表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/152

第八十一話 『黒き騎士の願い』

本日二話目の投稿となります。ご注意ください。

 「貴様……どういうつもりだ?」


 黒騎士の三度目の突進を受けた後、不意にその黒騎士が口を開く。


 「どういうって……はぁ……どういう意味だよ……」


 対する俺の方はと言えば、もはや意識を保つので手一杯で、立っていることすらも怪しくなっている。

 もはや相手の発言に対して、正常な思考をもって返答をすることすら難しい。


 「先ほどから、戦いに身が入っていないように見える。それに、同じ攻撃を三度続けてしてみせたが、全く対処を変えようとはしない。まさか、己が隙を自覚していないわけではあるまい? ならばなぜ、同じ動きをする。それでは殺してくれと言っているようなものだぞ? 貴様も武に身を置く者なのであるならば、その武を以って我に応えてみせよ!」

 「そうしてやりたいのは……山々なのだがな……悪いが、これが今の、俺の全力だ……はぁ……はぁ……一縷いちるの希望にすがって、ここまで来てはみたものの……どうやらもう、限界のようだ……」


 ギリギリ自我を保てていても、もはや戦う力など残ってはいない。

 故にレベルを上げることもできず、俺に生き残る術は、もはや残されてはいなかった。

 気力でなんとかここまで来てはみたが、流石に無理だったようだ……


 「ふむ……確かに改めて見れば、貴様の魂は随分と疲弊しているようだ。それにそれを覆うその闇……呪いの類か?」

 「……見えるのか?」

 「いかにも。この技は、我が人ならざる身へと堕ちた時に、自然と身についたものだ」


 ってことは、種族による固有スキルか。

 アンデッドとかなら、そういうのもあるかもしれないな。


 「そうか……俺も元は人間でな……死んで、この体に転生した。だが、この新しい体はとんだじゃじゃ馬でな。あろうことか、俺の魂を食い殺そうとして来やがる。神様の話じゃ、レベルが50にもなれば、それも抑えられるらしいのだが、今の俺のレベルはまだ30でな。流石に、もう無理だ……最後の希望を託して潜ったこのダンジョンも、あんた以外、獣一匹いなかったし……」

 「なに? 獣一匹()らぬだと? そんな馬鹿な……いや、あるいはアレが原因か? ならばこ奴の不調は、間接的にとはいえ、我が原因か……それに、ここまで来た人間は、我がここに堕ちてから500年でこ奴が初めて。次が来るのはいつのことやら……心躍る戦いを期待してしまった我の気持ちも……」


 なにやら黒騎士さんは腕を組んで、随分と考え込み始めてしまった。

 なにを悩んでいるのかは知らんが、もはや俺には関係のない話しだ。

 もはや立つ力もなく、地に伏してしまった俺は、もう意識を保つのも限界に――――


 「うむ! よかろう! 我はこのダンジョンの守護者であるが故、あるべき姿に反する行為ではあるが……貴様の魂、一時的に我が代わりに保ってやろうではないか」


 俺の意識が閉じかけようとしていたその時、黒騎士が急に叫んだかと思うと、俺の背に手を触れてくる。

 すると、先ほどまで感じていた古龍の浸食が鳴りを潜め、嘘のように体が軽くなった。


 「……?? あんた、一体何を――――」

 「うむ。我はゼーレカイザーなる奇怪な種でな。他者の魂に干渉する術を持つ。普通なら、お主のような己よりも高次の種族に対しては、上手く使えぬのだが……お主の魂は、随分疲弊していた上に、二つの存在がぶつかり合っており、外に対しての警戒が随分と疎かになっておったのでな。お主の中の、弱った人間の魂を一時的に我が支配下に置き、もう一方の凶悪な魂から隔離したというわけだ」


 どうやら、俺の魂は目の前にいる黒騎士の支配下にあるらしい。

 まあ、どうせ死ぬはずだった身だ。悪事に加担されるのでなければ、別にどうされようとあまり文句を言うつもりはないが……こいつは一体、何のために俺を助けたんだ?


