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第二十五話 『面倒なのでぶっちゃけてみた』

前回の後書きで、今回はレティア視点から始まると言ったな。あれは嘘だ。


2017/03/08 微修正

 「ご来場の皆さま。本日は我が娘、レティアのためにお集まりくださいましたこと、お礼申し上げます。まあ、あまり長々と話しても皆さまを疲れさせてしまうだけなので、さっそくですが、本日のパーティーのスケジュールについて説明させていただきます。まずは――――」


 レティア様の父親と思しき男性の挨拶と共に、誕生日パーティーが始まった。

 壇上でのあいさつは、スケジュールの説明、多くの贈り物に対しての感謝の言葉そして最後にレティア様の選んだ贈り物の紹介へと移っていく。


 「この度、レティアにと贈って頂いた品々は、どれも大変素晴らしいものではありましたが、その中でもこの品をレティアはえらく気に入ったようで、無記名の品ではありましたが、選ばせていただきました」


 無記名の品が選ばれたという言葉に、会場全体がざわつく。

 ふむ。事前に聞いてはいたが、やはり無記名の品が選ばれるというのは異例なことらしいな。


 だが、会場の中央に立つクリスタルの像は、シャンデリアの光を浴びて美しい青色に輝いており、品そのものは実に素晴らしいものであった。

 故に、声を大にして非難するような者が出ることはない。

 それでも今回の贈り物のために大金をはたいた多くの貴族としては、他の貴族ならまだしも、どこの誰とも知らぬものに負けたというのは納得がいかないのか、皆微妙な表情をしている。


 「レティアは魔晶龍信者(クリスフェデーレ)ですからな。それで気に入ったのかもしれません。さて、それでは紹介はこれくらいにして……皆さんおなかも空いているでしょうから、食事としましょうか。では最後にレティアから一言」


 そう言ってレティア様の父親は、レティア様に拡声用の魔導具らしきものを手渡す。


 「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。どうか最後まで、楽しんでいってください」


 レティア様が言葉を終えると、皆一斉に席を立ち、拍手をする。

 そしてパーティー会場は、立食と雑談の場へと変わった。


 さて、では今更ではあるが、なぜ俺がパーティー会場内部の状況をこうも正確に把握できているのか、という至極当然の疑問にお答えするとしよう。

 答えは簡単。この贈られてきたクリスタルの像というのが、まさに俺自身だからである。


 ……え? そんなのわかってた? まあ、そう言ってくれるな。

 一応説明はしておかないといけないだろう? わからない人もいるかもしれないし。

 ま、大人の都合というやつだな。少し違うか? どっちでもいいか。

 ちなみに関節はちょっと弄って動かなくしているから、動いちゃってバレるなんて凡ミスをすることはない。

 発声器官を作った時になんとなく体を弄るコツは掴んだからな。この程度の改造なら朝飯前だ。


 さて、それでは気を取り直して肝心のムルヴァだが……いたいた。


 ムルヴァのことだから真っ先にレティア様に挨拶をしに行くのかと思いきや、そこは自分の家の位というものをきちんと自覚しているのか、視線はレティア様の方へと向けながらも、大人しく食事をしているようだ。

 一緒に居るのは彼の両親か。一家勢ぞろいとは都合がいい。と言っても俺が行動を起こすか否かは未定なのだが……


 そうそう。なんで俺がわざわざこんなところに潜入しているのかを話していなかったな。

 とはいえ別にそこまで特別な理由はないのだが……言うなれば保険のようなものだ。

 昨日のレティア様の様子から考えて、彼女の策が上手くいかない可能性も十分に考えられる。

 しかし、手に入れた証拠の全てをレティア様に託してしまった今、彼女に失敗されては困る。


 まあそんな理由で、このジウスティア邸に潜入したわけだが……先ほど俺に謝っていたことから、彼女は両親の説得に失敗したと考えるのが妥当だろう。

 これは俺が手助けしないと無理かなぁ……本当はあまり目立ちたくなかったんだけど、仕方ない。

 これが失敗したら、あのムルヴァ(クズ)に苦しめられている人たちを救うことができなくなってしまうからな。

 それに比べて俺が目立ったところで、ちょっと気恥しいとか、面倒くさいくらいのデメリットしかない。

 ま、さすがにこの状況では俺もわがままは言いませんよ。


 そうして行動を起こすことに決めた俺は、そのタイミングが来るまで、レティア様とグレデルンブ(ゴミクズ)一家の観察へと戻るのだった。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 「――――あなたの悪事の証拠は既に手に入れています。諦めて捕まってはくれませんか?」


