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第三十六話 『報復準備④』

※本日投稿二話目です(一応)

 「こんにちは~」


 俺はクレアさんの店の戸を開けると、挨拶をする。

 フィルスは……物珍しそうに店内を見渡しているな。

 ああそうか。そういえば、ここに連れてきたのは初めてだったかもな。


 「ん? ああレイジ君じゃないか。久しぶりだね。簡易風呂の修正はとっくに済んでるよ。まあ、きちんと調整できてるかはわからないけどね。魔素を扱う魔導具は難しいからねぇ……試運転もできないし」


 そういえば……色々ごたごたしてたせいですっかり忘れてたけど、風呂の調整頼んでたんだった……


 「すみません。ちょっとごたごたしてて、すっかり忘れてました」


 「いいよ別に、急ぎでもないし。それより、その後ろの子はどちら様だい?」


 自分に話題が移ったことで、フィルスが一瞬、ビクリと肩を震わせる。


 「彼女はフィルス。俺の仲間です」


 「そうかい。よろしくね、フィルスちゃん。そんなフード深く被ってるけど、フィルスちゃんは獣人かなんかなのかい? それなら心配いらないよ、あたしはあんな何の根拠もない風評なんて気にしてないからね。なにが魔獣とヒトの間に生まれた忌み子の子孫だ。そんなこと言うなら証明してみせろっていうんだ。それにあたしは何人もの獣人と関わってきたが、皆いい人たちばかりだったよ。あたしから言わせれば、むしろヒト族の方が腐った奴が多くて嫌になるよ」


 お、おう……随分と熱く語るな。昔何かあったのだろうか。

 まあ、とりあえずフィルスのことは大丈夫そうだな。

 俺の周りは良い人たちばかりのようで、嬉しい限りだ。


 俺が皆の優しさにほっこりしていると、フィルスがフードを脱いで、一歩前へと出た。


 「あ、あの……よ、よろしくお願いします」


 「ああ、よろしくね。あたしゃクレア。しがない魔導技師だよ。小さめの魔導具が専門だね」


 おお! フィルスが自分から挨拶を! いや~嬉しいねぇ

 まったく、こんな優しい世界を壊そうとする愚か者共には、やはり消えてもらうしかないなぁ……


 「それで、今日は何の用で来たんだい? 忘れてたってことは、風呂をとりに来たんじゃないんだろう?」


 おお、そうだそうだ。思わず忘れるところだった。


 「そうでしたね。実は――――」


 俺はギルドの今の状況から、今晩グジャシュニクに"挨拶"に行くことまで、全てクレアさんに説明した。


 「――――というわけで、何か魔導具を売ってはいただけませんか? お代はツケになってしまうとは思いますが……」


 「そりゃ別にいいんだけどね……ただ、ウチにはあまり戦闘用の魔導具は置いてないんだよ。全く無いわけじゃないけど、大通りの店に売ってるような杖なんかと大して変わらないものばかりだよ」


 ふむ……まあ魔法陣自体、その性質上そこまで種類がある訳でもないだろうし、似通ってしまうのは仕方のないことなのだろうな。

 あとは使い勝手がどうかといったくらいの差しかないか。

 

 俺は、それでも一応という事で、店に並ぶ商品を一つ一つ見ていく。

 小さな火種をつくる魔導具、光源を発生させる魔導具、中に入ったものを冷やす魔導具ってこれ冷蔵庫に使え……あーいや、魔素を利用しないと永続発動はできないんだったな。

 えーっと他には……お? これなんか便利なんじゃないか? 遠くの人と話せる魔導具。

 これなら電話みたいに……え、これ受信側も起動してないと使えないの? ダメじゃん。

 なんだか微妙なのが多いな……なんというか、試作機の山を見ているような気分になってくる。

 魔素を利用して作りなおせば便利そうなのが多いが、まあそれはまた今度かな。


 「う~む……」


 「イマイチなのが多いだろう? 便利かと思って作ってみたはいいが、イマイチ使えないものなんかが多くてね。一応店頭には並べてるけど、ハズレは売れないから古いのから奥にしまってるんだよ」


 そ、そんなことしてるのか。

 というか魔法陣のラインナップから見て、これを与えた神は魔素を利用した永続使用を前提にしてるんじゃないか?

