第五十七話 『大会二日目・お昼休憩』
「――――"ブレイズストーム"!!」
レイジ様の魔法により発生した火炎の渦が、二人を吞み込み、燃え盛る。
その手に汗握る展開に、会場中が一気にざわつき始めます。
もっとも、隣にいらっしゃるレティア様は、心配そうに炎を見つめていらっしゃいますが。
他の皆は捨て身の自爆攻撃だと思って見ているようですが、レイジ様の実力の一端を知る私には、これでレイジ様が倒れることは無いとわかっています。
問題は、レイジ様が無事かどうかではなく、相手選手を戦闘不能にまで追い込めてるか否か。
ブレイズストームは炎属性の単一陣の魔法の中ではかなり威力の高いものではありますが、それでもレイジ様のお作りになられた魔法に比べればずっと弱い。
おそらくレイジ様は、手加減のためにこの魔法をお選びになったのでしょうが……大丈夫でしょうか……
命を奪わぬ戦いというのは、とても難しそうですね。
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魔法の効果時間が終了し、火炎の渦が引いていく。
俺は渦の中心の、目になっている場所にいたので一応無事だが、俺の体を束縛していたダーライグ選手は、途中で離れていってしまったため、どうなったかはまだわからない。
これでも倒せていなかったら、今度こそヤバいのだが……
完全に炎が消え、視界が晴れると、そこには地に伏した大男の姿があった。
しばらく様子を見ていても、ピクリとも動く様子がない。
「ダーライグ選手、戦闘不能! 戦闘不能!! よって勝者は――――レイジ選手です!!」
勝利の宣言がなされた瞬間、会場中が歓声に包まれ、地面が大きく揺れる。
そして俺は、まだまだ一回戦目で、まだあと二戦残っているのだが……そんなことがどうでもよくなるほどの達成感に支配されていた。
この辛くも勝ち取った勝利の、なんと甘美なことか。
「ダーライグ選手は、四大ギルド――っと、今は三大ギルドでしたね。その一つである『』のAランク冒険者で、優勝も期待されていたのですが……なんとレイジ選手! あれだけ厳しい条件の中、その彼に勝ってしまいました! これは凄い!! 今後の活躍への期待も高まります」
勝利の余韻に浸っている俺には、司会の声も届かな――――ん? 三大ギルド? Aランク? ……マジか。
彼は確かに実力者といった感じではあったが、まさかAランクとは……
思ったより目立っちゃった? こんな序盤から警戒されたくはないんだけどなぁ……
ていうか、Aランクってこの程度の強さでなれてしまうものなのか。
それなら、ちゃちゃっと効率重視で依頼を頑張ってみるのも、案外悪くないかもしれないな。
目立つ云々はもう今更だし、それならより高いランクの方が何かと便利だろう。
もちろん、戦闘力だけでなれるという訳では無いだろうが、そこが占める割合が大きいのも事実だろうし、どうにかなるだろ。
さて、今日一日で予選が終わるらしく、俺にはあと二試合残っている。
今は早々に裏に引っ込んで、体を休めるとしよう。
思ったより消耗してしまったし、何より予定していた以上に魔導具を使用してしまった。
この後の戦いも今レベルかそれ以上になると想定して、作戦を練り直さなければ。
「フィルス、レティア様、お待たせしました」
時は少し経ち、今は正午を少し過ぎた頃。
俺は昼食を共にとるために、二人と闘技場前で合流した。
試合はもう一ブロックの分もあるため、まださっきの一試合だけだが、今のペースでいけば、昼休憩後はすぐに俺の順番が回ってくるだろう。
食べ過ぎにだけは注意しておかなければな。
腹が重くては戦闘に支障が――――あ、いや、大丈夫なのか? 俺の場合。
でも正直、今の俺は状態はかなり不安定だし、普通に人間のつもりで動くのが無難だろうな。
せめてもう少し、MP分の魔素が安定してくれればなぁ……
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも試合、凄かったですね! 私、あまりああいった戦闘を見る機会は無かったのですが、こんなにも見ていて興奮してしまうとは、思ってもいませんでした! 最後のあの攻防! 攻撃に耐えながらも魔法を詠唱し続ける御姿、かっこよかったです!!」
