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第七十話 『大会四日目・決勝開始』

 「レイジ選手、準備をお願いします」


 準決勝を終え、少しでもこの不安定な体を休めておこうと睡眠をとっていた俺だが、休める時間など一試合分のみ。

 それでもそれなりに休めるかと思ってはいたのだが、どうやら試合は随分と早く決着がついてしまったらしく、係の者が俺を呼びに来るまで、せいぜい30分程度の休息しかとれなかった。

 もっとも、全く休んでいない相手からすれば、まだマシだろうと言われてしまいそうだが。

 とはいえ大事な決勝戦。休みを挟まず試合をさせても良いのだろうか。

 まあ、運営側の意向などどうでもいいか。俺が不利なわけでもないし。


 そうして俺は、龍の門より舞台へと上がる。

 そこに待っていたのは、幾万もの歓声と――――絡みつくような嫌な気配。

 その気配の持ち主は、立ち位置からしてこれから戦う相手だろう。

 だが、この気配……まるで濃厚な負の感情をまとったような、そんな感じがする。

 近くに立っているだけで――いや、それを視界に入れているだけで、激しく気分を害される。

 外見は、深々と被られたフードや、丈の長いコートで性別すら分からないが、そこから感じる気配は、おおよそ人のものとは思えぬほどに、暗く、黒い。

 こいつは一体――――


 「さあ! ついにやってまいりました! レムサム武闘大会決勝戦!! きっと今から、今大会の中で、最も熱く、最も激しい戦いが繰り広げられることでしょう!! さて、それでは改めて、選手に意気込みを聞いてみたいと思います! ではまずは……カリーシャさん! 確かカリーシャさんは、フリーでの参加という事でしたが、どうでしょう? 決勝戦まで勝ち抜き、この場に立っていることへの感想や、これから行う試合への意気込みなど、何でもいいですので、何か一言、お願いします!」


 その問いかけに、カリーシャとやらはフードを取り、素顔を晒して答える。

 その顔は普通の女性で、特におかしなところは見受けられないが……なぜだろうか。彼女から、凄まじい違和感を感じる。


 「ここまで勝ち上がれたこと。国王陛下の見守り下さる中で、このような試合ができること、とても嬉しく、また、光栄に思います。この勝負、勝っても負けても、私にとってはかけがえのない思い出となり、今後の人生に、明るいを灯してくれることでしょう」


 言っていることは、とても綺麗なのだが……なぜだか俺には、それがたまらなく嘘くさく感じる。

 これほどまでの違和感。今も感じ続けている嫌な気配。

 流石に勘違いでは済ませないほどの、強烈な何かを感じるが……それが何なのかわからない。


 「素敵なコメント、ありがとうございます! それではお次は、ギルド『クリスタリア』のレイジ選手! レイジ選手は、ジウスティア侯爵家からの推薦での参加と聞いておりますが、どうでしょうか。何か、決勝戦に対する意気込みなどは」


 司会が俺にもコメントを求めてくるが、正面に立つあまりにも異質な"ナニか"を前に、それに答えるだけの余裕が、今の俺には無い。

 言葉を発した途端に殺しにかかってくるのではと、そんな気さえするほどに、目の前のモノから感じる負は、巨大で禍々しいものに思える。


 「えーっと……こ、言葉を発することもできぬほど、集中しているのでしょうか! あるいは、私の声も届いていないのかもしれません! これは試合に期待ができそうです!!」


 無言の俺に、司会は慌てて場を繋いでくれる。

 悪いとは思うが、今はそんなことはどうでもいい。

 こいつは一体何者だ? 本当に人間なのだろうか。

 悪魔の類だと言われた方が、まだ納得がいくのだが……


 「それでは両選手共に、開始位置への移動をお願いします」


 俺は相手への警戒を解かぬよう、相手を見たまま後ろ歩きで移動をする。

 そんな俺を前に、相手もこちらを見てくるが、その瞳の奥には、何の感情も見ることはできなかった。


 「それでは試合――――開始!!」





 試合開始の合図と共に、詠唱を開始しようとする俺だったが……その瞬間、相手の姿が書き消えたと思ったら、俺の目の前にその姿が現れる。


 空間転移か!? それとも早すぎて見えなかった!? どちらにしろ、ヤバい!!


