第九十三話 『やっぱり、大事なことは言葉にしなきゃ伝わらない』
今回、ちょっと切りどころがわからなくて長めになってます。
ご了承ください。
2017/08/14 微修正
バッグ製作二日目。
無事染色の終わっていた革を乾燥させる俺。
もちろん、普通にやってたら時間がかかるので、今朝ちゃちゃっと作った魔導具を使って乾かしている。
フィルスはその間、ギルドの中で白雪と待機だ。
手伝うと言ってきたが、俺が断った。
正直今フィルスの顔を見ると、昨日の裸を思い出してヤバい。主に下の方が。
昨日の混浴では、結局何も起きずに……というか、起こさずに済んだのだが、二人の裸はバッチリ見てしまったからな。
あれはその……なんと言うか……うん。素晴らしかったです。
フィルスのスタイルの良い、程よく引き締まった肢体に、白雪の幼さの残る、それでも子供と言うのは少しはばかられる、あの絶妙な感じ。
基本上を向いて見ないようにはしていたが、俺も男だ。
正直、見たいと思ってしまう。
目の前に好きな子が裸でいて、見たくないと思える男がいるだろうか? いやない。
だから、何度かちらちらと見てしまった。
絶対俺が見てるの気付いてただろうな……女性は視線に鋭いっていうし。
どんな顔して会えって言うんだよ。
あの後帰る時だって、ほとんど会話らしい会話ができなかったんだぞ?
それが一晩経って冷静になったら、余計に何話していいかわからん。
で、結局かろうじで絞り出したセリフが、「俺一人で大丈夫だから、二人は中でテキトーに休んででくれ」だ。
フィルスなんかは手伝いたそうにしていたが、結局は何も言ってこなかった。
きっと俺の雰囲気から察したのだろう。ちょっと悪いことをしたかな……
でも、今はもう少し時間が欲しい。でないと、ちょっと冷静でいられなそうだ。
そんなことをぐるぐる考えながら、俺は一人無言で作業を続けるのであった――――
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「レイジ様の様子が変でした。私たちを避けているような……やはり、昨日無理にお風呂に連れ込んだのが、お気に召さなかったのでしょうか」
あるじが外に出るなり、そんなことを言ってくるフィルス。
でもあれは、裸を見た直後で気まずくなってるだけだと思う。
そもそもあるじはフィルスが好きなのだから、嫌なんてありえない。
昨日も何度かちらちら見てたし。
わたしのことも見てたけど、なんでだろ? まあ、それはいいや。
結局あるじの気持ちはフィルスに伝えず誤魔化しちゃったから、フィルスは主の気持ちを知らない。
まあ、こういうのはやっぱり、当人同士で伝えるべきだと思うし。
「……まあ、大丈夫」
「そうでしょうか? もしですよ? もし、レイジ様にこのまま避けられ続けたら、私……」
ああ。それはあり得るかも。
あるじ、結構初心っぽかったし。
「大丈夫。こっちから話しかけてみればいい」
「で、でも――――」
「大丈夫。でも今すぐはダメ。今晩あたりがいいかも」
「……でも、何を話せばいいか……」
「最初はなんでもいい。血が欲しいとかでもいいし。あとは、本音をぶつけてみればいい。変に隠すからおかしなことになる」
「ま、まあ……確かにそろそろ血はいただきたいですが……わかりました。やってみます」
どうやら、フィルスはやる気になってくれたようだ。
これで、あるじとフィルスの問題は大丈夫だろう。
もしダメなら、その時になってから考えればいい。
「ところで、フィルス」
「はい、なんでしょうか?」
「敬語じゃなくていい。わたしも、敬語じゃないし」
実は昨日からずっと気になってたことを、フィルスに言ってみる。
話題を変える意図もあるが、これは早いうちに言っておきたかった。
一昨日は初対面だったからアレだけど、フィルスはもう仲間だ。少なくとも、私はそう思っている。
そして、あるじに対して敬語なのは別にして、わたしとフィルスは対等だと思う。
「えっと……わ、わかり……あ、いや、わかった? よ?」
「ん……よろしく、フィルス」
「あ……うん。えと……白雪」
ん……この感じなら大丈夫そう。
変に硬くなったりしてないみたいだし。
しかし……あるじも何を悩んでいるのだか。
フィルスの好意は、初めて会った私が即気付くくらい一目瞭然なのだから、早く告白しちゃえばいいのに。
あるじも流石にそこに気付いていないような鈍感男じゃないだろう。
「……白雪?」
急に俯いて考え事を始めたわたしを、フィルスが不思議そうにのぞき込んでくる。
「ん……なんでもない。それより、そろそろあるじの作業も終わるころだと思う」
「そうだね。それじゃあ、そろそろ準備しておこうか」
まあ、あるじとフィルスについては、なるようになるだろう。
