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第五十六話 『大会二日目・第一試合』

 「それではレイジ選手とダーライグ選手は、入場口まで移動をお願いします」


 会場の方から大きな歓声が聞こえてきて間もなく、控え室に来た係員が移動を指示する。

 ついに俺の番というわけだ。

 予選一回戦目は、実質戦っていないようなものだし、これが初戦闘と言ってもいいかもしれない。

 相手は身長が二メートル以上はある巨漢のダーライグ選手。

 金属製の分厚い鎧と大振りの剣を身に着けており、いかにもパワータイプといった感じの見た目だが、予選では意外と素早い動きで攻撃を躱していた。

 あの鎧は物理で突破するのは難しいだろうし、油断は禁物だな。

 特殊ルール次第では、突破口が無くなる可能性まである。

 まあもっとも、それは相手も同じことなのだが。


 せめて不利になるようなものだけは引きませんように!

 なんて祈っている間に、係員がクジの入った箱を持ってやってきた。

 そして促されるままクジを引くと――――


 『試合開始地点からの移動禁止。ただし、攻撃や反動などで吹き飛ばされた結果としての移動は例外』


 ……は? 馬鹿なの?

 こんなん無理に決まってんだろオイ。

 いや、相手にも同レベルの制限がかかっているのであればわからないが。

 ルール的には、一応自分で起こした爆発の衝撃波などでの移動は大丈夫みたいだが……こりゃやばいな。


 しかし、そんな不安など知ったことかと、クジを引き終えた俺は舞台へと移動をさせられる。

 そこで相手選手の顔を見るが……喜びが隠し切れないといった感じの表情を浮かべている。

 こりゃ絶対良いクジ引きやがったな。


 「それでは早速、試合を始める前に、両選手の特殊ルールを発表させていただきます。まずダーライグ選手は……魔導具の使用禁止! これは辛い! と言いたいところですが、ダーライグ選手はどう見てもパワータイプの戦士! この縛りは彼に対してあまり意味はないかもしれませんね。さて、続いてレイジ選手の特殊ルールは……な、なんと! 試合開始地点からの移動不可! こーれは辛い! 攻撃や反動などによる移動は可となってはいますが、それ以外での移動は一切認められないこのルール! ダーライグ選手のものに比べてあまりに不利! さあ、くじ運最悪のレイジ選手は、この逆境でどんな試合を見せてくれるのでしょうか!」


 くそぅ……ダーライグ選手が笑っていたのはそういう事か。

 彼は見るからに生粋の戦士タイプ。おそらく元から魔法が不得手なのだろう。

 そんな彼にとっては、魔導具の使用禁止なんてルールは無に等しい。

 少なくとも、俺のクソキチルールよりは百倍マシだ。


 「それでは両選手、準備はよろしいでしょうか」


 司会のマリアーナさんは実況の為か試合会場まで降りてきており、俺達の目の前で最後の確認をする。

 その容姿は、声から想像していた通りの元気っ娘って感じで、歳は……17くらいだろうか。

 って、そんなことは今はどうでもいい。


 「それでは一つだけ、質問よろしいでしょうか」


 普通はハイと答えて終わりの所なのだろうが、俺は一つ確認しておきたいことがあった。


 「はいはいどうぞレイジ選手。なんでしょうか」


 「移動不可というルールですが、その場での回転なども移動に含まれるのでしょうか? 明確な移動の定義を示していただきたいのですが」


 これがどうなのかによっては、俺も相手もとるべき手段が全然違ってくる。


 「えーっと……軸足を変えずにその場で向いてる方向を変えるのはオーケー。魔法の効果による移動もオーケー。ただし、移動系魔法の使用はアウト。それから、不可抗力による移動後は、その場所を基準として同じルールが適用される――といった感じですかね。これで大丈夫でしょうか」


