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第二十一話 『解決の糸口を探ってみた』

ちょっと昨日までスキー旅行に行ってまして、更新が遅くなりました。申し訳ないです。

今も全身筋肉痛がやばくて辛いですが、頑張ります(´;ω;`)


2017/02/26 微修正

 ――――あれから、6日が経った。


 しかし事態は一向に良くなる気配がなく、悪化の一途を辿っている。

 依頼は来ない。街で聞く噂も悪いものばかり。おまけに色々あることないことイチャモンつけられて……


 まあ、人間なんてそんなもんだ。他人の不幸は蜜の味ってな。

 関係のない人間が不幸になっていく様を、面白おかしく眺めているのは、さぞ愉快なのだろう。

 さらに調子に乗った奴は、自分で直接その甘い蜜を啜りに来る……迷惑な話だ。

 

 しかし、俺もこの6日間、何もせずに過ごしていた訳ではない。

 色々な所に頭を下げてまで情報収集をしたおかげで、件のクソ貴族に関してはそこそこの調べが付いた。


 ちょっかいをかけてきている貴族の名は、ムルヴァ・グレデルンブ。

 グレデルンブ子爵家の一人息子で、今年で24になるらしい。

 五十路過ぎてようやくできた息子という事もあり、随分と甘やかされて育ったようだな。おかげで今は立派なわがまま坊やだ。

 ムルヴァを良く知る人の話では、赤子がそのまま図体だけデカくなったような奴、とのことだ。

 全く以って嘆かわしい。


 そして当のグレデルンブ家も、元々あまり良い噂を聞かぬ家で、他の貴族からはあまり好かれていないらしい。

 しかし、領地経営の方は、経済的にだけ見ればそれなりの成果を上げており、深く関わらなければ害はないとのことで放逐されているというのが現状のようだ。

 そんな親だから、息子も屑みたいな人間に育ってしまったのだろうな。

 こんな親の元に生まれてしまったという点に関してだけは、ムルヴァにも同情の余地があるかもしれん。


 グレデルンブ家と敵対している貴族の家がないかも調べたが、奴らは徹底した弱い者いじめ一家なようで、今回の件で力になってもらえそうな家は残念ながら全く見つからなかった。

 むしろ、こちらから手を差し伸べたくなるほどに酷いことになっている家ばかりが見つかって、奴らへの憎悪と解決への焦りが強まるだけの結果となってしまった。


 誰でもいいから助けてくれそうな、奴らを黙らせることのできる権力を持った人がいれば良いのだが、そんな心当たりがある訳もなく……正直、手詰まりだった。


 色々と奴らの悪事の証拠となりそうな情報も集めたが、どれもこれもイマイチパンチが弱く、簡単にもみ消されてしまいそうなものばかり。

 貴族に掛け合おうにも、俺にはそんな機会も権限もない。

 他の冒険者ギルドはほとんどが敵みたいなものだし、味方になってくれそうなところも、自分がまきこまれないようにするので精一杯。

 自分たちに力が無いにも関わらず、味方が少な過ぎるのだ。


 ちなみに、フィルスには普通に冒険者としての仕事をさせている。

 人と話す機会の多い情報収集は、彼女には酷だろうし、そもそもできるとも思えん。

 それに、ギルドを助けるために俺たちが破産してしまうのでは話にならんからな。

 個人からの依頼はなくとも、常設の依頼や素材の買取で金は十分稼げる。日々の食費と宿代くらいはどうにかせねばな。


 さて、しかしもうできることはほとんどなさそうだな……合法では、だが。

 転生前はプロのエージェントに毎日鍛えられていた俺だ。暗殺や諜報などの技術も一通り学んでいるし、実際何度か使う機会もあった。

 この世界には魔法やスキルもあるが、魔法は思っていたより不便なもので、センサーの類はほとんどないらしいし、スキルは所詮技術の延長のようなもので、個人の感覚に依存したもの。計画さえしっかり立てておけば、よほどの達人でもいない限りは問題はないだろう。




 と、いうわけでだ。俺は今、クレデルンブ家の屋敷の近くにいる。

 より正確に言えば、奴の屋敷の正門が見える路地裏に身を潜めている。


 現在の時刻は午前11時半頃。こちらの言い方だと、6刻手前と言うのだったか。

 俺は現在、奴の屋敷に出入りする人物や物資を監視している。

 非合法な手段に走るにしても、このまま自制して合法を貫くにしても、相手を知るのは悪いことではない。

 ま、そもそもこのストーカーじみた行為がこの国で合法なのか否か、俺にはわからんがな。


 直接接触する以外の手段で調べられることは、だいたい調べ終わっている。だが結果は芳しくない。

 ならばあとはもう、今回の件の黒幕であると思われるこの貴族を、直接調べるしか俺にできることはなさそうだ。


 正直色々知った後では、当の本人を目の前にして自制が効くか自信がなかったので避けてきた手段だったのだが……まあいい。

 こういったことは初めてではないし、自制しなかった場合にどんな痛い目を見るかも経験済みだ。

 あとは自分の理性を信じるとしよう。


 そんなこんなで3時間が経過し、流石に退屈をおぼえ始めた頃、屋敷の前に一台の馬車が停車した。


 (中から誰か降りてきたようだな……馬車が邪魔で良くは見えんが、細く小さい脚だな。女か?)