 「いやはや、何の話でしょうかねぇ……いくら婚約者である私と喧嘩中とはいえ、そんな質の悪い冗談は言ってはいけませんよぉ? それに今日はあなたのためのおめでたい日。そんな話はよしましょう」



 私は他の方へのあいさつを終えると、最後にムルヴァの所へと自らの足で向かった。

 両親の説得には失敗しましたが、魔晶龍様から託された証拠の数々は私の手の中にあるのです。

 ならば、私が直接ムルヴァを追い詰め、魔晶龍様の期待に応えてみせます!


 そうしてムルヴァを魔晶龍様の像の前まで連れてきて、彼のお方をかたどった像の前で懺悔をさせる……つもりでした。

 しかし、今までその罪から逃れてきただけのことはあり、彼は非常に狡猾で証拠となるような発言を全くすることはなく、むしろ徐々にこちらが追い詰められているようにさえ感じてくる。

 最初はムルヴァにだけ聞こえるような大きさだった私の声も、いつの間にか感情が高ぶっていたのか、周囲にも漏れてしまう程の大きさになっており、ただならぬ様子から周囲の視線も徐々にこちらへと集まっているのを感じた。


 (やはり、両親の説得にも失敗し、大した後ろ盾のない(わたくし)では、この男を追い詰めることはできないのでしょうか……このままでは、魔晶龍様がわざわざ集めて下さった証拠の数々もこの男にもみ消されてしまう)


 私の心は既に折れてしまっており、それでもこの男に食って掛かっているのは、ただの魔晶龍信者(クリスフェデーレ)としての意地と悔しさ、それからこのことでますますこの男に虐げられてしまうであろう私の家のことを想ってのことでしかありません。


 (…………申し訳ございません、魔晶龍様)


 「ふっ……そこの男。随分と面白い話をしているな」


 そしてついにその気力すらも尽きようというときでした。その声が聞こえたのは。



♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢



 レティア様とムルヴァ一家を観察していると、他への挨拶が済んだのか、レティア様は自らムルヴァの所へと向かうと、いくつか言葉を交わした後、二人だけで俺の元まで歩いてきた。

 どうやら、レティア様はムルヴァへの説得を試みようとしているらしい。

 しかしムルヴァは数々の悪事を働きながらも、その全てに対し追及を逃れ続けてきた男。

 いくらレティア様の家の爵位が高いとはいえ、ただでさえ弱みを握られている身。

 逆に言いくるめられてしまう可能性の方が高そうだが……


 ――――そうして二人が話し始めてから約10分。事態は俺の予想通りとなってしまっていた。

 初めの落ち着きはどこへやら。レティア様は完全にムルヴァのペースに呑まれてしまっている。


 (このままではマズい、か。ギリギリまでは見守っているつもりだったが、潮時かな)


 そしてレティア様が完全に言いくるめられ、その顔が絶望に染まろうとしたその時、ついに俺はムルヴァへと声をかけたのであった。



 ムルヴァは、声の主が誰だかわからないのか、辺りをきょろきょろと見まわしている。

 一方レティア様の方は、声で俺だと気が付いたのか、俺の方を驚愕の表情を浮かべて見つめていた。


 「どこを見ている人間。こちらだ」


 俺が再び声をかけると、ムルヴァはようやく像が動いていることに気が付いたのか、レティア様以上に驚愕の表情……というかアホ面を隠そうともせず、こちらを見つめて固まっている。


 「ようやく気が付いてくれたようだな。さて、ムルヴァと言ったか。お主とそこのレティアの話、実に興味深い。ぜひとも我も加えてはくれぬか?」


 「な、な、なんだお前は! この私に向かってその言葉遣い! 不敬であるぞ! そもそも何者だ貴様! ここにいることが許された者ではあるまい! 警備の者は何をやっている! さっさとひっとらえろ!」