 てことはやっぱり神側の不備……神って意外とおっちょこちょいなのが多いのだろうか。

 なんか神様のイメージ変わっちゃうなぁ……


 「そうですか。わかりました。今日中では流石に頼んで作っていただくわけにもいきませんし、今回は今あるものだけで何とかしてみます」


 「大丈夫なのかい? そこまで複雑なものでなければ、今日中に作るのも可能だけど……」


 「いえ、午後からはもう動き始めるつもりなので、大丈夫です。あ、携帯風呂は受け取っておきますね。全部終わったらゆっくり入りたいですし」


 「そうかい。それじゃあ、気を付けるんだよ。レイジ君にはもっと色々聞きたいからね。あのじじいのギルドなんかよりも、自分を第一に考えるんだよ。きっとあのじじいもそう言うはずさ」


 「そうですね。そうだと思います。だからこうして黙って出てきてるんですしね。他にも色々欲しいものはありますし、無事に帰ったら、魔導具製作のやり方、教えていただけませんか?」


 俺がそう言うと、心配そうな顔をしていたクレアさんは一気に破顔する。


 「おや、作る方にも興味を持ったのかい? そういう事なら喜んで教えるさ。駆け出し冒険者だから色々大変だろうと遠慮していたけど、本人がやりたいっていうならその才能を放っておく理由は何もないよ」


 「ありがとうございます。それでは、また近いうちに」


 俺は、そう言ってクレアさんの店を後にした。

 魔導具は手に入らなかったが、色々と得るものはあったな。

 今はそれで良しとしよう。

 さて……


 「それじゃあフィルス。この簡易風呂の魔導具はお前に預けておく。それから、午後からは俺一人で動くつもりだ。だから一緒にいるのはここまでになる。今からギルドまで送っていくから、皆のこと、よろしく頼むぞ」


 「っ……はい。レイジ様も、どうかお気をつけて」


 フィルスはそう言ってくれるが、顔は苦虫を噛みしめたような表情になっている。

 力になれないのが悔しいとか思ってるのかね、まったく……

 俺はフィルスの背中を押して歩き始めてから、話を始める。

 

 「フィルス、お前は俺の力になれなくて悔しいとか思ってるのかもしれんがな……それは少し違う」


 「で、ですが、私は……」


 「奴らの刺客に負けたから連れていかないとでも思っているのか?」


 「うっ……はい。」


 「俺はな、フィルス。お前がたとえ刺客に勝っていたとしても、お前を連れていかなかったと思うぞ?」


 「それは……なぜでしょうか」


 「うん。まあ簡単に言えば、俺のわがままだな。フィルスは女の子だし、大事な仲間だ。だから、危ないとわかっているところへは連れていきたくないというか…………いや、違うか。今回相手にするのは、社会の裏側に住む汚い奴らだ。そして、俺はそいつらをこの手で葬ることになるだろう。俺はそういう汚い部分を、お前に見せたくないだけなのかもしれないな。人を殺す俺の姿を……」


 「レイジ様……私は、レイジ様がたとえどれだけの人を殺めようと、レイジ様の味方です。ギルドにて、レイジ様の御帰りをお待ちしております。どうか、無事に帰ってきて下さい。たとえ結果がどうであったとしても……」


 「ああ、わかってる。約束するよ、絶対帰ってくる。だから、これからもよろしくな」


 「……はい。いつまでも、どこまでも……私の歩む道は、貴方と共に」


 それからギルドに着くまで、お互いに言葉を発することはなかった。

 だが、その静寂は非常に心地の良いもので、改めてこの子を守りたいと、俺は強く思うのだった――――

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