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第二十七話 『穏やかなる陽射しの中で』

今回は少し短いですが、キリが良いので一旦ここで投稿させていただきました。


2017/03/29 微修正

 森についた俺は、フィルスを背中から降ろすとさっそくヒト族の姿になり、ステータスを開いて実験の準備に取り掛かる。

 今回行いたい実験は、ヒト族の姿での魔素化と肉体構成魔素固定のスキルの併用による形状変化がどこまで可能か、というものである。

 魔晶龍騎士の姿では、発声器官をつくることに成功したが、魔晶龍騎士の姿はそもそもの構造がかなり単純で、改造をしたというよりは、中身の一部を削ってそこに発声器官を取り付けたといった感じだった。

 だがそれでも肉体を弄る感覚は掴むことができたので、今度は肉体が最も脆弱なヒト族の状態での強化を試してみようと、まあそんな訳だ。


 ステータスを確認すると、魔素化のスキルレベルが1上がって2になっていた。

 正直、肉体構成魔素固定化も上がっているかな~なんて期待していたのでちょっと残念だったりもするが、まあ片方上がっていただけでも十分だろう。

 どうやら魔素化がレベル2になったことで、部分的な魔素化ができるようになったようだ。

 今までは全部魔素にするか固めるかの二択だったからな。


 しかし、肉体構成魔素固定化のレベルが上がっていなかったことを考えると、部分的に新しい構造をつくるのは元から、少なくともレベルが上がって魔晶龍騎士を手に入れたあの時からはできたという事になる。

 それはつまり、俺がスキルを使いこなせていなかったという事に他ならない。

 今のところ問題はなかったとはいえ、少し悔しいな。


 体を魔核以外すべて魔素という名の気体にできるというのは、俺の大きなアドバンテージだ。

 もし仮に体の一部だけを固められるなら、壁の向こう側にある自分の魔素を固定して――――なんてこともできるかもしれない。

 実に諜報や暗殺に向いている力と言えるだろう。

 そして高い火力が必要な時は、龍の姿をとり、ブレスで一網打尽。

 ……さすがは古龍。やばい強いな。いや俺なんだけどさ。


 さて、それではさっそく体を弄ってみましょうかね。


 「それじゃあフィルス、今から始めるからよろしく頼む」


 俺は変形中の外見を観察してもらうために、始める前にフィルスに声をかける。

 フィルスには移動中に今回の実験内容を伝えてあるので、説明は不要だ。


 (初めから大きく改変するのは危険かもしれないし、とりあえずジャブってことで筋力増強でもしてみましょうかね)


 俺は変形による増強具合を確かめるため、右腕の筋肉だけを改造してみることにする。

 前世で学んだ人体の構造の知識や、戦場で実際に見た人間の内部の様子を思い返しながら、少しずつ少しずつ改造を進めて行く。

 すると、それに伴って右腕の感覚が少しずつ変化してきた。


 (お? これはいけたんじゃないか?)


 ――――そんな油断がいけなかった。

 改造の匙加減を誤った俺の右腕は、ねじ曲がり、膨張し、ほんの数秒で四散してしまう。


 「――――――◎△$♪×¥●&%#!?!?」


 元々半分魔素化していたため、痛みは本来のそれよりはマシだったであろう。

 だがそれでも腕全体がはじけ飛ぶという、おおよそ現実では起こり得ない現象がもたらす俺への痛みは、尋常ならざるものであった。

 声も上げられぬほどの痛みに、たまらず地面を転げまわる。


 「レイジ様!!」


 急に崩れ落ちて地面を転げまわる俺を心配したフィルスが駆け寄ってきてくれるが、俺にそれを相手する余裕などない。

 肉体的な痛みは既に魔素化によって消滅しているはずだが、あまりの衝撃的な痛みであったためか、幻肢痛のような痛みが俺を襲い続ける。

 そしてついに精神が限界を迎えた俺は、そのまま意識を手放してしまうのであった。




「あ……お目覚めになられましたか。ご気分はいかがでしょう。どこかまだお辛いところがあったりは……」


 俺が目を覚ますと、初めに視界に入ってきたのはフィルスの心配そうな顔であった……上下逆の。

 その状況に違和感をおぼえた俺は、自らの置かれた状況を確認する。

 目の前にはフィルスのさかさまの顔。

 背には少し涼し気な柔らかい、それでいて少しごつごつとした感触……地面だろうか。

 そして、後頭部には何とも言えない柔らかさとぬくもりが……って、まさかこれは……あの伝説のHIZAMAKURAというやつなのではないか?

 かれこれ30年以上生きてきた俺が、人生で一度も体験したことのないあの、膝枕というやつなのではないだろうか!!


