第三十二話 『停滞と疑念』
お待たせして申し訳ございません。
そしてお待たせしたというのに、今回ちょっと短めです。
重ねて申し訳ない。
日刊再開できるか怪しいですが、頑張りますのでよろしくお願いします。
2017/03/17
・一部間違いがあったので消去しました。詳細は後書きにて
・誤字修正(ギルド協会→冒険者協会)
フィルスの服を宿から持ってきた俺は、服を着たフィルスと協会を出る前に今後の予定について話し合っておくことにした。
「まあとりあえず、だ。宿は一旦引き払ってギルドの部屋を借りようと思う。こういう時は、なるべく皆が固まっていた方が安全だからな。皆弱いのならその限りでもないが、自分で言うのもなんだが、今回は俺がいるからな」
「いえ、レイジ様は古龍様なのですから。ご自分の強さを誇示するのは、特におかしなことではないかと」
「お、おう。そうかな? 俺としてはあんまりそういう感覚はないのだが……俺に古龍としての自覚が足りんのだろうか?」
「レイジ様は、そのままのレイジ様で良いと思います。無理に変わろうとする必要などございません。それで足りない部分は、私が全力でサポートさせていただきます」
「……そっか。ありがとな」
そのままの俺で良い、か。嬉しいことを言ってくれるな……
「さて、それじゃあ話を戻すけど……ギルドの部屋を借りるって話、構わないか? 正直、一番不便な思いをさせてしまうのはフィルスだろうからどうしようかと――――」
「私のことはお気になさらないでください。それに私にもギルドを想う気持ちも多少はあります。確かにレイジ様が見捨てろと言えば見捨てる程度の気持ちでしかありませんが、それでも今回の件は他人事でもありませんし、問題ありません。それに、万が一全ての人間に侮蔑の眼差しを向けられるようなことになったとしても、レイジ様の御側にさえいられれば、私はそれで十分幸せです」
「そいつは責任重大だな。まあでもそんなことにはならんし、させないよ。もしそうなるようなら、古龍として強権を振りかざして亜人差別を表面上だけでも撤廃させるから……まあ、そういう方法は後々で色々と別の問題に繋がるから、できれば避けたいところではあるがな」
「結果がどうなろうとも、私はレイジ様の行うこと全てを肯定します。ですので、御気の赴くままに行動して下さるのがよろしいかと」
「……流石に俺が間違えていると思った時は止めてくれよ?」
「それは……わかりました。善処します」
俺はその回答に思わず苦笑してしまったが、もうそれがフィルスなのだと受け入れることにした。
フィルスは仲間になってから一貫してこの姿勢を貫いているし、そうそう変わることはないだろう。
ならばいちいち言うより俺が諦めた方が早い。
……ま、それでも言ってしまいそうではあるけど。
「それじゃあ、後はこれを切り抜けた後の話をちょっとだけ」
「それは……旅に出たいというお話でしょうか?」
「そうそう。といっても、そんなすぐにどうって話じゃないんだけどな。資金もないし、まだこの街だって全然見てないとこばかりだし。いずれって話だ。さっきの言い方だと割とすぐ行くのではと思われそうだったから、そうじゃないよって言っておきたかっただけだ。まあ、すぐになる可能性も、ないわけではないのだが……現実的ではないかな。俺だけなら簡単だけど、フィルスも一緒にだしな。金も準備も必要になる」
「そう、ですよね……申し訳ございません。お助けすると言いながら、足を引っ張ってばかりで……」
俺の言葉に、フィルスがしょんぼりとした顔になってしまう……今のは俺の言い方が悪かったな。
「すまん。そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。それに、旅は旅支度から楽しむものだからな。俺一人だとそれもないだろう? それは何とも勿体ない。だから、フィルスがいてよかったよ。それに俺だって、独りぼっちの味気ない旅はご免だ。だから、フィルスと一緒に行くための準備は別に苦じゃないよ」
そう言って俺はフィルスの頭を撫でてやる。
するとやはりというべきか、フィルスはいつも通り尻尾を左右に振ってはにかんでくれた。
「ま、今後のことなんてわからんものだし、あくまで予定ってだけだ。俺もお前も知らんことばかりだしな。せっかく身一つで縛られるものもないんだ。自由気ままに行こうじゃないか」
「くすっ……そうですね。とりあえずはお仕事をこなすところからでしょうか?」
「ふふっ、そうだな。まずはそこからだ。臨時収入があれば、また話は違ってくるが……ま、現実はそんなに甘くはないからな。ポーションのお礼もしないとだし」
「あ、そういえばあのポーションはどうやって手に入れたのですか? できれば私からもお礼を――――」
「あれは魔晶龍の姿でレティアから貰ってきたんだよ。だからフィルスからのお礼はまだちょっと待ってな。彼女に事情を話すか、話すとしてもどう話すか決まってないからな。一応、誠意としてある程度は話しておくつもりではあるが」
「そういう事でしたか。畏まりました。では、そのように」
