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第七十七話 『涙と誓い』

本日二話目の投稿となります。ご注意ください。

 「おはようございます。レイジ様」


 俺が目を覚ますと、目の前にはさかさまのフィルスの顔。そして後頭部には柔らかい感触が……

 どうやら俺は、フィルスに膝枕をされているようだ。

 揺れる馬車の荷台で膝枕……痛くないのだろうか?


 「膝、痛いんじゃないか? 別に無理に俺を気遣わなくても――――」

 「いえ、大丈夫です。私がしたくてしてることですから」

 「いや、しかし――――」

 「大丈夫です」

 「で――――」

 「大丈夫です」

 「……はい」


 有無を言わさぬその頑なな様子に、俺の方が折れてしまう。

 まあ? 別にされてて嫌なわけではないし? というか、好きな子の膝枕とか? むしろご褒美だし?

 でも、流石に少し気兼ねしてしまうというか、うん。そんな感じだ。

 まあでも、本人は終始にこにこしてるし、いいのかな? いいってことにしよう。


 しかし、以前ならこうも頑なな主張はしなかったし、そう言う意味ではちょっと嬉しくも思う。いや、膝枕もまあ嬉しくはあるのだが。

 この調子で、俺に対してだけでもいいから、気兼ねなく接することができるようになって欲しいものだ。





 「さて、お二人さん。仲良くしてるとこ悪いんだが、そこの河原で一旦食事にするぞ」


 俺がフィルスの膝に頭を預けてダラダラしているうちに、結構な時間が経っていたらしく、御者のおっちゃんが馬車を止める。

 途中何度か寝てたから、それで短く感じるのかもしれない。


 さて、馬車の荷台から降りて俺達も食事と思ったのだが……フィルスがなかなか降りてこない。


 「? どうした? 早く降りて飯に――――」


 そこまで言いかけたところで、俺は気が付いてしまった。

 フィルスが座ったままでちょっと困った顔をしているのに。

 そして、先ほどまで自分が何をしてもらっていたかという事に。

 これはあれだ、確実に――――


 「お前、さては足が痺れて動けないのか?」

 「そ、そんなことはないです。ないですよ、ええ。大丈夫です。至って何も、問題ありません。今動かないのは、その、なんというか、あ、あれですよ、ほら、その――――」

 「……痺れてるんだな?」

 「…………はい」


 まったく……嘘つくの下手すぎだろ。

 そもそも別にフィルスが悪い訳でもないのだから、誤魔化さなくてもいいのに……


 「まあいいさ。それなら痺れが治るまで、そこで大人しくしてていいよ。食事の準備はこっちでしとくから」

 「うぅ……申し訳ございません」

 「いいさ。それと同じ……いや、それ以上のことをしてもらったせめてものお返しというやつだ。ゆっくりしててくれ」


 好きな子の膝枕なんて、ご褒美以外の何物でもないからな。

 食事の準備程度のことでしてもらえるなら、喜んでしようじゃないか。

 それに、準備と言ってもやることは簡単で、川の水を鍋で煮沸してから、二食分のスープの素を入れるだけだ。

 火も極小ブレスで点けられるし、パンを出すのくらい手間でもない。


 ちなみに、スープの素はレティアが持たせてくれたものだ。

 こっちは貴族様用のお高いやつらしいが、果たしてどれだけ違うのやら……




 「フィルス、そろそろ動けそうか?」

 「は、はい!! だ、大丈夫です!! あだっ!」


 あらかた準備を終えた俺は、フィルスを呼びに馬車まで戻り、声をかける。

 すると、寝転がって休んでいたフィルスは、飛び起きて……そのまま前のめりに倒れた。

 ……まだ本調子ではなさそうだな。


 「大丈夫か? 別に急いでないから、まだならまだで別にいいんだぞ?」

 「い、いえ……歩くくらいなら、もう大丈夫です。まだちょっと違和感は残ってますけど……」

 「なんなら、俺が抱っこしていってやろうか?」

 「ふぇ!? い、いえ! 大丈夫です!! ちゃんと一人で歩けますから!」


 俺が冗談半分での質問に、顔を赤くして慌てるフィルス。

 その様子も可愛いが、俺としては抱っこもしてみたかったので、ちょっと残念でもある。




 その後、飯を食った俺たちは、再び馬車の荷台に揺られながら、王都を目指す。

 ちなみに、昼飯のスープはまあまあだった。

 一般用の食えたもんじゃないのに比べれば、随分マシな味。お世辞にも美味いとは言えなかったが、レムサムに行くときに食べた、一般用のクソみたいな味のアレよりは、いくらかマシだったかもしれない。

