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第三十三話 『報復準備①』

―修正報告―

前話で、祝祭の日であるような描写をしてしまいましたが、間違いでした。

更に、二十九話のフィルス視点から前話まで、冒険者協会をギルド協会と間違えて書いてしまっていました。


今はどちらも既に修正されておりますが、申し訳ございません。

つい数日前にミスをしたばかりだというのに……本当に、申し訳ないです。


2017/03/19 微修正

 さて、運命の月も後半に入り、今日は33日。

 マーガスさんに、ギルド『グジャシュニク』の調査を依頼して二日目の朝だ。


 未だ安心して外を歩けない俺たちは、連日ギルドで身を寄せ合って日々を送っている。

 本当はレティアの所にも改めてお礼に行きたいのだが……もし外出する用事があったとしても、絶対に3人以上で行動するというのが今のクリスタリアのルールだ。

 そんな状態では、仮に出かけたとしても魔晶龍騎士の姿をとった時点で正体がバレてしまう。

 まあそんなだから、当然依頼すらこなせず、ただただギルドの食堂で飯を食うだけの日々を送る俺達。


 …………正直、つまらん!


 こんなに暇な日々はそうないだろう。

 一応、良い機会だとスキルの育成にこっそり力を入れていたりはするのだが……それにしても暇すぎる。


 フィルスはどうだろうかと視線を向けても、いつもこっちを見てニコニコしているばかりだし……

 あ、ちなみに怪我をした件で、フィルスが獣人であるというのは皆の知るところとなったため、ギルド内ではもう外套は着ていない。

 フィルス自身も、変に警戒せずにいられるのが楽なのか、どこか楽しそうにしている。

 無論、皆がそれを笑顔で受け入れてくれたからというのも、大きな要因の一つなのかもしれないが。

 何にしても、フィルスが笑顔でいてくれるのは良いことだ。

 まあ、この間見せてくれた眩しいほどの笑顔に比べれば、まだどこかぎこちなくはあるが……一歩前進、といったところかな。


 俺がフィルスの方を眺めながらそんなことを考えていると……急にギルドの扉が勢いよく開かれ、中に人が1人駆け込んでくる。

 今ロビーにいるのは俺とフィルスだけ。

 万が一に備えて、慌てて武器を構えるが……駆け込んできたのは、マーガスさんだった。


 「レイジ君にフィルス君! 他の皆は?」


 「え、あ、皆はまだ寝てると思いますけど……何かわかったんですか?」


 俺は武装を解除しながらマーガスさんに問いかける。


 「驚かせてしまったようで申し訳ない。実は一昨日の件なのですが……」


 「グジャシュニクの件ですか?」


 「ああ、それです。それで調べたら……なんとそこのAランク冒険者のゴドフレドという男が、両腕を失う大怪我を負って帰って来たのを、向かいの店の主人がたまたま目撃していた」


 「……つまり、そいつがフィルスを襲った犯人という事ですか?」


 「時間帯的にも、その可能性が高いだろう。それに、ゴドフレドは隠密性と素早さが売りの冒険者でね。襲撃犯の特徴とも一致する。それに何より、フィルス君の言っていた特徴と、彼の見た目が同じなんですよ。歯や傷の位置などがね」


 「そこまで一致しているとなれば、ほぼ間違いなさそうですね」


 「ですが、それではその男だけ関わっていたのか、ギルドぐるみなのかがわからないのでは?」


 「確かにそれだけならそうだったのですがね……実は例のグレデルンブ家と繋がっていたようでしてね。確証の持てるような証拠こそなかったものの、色々と出てきましたよ」


 グレデルンブ家と言えば、ムルヴァの……そういやあの家はどうなったんだ?


