第八十七話 『また、いつかどこかで』
本日二話目の投稿となります。ご注意ください。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「いや~間に合ったな! 流石はレイジ殿!! はっはっはっ!」
俺が死に物狂いで飛び続け、ダンジョンの入り口から抜け出た直後、あのぽっかりと空いていた穴は閉じ、そこに残ったのは草の一つも生えていないだけの、ただの地面であった。
そんなギリギリの状況だったというのに、何がそんなに面白いんだこのオッサンは。
もう少しでさっきまでの苦労どころか、文字通り全てを失うところだったというのに。
チクショウ、殴りてえ……
「はぁ……ったく……まあいい。それじゃ、さっさと魂を体に戻しちまえ。ずっと保護してるのは疲れる」
「うむ。しかし、あのような姿にもなれるとは、お主はいったい……」
「あー……まあ気にすんな。とにかく、ほら」
「う、うむ」
俺が魂を保護し、自身の魔素の一部で固めたものを、黒騎士に差し出す。
それを受け取った黒騎士が、それを自身の胸に当て、何かをつぶやいた瞬間、俺の保護していた魂が、俺の手を離れていくのを感じた。
「ずいぶんあっさりできるんだな。もっと面倒な感じなのかと思っていたんだが」
「いや、これは本来、ここがあるべき場所なのでな。誰かに埋め込むならまだしも、他に邪魔する者もなく、あるべき場所に収めるだけなら、何も難しいことなどない」
ふむ……ま、魂を操る種族らしいし、そんなもんか。
「それで? これからどうするんだ? とりあえずは、その剣のことだが」
「む? ううむ……そうであるなぁ……」
そう言って腕を組み、しばらく思考にふける黒騎士。
正直さっさと帰りたい気持ちもあるが、これは彼にとっては大事なこと。考える間くらいなら、待ってやってもいいだろう。
「そういえば、お主はこの魔剣と話をしていたな。であれば、どうなのだ? この剣は、何を望んでおる」
「ん? それは……てか、なんでそんなこと」
「うむ。確かに我は、この剣の力によって、人ならざる者へと変貌してしまった。しかし、それは己が心の弱さが引き起こした悲劇。この魔剣が悪い訳ではあるまい。そして何より、この剣は我を守ってくれていたのであろう? であれば、その恩には報いねばなるまい。そんなわけで、我と共にと望むのであれば、そうしようと思うし、他に望みがあるなら、叶えてやりたいのだ」
「……そいつは……騎士の誇りってやつなのか?」
正直、剣の本当の望みくらい、教えてやってもいい。
俺が受け取るかどうかは、結局は俺の意思次第なのだし、不利益は無いからな。
ただ、なんとなく聞きたくなったのだ。
答えなど半ば予想はついている。
きっとこいつは、当然のこととか、人として当たり前とか、そう言う事を言うのだろう。
だからこそ、それを聞いておきたかった。
俺もこの剣に、義理を果たそうと思えるように、その高潔な精神に触れたいと思ったのだ。
「いや、そんなに高尚なものではない。ただ人として、不義理はしたくない。それだけのことよ」
「……ははは。やっぱりあんたはそう言うんだな」
まったく、予想通りだよ。
ならば――――
「その剣。俺が貰い受けよう。そいつも、それを望んでいるみたいだしな」
俺もさっきは守ってもらったしな。
それに、あんなに貰って欲しいアピールされて、それを無視するのもなんだか後味が悪い。
折角頑張ってここまで来たんだ。どうせなら、最高の結末にしたいじゃないか。
「よいのか? これにはおそらく、お主の思っている以上のリスクが――――」
「いいさ。ここまで来たんだ。最後までやりきるよ。それに……」
「……それに?」
「それにその剣は"刀"と言ってな。俺の故郷の剣だ。あるいはそれを作ったのも、そこに縁のある者かもしれん。で、あれば、その手掛かりは自分で持っておきたいとも思う」
別にそれでどうというわけではないが、興味はそそられる。
それに、俺は西洋剣より刀の方が性に合う。なら、丁度良いだろう。
「そうであったか……うむ。あい分かった。ではこの~カタナ? はお主に託そう。色々あったが、我の大事な相棒だ。大事にしてやってくれ」
「ああ。もちろんだ」
俺は、彼が両手で差し出した妖刀・白雪を、そっと受け取る。
すると、彼の体と妖刀に纏わりついた赤黒い魔素は徐々に消え去り、後には甲冑姿のおっさんと、純白に水色で雪の結晶が散りばめられた、美しい刀だけがそこに残った。
俺の体にも、特にこれと言った負荷はかかっていないようで、正直色々覚悟を決めていたのに、拍子抜けだ。
(あるじ……改めて、白雪……です。よろしく……それから……その……あ、ありがと……)
そして俺が肩の力を抜いた途端、頭に響く澄んだ幼き女子の声。
今までよりもずっとはっきりと聞こえたその声は、確かに白雪のものであった。
「なんだお前、普通に話せたのか。てっきり、ああいう話し方をするキャラなのかと思ってたぞ」
(違う……あれは、伝達が困難だったから、単語での意思疎通を図っていただけ。他意はない)
「そか。ま、これからよろしくな、白雪」
(ん……よろしく、あるじ)
「さて……」
白雪の会話を終えた俺は、剣から視線を上げ、おっさんの方を向く。
「それじゃ、達者でと言いたいところだが……一つだけ、最後に聞いておきたいことがある」
「む? なんであるか? 我に答えられることであれば、なんでも答えるぞ?」
「ダンジョン内に魔獣がいなかった原因。何か、心当たりがあるようだったが……それを聞かせて欲しい」
「ああ、そのことか……あれは、お主が来る少し前のことであった。ダンジョン内に、妙な気配を感じてな。ああ、我はダンジョンの主であるが故、ダンジョン内の気配は、全て感知できたのだが……その妙な気配の者が、これまた妙な術を、ダンジョンのいたるところで使っていたようでな。最後は我の部屋の前で使い、そのまま去っていったのだ。ボス部屋の前まで来て、そのまま引き返すというのは……妙な話であろう? それで、あるいはそのものの使っていた妙な術が、それの原因なのではないかと思ってな」
ふむ、そう言う事か……あれ? でも――――
「あの時お前、間接的に自分が原因とか言ってなかったか? あれはどういう事なんだ? 今の説明だと、全然関係なさそうだけど……」
「ああ、それはな……その者が怪しいと踏んだ我は、ダンジョン内の全てのモンスターに、その者をつけ狙うように指示を出したのだ。だがそれは、出口付近にモンスターを集めてしまい、結果としてダンジョン内から魔獣が溢れ出るのを助けてしまったのだよ」
あーそう言う事か。
まあでも、それは仕方のないことだろう。
それに、断続的に出てこられるよりは、対処もしやすかったし、どうせ全部出て来るのなら、むしろ助かった部分もある。
「いや、まあそれは気にしなくていいだろ。まとめて来てくれたおかげで、対処もしやすかったしな」
「……そうであるか? まあ、そう言ってもらえると助かる」
「さて、それじゃ、そろそろお暇しましょうかね。帰りを待ってる仲間もいることだし」
「そうか。それは、帰ってやらねばな。心配しておるであろう」
「ああ。それじゃあまた、いつかどこかで」
「うむ。達者でな」
「こっちのセリフだよ……ったく」
そうして再び龍の姿をなった俺は、青空の中を王都へと飛び去るのであった――――
モチベ上がらないときの息抜きで、新作書き始めました。
そのうち投稿するかもしれませんが、その時はよろしくお願いします。
まあ、没になる可能性もあるので、まだわかりませんが(笑)