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第七十四話 『異世界まで来たというのに、それでも世間は案外狭かったようだ』

活動報告にも書きましたが、10話にて、古龍のサイズは300mと書いていましたが、60mに修正しました。

加えて、普段見つからないようにしている時は、魔素を調節してもう少し小さくなっている旨も加筆しました。

よろしくお願いします。

 闘技場を出て、ジウスティア家の屋敷へと歩いていると、ふと後ろをつけてくる気配を感じる。

 しかし、殺気や悪意というものを感じないあたりからして、興味本位か、あるいは何か用があるのか……


 「それで、何か用ですか? 会場からずっと、後をつけてきていたようですが」


 俺は帰路を逸れ、人気のない路地へと入ると、尾行者へと声をかける。

 俺が感じたのは二人だけだが、もっといたとしても、こちらが気付いている風な態度を取れば、警戒して下手なことはしてこないだろう。


 「あ、えと、す、すみません!!」


 しかし、俺の警戒とは裏腹に、なんと出てきたのは先ほどの勇者二人。

 ちなみに、謝ってきたのはカナちゃんの方で、その後にリカちゃんが、申し訳なさそうな顔をして出てきた。

 どうやら、用があるのはカナちゃんの方らしいな。


 「いや、いいよ。それで、勇者様がこんなところで、俺に何の用かな? というか、抜け出してきちゃっていいの?」

 「あ、えと……あんまりよくはないんですが、どうしても、お聞きしたいことがあってですね……」


 どうやら、俺に聞きたいことがあって、無理に抜け出してきたようだ。

 しかし、あの場で聞かずにわざわざってことは、何か秘密の話だったりするのだろうか。

 まさか、俺が転生者だと気が付いたとか?


 「あの、えっと……その~」


 しかし、カナちゃんはいくら待っても一向に質問をしてくる気配がなく、なんだか聞きづらそうにモジモジしているだけ。

 これでは埒が明かないので、逆に俺から質問をしてみることにする。


 「では、先にこっちから聞いても良いかな」

 「は、はい。なんでしょう」

 「なぜ、俺を助けたのですか?」


 彼女は勇者だが、別にそれは、正義の味方の称号というわけでもなく、また、あの状況ではどちらが正義かなど、はっきりとはわからなかったはずだ。

 それなのに、彼女は俺を助けた。何も聞かずに。

 俺はその理由が、ずっと気になっていた。


 「そ、それは……その……実はですね。レイジさんのお名前がですね、昔大好きだったおにいちゃんと同じだったので、つい……雰囲気とかも、よく似てましたし……」


 つまり彼女が俺を助けた理由は、俺が彼女を見て感傷に浸っていた理由と、ほぼ同じだったという訳か。

 それなら納得だ。俺も立場が逆なら、放ってはおけないだろうしな。


 「ふっ……そういう事でしたか。実は私にも、昔よく懐いてきてくれた、三つ下の女の子がいましてね。まあ、その子はもう火事で亡くなってしまっているのですが……その子の名前もカナだったのですよ。それで、あなたを見て、少々感傷に浸ってしまっていたのですが……お互い似たような気持だったのかもしれませんね」


 こんな話、する必要などないはずなのだが、同じ異世界人だからなのか、昔の知り合いとどこか重ねて見てしまったせいなのか、つい身の上話なんてものをしてしまう。

 話してどうなる訳でもないというのに……


 「え? 火事……ですか?」

 「? ええ、そうですけど……」


 しかし、俺のそんな話に、カナちゃんは何故か凄い勢いで食いついてくる。

 火事ってワードに反応していたようだが……よく見れば、隣にいるリカちゃんも驚いた顔をしているし……


 「あの……絶対違うってわかっていますし、変な質問をしてしまうようでアレなのですが……その……火事のあった場所って、孤児院とかではなかったですか? それも、レイジさんの誕生日に起きたもので、孤児院の名前は――――」


 「……浅山孤児院」


 つい、口から出てしまった、俺が以前いた孤児院の名前。

 あまりに彼女の言う条件が、俺のものと同じだったから――――


 「あ……嘘…………レイジにぃ……なの?」


 それを聞いた彼女は、何故か大粒の涙を流し、俺を見つめている。

 まさか本当に……いや、ありえない! だって、俺以外は全員――――


 「あ、あのね! あの……私、実は引き取ってもいいって言ってくれた人がいて、それであの日は、そっちのお家にいたの。夜のパーティーには戻る予定だったんだけど、あんなことになって……それで、そのまま……」


 ……そういうことか。

 俺は師匠の、「施設を移るのは俺だけ」という言葉で、勝手に全員が死んだと思ってしまっていたが、ちょうどそのタイミングで引き取られていたのなら、施設を移る必要はない。という事は……


 「香奈、なのか? 宮辻みやつじ香奈かな

 「あ……うん! うんっ!! 今は引き取ってもらって、柏崎かしわざきだけどね……ぐすっ……あの……本当に玲仁にぃなの?」

 「あ、ああ……葛城かつらぎ玲仁。旧姓、長倉ながくら玲仁だ」

 「あぁ……レイジにぃ! レイジにぃ!」


 はち切れんばかりの笑顔を浮かべ、抱き着いてくる香奈。

 ……ん? いやでも待てよ。

 俺は30歳で死んだはずだ。なら、香奈が高校生っていうのはおかしいんじゃ……

 泣いて喜ぶ香奈には悪いが、これだけはきちんと確認しておかなければならない。


 「なあ、本当に香奈なのか? 俺は30歳で死んで、この世界に転生した。そうすると、お前が高校生っていうのはおかしくなってしまうのだが……」

 「え? レイジにぃ、死んじゃったの!?」

 「え? あ、ああ……いや、今はそこじゃなくてだな」

 「あ、うん。そうだよね。えっと……私は、通学途中にいきなりこの世界に飛ばされただけだから、そういうのはよくわからないけど……別の世界だから、ある程度時間にズレがあるとか? もしくは、私たちが呼ばれてから来るのに、凄く時間がかかったとか」