 「そういえば、そのグレデルンブ家ってその後どうなったんです?」


 「ん? エルバルト殿から聞いていなかったのですか? あそこなら早くもお取り潰しが確定しましてね。代わりの者が決まるまでは、国から代理の者が派遣されるらしいですよ。家の者は全員死罪だとか」


 死罪、か。ま、自業自得だな。

 それに、変に生き残ってて復讐されたりするのは御免だ。


 「まあ、彼らのは自業自得ですし、同情はしませんがね。それで、協会としてはグジャシュニクにはどういった対応をするおつもりで?」


 国や協会が正当に彼らを裁いてくれるなら、俺としては彼らに何かするつもりはない。

 俺は確かにそれなりの力や影響力は持っているが、王でも神でもない。

 人を裁く権利など本来持ち合わせてはいない、ただの一人の人間でしかないのだ。

 ならば、なるべくならそういった裁定は然るべきところに任せたい。

 確かにそれでは、フィルスを傷つけられた怒りのやり場を失ってしまうかもしれないが……まあ、そこまで求めるのは我儘というものだろう。

 彼らがきちんと罰を受けるのならそれでいい。


 「う~ん……それなのですがね……」


 「何か問題が?」


 「証拠がない以上、すぐに強硬姿勢をとって、というわけにはいかないんですよね……無論、調査はするつもりですが、許可が出るまでは多少時間がかかってしまうでしょう。そして彼らは、おそらくその許可が下りる前にそのことを知る。そうなれば、証拠など何も残りません」


 そうか……まあ、組織である以上仕方のないことなのかもしれないが、それでは少し困ってしまうな。

 ああ、困ってしまう……

 これじゃあ我慢できないじゃないか!


 「そう、ですか。では最後にもう一つだけ」


 「? なんでしょうか」


 「グジャシュニクのメンバーの中で、上の方の立場にある者が一ヶ所に集まるような日、知りませんか?」


 俺のその問いかけに、マーガスさんの表情が険しくなる。


 「それを聞いて、どうするおつもりですか?」


 「そりゃ、聞きに行くんですよ。あなたたちがやったんですか? ってね」


 「なっ! そんな無茶な! もし彼らが黒なら……いえ、十中八九黒でしょうが、そんなことをすれば、間違いなく消されますよ!」


 「お忘れですか? 俺はもう、彼らに宣戦布告しているんですよ? 今更ですよ。それにいつ刺客が来るかわからない恐怖に怯え続けるくらいなら、こちらから仕掛けた方がずっといい」


 「それはまともに戦えるならそうかもしれませんが……これはあまりに無茶が過ぎます! 死ぬおつもりですか?!」


 「ふっ……クックック……ハッハッハッハ」


 死ぬつもり? そんなんじゃないさ。


 「……レイジ君? 何が――――」


 「大丈夫ですよマーガスさん。これでも、ゴミ掃除は得意なんです」


 ただ、俺の大切なものに手を出した愚か者共に、己の愚の対価を支払ってもらいに行くだけだ。


 俺は思わず浮かべた残忍な笑みを引っ込め、普段通りの笑顔で言葉を続ける。


 「それに、言ったじゃないですか。話を聞きに行くだけだと。だから……彼らがもし愚かでなければ、心配しているようなことにはならないですよ」


 「……本気、なのですか? 万が一、君が罪を問われるような展開になったとしても、庇ってはあげられなくなるかもしれませんよ? それでも――――」


 「愚問ですね……奴らは俺に牙を剝いた。俺の大切なものを奪おうとした。だから俺は……奴らの全てを奪い尽くす。奴らの全てを破壊し尽くす。その存在がこの世界から消えるまで、俺は止まるつもりはない。法が奴らを裁けぬというのなら、俺がこの手で地獄へ送る。王の代わりでも、ましてや神の代わりなどでもなく……ただ、俺の正義の名のもとに、奴らに終焉(おわり)を与えよう」