わたしはそこで一旦思考を中断し、目の前のことに集中することにした。
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――――コンコンッ
結局フィルスとまともに話せぬままに迎えた夜。
俺の部屋の扉をノックする音に、俺は魔導具製作の手を止め、部屋の扉を開ける。
部屋の前に居たのはフィルスだ。これは、気配で最初から分かっていた。
ノックの前からしばらくそこに居たみたいだが、どういう意図があってのことなのかは……まあ、これからわかるのだろう。
「夜分遅くに、申し訳ございません」
「いいよ。どうせまだ寝てなかったし」
ちなみに光源は、一部光の魔晶化をした俺の体だったりする。
その右肩あたりから放たれた光は、今も部屋を淡く照らしている。
節約にはなるが、絵面的には結構シュールかも。
部屋に入ってきたフィルスは、少し迷った後に、遠慮がちにベッドに腰掛ける。
まあ、一個しかない椅子に俺が座れば、そこしか座る所は無いからな。
しかし、なんとなくさっきまで座っていたから椅子に戻ってしまったが、俺がベッドに座ればよかった。
今の精神状態で、好きな子が夜に自分のベッドに腰掛けているというのは……来るものがある。うん。
いつもなら、何とも思わんのだが……過剰に意識しちゃってるなぁ、俺。
「それで、どうしたんだ?」
座ってなお、うつむいて黙ったままのフィルスに、俺はこちらから声をかける。
「そ、それは……その……」
言い辛そうに口ごもるフィルス。
ふむ……雰囲気的に、かなり真面目な話っぽいな。
俺は、色ボケした自分の思考を追い払い、真面目モードになる。
「あの…………血を……血を、いただけないでしょうか?」
そうしてようやく絞り出したかのようなか細い声で、彼女が言ったのはそんな言葉。
おそらく、これが本題ではないのだろう。
流石の俺でも、それくらいはわかる。
あ、でも、俺が避けてたから言い辛いとか? それだったらすまぬ……すまぬ……
「いいよ。ほら」
とりあえずベッドに腰掛けて首筋晒す俺。
吸血は首筋じゃなくてもいいみたいなんだけど、首筋が一番良いのだとか。
理由はよくわからないらしい。でも一番おいしくて、回復も早いんだと。
それからしばらくして、もう血は十分なのか、首筋から口を離すフィルスであったが、俺から離れる様子はなく、黙ったままじっとしている。
俺はそんなフィルスの様子に、たまらず声をかけた。
ぶっちゃけ、シリアスな雰囲気は察しているのだが、黙って抱き着かれていては、どうしても異性を意識してしまう。
「……どうした? 話があるなら聞くぞ? 元々吸血が目的で来た訳でも無かったのだろう?」
俺のその言葉に、ピクリと反応するフィルス。
どうやら、図星であったようだ。
「……レイジ様。やはり、昨日のことは、ご不快であったのでしょうか」
「ん? それはどういう――――」
「今日一日……いえ、昨日の晩から、レイジ様はずっと私を避けていらっしゃるようでした。それは、私に対し、ご不満がおありだったから、私と共にいることが不快で、それで――――」
「ちょいちょいちょい! ストーップ!!」
俺は俺の体から上半身を少しだけ離し、ヒートアップするフィルスの言葉を遮る。
えっと、状況としては……恥ずかしくて俺がフィルスを避けていたのを、フィルスは自分が嫌で距離を置いていたと勘違いしていると。
……不甲斐ないな。
俺の免疫のなさが、このような形でフィルスを傷つけてしまっていたとは……
いや、それも言い訳か。
これは、常にフィルスの内にあったはずの不安を、俺が薄々感じつつも、時間が解決してくれると、ろくに向き合おうとしなかった結果なのだ。
ならば、今俺がすべきは――――
「……フィルス。まず初めに言っておく。俺はフィルスに対して不満なんて何も無いし、大切に思っている。だから、安心して欲しい」
「……ですが、それでは今日のことは――――」
「それは……その……照れくさくて、顔がまともに見れなかっただけなんだ。すまん」
「へ?」
「だから……風呂で、お前の裸を見て……その……まあ、なんだ。俺も男だからな。顔を合わせると、それを思い出してしまってだな……そういうことだ。これ以上は、悪いが察してくれ」
流石に全部説明するのは……俺の精神が耐えられそうにない。
相手に伝わる内容は同じだとわかっていても、それを自ら口にするかしないかでは大きな差があるというのは……きっと皆わかってくれると思う。
「それでは、その……レイジ様は、私を異性として意識していたが故に、本日はあのような態度であったという事でしょうか?」
「……まあ、そういう事になるな」
「……そう、でしたか。勝手に勘違いして、申し訳ございません」
