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第六十話 『大会二日目・予選決勝』

2017/05/04 微修正

2017/05/09 ミス修正

 さて……俺の心に渦巻く、やらかしたことに対する不安など知ったことかと言わんばかりにやってきた予選決勝。

 俺の引いたルールは、ようやくまとも(?)な『開始後一定時間攻撃不可』だ。

 相手が俺が捌ききれないほどの猛攻を仕掛けてきたらヤバいかもしれないが、三分耐えれば制約の無いこちらが有利だ。


 「では、特殊ルールを発表します! レイジ選手は、開始後一定時間攻撃不可! そしてなんと! セバック選手が引いたのも、同じく開始後一定時間攻撃不可だーー!! これは面白いことになってきたーー!!」


 相手選手も同じか……

 これは……準備時間アリの通常の試合って感じだな。

 セバック選手は……線は細いが鍛えてはいそうな体だな。

 魔導具は……あった。

 今は一つしか確認できないが、他にもあると見ていいだろうな。


 「レイジ君といったかな。今日はよろしく頼む」


 俺がセバック選手を観察していると、その相手から挨拶をされる。

 握手のために手も差し伸べてきているが……


 「ええ、よろしくお願いします。ですが、試合前に相手に不用意に触れたくは無いので、握手は遠慮させていただきます」


 俺はそれを丁重に断る。

 僅かにだが、彼の右胸の辺りで魔力の動きがあった。

 勘違いの可能性もあるが、用心するに越したことはない。


 「そうですか。わかりました。こちらこそ、考えが至らず申し訳ございません」


 彼の態度は、一見礼儀正しく感じるが……そこはかとなく感じるこの嫌な感じは、俺が疑いすぎなだけなのか。それとも……


 「それでは、両選手とも移動をお願いします」


 「ついにやってまいりました、予選決勝戦!! 泣いても笑ってもこれが最後の試合です!! 栄えある本戦の舞台へ勝ち上がるのはどちらの選手か!! それでは……試合――――開始です!!」


 試合は始まったが、今から約三分間は、互いに攻撃が許されていない。

 故に、この間にどれだけ自分に有利な状況を作り出せるかで、この勝負は決まるだろう。

 さて、どうするかな……葬天と騒滅は攻撃じゃないから使えるが、あれを今使うのは少し勿体ないか?

 しかし、本戦ともなればそれなりに実力のある者が集まるだろう。

 視界と聴覚を封じられたところで、どうにかしてしまうかもしれない。

 それならば、今使ってしまうべきだろうか……しかし……ううむ。

 それとも、淵羅の詠唱を時間ぴったりに終えて、一撃でケリをつけるか?

 今度は込める魔素をもう少し上げて、威力を上げておけばいけるだろう。

 幸い、砂時計はこちらから見えるように設置されているし……

 ……いや、アイレスパーダで風の剣を展開してから騒滅を使うか?

 そうすれば、相手の呪文詠唱を阻害できるし、アイレスパーダはオリジナルではないから、見られてもそこまで支障はない。

 幸い相手はまだ何もしていないようだし、おそらくは終了間際に動くつもりなのだろう。

 ……そうだな、それがよさそうだ。


 「風よ、尖鋭(せんえい)なる刃となりて、我が手に宿れ――――"アイレスパーダ"」


 「我、求めるは儚き静寂の夢。(しゅく)たる幻想の地。流れ、揺蕩(たゆた)い、留まりて止まれ。汝に清き静寂を――――"騒滅(ソウメツ)"」


 俺が詠唱を終えた時点で、残り時間は約一分。

 おそらく動くなら、そろそろだとは思うのだが……


 すると、思った通り相手は詠唱をはじめようとして――――自分の声が出ていないことに動揺を見せる。

 すぐに俺の仕業だと気づいたのか、こちらを睨みつけてくるがもう遅い。

 相手はどうにかして現状を覆そうと、必死の形相で策を練り始め、額には汗が浮かび始める。


 そして、そんな風にして突っ立っている相手に、俺は突撃をかました。

 別にルールを破ったわけではない。

 攻撃が解禁されたからそうしただけだ。

 まあ、相手にはそのアナウンスが聞こえていなかった(・・・・・・・・・)ようだがな。

 ちなみに俺は、相手に視線で悟られぬよう、周囲の魔素から得られる視界で、砂時計とマリアーナさんの口を見ていたため、聞こえてはいなかったが、きちんと制限解除のタイミングを掴むことができた。

