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第二十九話 『悲劇と怒り』

なんとか日刊維持できました(四日目)

せめて今の話が終わるまでは日刊を維持していきたいものですが……


2017/03/12 微修正

2017/03/17 誤字修正(ギルド協会→冒険者協会)


―お知らせ―

前話で、襲撃者の性別を男から女に変更した際、直し漏らしがあったようなので修正しました。

襲撃犯は女です。混乱させてしまった方もいらっしゃるようで、申し訳ございませんでした。

修正済みですが、まだ漏らしがあるかもしれません。

もしそういったミスがありましたら、教えていただけると幸いです。

長文失礼いたしました。

 それから数分程待っていると、ギルドの外から人の走る足音が聞こえてくる。


 その音に、フィルスが帰って来たのかなと思った俺は、扉の方へと振り向き出迎えるが……なぜか入ってきたのは冒険者協会副長のマーガスさんだった。


 「レイジ君はいるかね!」


 「はい。どうかしましたか?」


 マーガスさんはギルドに入ってくるなりそう叫んだ。

 そのひどく慌てた様子に、ただ事ではなさそうな気配を感じ取った俺は、まだ他でも何か起きたのかと内心で嘆息しつつその声に返事をする。


 「フィルス=レーヴェという獣人の少女は君の連れか?」


 だが、その後に続いた言葉が、俺の不安を駆り立てた。

 ……なぜここでフィルスの名が出てくる?


 「そ、そうですけど……フィルスが何か」


 「実は、さっき協会前で血を流して倒れているところをうちの職員が発見してね。どうやら何者かにやられたようだ。今はこちらで保護しているが、まだ意識が回復していない。傷も深いし、あれでは助かるかどうか……高価なポーションでもあれば別だが、持っていたりは……しないだろうな」


 ナニヲイッテイル?

 フィルスが、やられた? 意識がない? 助からない?

 ……ふざけるな! あの子は、あの子は! これからやっと幸せになろうとしていて、今日、ようやく笑ってくれたんだ! なのに、誰が! 何のために!

 …………いや、犯人なんてわかりきっているじゃないか。


 沸き上がってきたのは怒りだった。

 憎しみに心が塗りつぶされ、奥底から自分のものとは思えないほど強烈な破壊衝動が沸き上がってくる。

 敵を殺せと、本能が囁きかけてくる。


 「おい、女。吐け、全部だ……早くしろ。でなければ、この国ごと貴様の組織とやらをぶち壊す」


 俺は、自分でも信じられないほどに冷え切った声で、襲撃犯の女に告げる。

 俺の心には、最早先ほどまで抱いていたこの女に対する慈悲など、欠片も残ってはいなかった。


 少し待ってみたが、やはり女は俺の問いかけに何も答えようとしない。


 「……そうか。わかった。刻限はフィルスの命が尽きるまでだ。もしフィルスの命が潰えるようなことになれば、それが貴様らの命日になるだろう。貴様は帰ってボスにそう伝えろ。反故にすれば、今度は殺す。貴様も、友人も、組織も、貴様の全てを奪い尽くす。わかったらさっさと消えろ。不愉快だ」


 俺の言葉を聞き終えると、女は素早く立ち上がり、王都の闇へと溶けて行った。


 女は組織に俺の言葉を伝えるだろう。なぜなら、俺は組織にとって明確に敵となる存在であるからだ。

 その後はわからない。組織とやらが逃げるか、殺しに来るか、あるいは……

 だが俺としては是非とも殺しに来てほしい。

 その方が、こちらから出向く手間が省けるからな。


 「……レイジ君?」


 恐る恐るといった感じで、マーガスさんが俺に声をかけてくる。

 ……マーガスさんは、俺の敵ではない。

 俺はマーガスさんを怖がらせないように怒気を内に引っ込めて、無表情をつくる。

 かなり不自然な感じかもしれないが、俺にはこれ以上の顔はできそうにない。


 「フィルスは?」


 「協会の医務室に寝かせているよ。一応手当をして下級の回復ポーションは飲ませたが……」


 「わかりました。では、マスターのこともお願いします。元々フィルスはそのために外に出ていましたので」


 「どれはどういう……なっ! エ、エルバルト殿!!」


 その言葉でマーガスさんは俺の背後を確認し、ようやくマスターが刺されている事実に気が付いたようだ。

 慌てた様子でマスターに駆け寄り、状態を確認している。


 「応急手当は済ませてあります。フィルス共々世話になってしまい申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 「……君は、どうするのだね?」


