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第四十九話 『続・レティアとおしゃべり』

土日にモチベ上げられると捗る。

 「レイジ様、それは何をされていらっしゃるのでしょうか」


 ジウスティア家の別宅に泊まり始めて五日目。

 俺が地下の訓練場で作業をしていると、いつの間にかすぐそばまで近寄ってきていたレティアが話しかけてきた。


 「ああ、ちょっと魔導具を作っていたんですよ。まだまだ大したものは作れませんが、製作の練習を兼ねて大会への準備をと思いまして。日々の訓練も大事ではありますが、やはり手札は多いに越したことはありませんから」


 「確かにそうかもしれませんね。ですが、なぜこのような場所で製作を? 細かい作業のようですし、お部屋でなさった方がよろしいのではないでしょうか」


 「まあ、作業だけならそうなのですが……っと、これで良いかな。ちょっとだけ下がっていていただけますか?」


 「え? ええ、わかりました」


 俺はレティアが十分に距離を取ったことを確認すると、完成したばかりの魔導具に魔素を流し込む。

 すると魔法陣が赤色に光を放ち、魔法を放つために十全な魔素が流れ込んでいることを教えてくれる。


 「火よ、我が意に従い、我に仇なす全てを燃やせ――――フレアランス」


 俺が呪文を詠唱すると、目の前に大きな火球が出現し、右斜め前に地面を削りながら飛んで行った。

 そして放たれた火球はそのまま壁……というか、結界に当たって消滅。


 「とまあ、完成する度にこうして試して、その都度調整をする必要があるので、それがすぐにできるここで作業をしていたのですよ」


 「そういうことでしたか。それでしたら、明日までにここ作業ができるよう、机と椅子を用意しておきましょう。ところで、今の魔法は成功だったのですか?」


 「いえ、形状もコントロールも全然思い描いていた物とは違いました。魔法陣がきちんと形成できていないと、魔法にその歪みが直に現れてしまいますからね。いや、お恥ずかしい。それから、わざわざ作業台などなくとも、私は大丈夫です。あまりご迷惑を掛けるわけにも――――」


 「迷惑だなんてとんでもない! それくらいはお安い御用です。それに、私はあなたを大会に推薦した身、個人的にも、家としても、できれば勝ち上がっていただきたいですから、サポートをするのは当然のことです。何かご不便や必要なものがございましたら、遠慮なく仰ってください。少し我儘なくらいで構いません。要望を聞き入れるか否かの判断はいくらでもできますが、何が必要かは言っていただけなければわかりませんから」


 「ふむ……確かに。そちらの立場になって考えると、そうかもしれませんね。こういうのはバランスが難しいですが……まあ、善処します」


 俺は、話がひと段落したところで再び作業を始める。


 「あの……ご迷惑でなければで良いのですが、作業をしながらで結構ですので、少しお話の相手をしては下さらないでしょうか」


 「構いませんよ。もしかしたらちゃんと聞き取れてなかったり、急に会話を切ったりしてしまうかもしれませんが、それでよろしければ」


 最近になって気が付いたのだが、俺は自分の趣味に没頭している時、かなり周囲への注意が疎かになる。

 意識していなければ人が近づいてもなかなか気が付かないし、ましてや会話などできるはずもない。

 そして今は魔導具の製作途中。絶対に途中で話を聞かなくなる自信がある。

 故に、事前の言い訳はとても大切だ、うん。


 「はい、もちろんです。それでは早速――――レイジ様とフィルス様は、どういったご関係なのでしょうか。同じ部屋に寝泊まりしているという事は、やはり恋人同士――――」


 「いえいえ違いますよ! 俺とフィルスは――――そうですね……仲間というか、家族というか、そんな感じです。はっきりこういう関係です! というのがある訳では無いのですが、俺は大切に思っています。この身に変えても、守りたい。そして願わくば、幸せでいて欲しいと。無論、異性として全く意識していないかと言えば、そんなことはないのですが……恋人とかではないですね。ですが、俺にとってはこの世界で一番大切な人です」


 レティアの勘違いを慌てて訂正したが……語り終えてから冷静になった俺は、自分の恥ずかしいセリフに悶絶する――――心の中で。

 穴があったら入りたい!!