 今は人の姿だが、魔素の時は体のどこにでも視界を移動させられるからな。

 この姿でも視界の移動程度、そう難しいことではない。


 そしてお相手はというと……アナウンスが聞こえていないのに、急に攻撃をしてきた俺に対応できるはずもなく……あっけなく俺に武器を真っ二つにされ、降参を余儀なくされた。

 もちろん、相手が降参を宣言する前に、騒滅は解除しておいた。


 「え~っと……しょ、勝者! レイジ選手!!」


 こうして俺の予選での最終戦は、前の二試合に比べ、あまりにあっけなくその幕を下ろしたのであった。





 「おめでとうございます! これで明日は、いよいよ本戦ですね!!」


 屋敷に帰るや否や、早速フィルスが駆け寄ってきて、俺の勝利を称えてくれる。

 そのはしゃぎようと言ったら、当の本人である俺なんかよりずっと凄くて……まだ予選だしなんて思っていた俺の方まで、なんだかにやけてきてしまう。

 まあもっとも、俺の手をとってぶんぶん振り回しているフィルスの様子が、なんだかとても可愛らしく思えたというのが、にやける主な理由ではあるのだが。


 「うふふ……おめでとうございます、レイジ様。今夜は明日に備え、少しでも精をつけていただけるようにと、夕食とお風呂に、ひと手間加えさせていただいておりますので、どうぞおくつろぎ下さい」


 俺が玄関先でフィルスと腕をぶんぶんしていると、遅れてやってきたレティアも俺の勝利を喜んでくれた。

 ……なんだか昨日もこんな感じだった気がするのだが。

 というかレティアよ。それは本来、使用人が言うべきセリフなのではないか?

 俺はただの冒険者で平民なのだし、侯爵令嬢である君が頭を下げるような相手では無いと思うのだが……

 まあ、別に気分は悪くないのだが。少々心配なだけで。


 「それはありがたいです。今日の戦いは(最後以外)なかなか大変でしたし、お言葉に甘えさせていただきます」

 




 「あの、レイジ様。私に何かできることは無いでしょうか」


 俺が風呂と飯をいただいて部屋に戻ると、先に部屋に戻っていたフィルスがそんなことを言ってくる。

 あ、ちなみに飯はいつもより豪勢に、風呂には良い香りのする花が浮かべられていた。

 しかし、フィルスはなんでまた急にこんなことを言い出したのだろうか。


 「あ、その……明日からは本戦ですし、少しでも連戦でお疲れのレイジ様の助けになれればと……あの……ご迷惑でしたでしょうか……」


 あーそういうことか。優しいなぁ、フィルスは。

 しかし、この肉体は疲労というものを知らない。

 食事も二日にパン一口程度で足りるし、睡眠も必要ない。

 それらをしているのは、俺の精神面での休息のためだ。

 故に、マッサージとかしてもらっても意味はな……いや、別の意味では嬉しいが……まあ、あまり意味はない。

 となると、俺が精神的に癒されるようなことになるかなぁ……

 本当なら、気持ちだけで十分だよとか言いたいところなのだが……そうすると、フィルスが変に気にしそうだし、なにかお願いはしてあげたいが……そうだなぁ……


 「それじゃあ、う~ん……俺が精神的に癒されそうなことをしてくれ!」


 わからんから、ブン投げることにしよう。

 これなら何かしらのアクションは起こすだろうし、それが結果どうだったにせよ、必死に考えて頑張るフィルスが可愛いので俺は癒される。

 ――――完璧だ! 完璧すぎる!! 天才か俺は!!

