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第九十四話 『祝福の陽と不安の影』

 「んっ……あ? あぁ、朝か」

 「あ、おはようございます、レイジ様。起こしてしまいましたか?」


 不意に部屋に差し込んできた光に目を覚ました俺に、窓際から挨拶をしてくるフィルス。

 どうやら今の光は、フィルスが窓を開けたことで部屋に入ってきたものだったようだ。


 「いや、大丈夫だ。どうせそろそろいつも起きる時間だし、大差ないさ」


 俺の返事に、良かったと笑顔を浮かべるフィルス。

 しかし……なんと言うか……フィルスが可愛く見える。

 いや、今までも可愛かったのだが、今朝は一段と――――ああ、そうか。笑顔だからだ。

 いつもはたまにしか笑顔を見せないフィルスだが、今朝のフィルスはずっと俺を見てニコニコしている。

 でもきっと、俺も同じように笑っているのだろうな。ふふふっ……


 (おはようあるじ。今朝は随分ご機嫌だね)


 俺がベッドの上に座ったままにやけていると、白雪が声をかけてくる。

 どうやら刀の中に戻っていたみたいだ。


 「悪かったな。俺がフィルスを引きとめちまったせいで、部屋に一人取り残しちまって……」

 (別にいい。フィルスもあるじも煽ったのはわたしだし、だいたいの事情も察してる。あ、事情じゃなくて情事だった?)

 「してねえわっ!!」

 「……?? 白雪ですか?」


 いきなり一人でしゃべりだした俺を見て、フィルスが不思議そうな顔をする。

 まあ、フィルスには念話は聞こえないのだし、いきなりしゃべり始めたらそりゃわけわからんわな。

 白雪と念話ができることは知っているだろうが、すぐにそうだとわかる訳でもないだろうし。


 「あーああ。まぁな」

 「何をお話しされていたのですか? 随分楽しそうに見えましたが――――」

 「いや! 何でもない。なんでもないからな?」

 「へ? あ、はい」


 情事だった? なんてド下ネタを否定してたなんて言ったら、妙な空気になるのは必至。

 正直に言うわけにはいかない。

 そういう行為に興味が無い訳では無いのだが、まだ早いと思うし……


 (あるじ、実体化。ごはん食べよう)

 「ん? ああ、ほい」


 白雪を実体化させて、ベッドから立ち上がる俺。

 確かにそろそろいつも飯を食ってる時間だし、宿の食堂も開く頃だ。


 白雪は、食事は必要ないはずなのだが、どうやら食事自体は好きなようで、食事になると目の色を変える食いしん坊さんだ。

 まあ、長いこと剣の状態で食事ができなかったから、新しいことができて楽しいのだろう。

 なので今は、その食費が財布を脅かしたりしない限りは、なるべく好きにさせてやりたいと思っている。

 フィルスと付き合えたのも、白雪のおかげだしな。


 「白雪」

 「ん?」

 「その……ありがとな。フィルスとのこと」

 「ん……あるじが幸せなら、私も幸せ。だから、気にしなくていい」

 「そか。まあでも、ありがと。お礼に今度、調理器具が揃ったら、美味いもん作ってやるからな」

 「!! 美味しいもの! 楽しみ。待ってる」


 美味しいものに反応してはしゃぐ――見た目はほぼ変わらないが――白雪が可愛くて、頭をぽむぽむしながら食堂へと向かい、朝食をいただく。


 「レイジ様。本日のご予定はどのように?」

 「ん? ああ。まあ特に急ぐ用もないし、とりあえず革の様子を見にギルドかなぁ……というか、フィルス。別にそんな丁寧に喋らなくてもいいんだからな? それが良いって言うなら別に無理に変えろとは言わないが」

 「あ、はい。わかりました。ですが、私にとってレイジ様を敬うのは当然のことですから。このままで」

 「そ、そうか」

 「はいっ!」


 そんな満面の笑みを浮かべられちゃ、もう何も言えんな。

 元々敬語が嫌とかじゃなくて、変にかしこまってたりして距離が空いちゃうのは嫌かな~と思っただけだったので、本人がそれが良いというなら、別に言う事も無いしな。




 そんなわけで、その後すぐにギルドへと来た俺達。

 しかし、扉の向こうで出迎えてくれたのは、いつものマスターではなく、何故かグライツさん。


 「よっ! レイジ。久しぶり……でもないか? 微妙だな……まあいいや。久しぶりだな」


 グライツさんと会うのは、大会の準決勝以来なので、15日ぶりになるかな?