 「俺には少し、やることができてしまいましたので」


 「犯人を捕らえに行くのか?」


 「……それで済ませられれば良いのですがね。フィルスを傷つけた下種どもを前にして、殺さずにいる自信はありません」


 「……気持ちはわかるが、場合によっては、君の方が咎められることになるかもしれんぞ? そうなれば、流石に私も庇ってはやれん」


 「構いませんよ。今の俺の邪魔をするなら、それは全員敵ですから。全て滅ぼすだけです」


 (ああ、こんなに怒りを覚えたのはいつぶりだろうか……子供を虐殺していた屑みたいな組織にだって、ここまでの怒りは沸かなかった。身近な人間が傷つけられるというのは、こんなにも苦しくて痛いものなのだな)


 俺の頭に浮かぶのは、俺に尽くしてくれようとするフィルス。

 下着姿を見られて、気丈に振舞いながらもちょっと恥ずかしそうにするフィルス。

 初めて街に入って、露店ではしゃぐフィルス。

 そして、今日見せてくれた笑顔。

 どれも可愛くて、愛おしくて、大切な思い出。

 フィルスと出会ったのはついこの間のことなのに、どうしてこんなに愛おしく思えてしまうのかなんてわからないし、どうでもいい。

 大切なのは俺がフィルスのことを大切に思っていたという事と、それを傷つけた奴らがいるという事だ。

 絶対に許す訳にはいかない。

 とはいえ、猶予を与えてしまったんだったな……それに相手の居場所も正体もわからない。


 いざ行動を起こそうとして、何もできないことに気が付いた俺は、毒を吐き切ったこともあり、ほんの少しだけ冷静さを取り戻す。


 (む、むぅ……組織の奴らは許しがたいが、それでフィルスのことを蔑ろにしていては意味がないな。いかんいかん。少々頭に血が上り過ぎた。少し冷静になろう)


 俺はその場で大きく深呼吸をし、気持ちを切り替えると、マーガスさんの方へ向き直る。


 「……マーガスさん。申し訳ありません。少々冷静さを欠いていたようです。フィルスの所へ案内していただけますか?」


 「ああいや、大丈夫だよ。それなら一緒に行こう。エルバルト殿を運ぶのを手伝ってくれるかい?」


 「はい。わかりました」


 そうしてマスターを担架のようなものに乗せた俺たちは、ギルド協会へと向かうのであった――――



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 マスターが刺され、レイジ様に医者を呼んでくるように頼まれた私は、夜の街を駆けていました。


 レイジ様は医者を呼んで来いと仰っていましたが、この世界には医者という職業は存在しません。

 ですが、今日レイジ様から聞いた話だと、異世界に存在する医者という職業は、病気や怪我を診て、それを治療したり、適切な薬を処方することを生業としているとのことでしたので、おそらくはマスターの傷を治せる者を連れて来いという事なのでしょう。

 その中で獣人の私の話でも聞いてくれそうな所は……冒険者協会しかなさそうですね。

 けが人もギルドマスターですし、あそこなら対応してくれるでしょう。


 私がギルド協会へと急いでいると、後ろから後をつけてきている者の存在に気が付きました。

 上手く気配を隠しているようですが、私の耳にはしっかりとその足音が聞こえています。

 おそらくは、ギルドにいた刺客の仲間でしょう。

 別につけられて困るところに向かっているわけではありませんが……せっかく助けたのに寝込みを襲われて、なんてことになったら嫌ですからね。

 先に撒くか、倒してしまったほうがいいでしょう。


 私は追っ手と戦闘になることを考慮した上で、行き先を少しだけ変更する。

 向かう先は、協会のそばにある広場。あそこなら多少戦闘になったとしても、飛び道具などを使わない限りは他人を巻き込むこともないでしょう。

 道中、あえて細々とした道などを使って撒くことも考えはしたのですが、そこで奇襲をかけられても厄介ですし、そもそも王都の地図は相手の方が詳しいでしょうから、王都に来て間もない、それも都会慣れしていない私が撒けるとは考えにくい。