 「む? その顔……我がお主に救いの手を差し伸べたことを不思議に思っておるのだな? まあ、それも当然であろうな。目の前の敵が、弱っている自分をわざわざ助けたりすれば、困惑するのは当然のことよ。そうさなぁ……何から話せばよいものか……」

 「ならとりあえず、俺を助けた理由を教えてくれないだろうか」

 「む? 問答にて汝が疑問を解消するか? まあ確かに、それが最も良き手やもしれぬな。良かろう。我がお主を助けた理由は単純だ。お主と心躍る戦いがしたかったからよ! 確かに我は今、このダンジョンの最奥に君臨する守護者ではあるのだが、どういう訳か、自我を封じられてはおらんのだ。そして、我がここでこうして待つこと500年! 挑みに来たのは、お主が初めてなのだ……自我を保ったままでの孤独。それはまさに、生き地獄であった。そしてお主を逃せば、次は一体いつになるのか……たとえここでお主を救ったことで、我が敗北し、消滅する結果となったとしても、全く以って悔いはない! 誇りある戦いで迎える死は騎士の誉れであるが故な!」


 つまりこういう事か。

 500年もこんな闇の中でボッチでつまらなかった。

 そこにせっかく人が来たのになんか死にそうだ。

 このまま死なせては、次人が来るのがいつになるかわからない。

 なら助けてやれば、望み通りの戦いができるのでは、と。


 「まあ、なんと言うか……大変なんだな、ダンジョンのボスってのも」

 「そうなのだよ……初めは自由があることを喜びもしたが、こうも暇なのではな……お主はある意味、我にとっては希望の光なのだよ。体もなんか光ってるし……」


 いや、これは光属性だからってだけなんだけどな。


 「あ~まあ、なんだ。助けてもらったのはありがたいし、あんたに何か望みがあるなら、それに応えるのもやぶさかではないのだが……」

 「ほ、本当か!! いや~話が分かるではないか!! で、あるならば、一つお主に頼みがある。我と決闘をしてはくれぬか? 互いに胸躍る、命を賭した本物の決闘というものを、我は渇望して止まぬ。どうだ? 輪が頼み、受けてはくれぬか?」


 ふむ……まあ、別にそれは良いのだが……


 「まあ、別にそれは良いっちゃ良いのだが……」

 「ま、誠であるか!?」

 「あ、ああ。ただ、その……助けてもらっておいてこんなことを言うのは、正直気が引けるのだが……」

 「良い良い。申してみよ! 我が500年の切願が叶うのであれば、もう一つや二つの手間などさして変わらぬ」


 俺の我儘に、黒騎士は笑って応えてくれる。

 どうやらかなりのお人好しのようだ。

 というか、なんで俺、ダンジョンのボスとこんな仲良く話してるんだろ……さっきまでは、生きるのに必死で、めちゃくちゃシリアスな感じだったのに、いつの間にかそんなものはどこかに行ってしまったようだ。

 ま、まあいい。助かるのならそれに越したことはないんだし……


 「俺のレベルを上げるの、手伝ってはくれないか? なんと言うか、稽古? みたいな? 要はあれだ。俺のレベルが、あんたの手を離れても生存可能なものになるまで、俺と試合をしてほしいってことなのだが――――」

 「なぬ!? 試合とな! それも何度もか……ふむ……」


 黒騎士はそう言って、再び考え出してしまう。

 ダメだったか? まあ、レベリングの手伝いなんて、相手に塩を送るなんてレベルじゃないし、普通は断られて当然――――


 「――――素晴らしい!! 素晴らしい提案ではないか!! 試合をするという事は、お主と命を懸けたものではないとはいえ、何度も真剣勝負ができるという事であろう?」

 「ま、まあ、真剣勝負じゃないとレベル上がらないだろうから、そういうことになる……のかな?」

 「そしてお主の目標であるレベル50に達したその時には、我と命を賭した決闘をしてくれると、そういう事で相違ないな?」

 「あ、ああ……どうせあんたを倒さないと、このダンジョンは死なないわけだし……それはこちらも望むところだからな」

 「ならばそこに、議論の余地などあるまい!! 我は永劫の渇きを癒す、幾度もの戦いを。お主は己が命を繋ぐための、幾度もの特訓を望んでおる。両者共に、願うところが同じであるならば、何も迷う事などないであろう! その提案、是非とも受けさせていただきたい!!」


 驚いたことにこの黒騎士、俺の提案をノリノリで受けてくれた。


 えっと……結局なんだかよくわからんが、とりあえず何か助かったみたいだ。

 闇の底にいたのはダンジョンボスだったが、気さくで優しいおっさんでもあった――――うん、意味わからん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