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第四十八話 『レティアとおしゃべり』

更新ペースが落ちる宣言すると、そうでなくなる天邪鬼マン。

つまり、多少忙しくなっても結局はモチベの問題という事ですね(`・ω・´)

……いつも言ってることとやってることが違くて申し訳ない(;´・ω・)

でも更新ペースが落ちそうなのは嘘じゃないんです。

今回はたまたまなんです…………たぶん。

 訓練を終えた俺たちは、シャワーを浴びた後、レティアと共に夕食の席についていた。


 「では、レイジ様は魔導技師でもあるという事でしょうか?」


 「いえ、そういう訳では。ただ興味があって、一日だけ教えを受けたというだけです」


 「たった一日で魔導具が作れるようになるなど、聞いたことがございません! レイジ様は素晴らしい才能をお持ちなのですね! このようなことを言っては何ですが、冒険者よりもそちらの道へ行かれた方が良いのでは? レイジ様は確かにお強いようですが、冒険者というお仕事は、色々と危険が付きまとうものですし……」


 「ははは……まあそう言う選択肢が無い訳では無いのですが……旅は好きですし、それに今は、戦いに身を投じていなければならない理由もございますので」


 「戦いに身を投じなければならない、ですか? それはどのような……いえ、失礼しました」


 どうやら、俺の表情から聞いてはいけない内容だと悟ってくれたらしい。

 身分の違いを感じさせない優しさは、こういった他人の感情に敏感なところからきているのかもしれないな。


 「いえ、気になってしまいますよね……こちらこそ、お話しできず申し訳ない」


 「いえ……」


 ……な、なんだか微妙な空気になってしまったな。どうしたものか……


 「レ、レティア様は訓練を見学なさっていたり、レイジ様とお話をしたがっていたようでしたが、戦闘行為に何か特別な関心がおありなのでしょうか」


 おお、ナイスだフィルス!


 「へ? あ、えっと……別に、戦闘行為に特別な関心があるのではないのです。ただ、冒険者というものには、少しばかり関心を持っております」


 「冒険者、ですか?」


 「はい。私は数年前に魔晶龍様の神々しいお姿を目にしてから、彼の偉大なる龍に想いを馳せ続けているのですが……魔晶龍様の登場なさるお話というのは冒険者が主人公のものが多くて、それらを読んでいるうちに、冒険というものにも強い関心を抱くようになりました」


 「そうだったのですか……」


 フィルスよ、その後に続く言葉はないのかね? 話が終わってしまうぞ?

 ……まあ、仕方あるまい。会話慣れしていないフィルスに代わり、俺が話を続けよう。


 「しかし、実際の冒険者の仕事というのは、特にランクの低い頃なんかは、迷子探しやら荷運びやらの雑用ばかりで、戦闘なんてせいぜい獣や弱い魔獣程度。それも頻繁に行うわけではありません。かく言う私も、今はまだランクEですからね。雑用みたいな仕事がメインです。ですので、レティア様が憧れを抱くような冒険譚をお聞かせするのは、難しいかもしれません」


 まあ、多少は現実というものを教えておかないと、世間も知らぬままいきなり家を飛び出して冒険者に! なんて言い出す可能性もなくはないからな。

 ここは申し訳ないが泥臭い面倒な仕事の話を選りすぐって――――


 「ふふふ……存じております。ですが、それで良いのです。そういった雑用をする中での些細な出会いや気付き、幸福や成長というものもまた、冒険者という職の魅力なのではないかと、私は考えております。それにそういった雑用も、住民の暮らしを支える大切なお仕事ですから。確かにお話としては派手な戦闘や、未知のダンジョンの探索といったものの方が盛り上がるのも事実ですが、日常の何気ない瞬間のお話も、私は好きですよ?」


