表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/152

第八十九話 『妖刀は幼刀だった』

 森の中に降り立った俺は、ヒトの姿に戻り、上空から降り立つ際に隠しておいた白雪を回収する。

 白雪はこれから俺が使っていく武器なわけだし、古龍の姿で所持しているのが見られるのは、色々と面倒だと思ったので、こっそり森に隠して――空中から放り投げただけだが――おいたのだ。

 若干扱いが乱雑になってしまったが、それは仕方ない。


 「悪かったな、ほっぽり投げたりして」

 (ん……事情は察してるつもり。大丈夫)

 「そっか。ありがと」


 俺は白雪を腰に差すと、王都へ向けて歩き始める。

 フィルスに無事は伝わっただろうが、早く会いたいし、何より流石にゆっくり休みたいからな。さっさと帰ろう。


 「そう言えば白雪。お前を持ってることでの悪影響とかって、何かあったりするのか?」

 (皆無……しいて言えば、読もうと思えば心が読める……それくらい)

 「ふむ。でも、オッサンは随分すごいことになってたみたいだけど?」

 (あれは、適性の問題。波長も魔素量も全く足りてなかった。だから体が耐え切れず、変容した。あるじの古龍のと似たような感じ)


 ああ、そういう事か。ちょっと納得。


 「ま、普通の人間には、そもそも魔素が扱えないみたいだしな……あれ? でもそうなると、オッサンは完全に人間に戻れたのか? 魂への影響は?」

 (全くない……とは言えない。でも、極力少なくしたつもり)

 「そっか。白雪が庇ってやったんだな。優しいじゃないか」


 そう言って、俺は白雪のかしらを撫でる。


 (……そんなんじゃ、ない。ただ、持ち主だから守っただけ……それだけ)


 俺に反論してくる白雪だったが、その声はどこか照れ臭そうで、声の幼さも相まって、なんだか微笑ましい。


 「はいはい。そうだな。なら、俺のことよろしく頼むよ。優しい妖刀さん」

 (むぅ……あるじはイジワル。ドS。ロリコン)

 「おい待て。ドSまではやったことを考えれば許容できるが、ロリコンは許容できないな。確かにお前の声は幼い少女のようではあるが、見た目はただの刀じゃないか。俺は武器に性的興奮を覚えるような変態じゃない」

 (ん? あ、私、人の姿もある)

 「……は? え、何? 人になれるの?」

 (ん……でも、あるじの協力が不可欠。体を作る魔素は、あるじのを使うから)

 「そうなのか? どれくらい使うんだ?」

 (う? ん~……普通のなら、あるじが人の姿になるくらいか、それよりちょっと少ない。戦うなら、もう少し欲しいけど)


 俺の人の姿っていうと、MP500くらいかな。それくらいならぶっちゃけ誤差みたいなものだし、支障はないだろう。


 「それなら全然かまわないぞ? 人の姿になりたいなら、いつでも言ってくれ」

 (いいの? なら、今なりたい)

 「え? 今? まあ、いいけど。どうすればいいんだ?」

 (剣に魔素を注ぐ。それだけ。過剰でも大丈夫。いらない分は、捨てる)

