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第八十話 『闇の底にて』

 ダンジョンらしき闇へと飛び込んだ俺の視界に初めに飛び込んできたのは、ただただ広いだけの、岩の空洞だった。

 どんなとんでも法則でその天井を維持しているのか、その端も見えない大空洞には、柱一本立っている様子がない。

 内部は常に薄暗く、自らの体が発する光だけが、周囲を明るく照らしてくれている。

 しかし――――


 魔獣も魔物もいない? どういうことだ? 入りきらなくなったから溢れてきたのではなかったのか?


 状況の怪しさも気になるが、それ以上に、これではレベルアップができない。

 一応ステータスを確認してみるが、そのレベルはまだ31と全然足りていない。

 あれだけの魔獣をほふってこれだけという事は、経験値というのは、RPGなどでよくあるこれを倒したらいくつ貰える、といった類のものではなく、文字通りの"経験"値、なのだろう。

 そう考えれば、大会でのレベルが上がったのにも納得がいく。

 俺は結局、あの大会で誰一人として殺してはいなかったが、レベルが上がっていた。

 確かに数人ゴミを始末はしたが、アレで経験値が沢山手に入ったとも考えにくかったからな。


 俺は一旦魔晶龍騎士(光)の姿となり、周囲の探索を始める。

 龍の姿では、デカすぎて見落としも増えそうだし、何より維持しているだけで精神がゴリゴリと削られていく感じがする。

 魔晶龍騎士も半分は龍だが、完全な龍の姿に比べればいくらかマシというものだ。

 ヒトの姿なら精神はかなり楽だが、ここでは流石に遠慮したいところだ。あれはあまりに脆すぎる。




 しばらくそのまま探索を続けていると、少し離れた場所に下へと続く階段を発見する。


 結局、この近くにも敵の気配は無し、か。


 流石に罠も敵も見えないこの状況には不信感を抱かざるを得ないが、止まっていても仕方がないので、そのまま下へと向かう。

 しかし、二フロア目の森にも、その下の廃墟街にも、更に下の沼にも、敵どころか生命の反応すら、一切感じることはなかった。

 それとは裏腹に、階を下る毎に魔素はどんどん濃くなり、より凶悪な魔が生息する条件を満たして行く。


 どういうことだ? 魔核を持つ生物にとって、これほど住み良い場所はそうないだろう。ならばなぜ、奴らはここを放棄し、地上へと出てきた? 一体この奥に、何があるというんだ……





 その後も幾度となく階段を下って行くが、一向に敵の気配はなく、ただ時だけが過ぎて行き、それだけ魂が蝕まれていく。

 視界は歪み、呼吸は苦しく、平衡感覚すら怪しくなってきた。


 もう時間がない……もしこのダンジョンが、このまま最奥まで無であるのなら、おそらく俺は龍に食い殺されるだろう。

 幸いなのは、ここが無人で、魂の生存本能に抗えずに暴れてしまっても、巻き込む者がいないという事か。

 …………いや、何を弱気になっている葛城かつらぎ玲仁れいじ! 貴様には、帰りを待つ者がいるではないか! 帰りを約束した者がいるではないか!! ならば足掻け! 最後の一歩、命尽きるその時まで!!


 己を鼓舞し、ギリギリのところで自我を保ち続ける。

 もはや、この状態でレベルをあと20上げるなど、不可能に近い。

 それでも、諦めるわけにはいかない。

 未来を――――諦めたくない。

 折角第二の生を与えられて、初めて……異性に恋をした。

 30過ぎのおっさんが何キモイこと言ってるんだと思われるかもしれないし、自分でも少しばかりそう思うが、この気持ちは、凄く温かくて、痛くて、幸せなんだ。

 この世界にあふれる、沢山の『初めて』を、もっと見てみたい。感じてみたい。

 だから、こんな……こんな闇の底で死ぬわけには――――いかないんだ!!