 「とても強い絆で結ばれているのですね……少し、羨ましいです。私にはそういった相手はおりませんので」


 そうつぶやくレティアはどこか寂しそうで、貴族で金持ちだから幸せってわけじゃないんだよなぁなんて当たり前のことを、改めて考えさせられた。

 レティアの場合、冒険者への憧れや身分の差に対する意識の低さがこれだけ目立っているのだ。貴族社会はさぞ窮屈だろう。

 やっていけるだけの器量や才覚はあるように見えるが、できるから幸せという訳でも無いからなぁ……


 「レティア様は、その……何かしたいこととかはありますか? なんでもいいんですけど……身分とか能力とか、そういったしがらみは全部考慮せずに、本当に、心からやりたいこと」


 「そう、ですね……冒険がしたい、とまでは言いませんが……世界を旅してみたいです。色々なものを見て、色々な人と出会って、そうしたらきっと、人として大切な何かが手に入るのではないかと、そう思ってしまうのです。無論、そんな夢は叶わないと、わかってはいるのですが……今は、家もごたごたしていますし……」


 「家のごたごた、ですか?」


 「え? あ! い、いえ、何でもないんです忘れて下さい」


 俺が聞き返すと、慌てて口を覆ってごまかそうとするレティア。

 ついぽろっと言ってしまっただけってことか。


 「わかりました。ですが、何かあれば力になりますので、その時はお声がけください」


 「あ、ありがとうございます」





 「そういえば、フィルス様はどちらへ……」


 そこで会話は途切れ、しばらくは俺が作業しているのをレティアが眺めているといった時間が続いたのだが、もうすぐ完成というところで、ふと気が付いたかのようにレティアが疑問を言い漏らす。


 「ああ、フィルスなら上の訓練場で、護衛の方たちの訓練に混ぜてもらってますよ。予定では確か――――夕方頃には終わるはずでしたが……何か用でもありましたか?」


 「ああいえ、そういう訳では。ただ、お二人はいつも一緒にいるような印象だったものですから」


 む? まあ確かに一緒にいる時間は長いが、そこまでべったりだっただろうか。

 一緒にいない時間も割とあったと思うが……風呂とか、トイレとか、あとは――――あれ? 無い、か?

 た、確かにこれではそう思われても致し方ないか……


 「た、確かに思い返してみると、ほとんど一緒に過ごしていましたね……別に特に意識していた訳では無いのですが……まあ、フィルスはヒトの社会では生き難く、色々と苦労もしてきたみたいですからね。一人でいると不安もあるのでしょう。部屋が同じなのも、そういった理由からですし」


 「そう、ですか。そうかもしれませんね。彼女は私には想像もできないような、過酷な人生を過ごされてきたのでしょう。そして今も……亜人差別など、争いの火種を生むだけで何も良いことなど無いというのに、それが当たり前になってしまっている……嘆かわしいことです」


 「あなたのような地位の高い方がそのような考え方を持っていてくれているというのは、それだけで嬉しいものです。貴族など、もっと地位と権力を振りかざす汚い者ばかりだと思っていましたが、その限りでも無いようで、安心できます。偏見が過ぎたようですね」


 「いえ、そうでもありませんよ。己の利権ばかりを気にして、領民のことは己の駒としか考えていないような者の方が多いというのは間違ってはいませんから。幸いにも父はそういった人物ではありませんが、兄にはそのきらいがありますし……」


 兄ってことは、後継ぎなのかな? それがそんな人間では、問題もあるだろう。

 家のごたごたっていうのも、そのあたりが関係しているのだろうか。


 「お互い色々大変ですね。頑張りましょう」


 「あはは、そうですね。なんだか愚痴っぽくなってしまって……申し訳ないです」


 「いえいえ、お気になさらず」


 しかし、こうして度々家の問題について漏らしてしまっているあたり、なかなかに頭を悩ませているようだな……

 まだ成人したばかりのレティアでこれなのだから、現領主である彼女の父親は相当だろうな。

 悪い人ではなさそうだったし、何か力になれれば良いのだが……

 だがまあひとまずは、大会で良い成績を収めてジウスティア家の名誉を守るとしよう。


 そうして少しでもジウスティア家へ恩を返すべく、密かに大会への気合を入れなおす俺なのであった。

次あたりからは話を進めていきたいと思ってます。

進められるかは、書いてみないとわかりませんが←

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