 というわけで、ドアの前から移動してベッドに腰掛ける俺。

 ここなら寝るも立つもすぐできるし、何をするにも楽だろう。

 なので、別にフィルスの考えを邪な方へと誘導するとか、そういう意図は無い。決して無い。

 とまあ、それは流石に冗談だが……というか、悩み過ぎじゃないか?

 なんだか必死過ぎるその姿が、だんだんかわいそうに思えてきた。

 フィルスは真面目過ぎるところがあるし、無茶振りだったかな。


 「あーその、なんだ。別にそんな深く考える必要は無いんだぞ? そうだな……それなら、俺にしてもらって嬉しいことを、逆に俺にしてくれればいい」


 それなら、さり気なくフィルスのして欲しいこともわかるし、嫌なことをされるってことも無いだろう。


 「そ、そんなのでよろしいのでしょうか?」


 「ああ、それでいいよ。ほんと言えば、してもらえることに意味があるのであって、何をしてくれるかはどうでもよかったしな」


 「そうだったのですか。では、その……失礼します」


 フィルスは、そう言って俺の隣に腰掛けると……なんと、俺の頭を胸元に抱き寄せて、頭を撫で始めた。

 こ、これはなんというか……ぶっちゃけムラムラする!

 だっておっぱいだぞ! こんなかわいい子のおっぱいを顔面に押し付けられて、興奮しない方が難しいだろう!!

 ……ふぅ。心の中でだが、叫んだら少し落ち着いた。

 流石に胸に顔を押し付けられた状態で鼻息を荒げていたら、ただの変態だ。

 フィルスの蔑んだ目なんて御免だからな。

 そんな目で見られたら、それだけで明日のやる気――というか、全てのやる気がゼロになってしまう。

 しかし、これが俺にやってほしいことか……可愛いなおい!! 甘えん坊さんか!!

 これはむしろ俺が抱き寄せてなでなでしたい。

 いや、する! させて下さい!! その方が癒されそうだ。

 今の状況も、色々と嬉しいが、精神衛生上はあまりよろしくないからな。

 俺は、フィルスの体を軽く押して、密着状態を解除する。

 離れて行く柔らかな温もりが、少し惜しいが仕方ない。

 ……今度またしてもらおう。


 「あの……やはり、お気に召さなかったでしょうか」


 俺が離れた意図を勘違いしたのか、フィルスがとても申し訳なさそうな顔をする。


 「いやいや、そんなことはない。フィルスが良ければ、また今度お願いしたいくらいだ」


 「そ、そうですか! こんなことで良ければ、いつでも!」


 なん……だと……!?

 いつでもしてくれると、そうおっしゃいましたかなフィルスさんや。

 それは……素晴らしい!! 実に素晴らしい!!

 フィルスマジ天使。


 「っと、まあそういう訳で、今度は俺がしてやろうと思ってな。して欲しいのだろう?」


 「へ? あ! いえ、その……よろしいのですか?」


 ぐはっ!!

 赤面上目遣い、だと!?

 そんなの……可愛すぎるだろう!!


 俺は遠慮がちな視線を向けてくるフィルスの頭を、半ば強引に抱き寄せると、そのままなでなでし始める。


 「いいんだよ。というか、むしろしたい。させて下さい」


 「あっ…………えへへ……」


 俺の胸に顔をスリスリしてはにかむフィルス。

 ……うん。ヤバい可愛い。


 「こんなんでいいならいくらでもしてやるけど……こんなことがして欲しかったのか?」


 「あ、はい。母がよく、こうしてくれていたので……その……こうして甘えていると、落ち着くというか……」


 「そっか……」


 まぁ、こうしてると落ち着くというのは、少しわかる気がする。

 人肌の温もりっていうのは、やはり良いものだな……


 そうしてフィルスが眠るまで撫で続けていた俺は、そのまま横になって、一緒の布団で眠りにつくのであった――――――

活動報告にて、二つほどそこそこ大事かもしれない修正(?)報告をさせていただきました。

どちらも私の力量不足が原因でございます。申し訳ございません。

精進いたします。

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