 あぁ……日本の飯が恋しい。

 カナやリカちゃんも、きっと近いうちに同じような思いを抱くことになるだろうな……

 やっぱり、落ち着いたらまずは食から改善かなぁ……衣と住も大事だが、やっぱり一番心を満たしてくれるのは食な気がする。

 ギルドや食堂の飯も悪くなかったが、それでもやっぱり物足りなかったからなぁ……




 「んじゃ、今日はここいらで野宿だ。見張りは交代でよろしくな。ここらは魔獣はほとんど出ないが、盗賊はどこにでもいるからな」


 辺りも暗くなってきたところで、今日の旅も終わりとなった。

 たき火をして、飯を食い、直ぐに就寝。明日の朝も早いらしい。

 最初の見張りになった俺は、二人が寝静まった中、一人星空を見上げる。

 はやる気持ちがないかと言えば嘘になるが、流石にここから龍の姿て飛んで行っても、到着前に食い尽くされるのがオチだ。

 だから今は、せめてこの旅が、何事もなく終わってくれることを祈ろう。


 しかし、ここまでずっと寝てばかりだったから、一日が随分と短く感じる。

 ほとんど寝なくても大丈夫だったはずの俺が、こんなに睡眠をとるなんてな……浸食がかなり深刻なレベルにまで達しているという事を、改めて思い知らされる。

 俺の睡眠は魂の休息だからな。せめてダンジョンにつくまでは、魂を目一杯休ませておいてやらないと……


 「あの、レイジ様」


 ぼーっと空を見上げていると、フィルスが後ろから声をかけてくる。

 てっきり寝たものだと思っていたのだが、どうやらまだ起きていたようだ。

 そんなこともわからなくなっているなんて、どうやら俺は、感覚の方も随分と鈍ってしまっているようだ。


 「なんだ? 早く寝ないと明日が辛いぞ」

 「はい。なので、少しだけ……」


 そう言うフィルスの声は暗く、どこか不安を押し殺しているようなもののように感じられた。

 あるいは、俺の不調の深刻さに気が付いているのかもしれない。

 いや、気が付かない訳がないのだ。普段はほとんど寝ない俺が、日がな一日寝続け、普段は大して食わない飯を、フィルスよりも多く食う。

 そんな様子を見て、それでも異常がわからぬほど、フィルスは抜けてはいないだろう。


 「……俺の、体のことか?」


 だから、こちらから聞いてみる。

 フィルスにその話題を切り出させるのは、酷というものだ。


 「っ! …………はい」

 「いいさ。あまり暗い雰囲気にしたくなかったから、王都に着いてから話す予定だったのが、少し早まるだけだ」


 それに、気が付かれているなら、さっさと話してやった方がむしろ良いかもしれん。


 「正直言うとな……俺はもうあまり長くはないかもしれない」

 「!? そ、それは……どういう……」

 「前に、レベルを上げる必要があるって話はしたな? それには、まだそれなりに猶予があるとも」

 「はい。焦らなくても大丈夫だと……」

 「ああ。そして実際、まだ時間はあったんだ。あの時はまだ……」

 「あの時は、ですか?」

 「そう、あの時は、だ。だが今は、少々事情が変わったというか……ちと無茶をし過ぎた。というか、魂魄活性のスキルを使ったのが、一番いけなかったのだろうなぁ……あれは魂の力を放出して、自らを強化するスキルだ。普通なら、そこに代償など何もないのだが……今の俺は、人の魂が古龍の魂を、何とか押しとどめている状態だからな。その人の魂の力を使えばどういう事かは、想像に難くない。確かにあの時、あの力を使わなければ、俺は死んでいただろう。だが結果的に、それが俺の寿命を縮めてしまった。良い方を選んだつもりだったが、その実それは、どちらも良いものなどでは無くて……ただ、少しだけマシなものだったというだけのことだった……という話だ」

 「それは、何か助かる術は――――」

 「そのためのダンジョンだ。こんな状態では分の悪い賭けだが、今はそれでも、レベルを上げるしかない。そして、ダンジョンには俺一人で行く」

 「!? な、なぜですか! 私も、私も一緒に――――」

 「無理だ。連れて行ったところで、勝てる相手ではない。無駄死にするだけだ。これから行くのは、デボラルパルカなんて赤子のように捻り潰せるような魔獣が、山のようにいる場所。その中心にあるダンジョンだぞ? お前はそこで生き延びられると、俺の隣で戦えると、そう自信をもって言えるのか?」

 「そ、それは…………言えません」


 そう言うフィルスの顔は、今にも泣きそうで、歯がゆさと悔しさに歪んでいた。

 きっと、己が無力が苛立たしくて、己が無力を責めているのだろう。


 「別に、責めているわけではないし、いじめたいわけでもないんだ。俺はただ、お前に生きて居て欲しい。俺の、帰る場所であって欲しいんだ。お前に死なれたら、俺は生きる理由の大半を失ってしまう。そうなってしまったら、頑張って生きて帰る理由が無くなってしまうから。だから、待つ辛さは知っているし、失う辛さや恐怖も知っているが……それでも、待っていて欲しい。酷なことを言うようですまないが、頼む」

 「…………わかりました。その代り、帰ってきたら、目一杯甘えちゃいますから。わがままも沢山言って、いっぱい困らせちゃいますから」

 「はははっ! そいつは楽しみだな」

 「だから…………だから絶対生きて帰って来てください」

 「……ああ。約束しよう」


 俺は、フィルスの瞳から零れ落ちた涙を拭い、優しく頭を抱き寄せる。

 それから程なくすると、胸元から穏やかな寝息が聞こえてきた。


 俺は、できない約束はしない主義だ。

 でも、だからこそ約束した。必ず帰ってくると。必ず生き延びると。

 その約束が己を縛って、明るい明日に無理やりにでも引きずって行ってくれるようにと、そう願って――――

明日もたぶん二話投稿します。

いっぱい書けちゃったので……

いや、悪いことではないのですがね(笑)

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