 「あいよ」


 俺は剣の柄を握ると、一応多めにMP2000分くらいの魔素を流し込む。

 すると、白雪の刀身が薄水色の淡い光を放ち、それがだんだんと離れ、人の形となっていく。

 そうして現れたのは、身長140センチくらいの、幼ない少女であった。

 先ほどの光と同じ、薄い水色の長髪を流し、白を基調とした浴衣を身に着けた少女。

 無表情でこちらを見つめるその瞳は、金色に輝いているようにも見える。


 「……あるじ。どう?」


 その少女が口を開き、言葉を発する。

 その声は確かに、先ほどまで聞いていた白雪のものであった。


 「どうって……マジで人間の姿だっていう驚きがほとんどなのだが……まあ、うん。可愛いと思うよ」

 「そう……」


 そっけない返事に聞こえるが、その口元が僅かに緩んだのを、俺は見逃さなかった。

 俺の今言った言葉は嘘やお世辞ではない。

 白雪は、正真正銘の美少女であった。

 まだ幼さは残るし、胸は全くと言って良いほどに無いが、その容姿は見事に整ったもので、正直ロリコンでなくとも、惹かれるものがあるほどだ。


 「行こう、あるじ」

 「おわっ! ……ったく」


 弾んだ声で俺の手を取り、歩き出す白雪。

 その足取りは軽く、少し浮かれているように見えた――――







 「ただいま~」


 王都へと帰った俺は、まっすぐギルドへと帰り、その戸を開く。

 すると、そこにはいつものギルドメンバーと、涙をいっぱいに溜めたフィルスが――――


 「レイジ様!! レイジ様! レイジ様! よかった……よかったです……」


 俺を見るなり飛びついてきたフィルスを、俺は優しく抱きとめる。


 「悪かったな、遅くなって。心配をかけた」

 「いえ……無事でいて下されば、それで良いのです。それだけで、私は幸せですから」


 ううむ……フィルスは忠義的な意味で言ってくれているだけだろうが、好きな子からそんなことを言われれば、心が揺れてしまうのが男というもの。

 ふっ……悲しき性よ。


 「あるじ、このフィルスという者は、あるじの恋人か何かか?」


 俺がフィルスを抱きしめ、慰めながらも、努めて冷静でいようとしていると、白雪が俺のシャツの裾を引っ張りながら、とんでもない質問をしてくる。


 「は!? ちょ、おま!? なに言ってるんだよ!!? そ、そんなんじゃないし。仲間だ仲間。なあ、フィルス」

 「……はい。あ、いえ、違います。私はレイジ様に仕える、忠実なしもべです」


 俺の慌てて取り繕ってフィルスに同意を求めるが、なぜだかフィルスはそれに対し、少し残念そうな顔をする。

 ……なぜだ? ……まさか……いやいや、無い無い無い! これを考えるのは後にしよう、うん。それが良い。


 「ところで、そちらの方は……」

 「ああ。まあ、こいつは……その~、なんだ。インテリジェントウェポンってやつだ。ようは、武器だな。今は人の姿を取ってはいるが、本体はこっちの刀だ」


 そう言って俺は、腰に差した刀をポンポンする。


 「えっと……そう、なのですか。それで、その剣は……」

 「ん~そうだなぁ……まあ、ダンジョンの戦利品? みたいな? まあ、そんな感じだ。ちょっと違うけど」


 まあ、元ダンジョンボスから貰ったんだし、ある意味ドロップ品みたいなものだろ。


 「ん? しかし、ダンジョンへ行ったのは、古龍様ではなかったのか? それとも、お主も一緒だったのか?」


 俺の言葉に、当然の疑問を投げかけてくるマスター。

 普通ならここで自らの失言に慌てるところだが、俺は大丈夫。

 フィルスからの質問は想定済みだったし、当然その後に続くマスターの質問も想定済みだったからな。


 「いえ。これはその古龍様にいただいたのですよ。彼には必要ないとのことで」


 俺と古龍は知り合いってことになってるし、偶然通りかかった古龍が、なぜ俺にとか言われるとちょっと苦しいが、まあ理屈は通っている……はずだ。


 「ふむ、そうか。まあ、お主は古龍様を呼びに行ってくれていたわけだし、今まで帰ってこなかったのは、古龍様関係で何かしておったからなのだろう? であれば、帰り際にそういう事があっても、別におかしくはないな」


 え? ナニソレ? あ、そういう事になってるの? まあでも、今はその方が都合が良い。フィルス、グッジョブだ!


 「まあそんな訳なので、以後よろしく頼む」

 「……白雪。よろしく」


 右手の肘から先だけを上げて、そう挨拶をする白雪。

 無表情で、声にもあまり抑揚が無い、あまりに簡素な自己紹介に、皆がどういう反応をするか心配だが――――


 「はい、よろしくお願いします!」

 「うむ。よろしくの」

 「よろしくな、ちっこいの」

 「キャー! 可愛い~! よろしくね! 私はシルヴァリアっていうの! 困ったことがあれば、何でも言ってね! それで――――」


 ――――どうやら、杞憂だったようだ。

 フィルスとマスター、ガイスさんまではまともに挨拶できたようだが、それ以降は全て、シルヴァリアさんの声と勢いにかき消されてしまって、ほとんど聞こえてなかった。おそらく白雪にも届いていないだろう……少しばかり不憫に思うが、原因はあちらさんのパーティーメンバーだし、まあ自分でどうにかしてくれって感じだな。

 というか、シルヴァリアさん。キャラ崩れてるぞ? 最初に会った時の知的なお姉さんな雰囲気はどこへ行ったんだ? 魔法の時もちょっと茶目っ気は見せてはいたが、ここまでではなかったぞ?

 ……まあ、俺はこっちの、ちょっと子供っぽい方が好きだし、別にいいけど。

 とはいえ、絡まれている当の本人にとっては、別によくはなかったようだ。

 人の形態を解き、刀の中に帰って来てしまった。


 (シルヴァリア……すごい、おっきい。息できなかった。逃亡も止む無し)


 おっと~何が大きかったのでしょうねぇ。私にはちょっとわかりませんな~。

 などという言い訳を心の中でしながらも、つい視線はシルヴァリアさんの胸元へ――――


 「……レイジ様?」


 ――――っと何でもないよ~? なにも見てないです。なのでそのジト目はやめて下さいフィルスさん。

 あ、でもフィルスのジト目って初めてかも。

 これはこれで可愛いし、何よりレアだ。

 もうちょっとしてくれててもいいかも……


 「えっと、あの……うぅ……」


 俺が視線をフィルスの顔に移し、じっと見ていると、それに耐えられなくなったのか、フィルスが顔を赤らめて視線を斜め下に逸らす。

 うむ。それもまた良し。眼福である。


 「では、レイジ君も無事帰ってきたことじゃし、優勝祝いも兼ねて、パーッと騒ぐかの! どうじゃ、レイジ君。疲れているなら、また今度でも良いが」


 気遣いはありがたいし、実際疲れてもいるのだが……こういうのは、雰囲気も大事だ。

 そして、今以上にふさわしい空気というのは、そうないだろう。

 ならば答えは一つ――――


 「いえ……騒ぎましょうか!」


 「「「「いえーい!!」」」」


 そうして騒々しくも温かいバカ騒ぎは、後から来たギルド協会副長のマーガスさんも巻き込んで、夜遅くまで続くのであった――――

ストック全部没にしちゃって、明日以降の分ができてない((((;゜Д゜))))

と、とにかく頑張ります。

書き終えたのを没にするなんて、初投稿前のプロローグ以来かも(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