 ならばと追っ手を撒くことを諦めた私は、まっすぐ広場を目指します。



 「つけてきているのはわかっている! 姿を見せろ!」


 広場に到着した私は、広場の中央で尾行者のいる方へと振り向き、そう叫びました。

 もう少し慎重にいっても良かったのですが、今は時間をかけるわけにはいきません。

 さっさと倒して、レイジ様に任せられたお勤めを果たすとしましょう。


 私の視線で、完全に気が付かれていることを察したのか、尾行者は私の呼び掛けに応じて広場へと姿を現します。

 その姿は、ギルドにいた刺客以上に全身が黒に覆われており、その顔すらも窺う事はできません。

 本当なら姿は見せまいと逃げ帰ってくれるのが、一番ありがたかったのですが……仕方ありません。


 私は戦闘に備えて、構えをとり、油断なく相手を警戒する。

 しかし次の瞬間、相手は私の視界から消え、代わりに私の背中に鋭い痛みが走る。


 (くっ! いつの間に背後に!? こいつ、強い!)


 自らの不利を感じた私は、躊躇うことなく吸血鬼の力を解放する。

 そして、それによってより鋭敏になった私の耳が、微かにだが相手の足音を捉え始めた。


 相手の動きは非常に素早く、音だけでしか追う事の出来ない私は、攻撃を回避するだけで精一杯。

 いや、その回避すらも満足にできず、数発に一度は浅い傷をもらってしまう。

 その一撃一撃は大したものではないが、このままでは確実に負けてしまうでしょう。

 何か、何か打開策はないものか……


 私は相手を倒すための策を、頭の中で必死に考える。

 しかし、相手はそんなのを待っていてくれるはずもなく、私の体は次々に傷つけられてゆく。

 幾度となく繰り返される斬撃に、耳と尻尾を隠すための外套はついにただのぼろ布となり、地面に落ちてしまいました。


 (ふっ……状況だけ見れば、全身黒ずくめの男がどう見ても悪……しかし、一体これを見ているヒトの内の何人が、私の身を案じてくれているのでしょうか……あるいは、誰一人として――――)


 私は、自らの醜悪な姿が周りでこの騒ぎを眺めている者たちの目に晒されたことに、一瞬意識を向けてしまう。

 そして、それがいけなかった。

 相手はプロ。そんなあからさまな隙を見逃してくれるはずがありません。

 敵は一瞬で私の懐に潜り込んでくると、その手に握る2振りのナイフを、私の腹に深々と突き刺しました。


 激痛が私の全身を駆け抜け、一瞬意識が飛びかける。

 しかし、この状況は私にとってチャンスでもありました。

 先程からその姿を捉えることのできなかった敵が、こうして私の前にその身を晒してくれたのですから。


 (この程度の痛み、私を助けるためにその血の全てを与えて下さったレイジ様の苦しみに比べれば!)


 私は腹から伝わる激痛に耐えながら、相手の両腕を掴む。

 すると、相手は私がもう動けないと思っていたのか、驚愕の表情を浮かべ、慌てて手を振り払おうともがき始めた。

 ですが、もう遅いです。

 私は両手にありったけの魔力をかき集めて、今できる最高の攻撃を放つ。


 「我が身に流れしっ、紅蓮の、血脈よ……我が、不浄なる手にっ、はぁ……魔炎を、宿し……禍事を喰らう、災禍となれ! ――――紅魔炎葬撃(フェゴ・リプカ)!!」


 零距離から放たれた超高温の爆発が、敵の両腕を吹き飛ばす。

 無論、そんな至近距離で放てば私も無事では済まないですが、元より敵わぬ身。

 ならばこれだけの手傷を与えられただけでも良しとしなければならないでしょう。

 ですが、これではもうレイジ様に任された勤めを果たすことはできそうにありませんね……


 (レイジ様……申し訳ございません……)


 爆発により吹き飛ばされた私が最後に見たのは、両腕を失った男の、こちらを恨めしそうに睨む顔であった――――

戦闘描写、難しい(´・ω・`)

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