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第七十九話 『闇の底へ』

本日二話目の投稿となります。ご注意ください。


 俺は、フィルスをギルドの皆に任せ、大空を翔る。

 こちら側の山の麓には、すでに多くの魔獣の姿があり、木々をなぎ倒しながら、着実に王都へと近づいて行っていくのが見える。

 それはまるで、巨大な濁流のように、うねり、広がり、全てを呑み込む黒き絶望。

 ほとんどの人間にとっては、『死』そのものに他ならないであろう。

 これが街までたどり着けば、止めるのはまず無理だ。


 俺は、魔物の大軍へと急降下すると、その上で下方向へと巨大な光属性の衝撃を放つ。

 あの森の奥は木が生い茂っており、一日中影が落ちている場所が多かった。

 ならば光が弱点であるものが多いのではないか、と予想してこの属性を選択した。

 普段人間相手に使うものとは違い、一切の遠慮なく放たれたその衝撃は、多くの魔物の命を刈り取り、命あるものも、四肢はもげ、腹を抉られ、多くがその力の大半を奪われている。

 属性を光にしたことでどれだけ効果があったのかはわからないが、倒せているのだからまあ悪くはないのだろう。

 だが、それも倒せたのは範囲の内にいた、全体から見ればほんの僅かな魔獣だけ。

 いまだ多くの魔物は健在で、その足を止めることなく、王都へと向け移動を続けている。


 (これは……真面目にやってたら、かなり時間がかかりそうだ)


 だが、今の俺にそんな時間は残されていない。

 こいつらを根こそぎ倒したところで、レベルが目標値へと達する保障などどこにもないのだから。

 まあ、いくらかの足しにはなるかもしれないが。

 それに、高位の魔物なだけあって、"魔"への耐性もなかなかに高い。

 この方法で対処していたら、日が暮れてしまいそうだ。

 ならば――――


 (これならどうだっ!!)


 俺はその身の構築に割く魔素の量を最大まで増やし、肉体のサイズを限界まで大きくする。

 以前はあまり自由にできなかったサイズも、魔素の操作になれたためか、あるいはスキルのレベルが上がったためか、かなり自由に変えられるようになった。 

 今の俺のサイズは、およそ全長800メートルといったところか。

 魔晶龍の体は細身で、魔物の進行を妨げるのには不向きだが、これだけのサイズがあれば話は別だ。

 俺は尾を魔獣の進行を妨げるように地に叩きつけると、それによって足止めを食らった魔獣へとブレスを放つ。

 そうして俺の尾で、仲間の屍で、あるいは己の内にある、生物としての本能によって足を止めた魔獣へと、俺は容赦なく攻撃を打ち込み、その数を着実に減らしていく。

 いくらか漏らしてしまった魔獣もいるが、それも多くて全体の一割未満。

 そこまで構っている余裕はないので、それらは後ろに控える者たちに任せる他無いだろう。

 そうして魔物を駆逐すること一時間。ようやく魔物の波も収まり、山を越えてくる魔物も、数えられる程度となってきた。


 (これ以上ここに居るわけにはいかないな。レベルの為にも、この氾濫を鎮めるためにも、そろそろダンジョンへ行かなくては)


 ここでいくら食い止めていても、ダンジョンを鎮めないことには、この魔獣の波が完全に収まることはない。

 ならば、一時的な後方の危険は承知の上で、それでも奥へと行かねばならないだろう。

 時間が有限でなければ、もっと安全に事を運ぶこともできたのだろうが……信じているぞ、皆。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 「フィ、フィルス君。い、今のは、その――――」


 フィルス君を乗せてきた龍が飛び去ってからしばらくして、ようやく驚きから解放されたマスターが、説明を求めてきます。

 まあ、今だ信じられぬこの状況に、上手く言葉が出てきていないようですが。


 「はい。の偉大なる古魔晶龍エンシェントクリスティアドラゴン様です」


 私の言葉に、ようやく目の前で起きた事実を認められたのか、感極まったような表情をするマスター。

 そう言えばマスターは魔晶龍信者クリスフェデーレでしたね。

 それならば、そうなってしまうのも致し方ありません。

 私がレイジ様のお側にいられるだけで幸せを感じるのと同じですね。


 「しかし、なぜ古魔晶龍エンシェントクリスティアドラゴン様が、王都を助けに?」

 「王都の危機を知ったレイジ様が、お願いしに行ったからです」


 これは本当は、偶然古龍が通りかかったとか、テキトーにごまかしておけ、とレイジ様からは言われたのですが、こんなレイジ様の名声を高めるチャンス、私が見逃すはずはありません。

 ここはレイジ様が呼びに行ったという事にして、皆がレイジ様にも感謝するように仕向けましょう。

 それに、この言い訳なら私がいてレイジ様がいない理由にも一応の説明がつきます。

 呼びに行った先で、古龍様の代わりにレイジ様が何かをしているとか、そんな感じでいきましょう。


 「レイジ君が? そう言えば、レイジ君はどこに――――「魔獣が来たぞーー!!」」


 マスターが続けて質問をしようとしたその時、魔獣が現れたという叫び声が遠くから聞こえます。

 その声に、街道の奥の方へと目を凝らすと、確かに魔獣らしき影がちらほら見えます。

 どれもが大きく、強そうな魔獣ですが、きちんと連携を取れれば、各個撃破でどうにかなる程度の数です。

 それに、その魔獣のほとんどが、どこかしらに手傷を負っています。

 恐らくは、レイジ様の手によるものでしょう。

 ……レイジ様、こちらはレイジ様のおかげで大丈夫です。ですから、レイジ様もどうかご無事で――――



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 魔を滅し、山を越え、森を抜けた先に、俺はダンジョンらしき『穴』を見つける。

 それはまさしく文字通り『穴』であった。

 洞窟やクレーターなどではなく、どこまでも深く、どこまでも暗い闇。

 それが地面にポツンと存在している。

 そのサイズはおよそ半径10メートルほど。

 大きいが、流石にこのままでは入れないだろう。

 俺は体のサイズを再び20メートルほどに縮めると、一気に闇の中へと飛び込んで行くのであった。

切りが良いので、少し短めですが一旦ここまで。

次話は明日投稿予定です。

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