 俺の半分馬鹿にしたような声に、ようやく硬直が解けたムルヴァは、先ほどまでの飄々とした態度はどこへやら……大声を上げて俺を捉えろと言ってくる。

 そもそも何者かもわからぬ相手に不敬とはこれ如何に。何者かわからぬなら不敬も何もなかろうて。


 「我が何者かと問うか、人間。実に面白い。それに良い質問だ。故に我はその問いに答えよう」


 そこまで言うと、俺は大きく空気を取り込み、会場全体に届くように先程よりも大きな声を出す。


 「我は古魔晶龍(エンシェントクリスティアドラゴン)! 汝ら人間が古龍と崇め、恐れる存在よ!」


 俺の発言に、会場中が一瞬静まり返り、直後喧騒に包まれる。

 質問をしたムルヴァもこちらへ向かってきていた警備の者も、その驚きから動きを止めてしまっている。

 そしてその横にいるレティア様は……驚きつつも、俺が古龍であるという事実に真っ先に順応し、片膝をつき忠誠のポーズをとっている。

 ……レティア様は役者の一人なのだから、そう畏まられてしまうとやりにくいのだが……まあ、いい。


 「な、なにを戯言を! その貧相な姿のどこが古龍だというのだ! 人の言葉を介する程度で魔物風情が偉そうに! おい警備! ぼさっとしていないでさっさとこの魔物を殺せ!」


 俺がレティア様の揺るがぬ信仰心に苦笑していると……ムルヴァは結局ムルヴァだったのか、古龍かもしれない俺に欠片も敬意も畏怖も抱くことなく、あろうことか俺を殺せとまで言ってきた。


 (本性が隠しきれていないぞムルヴァよ。それではバカ丸出しではないか。周りを見てみろ。皆の視線は貴様を悪と語っているぞ?)


 それを証明するかのように、警備の者たちは動こうとはせず、困った顔で雇い主であるレティア様の父親の方へと視線を向けている。

 それに対しレティア様の父親は、状況をある程度正しく把握できているようで、首を横に振り、待つように合図をする。

 無関係な人たちを傷つけたくない俺としては、非常に助かる。


 「ふむ。貴様はあまり周りが見てていないようだな。よく見てみるがいい。今この場で貴様の味方でいてくれそうな人間など、貴様の親くらいしかおらぬぞ?」


 ムルヴァは俺の言葉に慌てて周囲を確認する。

 そしてそれによって俺に言葉が、少なくともある程度は正しいという事を認識したのか、俺を睨みつけるようにして押し黙る。


 さて、程よくムルヴァを状況的に追い詰めることもできたことだし、そろそろ本題に移るとしようか。


 「さて、ではムルヴァよ。いや、グレデルンブ子爵家の者たちよ。そろそろ先ほどの話の続きをしようではないか」


 俺はムルヴァ個人ではなく、グレデルンブ家に対して話がある意思を表明する。

 すると、奥にいたムルヴァの両親もムルヴァの後ろへと歩み寄ってきて、俺に忌々しいと言わんばかりの視線を向けてきた。

 全く……そう言いたいのはこちらの方なんだよクレデルンブ家の皆々様よ。


 「まあ、こんなことを言っておいてなんだが、ここで詳しい話しをするつもりは我にはない。そもそも、我は所詮は魔物。人間の社会においては異端な存在である。それ故、我もまた人間については必要以上のことは知らぬ。無論、貴族社会のことなどわかるはずもない。本来であればそのような人間同士の些事、我が介入するようなものでもないからな」


 「な、ならばなぜ介入するのです! 放っておけばよいではないですか! 些細なことでしかないのでしょう?!」


 俺の存在や今の状況をマズいと感じているのか、ムルヴァが俺に食ってかかる。

 その発言が周囲に対し悪い印象を与え、状況を悪化させているなど気が付かぬまま。


 「うむ。しかし今回の件は少々見逃せない事情が二つ……いや、三つほどあってな。身勝手ながら介入させてもらった。まず一つは、このレティアのことだ。この娘は、以前我がわざわざ救った人間でな。まああれ自体は通りかかっただけの単なる偶然ではあったのだが……まあそんな縁もあり、この娘とは昨日会って話をしたのだが……我はこの娘が気に入ってしまった。故にこの娘を我が眷属とする!」


 俺のその宣言に、会場中がざわめく。

 そこにあふれる感情は驚きや歓喜、羨望に嫉妬と様々ではあった。

 そして当のレティア様はというと……両手を口に当て、涙を流して俺を見つめていた。

 …………そんなに嬉しいもんかね? 別に眷属にすると言ったって、何か特別なことがある訳じゃないんだけどな……それとも、俺が知らないだけで正式に眷属にするというのには特別な何かがあるのか!?

