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第三十一話 『手がかりを入手した』

日刊辛いお(´・ω・`)

頑張る。


2017/03/14 誤字修正

2017/03/16 微修正

2017/03/17 誤字修正(ギルド協会→冒険者協会)

 レティアから3級ポーションを受け取った俺は、急いでフィルスの元へと向かう。


 本当なら、レティアに礼を尽くさねばならぬところではあるし、ポーションが必要となった理由も話すのが誠意というものだろう。

 だがそれでも、フィルスはいつ死んでしまうかわからない以上、俺にそんな時間はない。

 こちらからお願いごとをしたというのに、用件が済んだら即退散などという非常識極まりない行動をとってしまったが、非礼を詫びて席を立つ俺を、レティアは笑顔で見送ってくれた。


 (……まったく、レティアは魔晶龍信者であるという事を差し引いてもいい子だよな。今度たっぷりお礼をしなければ)


 路地裏から服を回収し、ヒトの姿に戻った俺は、ギルド協会への道を駆ける。

 今の俺は、肉体の魔素を操作し、足の付け根から下を完全に魔晶龍騎士のものに変え、速度を増している。

 昼間は人間ベースで改造したから失敗したのだ。これならば、操作を失敗して破裂することもない。

 雑に処置した付け根付近が痛むが、今は我慢だ。協会まで持てばそれでいい。

 凄まじい速度で街中を駆け抜けて行く俺を、通行人が何事かと振り向いてくるが、それに構っている時間も、気にしている時間もない。

 そしてものの数分で冒険者協会へと到着した俺は、職員の挨拶も無視して、フィルスの待つ部屋へと駆け込む。

 するとそこには、フィルスの枕元に置かれた椅子に座るマーガスさんがいた。

 どうやらフィルスの様子を見ていてくれたようだ。

 ひとまず安心した俺は、片足ずつヒトの足に戻しながら話し始める。


 「フィルスは?」


 「レイジ君ですか。見ての通り、ぐっすり眠っていますよ。君が出て行ってからは、まだ目を覚ましていませんね。とはいえ顔色は悪いままだし、呼吸も浅い。更には、出血も一部完全には止まっていない。このままではあまり長くはもたなそうですが……ポーションは手に入ったのですかな?」


 俺はその質問に、懐から一本の細長い小瓶を出すことで返答した。


 「お、おお! その鮮やかなピンク色の液体は、正しく3級の治癒ポーションではないですか! よく手に入りましたね」


 「ちょっと知り合いに頼みましてね。譲っていただいたんですよ。無論、後で礼は尽くさねばなりませんが」


 「いやはや、王都へ来て間もないというのに、もうそんな知り合いがいるとは……流石ですな。そういう事なら早く飲ませてあげましょう」


 マーガスさんはそう言うと、懐から20cmほどの杖を取り出し、その先端をフィルスに向ける。


 「我らを包みし清涼なる風よ。我が友に優しき目覚めを与えたまえ――――スヴェーリア」


 そしてマーガスさんの詠唱が完了すると、フィルスの体が一瞬黄緑色の光に包まれた。


 「今のは?」


 「ああ、今の魔法は通称目覚まし魔法といって、眠っている人を起こすための魔法です。無理やりたたき起こすのではなく、自然に目を覚まさせるため、かけられた側も気持ちよく起きることができるんですよ」


 ほう……そいつは便利だな。発動時間を指定できる魔法と組み合わせれば、確実に起きることのできる目覚まし時計が作れそうだ。

 まあ、そんな魔法があるのかは知らないが……いや、ないかもな。

 人間にとっては魔法は魔力を流し込んで発動させるもの。発動を遅延させるメリットはあまりなさそうだ。


 「レイジ様? お戻りになられたのですか?」


 おっと、そんなことを考えているうちに、フィルスが目を覚ましたようだ。


 「ああ、ただいま。ほれ、薬をもらってきたぞ。これを飲めば、すぐ元気になるからな」


 そう言って俺は、ポーションの瓶の蓋を開ける。


 「それは……治癒のポーションですか?」


 「ああそうだ」


 「それは……高価なものなのではないですか? 私などに使っても――――」


 「お前のために手に入れてきたんだ。飲んでもらえないのでは困る。それに、私など、ではないよ。お前でなきゃダメなんだ。俺はもう、フィルスが隣にいない日々には、戻れそうにない。だから、生きて責任、とってくれよな」


