうだったし」


 あ、うん。そう言うと思った。

 となると、後は王様だけなんだけど……


 「で、本人たちは構わぬと言っているが、どうだろうか? アストレアの国王よ」

 「む、ぐぬぅ……ええい! ワシも国王である以前に、一人のジジイよ!! そんな目をキラキラさせておる若い娘二人に、嫌とは言えんわい……勇者カナ、並びに勇者リカよ。くれぐれも、無事に帰ってくるのじゃぞ?」

 「「はいっ! 陛下!!」」


 ふむ……国王も、なかなか話のわかる人じゃないか。 それに、見立て以上にいい人そうだ。

 まあ、古龍のお願いをこの状況ではねのけられる人なんて、そういないだろうけど……

 お詫びやお礼も兼ねて、今度何か、それとなく手助けしてあげよう。

 まあ、俺は旅に出ちゃうわけだし、ほんとにまた今度、いつか機会があればになっちゃうかもだけど。





 さて、二人は準備ができ次第、クリスタリアまで馬車で来るとのことなので、俺は急いでギルドへと先回りする。フィルスも待たせちゃってるしね。

 そんなわけで、一度森まで行ってヒトの姿に戻った俺は今、冒険者区画をギルドに向かって歩いていた。


 「というか、白雪。お前ずっと一言も発しなかったけど、別に喋ってもいいんだからな? ぶっちゃけかなり空気だったぞ?」

 (ん……でもなんか、あるじはシリアスな感じだったし、特に使われる気配も無かったから。口挟む必要のある話もなかったし)

 「そうか……あ、香奈たちを勝手に仲間に加えちゃったけど、良かったか?」

 (わたしは別に。ただ、付き合い始めのフィルスがどう思うかは知らない)

 「あーまあでも、フィルスなら嫌とは言わないだろう」

 (ん……大丈夫だと思う。ちょっとあるじを不安にさせてみただけ)

 「おい」

 (ギルド、着いたよ?)

 「あ~ったく……後でおぼえてろよ?」


 ま、別に本気で怒ってるわけじゃないし、何もしないけどな。


 俺は刀のかしらの部分を掴んでぐりぐりしながら、ギルドの扉を開けるのであった―――― 

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