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第五十九話 『大会二日目・第二試合、決着』

2017/05/01 微修正

 頭上から振り下ろされる大剣を手に握った短剣で逸らし、懐へ潜り込む。

 しかし、大剣から離れ振るわれた左腕を避けられず、それを防ぎ、飛ばされ、また距離が開く。

 浅い切り傷程度ならいくつもつけているが、決定打となるような一撃はいまだ与えられていない。

 ちなみに、俺の方も何度か攻撃が掠って傷を受けたが、既にスキルによる自動回復が行われ、今は無傷だ。


 正直この戦い、攻撃うんぬんよりも装備の差が大きい。

 俺は鉄なんてどこにも使っていないただの服だが、相手は軽装ながらも、きちんと籠手や胸当てで防御を固めている。

 だから今振るわれた腕も受けるだけで傷はつけられなかったし、狙える場所が狭まっているせいで攻撃が防がれやすい。

 普通の敵ならこの程度の防具、大したことは無いのだが……相手はなかなかの手練れ。

 このまま続けば、どこかで隙を突ける可能性もあるかもしれないが……流石にそれはこちらも辛い。

 さらには剣もこちらは安物。真正面から攻撃を受け止める度に、剣が悲鳴を上げている。

 とはいえ魔導具が使えない今の状態で、俺がこの状況を打破するのは、実はそう難しくはない。

 そう、俺は手から放てるブレスを使えば、圧倒的優位で戦える。

 しかし、魔導具と言って誤魔化すことができない状態でそれをするというのは、あまりに危険だ。

 場合によっては、龍であることに気づかれかねない。

 手から放つのは、縮小版とはいえ、まんま龍のブレスなわけだし。

 そんなわけで、もうかれこれ三十分はこうして剣を交わし続けている。


 「はっはっは! 俺と剣でここまでやり合える相手は久しぶりだ! さあ、もっとだ! もっと闘おうではないか! その身が耐えうる、その限界まで!!」


 しかも相手は完全にハイになっていて、参ったなんてする様子は欠片もない。

 むしろきっちり勝負がつくまで、どれだけ不利になろうとも食いついて来そうだ。

 確かに俺は肉体的な疲労とはほぼ無縁とは言え、これと持久戦は面倒過ぎる。

 そんなことをしようものなら、夜まででも続きそうだ。

 さて、どうするか……最悪負けでも良いといえば良いのだが、勝てる試合で負けるのは性に合わん。


 「どうした! 剣に迷いが見え隠れしているぞ!! まだ何か奥の手があるのではないか? 予選だからと渋ってないで、俺にお前の全力を見せてくれ!!」


 別に予選だからという訳では無いのだが……確かにこのまま迷い続けていても、先に破られるのはこちらの方かもしれないな。

 それにさっきから、短剣が嫌な音を立て始めている。

 これでは俺より先に短剣がやられてしまいそうだ。

 やっぱり装備って大事だなぁ……となると、やっぱ金なんだよなぁ……

 優勝したら大金が貰える……そしたらフィルスにも良い思いをさせてやれるな。

 予選一回戦であれだけ喜んでくれたのだ。

 優勝なんてしたら、どんな笑顔を見せてくれるだろうか。

 …………これは、勝たねばなるまい葛城玲仁! 男には、どんな手を使ってでも、なさねばならぬことがあるのだ!!

 後のことなどもうどうでもいい! さあ、勝鬨を上げようではないか!!


 後になって思えば、この時は疲れて俺もおかしくなっていたのかもしれない。

 だがこの時の俺は、そうするのがベストだと思ってしまったんだ――――


 「ふっ……ふふは……ふはははははは!! 良いだろう! 見せてやろうじゃないか!! ――――ってことで喰らえやオラァ!!」


 俺は、剣を握らぬ左手を前に突き出し、水属性のブレスを放つ。


 「ウボァ!!」


 そして、それをモロに顔面で受けたガメシュナ選手は、間抜けな声を上げて後ろに転がっていく。


 「どうした! こちらは奥の手を見せてやったぞ!! さあ、来い!! それともそんなものか! あんたの実力は!!」


 「んなわけあるか!! まだまだやれるぜ、俺は!! ふははははは!!」


 「アッハッハッハッハッハ!!」


 その後の試合は、それはもう酷いものであった。

 自重をやめた俺は、何も考えずに剣をあえて腕で受けてブレスを放ったり、相手もブレスを受けて転がりながら剣をブン投げたり。

 終いには、剣も拾わず素手で突撃をかましてきやがった。

 まあ、結果は言うまでもなく俺の勝ちであったのだが…………さて、どうしようかな。

 こういう技術もあるんですよで納得してくれれば良いのだが……


 「え、えーっと……勝者、レイジ選手!」


 司会の声が会場中に響き渡るが、観客席の盛り上がりはイマイチだ。

 ま、そりゃそうだろうな。

 今のは魔導具の使用を疑われてもおかしくない攻撃。

 魔導具をどこかに隠しているのではないかという者の勝利に、歓声など沸くはずもない。


 「ところで、その……今の攻撃には、本当に魔導具は使用されていないのでしょうか?」


 そして当然と言えば当然だが、司会のマリアーナさんが確認をしてきた。


 「ええ、使っていませんよ。証明のために身ぐるみ剥いで使ってみろと言われれば……男性係員の前で、場所を選んでというのであれば、構いませんが」


 「そ、そうですか。まあそこまでしろとは言いませんよ? 一応、持ち込みが無いように持ち物検査もしていますし。ただ……一応、剣を二本とも地面に置いた状態で、もう一度使ってみていただいてもよろしいでしょうか」


 「ええ、構いませんよ」


 俺は装備していた剣を二本とも地面に置き、再び左手から水属性のブレスを放つ。


 「……できてますね。しかし、こんなことどうやって――――」


 「そこまでだ」


 なおも追求しようとしたマリアーナさんの声を遮ったのは……なんとガメシュナさんであった。

 さっきまでぶっ倒れていたのに……タフすぎだろ、このオッサン。


 「俺はこいつに負けた。それが全てだ。それでいいじゃねえか。それにそいつはルール違反なんざしちゃいねぇよ。そんなことをしていて剣にそれが出ないほど、器用な奴じゃない」


 「おい」


 あまりの言いように、思わず突っ込みを入れてしまう。

 確かに俺は嘘を吐いたりするのは、あまり得意ではないが……


 「レイジといったな。まいったぜ、完敗だ! だが、楽しかった!! 良ければまた俺と闘ってくれ」


 そう言って右手を差し出してくるガメシュナさん。

 俺のツッコミを華麗にスルーしたのは少々引っかかるが、その気持ちの良い態度には、とても好感が持てる。

 こういう人とは、今後も仲良くしていきたいものだ。


 「ええ、もちろんです」


 俺はそう言いながら、彼と固く握手を交わした。


 結局その後、俺たち二人が退場するまで、マリアーナさんはぽかんとした顔で突っ立っているだけだった。

 まあ、扉が閉まった直後、後ろで慌てて司会を再開する声も聞こえたが。


 しかし、今回はガメシュナさんに助けられてしまったな。

 今度機会があれば、この借りは返すとしよう。

 というか、今回の試合はちょっとはっちゃけ過ぎたかなぁ……次からは、もうちょい自重しなければ。

 ブレス見られたせいで面倒が起きませんように! マジで!!

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