第四十四話 『異世界の携帯食』
ぶっちゃけ閑話というか、日常回で、話はほとんど進みません。
でもそんな話を書くのも好き(=゜ω゜)
2017/04/06 誤字修正
王都を出立して最初の晩。
俺たちは街道脇の開けた草原に馬車を停め、野宿をすることとなった。
幸い初日は雨に降られることもなく、頭上に広がる満天の星空を見る限り、少なくとも明日の朝までくらいは大丈夫そうだ。
というか、こちらの世界に来てから雨というものをまだ経験していないな……アストレア王国は食の豊かな国らしいが、大丈夫なのだろうか。
「レイジ様、何かご不便はございませんでしょうか」
俺が馬車を降りて空を見上げていると、レティアが声をかけてきた。
その表情はどこか浮かれているようで、よほど道中の馬車の中が退屈であったと見える。
まあ、俺としても彼女との交流はやぶさかでもないし、おしゃべりくらいは付き合ってあげるとしよう。
「ええ、大丈夫ですよ。強いて言うなら、少々尻が痛いですかね。フィルス共々、馬車での旅は慣れておらず、失念しておりました。お恥ずかしい」
「いえそんな! こちらこそ、事前にお伝えしておくことができず、申し訳ございません。いえ、むしろこちらで用意しておくべきものでしたのに……」
「いいんですよ。レティア様が普段からお使いになられている馬車は、その外見からして、元々クッションがついているものなのでしょう? ならば、その考えに至らずとも不思議はありません。元々こちらで気が付いて用意をしておかなければならないものなのですから、レティア様が謝られることではございません。それに、ないなら代わりになる物を使えばよいのです。大きな荷物は別の馬車に積んでしまっていたので、今日は無理でしたが、寝具用に持ってきた毛布がありますので、明日からはそれを使おうと思います」
「それは良い考えです! ですが、それならば途中の休憩の時に言って下されば――――」
「いえ、我々の荷物は一番下に積んでしまっておりましたので、そこから取り出すとなると休憩時間を予定以上の時間とらねばならなくなり、移動の日程に支障をきたす可能性がありましたので、遠慮させていただきました。旅路には予定外のイベントは付き物ですが、わざわざ自ら用意してやる必要はありませんし、別にどうしてもないと困る物でもありませんでしたからね」
「お気遣い感謝いたします。ですが、お客様にご不便をかけてしまってはジウスティア家の名折れですからね。次からは、遠慮なくお声がけください」
「あはは……了解しました。以後、善処いたします」
「レイジ様、お話し中失礼いたします。お食事と寝袋、それから毛布をお持ちいたしました」
俺がレティアと話していると、フィルスが声をかけてきた。
フィルスには二人分の食事と寝具をとりに行かせていたのだが、どうやら無事持ってきてくれたようだ。
俺が一緒に行かずにフィルス一人に行かせたのは、フィルスが単独でジウスティア家の使用人らと相対した場合に、彼らがどのような反応を示すかを確認しておきたかったからなのだが……それとなく窺っていた限りでは、どうやら彼らには本当に差別意識は無いようで、差別的な視線を向けるような者は見当たらなかった。
まあもっとも、それを悟られないほど使用人としてのスキルが高いだけ、という可能性も否定はできないが……それならそれで問題はないだろう。
別に彼らと心底仲良くなりに来た訳でもないのだし。
「お疲れさん。それじゃあ、飯にするか――――それではレティア様、そんな訳で、我々は食事にしようと思いますので」
もう少しレティアの相手をしてあげていても良かったのだが、それでフィルスを放っておくのはアレだし、飯は見たところスープとパンのようだ。
スープは冷める前に食べてしまいたい。
残念ながら、おしゃべりはここまでかな。
「あ、あの! でしたら私もご一緒に――――」
「レティア様、あまりご迷惑をかけてはいけませんよ? ――――申し訳ございません。それでは、失礼いたします」
レティアは一緒に食べたかったのだろうが、いつも一緒のメイドさんに連れていかれてしまった……
そういえば、あのメイドさんの名前、まだ知らないや……今度機会があれば聞いておこう。
ちなみに、寝具などは自前のものだが、食事に関しては向こうが用意してくれたものを頂いている。
まあ、流石にお嬢様用のものではなく、護衛の方たちや使用人の方たちと同じものだが。
それでも、下手な携帯食料よりはずっとまともな味、らしい。
まあとりあえず、見た感じでは普通のスープって感じだな。
具はあまりないが、仕方あるまい。携帯食料などこんなものだ。