 「あ……はい。私の方こそ、レイジ様のいない明日など、最早想像すらできません。これからも、貴方の側に仕えさせてください」


 「だから仲間だって言ってるだろうに……まあ、いいか」


 俺は相変わらずなフィルスに苦笑しながらも、ポーションを飲ませた。


 「……特に見た目に変化は無いようだが、本当に効いたのか?」


 「大丈夫だと思いますよ。ポーションは元々、飲んだ者の治癒能力を一時的に高めるものですから。明日の朝には全快しているでしょう」


 ポーションがどういったものかわからず、効き目に不安の声を漏らす俺に、マーガスさんが説明をしてくれる。

 どうやらポーションというのは、一時的に自己再生スキルと同じような効果をもたらすもののようだ。


 「レイジ様。この度はご心配をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」


 「いいから今は休め。話をするのは、治ってからでも遅くはないだろう」


 そう言って傷がまだ治っていないにもかかわらず、体を起こして頭を下げるフィルスを大人しくさせた。

 すると、程なくしてフィルスから寝息が聞こえてくる。


 そして、ポーションも飲ませたしもう心配もないだろうと判断した俺とマーガスさんは、話声でフィルスを起こさぬようにと、そのまま別の部屋へと移動した。

 もちろん、職員の方に頼んで、いない間も様子は見てもらっている。




 「ここは協会での私の私室でしてね、いつもはここで仕事なんかをしているんですよ。それで、この後はどうするおつもりで?」


 別室に到着すると、マーガスさんは、それではさっそくといった感じで本題を切り出してくる。


 「それなんですよね……相手の組織は許すつもりはありませんし、宣戦布告もしちゃったので放置はあり得ませんね。そんなことをしてまた狙われたのではたまったもんじゃありませんし。まあ、俺が狙われる分には良いんですけどね……」


 「フィルス君、ですか? そういえば、彼女は見たところ獣人のようですが、どういったご関係で?」


 「彼女は俺の大事な仲間ですよ。まあもっとも、フィルスに言わせれば、俺は主人らしいですが……」


 「仲間、ですか。パーティーメンバーのようなものでしょうか?」


 「どうなんでしょうね。俺はパーティーを組んだことがないですから。でも、それよりも距離は幾分か近い……と思います。そうですね、運命共同体とでもいったところでしょうか。常に行動を共にし、互いを支え合い……どこか互いに依存しあっている。そんな感じですかね、現状は」


 「ふむ……なんだか込み入った事情がありそうですな。変なことを聞いたようで申し訳ない。深く聞くのはやめておきましょう」


 「すみません」


 「いえ、それで話は戻りますが……目撃者の話だと、フィルス君は相手にかなりの手傷を負わせたようですし、あるいは相手の顔も見ているかもしれません。ですのでとりあえずは彼女が起きるのを待って、話を聞いてみるというのはいかがでしょう? 何か行動を起こすのは、それからでも遅くはないでしょう」


 「そう、ですね。そうしますかね」


 俺がそう言うと、マーガスさんは待ってましたと言わんばかりに奥の棚から何かを取り出してくる。

 それは見たところ何かのボードゲームのようで、チェスや将棋の板に似た模様の入った木の板と、生物を(かたど)った駒がセットになっていた。


 「それでは待っている間に、どうです?」


 「それは? 見たところボードゲームのようですが」


 「ええ、その通りです。これはシュラゲールというものでしてな。少し前に出たばかりのものですが、すでにかなりの数が売れている、今話題のゲームです。ルールは――――」


 それからマーガスさんにルールを教わったが、どうやらチェスに将棋を混ぜたようなルールのようで、前にどちらも師匠に散々付き合わされて遊んでいた俺は、すぐに覚えることができた。