俺の挨拶でこちらの存在に気が付いた途端、レティアがすさまじい勢いでまくし立ててくる。
まあ、彼女は英雄譚とか好きな割には、親の方針で未成年の内はこういった争いの場は見せてもらえなかったらしいし、かなり楽しみだったのだろうな。
大会数日前から、なんかソワソワしてたし。
まあ、楽しそうに語り続けるレティアの姿は年相応に可愛らしく、見ていてほっこりするし、飯もすごく急がなければならないわけでもないので、彼女が満足するまで付き合ってあげるとしよう。
こっそりその後ろに立っていたフィルスの顔を見ると、レティアを見てニコニコしている。
うむ、なかなか二人の関係は良好なようだな。良かった良かった。
まあ、俺の視線に気が付いたフィルスは、こちらを見て苦笑していたが。
「――――最初の一撃、相手の大きな剣で吹き飛ばされたときは冷や汗が出ましたが、あれも計算の内だったとは! 動けない中であれだけの戦いができるなんて! それからそれから――――」
五分程そのまま聞いていたが、レティアの話は全く終わる気配がなく、むしろヒートアップしている気さえしてくる。
時間が許すならいくらでも付き合ってあげたいところだが、今はそういう訳にもいかないからな。
流石にそろそろ昼食を食べに行かなければマズいだろうと判断した俺は、いつもレティアの側にいるメイドのエリデさんに目配せをする。
すると彼女もわかっていたようで、すぐにレティアに声をかけ、話を終わらせた。
彼女の名前はエリデ・フェラレーゼ。
茶髪で短めのポニーテールと、エメラルドグリーンの瞳がチャームポイントの17歳だ。
背はフィルスと同じくらいで、まあ普通といったところか。
彼女とは馬車での旅から一緒だったのだが、なかなか声をかけるタイミングが掴めず、結局話ができたのは、屋敷についてから何日かたってからのことだった。
まあそれには、仕事中の彼女があまり感情を表に出さないために、話しかけ辛かったという理由もあったりするのだが。
俺もフィルス程ではないにしても、人付き合いはあまり得意ではないのだ。
自分からズカズカいくのは、あまり得意ではない。
さて、そんな彼女が諫めてくれたおかげで落ち着いたレティアと共に、早速昼食を取りに向かう。
場所はすぐ近くの草原だ。既に場所は確保してあるらしい。
この辺りは一応塀の外で、魔獣なんかも出てくる場所だが……出るといっても雑魚ばかりだし、これだけ人がいるのだから大丈夫だろうというわけで、今日のお昼は弁当だ。
こちらの世界では、弁当という文化はあまり一般的ではなく、料理ができない旅の道中、どうしても美味いものが食べたいという貴族が、たまに用意することがあるくらいなのだとか。
黒パンや干し肉などの保存の効く食べ物や、栄養価の高いものを固めた携帯食料で済ませるのが、一般的な旅での食事だ。
まあただ今日のこの弁当は、ついさっきここまで持ってきたもののはずなので、どちらかと言えば、ただ弁当の容器に盛り付けただけのメシといった感じなのだろうが。
そしてその場所に到着し、俺は弁当を開ける。
すると中には、肉や野菜がたっぷり挟まったパンがいくつか入っていた。
どうやら俺の飯をただ箱に盛り付けただけという予想は外れていたらしい。
でもこれなら外でも食べやすいし、よく考えられていて実にありがたい。
そうしてその具がたっぷりなサンドウィッチを平らげた俺は、次の試合に備えて、早めに控え室まで戻るのであった。
――――試合後のサンドウィッチは実に美味く、フィルスから1個貰ったせいでちょっと食べ過ぎたのはナイショだ。
プロローグ付近の書き直しなのですが、見返せば見返すほど、初めの頃の設定の甘さやミスが見つかっていく……
書いてみないとわからないことって、やっぱり多いですねぇ。
そんなわけで、設定を大幅に変えることはないと思いますが、微調整はするかもしれません。
その場合には、わざわざ読み返すのは面倒だと思うので、まとめてどこかで報告します。
といっても、まだ先のことになるとは思いますが(^^;