 己の危機を感じた俺は、とっさに後ろへと飛ぼうとするが、得体のしれないナニかが足に絡みついてきて、身動きが取れなくなる。


 これはいよいよマズいと、攻撃を喰らう覚悟をした俺だが……一向に、相手選手から攻撃の気配はない。

 不審に思った俺は、顔の前に組んでいた腕を解き、相手の顔を見るが、相手は俺の前に立ち、気味の悪い笑みを浮かべているだけ。


 「……どういうつもりだ」


 「ふふふっ……ごめんなさいね。でもどうしても、貴方とお話がしてみたかったのよ。貴方のような存在は、初めて見るものだから」


 どういうことだ? まさか、俺の正体に気が付いているとでも言うのか?


 「そんな顔をしないで。でも、そうね。きっとだいたいはあなたの思っている通りよ。だから聞くわ。貴方――――何者?」


 「では、質問に質問で返すようで失礼かもしれないが、俺からも一つ聞きたい。あなたはなぜ、そんなに濃密な"負"を纏っている。あなたの方こそ、一体何者なんだ」


 「うふふ……そうねぇ……名乗るなら自分からよね。ごめんなさい。私もね、少し前までは人間という脆弱で、矮小な存在だったわ。でも、私は生まれ変わったのよ。偉大なる邪神様は、私の願いにこたえて下さったの。そして私はより強い生物へと進化したの。それで? 貴方は何者? 貴方の方こそ、人間ではないのでしょう? 濃密な魔素の気配がするわ。こんなに濃いの見たことない。肉体を魔素で形作られた魔晶龍だってここまでではないはずよ?」


 「……そうだな…………では、神に導かれし者、とだけ言っておこうか」


 古龍のことを、この場で言うわけにはいかない。会話は会場中に筒抜けだからな。

 それに、何者なのかと聞くという事は、こいつも俺の正体がきちんとわかっているわけではないのだろう。


 「……あはっ! やっぱりそういう事だったのね! いいわぁ……すごくいい……なんという僥倖ぎょうこうなのかしらっ!! ここであなたを殺せれば、きっと私もっ!! ……レイジと言ったわね。さあ、人外同士、殺し合いを始めましょう?」


 その瞬間、彼女から発せられる負の気配が何倍にも膨れ上がり、彼女の手がこちらへと伸びてくる。

 それに本能的に危機感を覚えた俺は、観衆の目があることも無視して、魔素化して瞬時に拘束から逃れ、後ろへと飛ぶ。

 すると、さっきまで俺のいた場所は、彼女の手によって抉られ、地にひびが入っていた。

 あのままあそこにいたら、魔核ごと破壊されていたかもしれない。

 それですぐに死ぬことはないが、アレを相手にその状態まで追いつめられるのは、できれば避けたいところだ。


 「うふふっ! そうでなくちゃね!」


 そのまま凄まじい脚力で踏み込んでくる敵。

 その腕は何でできているのか、防御のために振りかぶった俺のナイフの刃を通すことなく、弾き飛ばしてしまう。


 このままではマズいか……


 俺は現状ではどう頑張ってもこの相手を殺せないと判断し、魂魄活性のスキルを使用する。

 これは今まで一度も使ったことのないスキルであったが、十分間だけHP・MPを除く、俺の全ステータスをノーリスクで1.5倍に引き上げてくれるという、実に強力なものだ。

 一度使うと八日間使用できなくなることから、非常時以外では使わないようにしてきたが、まさかこんなところで使う事になるとはな。


 彼女口ぶりからして、俺の何かに気がついたようだが、それは彼女の勘違いか、それとも真実にたどり着いてしまっているのか……

 いや、今はそんなことはどうでもいいか。

 とにかく、この女を倒さなければ、俺に未来はなさそうだ。


 タイムリミットまで約十分。

 敵の猛攻を避けながら、俺は次なる一手を打つのであった――――

―魂魄活性―

魂魄活性のスキルは、魂からエネルギー的な何かが供給されて強化されるスキルなので、肉体が魔素でできていて、通常の治癒や強化の魔法では効果がないレイジでも、きちんと効果がある。

しかし、魂の力を放出するという行為は、連続で使用すると魂そのものに無視できないレベルでの悪影響が出るため、魂が回復しきるまで使用できない。


とかいうざっくりとした設定があったりなかったり。

レイジの体は魔素なので、普通の身体強化魔法はあまり効果がなく、実はバフ効果の得られるスキルは割と貴重だったりします(笑)

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