第六十二話 『大会三日目・本戦第一試合』
久々に出てきたので一応。
1刹=30秒
2017/05/07 微修正
2017/05/12 微修正
「さあ、ついにやってまいりました!! 栄えあるレムサム武闘大会本戦! その幕が、ついに切って落とされようとしています!! ではさっそく、第一回戦で戦う選手に入場していただきましょう!!」
そんな司会の声と同時に、入り口で控えていた俺に入場が指示される。
それに従い、舞台へと上がって行くと……そこに待っていたのは、幾万もの人の上げる、地を揺らすほどの歓声。
先ほどの開会式のも凄かったが、これはそれ以上かも。
第一回戦でこれでは、決勝戦ではどれほどの……
しかし、こういった声を聞くと、否応無しに気分が高揚してくるな。
「天のゲートから入ってきたのは、あの三大ギルドの一つ、ギルド『エローエ』のAランク冒険者、戦槌のファルガー選手です!! その巨体によって振るわれる強大な一撃は、龍の固い鱗をも砕くと言われるほどの豪傑。予選もその凶悪な一撃により、相手選手は全員、一撃でノックアウトされたとか。今日は一体、どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!!」
ほう……そこまでとはな。
流石、本戦にまで勝ち上がってくる選手は格が違うという訳か。
というか、天のゲートって何だ? 入場ゲートに名前なんてあったのか?
ああでも、そういえば開会式の退場の時、ゲートの上の壁に天使っぽい彫刻があった気がするな。
「そして! 龍のゲートよりやってきた、それに相対するは――――ギルド『クリスタリア』の冒険者、レイジ選手です!! なんとレイジ選手、まだ冒険者になって一月程度で、その冒険者ランクもいまだD!! しかしながら、その実力は本戦へと勝ち上がってきていることから、ランク以上のものであると思われます。名も無きルーキーが、一体この大会に、どんな波乱を巻き起こしてくれるのか。私、今から楽しみで仕方ありません!」
ま、俺の紹介としては妥当なところかな。
変に事件のこととかほじくり返されたりしないか心配だったが、杞憂だったようだな。
「それでは試合の前に、お二方に一言、コメントをいただきたいと思います。それではまずはファルガー選手。大会への意気込みをどうぞ!」
「俺とこの自慢の相棒"ヴァルクシュメッツァー"に砕けぬ敵なし。故に、俺に負けは無い。勝利は我にあり!!」
彼の堂々の宣言に、会場中が湧きたつ。
なかなか熱い男のようだな、彼は。
「ありがとうございました!! では続きまして、レイジ選手。いかがでしょうか? 大会は初参加だと伺っていますが」
「そうですね……俺がこの場に立っているのには、色々な意味や思惑などがあったりするのでしょうが……今はそんなことはどうでもいいと思ってます。俺にとって大事なことは二つだけ。一つは、自分の実力がどこまで通用するのか試すこと。二つ目は、たった一人の仲間の笑顔を曇らせないよう、勝利し続けることです。だから俺は、今日も俺の大好きな笑顔を見るために、勝利してみせますよ」
「おーっと、これはラヴな香りがしますねぇ……いいですね~青春ですね~これはお姉さん。俄然応援したくなってきちゃいましたよ!!」
ラヴって……まあ、否定はしにくいが。
でも、そこまでの感情かは、まだ自信が持ててないいからなぁ……
しかしまあ、ここでこんなこと言っちまうくらいだし、やっぱ好きなのかねぇ……
三十路のおっさんが、十五のケモミミ少女に恋……駄目だ、犯罪臭しかしない。
ま、それが躊躇いの原因の一つでもあったのだが。
そこでふと、あらかじめ聞いていたフィルスたちの席の方に視線を向けてみるが、何故かそこは空席になっており、フィルスとレティアの姿が見えない。
……遅れてるのかな? それとも席の場所違ったか? まあ、帰ってから聞いてみればいいか。
「では早速試合を始めたいと思います! あ、ちなみにこの会場は、予選会場に比べ、実に設備が充実しておりましてですね……予選では、試合の妨害にならないようにと、実況は控えておりましたが、ここならばそんな心配も不要! 試合が始まると同時に、舞台には完全防音の結界が張られるため、いくら騒いでも大丈夫!! また、舞台の音は全て魔導具によって拾われ、観客席へと届けられるため、戦闘の音はおろか、選手の会話ですら聞き漏らしません!! まさに、アーティファクト様々ですね!!」
げっ! マジかよ。
声が聞かれるってことは、呪文詠唱もだよなぁ……
オリジナルってバレなきゃいいんだけど。