 これはイカンな。そこら辺もきちんと言っておこう。


 「を、をほん! まあ、眷属にすると言っても、特に何かある訳ではないのだが……」


 ここでさり気なく会場やレティア様の様子を確認する。


 (皆に変わった様子はない。という事は、別に眷属にすることに真の意味があったとかは無いようだな。良かった)


 「この娘に危害を加える者が現れたなら、我はその者をこの世の果てまで追い回し、あらん限りの絶望を与えよう。そのこと、ゆめゆめ忘れるでないぞ? なあ、ムルヴァよ」


 俺は、お前のことを言っているのだぞと言わんばかりの視線をムルヴァに向ける。

 まあ、視線と言っても眼球は無いので顔にあたる部分をそちらに向けただけなのだが。


 「そ、それは、もちろんでございます。彼女は私の婚約者。傷つけるなど、ありえませぬ」


 ムルヴァは気色の悪い笑みを浮かべながら、手を揉んであからさまな嘘を言い放つ。

 肥え太った脂まみれの顔に、まるで球体のような体。

 ムルヴァ自身の放つなんとも気色の悪い雰囲気と相まって、見ているだけで嫌悪感が湧いてくる。

 ま、それを一回り強烈にしたような者が二人も後ろに立っている辺りからして、なるべくしてなったのやもしれんが……たとえこの醜悪さが育て方によるものだとしても、それでムルヴァの罪が消えるわけではない。


 「そうそう、そういえばその婚約のことなのだが……悪いが破棄してもらいたい」


 「な!? なぜです! ……! まさかこの娘を妻にとろうとでもいうのですか! いくら古龍とはいえそれは――――」


 「違う。別にそういうわけではない。理由は簡単。レティア自身がこの婚約を快く思っていないからだ。それに、我としても貴様が相手というのはあまり嬉しくない。というわけでよろしく頼むぞ?」


 俺は面倒なムルヴァを放置し、レティア様の両親の方へと視線を投げる。

 親が良いと言えば、この件は解決するだろうしな。


 視線を向けられたレティア様の両親は、弱みのこともあってか複雑そうな顔をしていたが、俺が安心しろと言わんばかりに頷くと、レティア様の婚約破棄を了承してくれた。


 さて、これでレティア様……今更だがもう様ってつけるの面倒だな。ヒトの姿の時に間違えないようにとつけるようにしてきたけど、もういいや。このままだと逆に魔晶龍の状態で様付けしちゃいそうだし。

 っと、まあレティアの件はこれで片付いたし、後はムルヴァを追い詰めるだけだな。

 ここまで上手くいっていると、逆に楽しくなってくるな。


 ムルヴァや後ろにいる彼の両親の悔しそうな表情に機嫌を良くした俺は、更にムルヴァを追い詰めるべく、次の言葉を発するのだった――――――


長くなったので、中途半端ではありますが続きはまた次回という事で、よろしくお願いします。



敬語って難しいですね……間違ってたらすみません。

それから、登場人物一覧とか、用語一覧とか、そういったものを作るか悩んでます(あれ? 前にも言ったっけな)

まあ作るにしたって、たぶん早くても今の話が終わってからになるとは思いますが。

自分用の備忘録という意味も含めて、主人公のステータスも作るか迷ってます。

まあでもあったら便利だとは思うのですが、正直面倒くさいです←


さて、こんなこと言っておいてなんなのですが……皆さんもうお気づきのこととは思いますが、私の次回予告やその他諸々は結構適当で変わることも多いので、作らない可能性の方が高いです!

なので、そんあこともあるかもしれない程度に思っておいてください。

まあ、そのうちキャラが増えてきたら作るかもしれませんが……

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