 俺の感覚的には、十分久しぶりで良いと思うが、この世界の感覚だと交通などの差も大きいし、よくわからない。


 「ああ、久しぶり。それで、今日はなんの用で?」

 「ん? ああ……実は、俺は今朝王都に帰ったばかりなんだがな。お前さんと話がしたくて、こうして待ってたのよ」


 ん? そんなに急いで話ってことは、何か大事な用とかかな?


 「……何だ?」

 「ああ……お前さんの決勝戦。あれが色々と気になることだらけでな。五日目の表彰式で色々質問攻めになるだろうからいいかと思ってたら、お前さん欠席だしよ。優勝選手が表彰で欠席なんて、前代未聞だぜ?」


 あーまあそうだよな~

 事情を知らない人間からすれば、欠席した俺の方が非常識だろう。


 「いや、あれはまあ……なんと言うか……ジウスティア家に来ていた国王の使いとやらがクソムカつく奴でな。言い争いになって、そいつに賞金やるから帰れって言われて……それで出なかったんだよ。まあ、俺の方もそんな奴を寄越してきた時点で、参加する気ゼロだったけど」

 「はあ!? んだそりゃ? その使いって、国王のだろ? ってことは、かなり偉い貴族なんじゃないか?」

 「ああ。侯爵とか言ってたよ」

 「侯爵ぅ!? おま、正気かよ!! 侯爵に楯突くとか……いやまあ、うん。なんと言うか……流石だな」


 諦めたかのように苦笑するグライツさん。

 まあ、普通侯爵相手に楯突くとか、自殺行為だもんな。


 「てかよ。さっきから気になってたんだが、後ろのカワイ子ちゃん二人はどちらさんで?」

 「ああ。えっと……こっちが、俺の愛刀の白雪。そして、こっちが俺の恋人兼仲間のフィルスだ」


 グライツさんの当然の質問に、俺は二人を紹介する。

 カワイ子ちゃんって言っているあたり、亜人差別は大丈夫そうだし。

 フードで隠してても、グライツさんなら獣人だってことぐらい気が付いているだろう。


 「恋人だぁ!? ってことはあれか。その子がお前の気になるって言ってた子か。はは~ん。ま、上手くいって良かったな!!」


 そう言ってグライツさんは、俺の背中をバシバシ叩いてくる。

 少し痛いが、喜んでくれるのは嬉しく思う。


 「っと、俺はギルド『クアルソドラッヘン』のグライツだ。レイジとは大会で争った仲でな。ま、ぼろ負けだったが。よろしくな、お二人さん」

 「はい。よろしくお願いします」

 「ん……よろ」


 二人とも普通に挨拶しているし、大丈夫そうかな。

 にしても、フィルスが普通に挨拶を返せているということが、少し嬉しい。

 マスターと初めて会った時なんて、ろくに挨拶もできなかったのになぁ……


 「あ、そうそう。レイジは知らないかもしれないから一応教えておくけど、五日目に国から勇者召喚をしたって発表があったんだよ」


 うむ。香奈とリカちゃんだろう? 知っているさ。


 「ふむ。その顔からして、知ってたか。んじゃ、こんなのはどうだ? その二人の勇者だがな、お前が決勝戦で戦った邪神教徒がいたろ? あいつらは、一部にゃ結構有名な奴らなんだが……そいつらを追っているらしい。昨日かららしいから、そろそろ戦ってる頃かもな。いや~勇者様々だな! あいつらやけに強いから、普通の奴らじゃ手も足も出ないし――――」

 「フィルス! 白雪! 予定変更だ! フィルスは悪いが、残って革の加工をしておいてくれ。必要になるかもしれん。白雪は刀の中に戻ってくれ」

 「はい!」

 「ん」


 俺は話している途中のグライツさんをガン無視して、フィルスと白雪に指示を飛ばす。

 失礼だとは思うが、今の情報は聞き捨てならない。

 あれと二人が戦ってるだと?

 それで万が一のことがあったら、俺は悔やんでも悔やみきれない。

 事の経緯はわからんが、俺もすぐに向かわなければ。

 ひとまずは王城だな。


 「おいおい、一体どうしたって――――」

 「すまない! 話はまた今度だ!!」


 俺は急なことに戸惑うグライツさんを放置し、白雪と共にギルドの外へと飛び出して行くのであった――――

なんとか日刊維持。

ストックは無いので、続く保証はできませんが、できるとこまで頑張ります(;^ω^)

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