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第七十二話 『大会四日目・勝負の終わりと思わぬ出会い』

 「ああアぁァァあァアぁああアアあアあ!! 死ねぇぇぇぇええええええ!!」


 痛みと怒りで理性を失い、狂気の獣と化したカリーシャは、もはやこちらの攻撃を避けることもなく、怒涛の攻撃を仕掛けてくる。

 その攻撃は、先程よりも鋭く、疾く、俺の体を容赦なく切り裂いていく。


 「ぐっ……だぁああ!!」


 俺はそれに押し切られまいと、全身から全力のブレスを放ち、相手を押し返し、相手との間に距離が空くが、それはほんの一瞬のこと。

 次の瞬間には、カリーシャは怯むこともなく、こちらの懐まで潜り込んできて、容赦のない一撃を浴びせてくる。


 魔法の完成まで、あと40秒……30秒……20びょ――――

 もうすぐ魔法が完成するというそのタイミングで、胸部に嫌な感触が走る。


 「アハハハハハハハハハハッ!! ざまぁ見やがれ!! アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 カリーシャが俺の目の前で狂ったように笑っている。

 そして下を向くと、そこには俺の胸部を、その奥にある魔核ごと貫いたカリーシャの腕があった。

 どうやら、俺は死んだらしい。

 ……だが、まだだ。俺にはまだ一分だけ時間が残されている。

 生命力極限強化のスキルが、HPが0になった俺を、一分間だけ生き延びさせてくれる。

 たった一分と思うかもしれないが、今の俺にとっては十分すぎる時間だ。

 俺は魔法が完成するまでの間、死んだように動かず、その時を待つ。


 ……あと10秒……準備完了。


 「ふっ……殺したとでも思ったか? 少々威力に不安があったのでね。ここまで至近距離に来てくれたこと、感謝するよ」


 俺はそう言うと、相手の体に組み付き、逃げられないようにする。


 「ば、馬鹿な!? 確かに魔石を破壊したはず――――」

 「術式開放――――"沌燄葬帰とんえんそうき"」


 俺は、最後の詠唱を終え、魔法を発動させる。

 沌燄葬帰の効果は簡単だ。

 魔導具内で魔素を暴走させ、溜め込んだエネルギーを開放して、魔力による大爆発を起こす。ただそれだけ。

 さらに言えば、魔道具自体も爆発で壊れてしまうため、完全に使い捨てだ。

 だが、その威力は凄まじいもので、このサイズでもこの会場を更地にするくらいはできるはずだ。

 もっとも、今回は完璧な発動ではないから、どの程度威力が落ちているかはわからないが……


 爆発により肉体は吹き飛び、視界は土煙と黒炎、混じりあった魔素の色によって遮られる。

 自己再生スキルによって魔核が再生しつつあり、死ぬことはないが、しばらくは動けないだろう。

 しかし、流石にこれほどの威力を至近距離から食らったのだ。

 仮に生きていても、立ち上がってくることはできな……い……


 しかし、俺の晴れた視界に映ったのは、ボロボロになりながらも、黒いオーラをまとって立つ、カリーシャの姿であった。

 対する俺は、未だ左腕を除く上半身が再生しただけ。更には、武器や魔道具も全て、今の爆発で壊れてしまった。

 死んだばかりだからか、魔素も上手く操作することができない。


 「あハッ……アはハハはハ! ゴフッ!! ふ……ふふふ……あたしの、勝ちよ」

 「……クソが」


 カリーシャは、口から血反吐を吐いてふらつきながらも、こちらへと近づいてくる。

 万事休すか……そう思った時だった。


 ガシャァアンという、何かが割れたような大きな音が会場中に響き渡り、直後、俺とカリーシャの間に、光の雨が降り注ぐ。


 「な、何だ!?」


 カリーシャの姿は光でよく見えないが、その慌てたような声からして、彼女やその仲間の仕業ではないのだろう。

 それに今の音、それに感じる魔素の気配からして、割れたのは闘技場の結界か?

 あれだけ強固な結界を壊すとは、一体誰が――――


 「トレス・エクスピアス!!」


 続いて頭上から聞こえた、可憐で力強い叫び声と共に、巨大な光の槍が三本、カリーシャの頭上に降り注ぐ。


 「ギャアアアアアアアアア!!!!」


 そしてその攻撃によって、悲痛な叫び声と共にカリーシャの気配が消えた。

 おそらくは、死んだ……いや、消滅したのだろう。


 そして俺が、イマイチ状況が掴めずに唖然としていると、俺の目の前に、女の子が着地した。

 栗色の長い髪の一部を左でまとめ――サイドテールとかいうのだったか? ――セーラー服を身にまとった、身長160センチくらいの女の子。

 その手には、服装とは不釣り合いな、金色の槍が握られている。

 スタイルは結構良い。胸はフィルスより少し大きいかな?