「いやいや、いいんだ。今回のことに関しては、俺が悪かった。というか、フィルスの抱える孤独への不安に関して、俺は今までほとんど何もしてやれなかったからな。いくらか安心させようと言葉をかけたこともあったが、それにあまり効果が無いことにも、正直気が付いていた――――」
「……レイジ様?」
急に語り出した俺に、フィルスは驚いた表情をするが、今言葉を止めれば、次いつ言えるかわからない。
だから、俺はそのまま話し続ける。
「――――だから今ここで、俺の正直な気持ちを言っておこうと思う。きっとこれを聞けば、フィルスも安心できるだろうから。まあ、違う意味で安心できなくなる可能性は無きにしも非ずというか……まあそういう可能性もあったりなかったり――――って、ええい! 違う!!」
言葉にする直前になり、ひよった自分の心に喝を入れる。
ここで言えねば、きっと俺は後悔する。だから、折れるわけにはいかない。
「フィルス!!」
「は、はい!!?」
俺は、フィルスの方を掴み、真正面からその目を見つめる。
フィルスは俺の行動に、先ほどから驚きっぱなしのようだが、それに構っている余裕は俺には無い。
「俺が、お前に色々優しくしたいと思ったり、色々尽くすのはだな……初めは、ただの同情や下心だった。死にかけててかわいそうだとか、可愛い女の子が自分に懐いてきてくれて嬉しいだとか。でもな、今はそうじゃなくて……いや、今でもそういう気持ちが無いと言えば嘘になるが……それが一番の理由ではなくなったんだ」
「……それは、どういう……」
「俺はな……いつも俺のことを考えててくれるお前が! 俺にだけ向けてくれたあの笑顔が! 空回りしながらも、必死に俺のためにって頑張ってくれるお前が! 愛おしくてたまらなくなっていた!! いつの間にか、お前に事が、どうしようもなく好きになっていたんだ!! フィルスに幸せでいて欲しい。フィルスに笑っていて欲しい。そしてもう一度、あの笑顔を見せて欲しいって……そう、思うようになった。だから、お前が俺を切らない限り、俺がお前を捨てることはない。それだけは、信じて欲しい。俺が我儘を言ってくれって言ってたのは……まあそういう事だ」
……言った。言ってしまった。
もう後には戻れない。
もしここで、フィルスに拒絶されたらと思うと、怖くて目も開けられない。
それでも、必死に逃げ出したくなる気持ちを抑えて、フィルスの言葉を待つ。
「……ぐすっ」
そうして初めに聞こえてきたのは、フィルスの泣き声。
俺はその声に、慌てて目を開くが――――目の前に見えたのは、可愛らしいフィルスの耳。
そして口には柔らかな感触が……へ? え? これってまさか……え?
あまりの不意打ちに俺が混乱している内に、口に触れていた感触は離れて行く。
「えへへ……嬉しくて、ついしちゃいました。ごめんなさい」
そうして次に目の前に現れたのは、涙を流しながらも、顔を赤くしてはにかむフィルスの可愛らしい顔。
これは……そういう事でよろしいのだろうか?
「えっと……」
「不束者ですが、よろしくお願いしますっ! レイジ様!!」
「……あ、ああ。えっと、それじゃあその……これからは恋人同士ってことで、いい……のかな?」
「はいっ! レイジ様さえよろしければ!」
その言葉を聞いた瞬間、一気に緊張が解け、ベッドに倒れてしまう俺。
「れ、レイジ様!? 大丈夫ですか!?」
「ふっ……ふふふっ……あははははは!! 良かった……いや、ほんとに良かった……失敗したらどうしようかと……はははっ」
「そんなこと……あるはずありませんよ。誰にも愛されることなく、誰にもその死を悼まれることもなく、ただ消えるはずだった私に、優しく手を差し伸べ、こんなにも良くして下さるレイジ様を、好きにならないはずがありません」
「……そっか…………なあ、今夜は、このまま――――」
「はい。喜んで」
皆まで言わずとも、察してくれたようだ。
フィルスは笑顔で俺の隣に横になると、その頭を俺の肩に預けてくる。
そうして俺はその日、人生で最も幸福な夜を過ごしたのであった――――
続きが思いつかないから止まるといいましたが、今朝シャワーを浴びていたら、ふとアイデアが舞い降りて来ましてですね……
まだざっくりとしたもので、日刊が続けられるかはわかりませんが、あまりお待たせせずに済みそうです。
そんなわけで、書き途中だった今話も、即投稿させていただきました。
ついにフィルスと恋仲になりました!
ハーレム一人目攻略完了ですね。
まあ、他攻略対象は、二人ほどすでに登場していますし、ようやく本作もハーレムになっていけるかな? なんて思ったりしています(笑)
遅くて申し訳ない(^^;)
まあ、これからもこんなペースでのんびり進んでいくと思いますが、お付き合いいただければ幸いです。
ではでは~