 まあ、そうだよな。

 俺だって色々分からないまま転生したわけだし、香奈にだってわかる訳ないか。


 「いや、いいんだ。悪かった。わからないよな、そんなこと。今度神様と話す機会でもあれば、ついでに聞いてみることにするよ。それにしても、生きていたんだな。正直、皆死んでしまったと思っていたから、嬉しいよ。香奈は随分俺に懐いてくれていたしな。いっつも後ろをついてきて……ふふっ」

 「あ、う、そ、それは……だって私、レイジにぃのこと、大好きだったんだもん……」


 俺の胸元に顔を埋めて、真っ赤になりながら大好きと言ってくれる香奈の顔は、とても可愛らしく、正直ぐっと来るものがある。

 …………いやいや、俺はフィルスのことが好きなんだから、浮気はイカンだろう。

 いやでも、この世界は一夫多妻制が普通だったような……いやでも……

 そもそも香奈は妹みたいなものだし……


 「香奈はいまだに、よく玲仁さんの話してたもんね。その度に泣いちゃうもんだから、こっちはあやすのが大変で――――」

 「ちょ、ちょっとリカ! やめてよもう……恥ずかしいよ……」


 慌てて俺から離れて、リカちゃんの口を塞ぎに行く香奈。

 二人のじゃれつく姿はとても仲がよさそうに見える。

 幸せな人生を送れていたようで、お兄ちゃんとても嬉しいです。


 「そう言えば、挨拶がまだだったな。改めて、葛城玲仁だ。知っているとは思うが、香奈とは10歳のころまで、同じ孤児院にお世話になっていた仲でな。香奈の友達なのだろう? よければ、以後よろしく頼む」


 そう言って俺は、リカちゃんに右手を差し出す。


 「あ、はい。宮下みやした梨華りかです。よろしくお願いします。お兄さん」


 リカちゃんはそう言うと、笑って俺の手を握り返してくれた。

 しかし……


 「別に、本当に兄弟ってわけじゃないんだけどな……」

 「あはは……わかってるんですけどね。香奈と話している時にいつもそう呼んでたので……嫌なら、変えますけど」

 「ああいや、別にいいよ。嫌ってわけじゃないから」


 知らない女の子からお兄さんと呼ばれるのはむず痒いが、それが呼びやすいというなら、別にそのままでもいいだろう。


 「む~! いつまで手を握ってるの、二人とも!」

 「ん? ああ、すまん」

 「い、いえ、こちらこそ」


 俺たちは握手をして話をしていただけなのだが、香奈がそこに割り込んできた。

 そんなに頬っぺた膨らましちゃって……ヤキモチか? 昔も俺が他の女の子と話してると、そんな態度をとったりしていたが、変わって無いなぁ……愛い奴め。


 「なんだヤキモチか? まだまだ子供だな、香奈は」


 俺はニヤニヤしながら香奈の頭をちょっと乱暴に撫で回す。

 なんだか懐かしいな、これも。昔はよくこうしてたっけ。


 「も、もう! 髪がぐちゃぐちゃになっちゃうでしょ!」


 香奈も文句を言ってくるが、その顔に浮かぶ笑みを見れば、嫌がっていないのは丸わかりだ。

 もしかしたら、香奈も俺と同じように、懐かしく思ってくれているのかもしれないな。


 「で、帰らなくても平気なのか? もうずいぶん経つだろう」


 俺が会場を出てから、既に20分は経過している。

 流石に脱走もバレているだろうし、そろそろ帰らせた方が良いだろう。


 「うっ! そ、それは……そうだけど……でも……」

 「俺だって、できればもっと話していたいさ。でもな、今ここでお前たちの立場が悪くなってしまうのは、あまり嬉しくはない。俺は王都にある冒険者ギルド『クリスタリア』に所属しているから、何かあればそこに連絡してくれ。すぐにとはいかないかもしれないが、それで俺に伝わるはずだ」

 「……わかった。でも、絶対また会おうね! 約束だよ?」

 「ああ、約束だ。お互い落ち着いて、時間が取れるようになったらまた会おう。今日は助けてくれてありがとうな」

 「あ、うん! へへへ……」


 俺がお礼を言って、今度は優しく頭を撫でてやると、香奈は嬉しそうに笑ってくれる。

 やっぱり人間、笑顔が一番だな。

 別れは寂しいものだが、また会えるのなら笑って別れた方が良いだろう。

 この笑顔を曇らせないためにも、さっさとレベルを上げなければな……


 そうして俺たちは、再開を約束して、お互いのいるべき場所へと帰って行くのであった。

 そういえば、色々口止めするのを忘れてたけど……まあ、きっと大丈夫だろう。

いやはや、設定を決める時は、色々きちんと考えてからじゃないといけませんな。

書いてみて、色々痛感いたしました。

書いてみなければわからないことも多く、もう毎日が勉強です。

まあ、楽しいので苦にはならないのですが(^^)

もっと上手く書けるようになるため……というわけでもないですが、今日も、これからも、沢山書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

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