 クリスタリア(俺の居場所)を壊そうとした奴らが、のうのうと笑って生きているのが許せない。

 俺からフィルス(大切な人)を奪おうとした奴らが、同じ世界で生きているのが許せない。

 だから滅ぼす、その全てを。

 最早我慢する必要はないのだ。必ずこの手で――――


 「……レイジ様?」


 怒りに少々昂ってしまっていた俺に、フィルスが恐る恐るといった感じで声をかけてくる。

 おそらく俺の様子が普段と違ったことが、不安を与えてしまったのだろう。

 ……俺もまだまだだな。精神の鍛練が足りんようだ。

 でもなんだろう今の……まるで、自分の心が自分のものでで無くなるような……破壊衝動に呑まれるような感覚…………いや、気のせいか。

 初めて守るべき大切な人ができて、心を制御しきれていないだけかもしれんな。

 ふっ……まったく、恥ずかしい話だ。

 それに、感情が昂ってフィルスの声で我に返るというこの流れにデジャヴを感じるのは……気のせいじゃないだろう。

 まったく、守るべき相手に心配されているようでは、俺もまだまだだな。


 「すまない、少し抑えが効かなくなった。もう大丈夫だ」


 俺は深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。


 「マーガスさんも申し訳ない。ですが、今言ったことに偽りはありません。先ほどの聞き方、彼らが集まるタイミングがあるんですよね? できれば教えていただきたい」


 今度は狂気を孕んだ目ではなく、真剣な、守りたいという意志を乗せたまっすぐな視線をマーガスさんへと向ける。


 「…………わかりました。いいでしょう。元より、それも伝えるつもりで来たのですから」


 マーガスさんはそう言うと、近くの椅子を引いて腰掛ける。

 俺もそれに倣って、彼の向かいの席に腰を下ろした。


 「実は……明日の夜、グジャシュニクのBランク以上のギルド員に、マスターから招集がかかったらしい。場所はグジャシュニク王都本部。恐らく、正当な活動のための集会ではないでしょう。その証拠に、一部例外とされているBランク以上のギルド員を含めた、所属する冒険者全員と、その他事務職員までもが、その会議中は建物内への侵入を禁じられたそうです」


 「それは……それが本当なら、十中八九黒だとは思いますが……情報源は? どれくらいの信憑性がある情報なのでしょうか?」


 「ふむ、もっともな質問ですね。この情報は私直属の、大ギルドを対象に秘密裏に調査をする部隊のメンバーの一人が、グジャシュニクの下の者が話しているのを聞き、裏取りをしたものです。私としては、信じて良いものと思いますが……信じるか否かは、お任せします」


 ふむ……大ギルドの調査をする専用の部隊まであるのか。

 思ってたより力がありそうだな、冒険者協会というのも。

 ま、情報自体はそれなりに信じても良いものではあるだろう。

 それに仮に罠だったとしても、他に手がかりがない以上、どちらにしろ飛び込んでみるしかあるまい。


 「わかりました。情報提供、感謝します。それではもう一つ質問を」


 「どうぞ」


 「もし……いえ、十中八九彼らとは戦闘になると思いますが、その際に、これだけはしないで欲しい・しない方が良い、といったことは何かありますか?」


 「ふむ……そうですね。なるべく命を奪うような行為は避けた方が良いのと……ギルドマスターは殺さない方が良いでしょうね。色々な意味で」


 ま、責任者だしな。背後関係も洗えなくなっては困る、か。


 「わかりました。殺さぬ程度にとどめておきましょう。もっとも、絶対にとはいかないかもしれませんが」


 「わかっております。あくまで、ご自分の命を第一優先でしょうからね」


 「ええ。フィルスを一人にするわけにはいきませんからね。明日の夜、ギルドの方を頼みます」


 俺はマーガスさんにそう告げると、立ち上がって先ほどから斜め後ろで控えていたフィルスへと向き直る。


 「フィルスも……皆のこと、よろしく頼む」


 「はい、お任せください。レイジ様の大切な場所、必ずや守り切ってみせます」


 「無茶はするなよ?」


 俺はそう言ってフィルスの頭を撫でる。

 もうお決まりみたいになっちゃってるこの動作だけど、好きなんだよね、なでなでするの。

 フィルスも嬉しそうだし、皆ハッピーだからモーマンタイ!


 「レイジ君、それでは私はそろそろ失礼しますよ。色々やっておくこともありますしね」


 マーガスさんはこちらに意味ありげな笑みを浮かべる。

 ……おそらく、俺が暴れた後の事後処理は任せろという事なのだろうな。

 迷惑をかけてしまうのは心苦しいが、ありがたい話だ。


 「お手数おかけします。それではまた」


 俺はフィルスの頭から手を放し、マーガスさんを見送るのであった。


 さて、残された時間は約一日半といったところか。

 それまでに俺もできることはしておかないとな。

無理に日刊を続けた結果、プレッシャーで楽しめなくなってしまい、プチスランプに陥ってしまいました(^^;

なので、今後は無理に書くことはせず、自分のペースで書いていきたいと思います。

日刊を期待していた方々には申し訳なく思いますが、よろしくお願いします。

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