 顔も優しそうな感じで、可愛くてモテそうだが……セーラ服っていうのがすごく気になる。

 この世界に、そんな服装があるのだろうか……それとも……


 「あの、大丈夫ですか!? その怪我、あの、すぐポーションを――――」


 「ああいや、大丈夫だ。放っておけば、すぐ治るから」


 カリーシャの方を向いて着地した女の子だったが、こちらを振り向くや否や、懐からポーションを取り出して開けようとするのを、俺は慌てて止める。

 この世界のポーションの瓶は、口を割って開けるタイプで、一度開封したら使うしかない。

 見た目的にも、俺の怪我的にも、絶対高いポーションだし、無意味に使わせるわけにはいかない。

 そもそも必要ない以前に、俺の体は魔素なので、ポーションでは効果が無いのだ。


 「試合中も腕とか足とかすぐ治ってましたけど、凄いですね……流石異世界……」


 俺の発言に、少女が小声でつぶやくが……異世界? 異世界と言ったか?

 つまり、この子は……勇者ってことだろうか。

 転生なら、この歳になるまで結構な時間を生きているはずだし、そんな発言は出ないだろう。

 それにこのセーラー服。これはおそらく――――


 「カナ! 勝手に飛び出すなんて、何考えてるの!? 危ないでしょ! 私たちはまだ訓練中で……それに、私たちのことは、明日まで秘密だって王様が……」


 俺にも状況がだいたい掴めてきたところで、上から更にもう一人、女の子が飛び降りてくる。

 その子もカナと呼ばれた女の子と同じ服装をしている事や、その態度からして、同じ学校の友人とかだろうか。

 ショートヘアーの黒髪に、170近い高身長。

 こっちは……特に武器らしい武器は持っていないように見える。

 スタイルはあまりよくないが、動くのには向いてそうだ。

 太ももも引き締まっているし、運動部所属かな?

 顔は、目が少し釣り目気味なせいか、気が強そうに見える。

 しかし、どうでもいいが、彼女たちは上から飛び降りてきてるにも関わらず、スカートが鉄壁の防御力を誇っているのは、一体どういう理屈なのか……


 「だ、だって……見てられなくて……殺されちゃったら嫌だし……」


 「それはわかるけどさ……見てたでしょ、今の戦い。下手したらカナの方が殺されちゃうかもしれないんだよ?」


 「ううっ……ごめんなさい。でも――――」


 「わかってるよ。まあ今回は大丈夫だったんだし、これ以上は言わないよ。でも、今後は気をつけてよね。私たちは、まだこの世界のことよくわかってないんだから」


 「うんっ! ありがとう、リカ! 大好き!!」


 「ちょっ!? ……ったくもう」


 カナっていう子が、後から来たリカって子に抱き着いて、それをリカって子は、呆れた顔をしながらも、笑って受け止めている。

 どうやら二人は、随分と仲がよろしいようだ。

 しかし、彼女たちはその言動からして、この世界に来て間もない勇者って感じか。

 俺を助けてくれた理由はよくわからないが、彼女の介入が無ければ、俺は死んでいただろう。

 まったく、下手に魔晶龍のことをひた隠しにしようとするから、こういうことになるんだよな。

 死んだら元も子もないというのに……

 今度からは、生存を第一優先で行動するとしよう。


 しかし、カナ、か……

 孤児院時代にいっつも俺の後ろをついて歩いていた子も、同じ名前だったな。

 髪の色も同じだし、つい思い出してしまう。

 まあ、彼女は火事で死んでいるし、別人なのはわかっているのだが……


 さて、目の前の女の子たちが何者なのかは、話してみないとわからないが、ひとまずは、無事に生き残れたことを喜ぶべきなのかね。

 おっと、このまま再生するとすっぽんぽんだし、もう魔素もある程度コントロールできそうだから、ひとまず下半身の前に、服を作っておかないとな。

 女の子の……それも女子高生の前で裸とか、セクハラで訴えられたら勝てる気がしない。

―自己再生―

HPが減少した際に、元の状態に戻ろうとするスキル。

ポーションなどとは根本から違うので、魔素の体でもちゃんと効果がある。

ついでに言えば、体を構成していない魔素は、体の一部ではあるんだけどMPだから対象外。

なので、MPの回復には使えない。まあ、いらないけど。回復なんて一瞬だし。

というか、それが許されたら世界の魔素の総量が増えちゃうしね。


という設定を昨日寝る前になんとなく考えました(笑)

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