 もはや体はいう事を聞いてくれない。

 神経など無いはずの全身に激痛が走り、足がもつれる。

 それでも駆ける。

 この道の、この階段の、この闇の果てに、希望があると信じて――――








 「……はぁ……はぁ……はぁ…………ふぅ……ここは……」


 闇の中を無我夢中で駆け抜け、命を振り絞って着いたその広い岩の部屋には、やはり命の気配はなかった。

 代わりにあるのは、部屋の中央に刺さった一振りの刀のみ。

 赤黒い、ドロドロとした魔素を放ち続けるその刀は、いかにも妖刀であるというような風体にもかかわらず、何故かとても……とても儚げに見えた。


 俺は吸い寄せられるようにその刀へと歩み寄る。

 ここにそれ以外が無いというのであれば、それに希望を見出す他に道はない。

 そして俺の手が、その柄に触れようとしたその時――――


 (駄目……接触……危険)


 頭の中に、声が響いた。

 俺はその声に、一瞬動きを止めてしまう。

 ――――しかし、それが故に、次に現れたものへの対処が遅れてしまった。


 俺が動きを止めた瞬間、どこからともなく現れたその何かは、俺の目の前にある刀を引き抜き、それを構えて俺の前に立つ。

 俺がそちらに視線を向けると、それは闇に染まった黒き甲冑を身にまとう、騎士のようであった。


 「汝、我がつるぎに触れんと欲すか」


 黒の騎士は、闇の底から響いてくるような、不気味な声を発する。

 どうやら、俺に話しかけてきているようだ。


 「……別に、そんなのはどうでもいい……ただ、そいつがどこか儚げに見えて、つい手が伸びただけだ」

 「儚げ、か。ふっ……ふはははははっ!! どうやら貴様は、これに触れるにあたう者であるらしい。ならば資格は十分。後は貴様の力次第よ。いざ、存分に切り結ぼうぞ!!」


 ああ……そういう流れか。

 つまりここはボス部屋で、こいつはこのダンジョンのボスってことか?

 だが、こいつとまともにやり合うだけの力が、果たして俺に残っているかどうか……

 まあ、それでもレベルを上げたいのなら、やるしかないか。


 「ふっ……いいだろう。期待に応えられるかはわからんが……こちらも、今ある全力で向かわせてもらおう」


 俺は肉体の構成に回せる魔素を限界まで使い、この体を構成する魔素の密度を高める。

 今の俺には、魔素の正確なコントロールなど不可能だ。

 ならば、限界まで肉体の硬度を上げ、敵と打ち合えるだけの強さを、その身に持たせるしかない。


 「元アストレア王国騎士団長レイガス・グライバルツェン。いざ尋常に――――参る!!」


 名乗りを上げ、黒騎士が俺へと斬りかかってくる。

 こんな闇の底で、人外同士の戦いだというのにその名を名乗るとは……子の敵は生粋の騎士であるようだ。

 少々可笑しいとも感じてしまうが、好感は持てるかな。

 俺は振り下ろされた刃を左腕で受け止め、右腕でその腹を殴り飛ばす。

 拳をもろに受けた敵は、その勢いで吹き飛ばされるが……どうやら、大した傷は負っていないようだ。

 それに今の感触……中身が無いのか?

 対する俺は、左腕は肘から先が落とされ、敵の刃に肩まで切られている。

 殴った右腕も、敵のまとう赤黒い魔素のせいなのか、あるいは純粋な硬さからなのか、拳が完全に破壊されてしまっていた。

 すぐに修復は効くが、その一瞬の隙はこの勝負においては致命的だ。

 今回は様子見なのか、体勢を立て直せなかったのか、攻められることはなかったが……次はそうはいかないだろう。

 しかし、今の相手の突進……見えぬほどではなかったが、今の体では避けるのは無理な速度だった。

 早めに勝負を決めなければならないというのに、これでは殺されないようにするので手一杯か。

 まあ、勝てたところで未来があるかどうかはわからないがな……


 そうして俺は、再び刀を構える黒騎士に、せめて殺されぬようにと拳を構えるのであった――――

本日も、もう一話投稿します。

明日からはたぶん、また一日一話に戻ると思います。たぶん。

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