 「ええ、問題ありません」


 そのルールならまだマシか。

 これで方向転換もダメとか言われたら、相手に刺客に入られた時点で、かなり勝負が厳しくなってしまう。


 「それでは改めて、両者とも、準備はよろしいでしょうか」


 「俺は大丈夫だぜ」


 「こちらも問題ありません」


 「それでは両者とも、所定の位置についてください」


 そうして俺たちが試合の開始位置へと移動する間に、マリアーナさんも結界の外へと移動をする。


 「それでは――――試合、開始です!!」




 「深く暗い、闇より黒き深淵よ。原初の階層に刻まれし、とがまといし大欲よ―――」 


 開始の合図と同時に、俺は懐の魔導具を起動させ、詠唱を開始する。

 しかし、相手がそれを待ってくれるはずもなく、巨体に似合わぬ凄まじいスピードでこちらに突っ込んでくる。

 そして俺に接近するや否や、左側から力の限り振りかぶられる大剣の腹が俺に迫る。

 殺しは禁止だから剣の腹で攻撃したのだろうが、正直言って、そっちの方が捌きにくくて厄介だ。


 「ぐっ……でぃああああ!!」

 完全に受け流すのは不可能と判断した俺は、短剣で攻撃を受け止め、踏ん張ることなく、むしろ自らの押す力も加えて大きく吹き飛ばされる。

 剣は手を離れ、両腕もしびれて動かないが、稼いだ時間は十分だ。

 吹き飛びながらも、俺は詠唱を止めることなく唱え続ける。


 「――――とし、非を是と定めよ。無謬むびゅう穿うがち、ことわりを喰らえ。汝はごうにしてごうたるモノ。我はせつにしてせつなる者。混沌よ、来たれ。万象を喰らい、真理を歪めよ! ――――"淵羅えんら"!!」


 俺の詠唱を止めようと追撃をしてくるが、もう遅い。

 彼の二撃目が俺に届こうとしたその瞬間、俺の詠唱が完了し、魔法が発動する。


 この魔法"淵羅"は、発動と同時に、俺の(より正確に言えば魔導具の)周囲100メートルに属性反発による魔導力場を発生させることで、範囲内に存在する魔素や魔力を暴れさせる、闇属性と光属性の混合魔法だ。

 俺は魔素操作であらかじめ制御をしているから大丈夫だが、普通はこれを喰らった者は、体内で暴走する魔素・魔力に体が耐え切れず、体内から壊されていく。

 無論、本気でやれば魔力器官そのものを破壊しかねないどころか、命をも奪いかねないので、魔導具に込める魔素を減らすことで手加減はしたが。

 この程度なら、酷くても数日の間魔力が練りにくくなる程度だろう。


 さて、この状況であの堅い防御を確実に、一撃で突破しなければならなかったので使ってしまったが、本当はこれは自信作だったから、本戦までとっておきたかったんだよなぁ……

 これで倒せていなければ、苦戦は免れないが……どうだ。


 淵羅の反発力場を作り出していた魔素が、元の無属性へと戻ることで、視界が明るくなっていく。

 するとそこには、肩で息をしてふらついてはいるものの、剣を支えにして立つダーライグの姿があった。


 (馬鹿な! 威力を弱め過ぎたか? あるいは、彼の内在魔力が少な過ぎたか……)


 この魔法は相手の体内にある魔力を暴走させる魔法。

 そのため、その威力は相手の体内にある魔力の量に依存している。

 確かに彼は戦士タイプで魔法は不得手であるようであったが、今ので倒し切れないとなると、相当MPが低いのか……なんにしても、厄介だな。

 ここは彼が動き始める前に、止めを刺さなくては。今度こそ、確実に。

 俺はすぐさま別の魔導具を起動させ、詠唱を開始する。

 使うのは、手持ちの中でも比較的詠唱が短く、あの防御の上からでもダメージが見込める、火属性魔法の"ブレイズストーム"だ。


 「赤はあかへと還り、儚きほむらは昏きを欲す――――」


 しかし、俺が呪文を唱え始めてすぐ、ダーライグは顔を上げ、決死の覚悟の宿った視線をこちらへ向けると、支えにしていた剣を投げ捨て、こちらへと突撃をしてきた。

 先ほどの攻撃の際、ふらつき距離がわずかに開いてはいたものの、一度は目と鼻の先まで迫っていた彼との距離などさほどない。

 その場から動けない俺にはその突撃から逃れる術などなく、凄まじい衝撃に体を軋ませながらも、必死に魔法を完成させる。


 「――――我が手に宿りし紅蓮の意志よ、逆巻き、逆巻き、逆巻きたまへ。汝の孕みし同胞はらからで、熱無き大地を業火で染めよ! ――――"ブレイズストーム"!!」


 そして俺が呪文を詠唱し終えた瞬間、俺たち二人は超高温の火炎に包まれていった――――

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