「ああ……ま、とりあえずそろそろ帰るか」
「そうですね。いつまでもご迷惑をかけるわけにもいきませんし……あ、宿はどうするのですか? すぐにでも引き払いますか?」
「そうだなぁ……こんな夜中だと迷惑かとも思ったのだが、宿にいて襲撃を受ける方が迷惑になるし、すぐに出て行った方がいいかな。ま、受付がいなければ無理に今すぐ引き払わなくてもいいけど」
「それは、確かにそうですね。ギルドの部屋というのはどうしますか? その……別々の部屋になるのでしょうか?」
そう聞くフィルスの顔には、僅かな不安が見て取れた。
俺と離れることに不安を感じているのか、それともまた別の……ま、そんなことはどうでもいいか。
「一緒が良いならそれでもいいよ。二人部屋もあったはずだし、ギルドの部屋なら宿と違って融通も利くからな。いざとなれば寝具は持ち込めばいいさ」
「……よろしいのですか? 確か、前は部屋を別々にしたがっていたと記憶しているのですが」
「ん? ああまあ、そりゃそうだろ。年頃の女の子相手なんだ。そこは普通に気にするって。でもそっちが一緒が良いっていうなら、俺は別にいいよ。少しはフィルスの人となりもわかってきたつもりだしな」
本当は出会ったばかりで完全に信用できていなかったというのもあるのだが……まあ、わざわざ言う事もないだろう。
「あ、ありがとうございます。私も少しでもレイジ様のことを理解できるよう、頑張りたいと思います!」
お、おう……まあそれは嬉しいんだが、そんな気合入れんでもいいだろうに……
「それじゃあ今度こそ帰るぞ」
「あ、はい!」
余談だが、結局宿の人は受付にはおらず、ギルドへと移ったのは次の日の朝になってからのことであった――――
俺たちがギルドへと拠点を移してから二日後、俺とフィルス、エルバルトさんの三人は冒険者協会へと来ていた。
協会へとわざわざ足を運んだのは、他でもない。マーガスさんから調査の進捗を聞くためだ。
「では、特に何もわかっていないと?」
「ええ……申し訳ないですが、そういう事になりますね。なにぶん裏の組織は隠れるのが上手くて……」
まあ、そうでなければとっくに潰されているだろうし、それも仕方のないことだろう。
だが……なんだろう。今のマーガスさんの言葉、何かが引っ掛かる。いったい何が――――
「では、悪いが引き続きよろしく頼む。儂の方でもできることはしているのじゃが……いかんせん裏社会との繋がりなど持っとらんからのう」
裏社会、ねえ……あ、それか。
前に疑念を抱いたはずの相手なのに、すっかり忘れていた。
「そういえばお二人とも、先ほどから裏の人間のことばかり疑っていますが、他は調べたんですか?」
「ん? それはどういうことですかな? レイジ君」
「いや、別に何か確信があってのことではないのですが……犯人を裏の人間と断定する根拠がもしないのであれば、襲撃者の印象だけで判断し、視野狭窄になっているのではと心配になっただけですよ」
「それは……しかし仮にそうだとして、一体誰が? 組織というくらいですから、それなりに人数のいる集団でしょうし、フィルス君の闘った相手。話を聞く限りでは、なかなかの手練れのようですが……それほどの者を囲っておける組織などそうそう――――」
「あるじゃないですか。簡単なのが」
「んん? そんなのあったかのぅ……人数がいて、腕利きの者が多き所属しておる組織など……まさか! いや、じゃが」
「マスターは気が付いたようですね。ではもう一つ、俺がそれを疑った理由を。マスターが俺から受け取ったデボラルパルカの素材。あれがすり替えられた時に、クリスタリアの信頼が損なわれるきっかけになった出来事はなんでしたか?」
「それは、あの場で嘘つき呼ばわりされてしまって、それで……」
「そうですね。でも普通、それくらいでそこまで言われるでしょうか? そういう空気を作ったのは、どこの誰でしたか?」
「それは……確か、グジャシュニクのマスターが初めにそう……ま、まさかグジャシュニクがその組織だとでも言うのか?! じゃが、あそこは仮にも五大ギルドの一角じゃぞ? そんなまさか……」
「別にそうだって言うわけではないですよ。さっきも言った通り、何か確信があっての発言というわけではありません。ですが、疑うべき相手を疑えないと、後で痛い目を見ることもありますからね。一応、そちらも調べてみてはと。まあ、それだけです」
「ですが、確かにその通りかもしれませんね。わかりました。そちらも調べてみることにしましょう。まあ、私たちはギルドを監督する立場の人間ですからね。そっちなら調べるのも早いと思いますよ」
マーガスさんはそういうと、さっそくといった感じで奥へと戻って行く。
おそらく調査の準備をしに行ったのだろう。
マーガスさんがいなくなってこの場所に用もなくなった俺たちは、これから行われる調査結果への期待を胸に、ギルドへと帰って行くのだった。
2017/03/17 修正詳細
祝祭の日ではないのに、そう書いてしまっていたので、その一文を消去しました。
申し訳ございません。