 ……ふぅ、少し落ち着こう。

 さて、状況は理解した。

 どうやら現状俺は森の開けたところでフィルスに膝枕をしてもらっているらしい。

 ううむ……降り注ぐ暖かな陽の光がなんとも心地よい。


 「レイジ様?」


 返事をせずに黙っている俺を心配してか、フィルスが再度俺に声をかけてくる。

 その声に少々冷静になった俺は、大丈夫だとだけ返事を返した。


 さて、目も覚めたことだし、いつまでもこうしてもらっているのも悪いから、さっさと起きることにしようか。

 ……でも、もう少しだけこのままでいられたら。

 そう思わせるだけの魅力が、この膝枕にはあった。

 母親を知らず、師匠に引き取られてからは人の温もりというものにあまり触れない生活をしていたせいだろうか……この久方ぶりに感じる人の温かみというものが、凄く愛おしい。

 結局その誘惑に打ち勝てなかった俺は、そのままの体勢でフィルスに声をかける。


 「なあ、フィルス」


 「なんでしょうか、レイジ様」


 「もう少しだけ、このままでいても良いだろうか」


 「ぁ……はい、喜んで。ですが、右腕だけは治された方がよろしいかと」


 柔らかな笑顔と共に告げられたその言葉に、ふと右腕のあるはずの場所に意識を向けると、俺の右腕は根元の辺りが魔素化し実体がぼやけており、その先は吹き飛んだまま存在していなかった。

 痛みが無くて気が付かなかったが、これは確かに見栄えが悪いしよろしくない。

 そんなわけで腕をパパッと直した俺は、再び目を瞑り、この心地の良い穏やかな雰囲気に心を委ねる。


 「レイジ様」


 しばらくそうしてゆったりとした時の流れを楽しんでいると、ふとフィルスから声をかけられる。


 「ん~?」


 「レイジ様は、異世界の出身だと仰っていましたが、その異世界とはどういったところなのでしょうか」


 俺が間延びした声で返事をすると、そんな質問が飛んできた。

 正直俺としては、一昨日話した時にその質問が来なかったことがむしろ意外だったのだが……どこか遠慮をしていたのかもしれないな。

 俺にとってはフィルスは大事な仲間だが、フィルスにとっては俺は主人みたいなもののようだしな。

 もしかしたら、色々と我慢をさせてしまっていることもあるのかもかもしれない。

 良い機会だし、その辺のことも確認してみようかな?

 まあでもとりあえずはこの世界にとっての異世界、地球の話か。

 何から話したらいいのかねぇ……違うところが多すぎて、逆に話題に困るな。


 「う~ん。そうなぁ……正直違い過ぎて、何から話したらといった感じなのだが……」


 それから俺は、車や電車、ビルに銃といった、魔法が中心となっているこの世界にはなさそうなものをチョイスしては説明していく。

 それに対しフィルスは、とても楽しそうに、表情をころころ変えながら反応してくれた。

 それがなんだか妙に楽しくて、時間はあっという間に過ぎ去って行くのだった――――



 気が付けば、眼前に広がる空はすっかり茜色に染まっており、夜の闇がそぐそこまで迫ってきていた。


 「そろそろ、帰らなければなりませんね」


 俺の様子から考えていることを察したのか、フィルスがふとそんな言葉を漏らした。


 「そうだな……しかし、こんなにゆったりとした時間の使い方をしたのは、こちらの世界に来てから初めてだったかもしれない。今までは、異世界での新しい発見にワクワクしていたというのもあるが、それ以上にどこか焦っていたのかもしれないな。右も左もわからない世界にポンと放り出されて、不安だったのかもしれん」


 起き上がりながらそう話す俺に、フィルスは真剣な眼差しを向けてくる。


 「でもまあ、そうだな。こんなのんびりした時間は、嫌いじゃない。前の世界でも色々ごたごたしたことに足を突っ込みまくって、イマイチゆっくりとした時間の使い方というものをしてこなかった俺だが、せっかくの異世界なんだ。ここで生き方をガラッと変えてみるのも、面白いかもしれないな」


 「そうですか。もしそれを本気でお望みになるのであれば、私は全力でサポートさせていただきます。金銭面に不安があるなら、私が仕事をしてきますし、邪魔する者が現れたなら、私が全力で排除いたします」


 俺としては、こんなだったらいいなぁ程度の、半分適当な発言だったのだが、フィルスはそうはとらなかったようで、真剣な、やる気に満ち溢れた表情でそんなことを言ってきた。


 (というかフィルスさんや。それじゃあのんびりした時間の使い方っていうよりただのニートだ。俺はヒモになるつもりはない。それに――――)


 「何を言っているんだ。俺たちは仲間だと言っただろう? のんびりするのも、金を稼ぐのも、二人一緒にだ。ずっと一人で生きてきたからな。そういうのが楽しいんだよ。だから良ければ付き合ってくれ」


 俺はフィルスの正面に立ち、頭をポンポンしながら少しおどけた声でそう言葉をかける。


 すると、フィルスはこちらにまっすぐな視線を向け、満面の笑みで


 「はい! いつまでも、どこまでも!」


 と、返事を返してくれた。


 フィルスと出会ってからそれなりの日数が経っているが、こんな晴れやかな笑顔を見たのは初めてかもしれない。

 ようやく俺たちは、仲間としてのスタートラインに立てたのかもしれないな。


 「……帰ろうか」


 「はい」


 そうして俺たちは、この何とも言えない幸せを胸に抱きながら、王都へと帰って行くのだった――――

 

 

こんな感じののんびりとした雰囲気が、私としては結構好きだったりするので、こういった回は今後増えていくと思います(たぶん)

お金やら住居やらの生活基盤が落ち着いてくればきっと……うん。

できたらいいなぁ……


以上、レティアの外見で未だに頭を悩ませている、モモガスキでした(^^;

それでは、また次話でお会いしましょう。


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