 「お! そう来ましたか……いやはや、初めてだというのに上手いですなっと」


 「似たようなゲームで遊んだことがあったので、ねっ」


 「む! ぐぬぬ……」


 マーガスさんが追い詰められて唸る。この勝負はもらったかな。


 「そういえば、マスターはどうなりました? あの怪我なら大事にはならないとは思うのですが」


 「ん? ああ、エルバルト殿なら、もう怪我も完治してピンピンしていますよ。今も安全のために協会の一室に泊まっていはしますが、怪我の方は心配ありません」


 「そうですか。それは良かったです」


 俺がマスターの無事に安堵していると、コンコンと扉が叩かれた。


 「マーガス副支部長。フィルスさんがお目覚めになられたので、ご報告に参りました」


 「そうか。すぐに向かう。ありがとう」


 マーガスさんはそう言うと、いそいそとシュラゲールの駒を片付け始める。

 ……フィルスの所へはすぐに行きたいし、やめるのには異存はないのだが、この感じは……マーガスさん、負けそうになって逃げたな? まあ、別に良いんだけどさ。


 「さて、では行きましょうか」


 「ええ。ゲームの方はまたいずれ」


 「ははは……ではそれまでに鍛えておかねばなりませんな。今まで相手をしてくれる者が少なくてなかなかできておりませんでしたが、早急に相手を探さねば」


 そんなくだらない話をしながら、俺たちはフィルスの待つ部屋へと向かった。




 部屋に着くと、フィルスはベッドの上に毛布に包まって座っていた。

 少し顔を赤らめているのがなんだか可愛い。なぜ顔が赤いのかはよくわからないが。


 「あ……レイジ様」


 「おはようフィルス。どうだ? 怪我の具合は」


 「あ、はい。もう痛みもなく、先ほどできる限り確認してみましたが、傷も特に残ってはいませんでした」


 「そうか……良かった。それじゃ、病み上がりで悪いのだが……お前を襲った襲撃犯のこと、できる限り詳しく教えて欲しい」


 「! はい。えっと、どこからお話すればよろしいでしょうか」


 フィルスは一瞬真剣な顔になるが、ちらっとマーガスさんの顔を見てから困ったような表情を浮かべる。


 (あ、そうか。半吸血鬼の力を使ったんなら、マーガスさんの前で話すのはマズいな。それなら……)


 「なら質問形式にしよう。まず、犯人の顔は見たか?」


 「はい。といっても、最後の爆発の最中(さなか)、それも一瞬でしたので、はっきりとというわけではありませんが」


 「それで十分だ。できる限りでいいから、教えて欲しい」


 「はい。えっと、まず一番特徴的だったのは、右目の下にあった二本の大きな傷跡でしょうか。横向きに鼻の横から耳の方まで、何かに切られたような傷痕がありました。目の色は青、肌は浅黒く、笑った時に上の歯が一本欠けているのも印象に残りました。身長はレイジ様と同じか、少し低い程度で、がたいは割と良かったと思います」


 「ほう……思ったよりしっかりとおぼえていましたね。それだけわかっているのであれば、探すのもそう大変ではないかもしれません」


 思っていた以上の情報に、マーガスさんが喜色を浮かべる。


 「あ……はい。闘い始めてすぐの段階で、勝つのは難しそうだと悟ったので、せめて相手の情報だけでも持ち帰ろうと、観察しておりましたので……」


 「よくやったフィルス。ありがとう。偉いぞ」


 俺はフィルスの頭に手を伸ばし、優しく撫でてやる。

 ちょっと前までは確信が持てなかったが、どうやらフィルスは撫でられるのが好きなようだ。

 こうして撫でてやると、いつも顔に微笑を浮かべ、尻尾が左右に揺れる。

 俺も俺でそんなフィルスが可愛くて、ついつい事ある毎に撫でてしまうのだが。


 「それではレイジ君。私は今聞いた特徴をまとめて手配をしておくので、後は任せましたよ。ああそれから、治療費の方はギルドがもつから気にしなくていいってエルバルト殿から伝言を預かっているのを言い忘れてました。ですので、好きなタイミングで出て行って大丈夫ですよ。そのときは、一応受付に一声かけて行って下さると助かります」


 「わかりました。色々お世話になってしまって申し訳ない。犯人の情報、何かありましたらよろしくお願いします」


 「ええ、もちろんですとも。一番に伝えますよ。それでは」


 そう言うと、マーガスさんは少し急ぎ足で部屋を出て行った。


 「さて、それじゃあ詳しい話しを聞いていきたいのだが……どうする? 帰ってからがいいなら、それでもいいが……というか、腹減ってるんじゃないか? 飯でも食いに行くか?」


 「あ、えっと……確かにお腹は空いているのですが、その……ふ、服が、ですね。あの……」


 ……あ! さっきから毛布に包まって顔を赤くしていたのは、服が無かったからか。

 そりゃそうだよな。こんな大けがするほどの戦闘をして、服が無事なはずないよな。


 「すまん。完全に失念していた。すぐ用意してくるから、ちょっとだけ待っていてくれるか? 服は下着も必要か?」


 「あ……は、はい。お、お願いします……」


 俺は、フィルスの恥ずかしそうに毛布で顔を隠しながら尻すぼみになっていく声に密かに萌えながらも、フィルスの服を宿まで取りに帰るのだった―――― 

サブタイトルが一番難産という謎。

ネタバレ回避してつけるの難しい。

まあ、フィルスはメインヒロインだし、死ぬことはないと皆さんわかっているのでしょうが……一応ね。

次回辺りからは、攻勢に転ずる……かも? 正直、イマイチちゃんと考えてません←

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