「レイジ様? お食べにならないのですか? それとも何かお口に合わないものでも――――」
「ああいや、大丈夫だ。食べるよ」
スープを観察していたら、フィルスに不審がられてしまった。
俺は慌ててスープを一口、口に含むが……正直、イマイチ美味くない。
吐き出すほど不味いというわけではないのだが……何だろうか、この絶妙な不味さは。
二口目を思わず躊躇ってしまう。
とはいえ俺も数多の戦場を潜り抜けてきた身。
久方ぶりではあるものの、不味い飯を仕方なく食べるなんてのは何度も経験している。
……あの時のゲテモノ料理に比べれば、これは材料がまともな分、いくらかマシといういうものだ、うん。
「レイジ様? やはりお口に――――」
「いやいや、何を言いますかフィルスさんや。何も問題などない、大丈夫だ」
そう言って俺は、不味いスープで、これまた堅くてパサパサした不味いパンを流し込む。
「はい、ご馳走様でした!」
……とは言ったものの、この不味い飯をあと五日、この世界では朝昼晩普通にあるから、最終日が朝だけだったとしてもあと十三回も食べると思うと、流石に多少気が滅入る。
「レイジ様、"ごちそうさまでした"とは何でしょうか? 異世界の挨拶のようなものですか?」
む? そうか、この世界では食後の挨拶は特に無いんだったな。
慌てていたせいか、つい癖で言ってしまった……しかも日本語で。
他の人と離れて食事していたのは、不幸中の幸いだったな。
「ああそうだよ。食事に感謝をする挨拶なのだが……」
……くっ! そんな続きを期待したキラキラした目で見ないでくれ!
なんとなくまだ続く感じで言ってしまったが、これ以上特に無いんだが!?
語源とか、正直うろ覚えで自身ないんだが……
コホン。まあいいだろう。どうせ間違っていたって、それを指摘してくる相手もいないんだし。
「"ちそう"というのは、走り回るとか、そんな感じの意味でな、前後の"ご"と"さま"はそれに敬意を表しているんだ。まあつまり、この食事が出来上がるまでに苦労してくれた皆に対して、感謝の意を込めて挨拶をするって感じかな」
確かこんな感じだったはずだ、うん。
昔読んだ本に書いてあった……気がする。
師匠の元で修行していたころの記憶だから、イマイチ自信はないのだが……
「それは素晴らしいですね。私も、今日から使わせていただくことにします!」
「いや待った。その気持ちは悪いものではないのだが、この世界には勇者召喚とかいう、異世界の人間を呼ぶ儀式的な物もあるのだろう? この挨拶は、俺の居た国では極めて一般的な物でな。もしこれが原因で異世界人であるという事がバレれば、面倒なことになるかもしれん。自分で不注意なことをしておいて、こんなことを言うのもアレなのだが、その挨拶はできれば人前では使わないでおいてくれ」
別に不正を働いてこの世界に来たわけではないのだが、得てして異質な者というのは特異な目で見られるもの。そしてそれは、必ずしも好意的な物とは限らない。
今はまだ、この世界のこともよくわかっていないのだ。不用意に目立つのは、なるべくなら避けておきたい。
「それはその通りですね……申し訳ございません。浅慮でした」
「いやいいんだ。俺も不注意だったからな。以後、互いに気を付けることとしよう」
ま、最悪ばれてもどうとでもなることだし、変に気にしすぎる必要もないだろう。
「ところで、レイジ様」
「なんだね、フィルスさんや」
「正直に言わせていただきますと、この食事はお世辞にも美味しいとは言えないと思うのですが……レイジ様のお口には、本当に合ったのですか?」
……そういえば、フィルスも森暮らしで、こういった食事は経験がないんだった。
異世界ではこんなものなのだろうと贅沢を言うのを我慢して見栄を張っていたのだが、必要なかったな。
「……正直、美味しくはなかった」
「ですよね……」
とはいえ、食事の度に狩りをするわけにもいかないし、我慢する他ないだろう。
フィルスもそれがわかっているのか、それ以上は何も言わなかった。
そうして何とも言えない空気のまま、俺達は食後の余韻に浸るのであった――――
おまけ……は今回はいらないでしょうかね。
内容全部、おまけみたいなものでしたし←
まあ、そのうちまた載せますので。
さて、あまり日常回ばかりダラダラと続けるつもりはないのですが……皆さんなんでもないような日常の話と、事態が二転三転して行くようなシリアス(?)な話、どちらの方が好きでしょうか?(笑)
ちなみに私はどっちも好きです。
バランスが大事なのでしょうかね。難しいです(^^;