この世界にオリジナル魔法なんて、俺の以外存在してないはずだからな。
もしばれたら大騒ぎだろう。たぶん。
「それでは両選手、位置についてください」
司会の声に従い、初期位置まで移動する。
予選の時より舞台が広いせいか、相手との距離が少し遠いな。
魔法を使うなら有利かもな。射程内には収まっているし。
「それでは――――――試合、開始!!」
開始の合図と共に、相手選手がまっすぐこちらへ突っ込んでくる。
俺が魔法を使う事は既に知られているだろうから、詠唱をさせまいとしての行動だろう。
俺は腰からナイフを抜き、両手に構える。
このナイフは、予選での戦いを見ていたレティアが用意してくれたものだ。
防具はサイズなども考えなくてはならないため無理だったが、武器だけでもと、今朝出る前に貸し与えてくれた。
壊しても弁償などは必要ないから、存分に振るってきてくれとのことだ。
ナイフは俺の最も使い慣れた武器だし、品質自体もなかなかに上等なもの。
実にありがたい配慮であった。
なので、長剣はフィルスに返してきている。
俺にはイマイチ使いにくかったしな。
刀ならよかったのだが、この世界にあるのかどうかすら怪しいからなぁ……
「っと、今はそれどころじゃなかったな。我は天駆ける夢幻の疾風――――"天乱走歩"」
俺がナイフを見て一瞬気を逸らしているうちに、相手は至近距離まで迫ってきており、慌てて魔法を発動させる。
今使った天乱走歩は、風属性の魔法で、効果は風による移動の補助だ。
効果は実際大したことは無いのだが、詠唱が短く、一度発動させれば、試合中はずっと移動速度が上昇するという、地味に便利な魔法だ。
まあ、コントロールに少し難があるため、慣れていない者や、適性の低い者にはあまりオススメできないが。
移動速度を上昇させた俺は、相手が武器を振りかぶったその瞬間、地面を蹴って一気に後ろへと下がる。
「風よ、尖鋭なる刃となりて、我が手に宿れ――――"アイレスパーダ"」
そしてその隙に呪文を詠唱し、風の剣を展開する。
このアレイスパーダ、呪文こそ短いものの、展開した剣を維持するのには繊細な魔力操作が必要であり、使いこなすには風の適性がA以上でなくてはならない。
それ以下だと、たとえ使えても普通の鉄剣程度の切れ味にしかならないんだとか。
まあ、俺の場合は魔素で展開しているため、普通のものよりも刃の大きさも切れ味も上だ。
さらにはこの剣、風の刃の部分の形状は好きにいじれるため、使いやすいように刀の形状にしている。
相手の武器の材質はわからんが、これで相手は武器破壊を警戒せざるを得ないはず……
そうなれば、詠唱の隙が生まれやすいし、仮に気にせず来たのなら、それこそ武器を破壊してしまえばいい。
相手は俺の風の剣を見るなり、苦虫を噛み潰したような顔になる。
思った通り、武器を大事にしているであろう相手は、武器破壊を警戒してくれているようだ。
ま、武器を相棒と呼び、名前まで付けているくらいだからな。
いやまあ、元からそういう名前の武器っていう可能性もあるのだが。
どちらにしろ、作戦通りに事が進んでいるのならばそれでいい。
それよりも、問題はこの後どの魔法を使うかだ。
まだ見せていない魔法の方が確実ではあるが……ここは温存して淵羅にしておくか?
しかしあれは、相手のMP残量がわからないと調節が難しいんだよなぁ……
相手のステータスが見れれば問題なく使えるのだが……まあいい。
「深く暗い、闇より黒き深淵よ。原初の階層に刻まれし、咎を纏いし大欲よ。是を非とし、非を是と定めよ。無謬を穿ち、理を喰らえ。汝は業にして劫たるモノ。我は拙にして刹なる者。混沌よ、来たれ。万象を喰らい、真理を歪めよ――――"淵羅"」
俺を中心として発生した、白と黒の奔流が相手選手を呑み込む。
今回は少し強めに放ったし、倒せていれば良いのだが……
二十秒ほどで魔法の効果が切れ、視界が晴れる。
そしてそこには、涼しげな顔で立つ俺と、地に伏した相手選手がいた。
さり気なく相手に魔素を伸ばして確認するが……どうやらちゃんと息はあるようだ。よかった。
司会の女性が結界内に入ってきて、様子を窺う。
正直、まだどうなるかわからない段階で入ってくるのは、危ないと思うのだが……
まあ、今回は相手も既に気を失っているし、大丈夫なのだが。
「ファルガー選手がダウンしてから一刹が経ちましたが、全く反応がありません! よって勝者は、レイジ選手です!!」
こうして無事勝利を手にした俺は、幾万もの歓声に包まれながら、舞台を後にするのであった――――