 ほう……こいつは筋金入りだな。雑用すら好意的に捉えられるなんて。

 こういう人って、何かあってサバイバルな生活を強いられても、案外やって行けたりするんだよなぁ……


 「それはそれは。では、私から一つ。これは、同じギルドの仲間に聞いた話なのですが――――」




 「あら、もうこんな時間。楽しい時間というのは、どうしてこう短く感じてしまうのでしょうね」


 現在、俺たちが夕食を取り終え、話を始めてから約二時間半が経過している。

 レティアは明日の挨拶回りの準備などを考えると、そろそろお開きにしなければならない時間だろう。


 「まあ、まだ初日ですし、時間は十分にありますよ。それに、楽しい時間というのは、短く名残惜しいくらいが丁度よいのです。満足し過ぎてしまえば、飽きて楽しみを一つ失ってしまいますから。次が楽しみな方が幸せでいられると、私は思いますよ」


 「それはとても良い考え方ですね。今度からは、そう考えるようにします。そうすれば、どれだけ名残惜しくとも耐えられそうですから。ふふっ」


 そう言って笑うレティアは、年相応の少女のかわいらしさを感じさせつつもとても上品な感じがして、さすが侯爵家の令嬢だな、と感じさせられた。

 こういった些細な、特に気を抜いている時の仕草というのは、人としての本質が見えやすいものだ。

 そういう意味では、レティアは信用してもよさそうな人間かな。

 とはいえ、本人が信用できるから気を許すというのはまた違った話だが。

 フィルスは……こう言ってはなんだが、他者との接点が俺くらいしかなかったから、本人が信用できると思った段階ですべてを話してしまえたが、レティアは周りに人が多すぎる。

 情報がどこから漏れるかわからない以上、下手に気を許して秘密を漏らすわけにはいかない。

 本当なら、もっと気楽に仲良くしたいのだが……こればっかりは仕方のないことだ。


 そうしてレティアと別れた俺たちは、与えられた部屋へと戻り、就寝の準備をするのであった。

 無論、フィルスに血を与えることも忘れずに。





 ――――コンコン


 既に屋敷の人間の多くが寝静まっているであろう深夜零時過ぎ、俺は部屋の扉を叩く音に目を覚ました。

 即座に気配察知で相手を確認するが……どうやら、扉の前にいるのはフィルスのようだ。


 「フィルスか。どうかしたのか?」


 「あ、その……夜分遅くに申し訳ございません。あの、お邪魔してもよろしいでしょうか」


 フィルスの声は弱々しく、こんな時間に部屋を訪ねることに負い目を感じているようだ。

 ただまあ、それでもなお訪問してきたという事は、それなりの事情があってのことであろう。


 「いいよ。おいで」


 「ではその……失礼します」


 そう言って入ってきたフィルスの胸には、枕が抱かれていた。

 いや、気配察知の時点で気付いてはいたのだが……そういう事なのか?


 「その枕はその……もしや一緒に寝たいとか、そういうことなのだろうか」


 「あ、えと……は、はい」


 フィルスは俺の質問に、うつむき、枕に顔を埋めながら返事をする。

 その様子から、恥ずかしがっているようではあるが……暗くて表情まではよく見えん。

 せっかくの可愛い羞恥顔が見えんではないか! くそぅ……カーテンめ。

 ……ま、まあいい。少し落ち着こう。不意のことに少し動揺してしまったようだ。


 「……なんでまた。宿だって、例の一件からはずっと別部屋だったじゃないか」


 「それは、その……不安で……すみません」


 不安? ……ああ、そうか。

 フィルスにとってレティアの屋敷の中はまだ、警戒すべき他人のテリトリーで、一人でいると落ち着かないということか?


 「…………はぁ、わかったよ。今日だけ、特別だからな? 明日からはお願いして二人部屋にしてもらうから、ベッドは別々だぞ?」


 「は、はい!」


 フィルスは元気よく返事をしたかと思うと、俺の布団に潜り込んでくる。

 そしてなんと、俺の右腕に絡みついて寝始めた。

 ――――なんというご褒美! だが寝れん!! くっ……俺はどうしたらいいんだ!!

 などと葛藤しているうちに右隣からは寝息が聞こえてきて、俺に選択肢が無くなったことを教えてくれる。


 「やれやれ、今晩は寝不足かな。可愛い顔して寝やがって……まったく」


 そんな悪態をつきながら、俺はフィルスの頭を撫でる。


 「おやすみ、フィルス」


 そうして俺は眠りに落ちるまでの間、理性と闘いを強いられるのであった――――


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