 そしてその足はそのまま屋敷の敷地内へと向かって行く。


 結局馬車が通り過ぎるころには、門の前には兵士が2名、あくびをしながら突っ立っているだけであった。


 (ふん。のんきにあくびなどしおって……貴様らが守っているソレが、いったいどれだけの人間を害し、不幸にしているのか、貴様らは知っているのか? いや、そんなことは気にしたこともないのだろうな。ただ金のために守り、定時に帰路につき、手にした金で酒と女を買う。そんなことの繰り返し。その金の対価にどれだけの血が流れているのかも知らずに……)


 俺はそんな自らの内に湧き出てきた暗い感情を、(かぶり)を振って振り払う。


 (駄目だ! この感情に身を任せてすべてを殺し尽くせば、俺はきっと違うナニカになってしまう。そしてそのナニカは、きっと俺の大切なものを奪ってしまう。自らの手によって……そうして後残るのは、後悔と怨嗟だけ。そんな人生はご免だ。こんな小物のために、俺の人生を捨ててたまるか)


 俺は転生する前から、幾度となく繰り返してきた問答を心の中でまた繰り返す。そうして心を落ち着かせ、己の意志を固める。決して道を外れぬようにと。


 自分で言うのもなんだが、俺はあまり褒められた人間ではない。

 俺は誰がどう取り繕おうと、平和のためとかどうとかほざきながら、沢山の人間を殺してきた”鬼”だ。


 だから、この世界に来て”救済者”なんて称号をもらった時には、複雑な気持ちだった。

 本当はそのせいなのかもしれないな。俺がその称号をずっと非表示のままにしているのは。


 俺は自分が許せないのだ。多くを奪い、多くを救い、その救いだけに目を向け、必死にその幸福感に縋る自分が。


 (…………いや、今は監視に集中しよう。屋敷の奥から足音も聞こえてきたことだしな)


 気が付くと一時間ほど経過していたようで、太陽の位置もそれなりに動いている。

 そして屋敷の奥からは先ほど屋敷を訪れた女と思しき気配が1つ。どうやらお帰りのようだな。


 折角の手がかり、今度こそは見逃すまいと目を凝らしていると、奥から見覚えのある少女が歩いてくるではないか。


 (彼女は確か、盗賊に襲われていた……確か、名前は……レティア、とか言ったか? 侍女だか近衛だかは忘れたが、そんな風に呼んでいた気がする)


 そう、そこにいたのはこの世界に来てすぐの頃、服を手に入れるついでに助けた貴族風の少女であった。


 (悪い人間には見えなかったのだがな……もし奴に味方しているのなら、助けたことを少し後悔してしまうやもしれんな……)


 しかし、彼女が敵であるにしろそうでないにしろ、彼女はグレデルンブ家に出入りできるくらいにはこの家との交流があるらしい。あるいはそれが許されるほどの地位なのか。

 そして彼女はあの時の様子から察するに、敬虔な魔晶龍信者(クリスフェデーレ)なのだろう。

 ならば逃す手はない。どちらに転んでも、彼女の存在は助けになる可能性が高い。

 そう考えた俺は、走り出す馬車を追い、屋根の上を駆ける。


 あ、ちなみにクリスフェデーレというのは魔晶龍を信仰する者たちのことを指す言葉だ。俺もこの間マスターに聞いて知ったばかりの言葉だが。


 とにかく、彼女が魔晶龍信者なら魔晶龍の姿で接触すれば、彼女に協力を仰ぐことも――――――できるのか?


 冷静に考えてみれば、俺は龍の姿では喋ることができない。喋ることができるのは、唯一このヒト族の姿をとっている時だけ。

 だからと言って、俺=魔晶龍であることを明かすなど論外。魔晶龍騎士の姿で会うのも無しではないが……結局、喋れないのは同じだからなぁ……


 喋れないなら筆談! と言いたいところだが、龍の姿でペンなど持てんし、龍騎士の姿も、いきなりそれでは魔晶龍とは流石にわかるまい。


 機会を待てば、龍の姿で接し、龍騎士の姿で筆談に持って行くこともできるかもしれないが……それがいつになるのかわからない。

 彼女が力になってくれるのか、そもそも敵なのか味方なのか。それすらもわかっていない現状では、彼女に対してそれだけの時間と労力を割くのはいかがなものか……


 そんなことを考えながらも、彼女の馬車に必死に追い縋る。

 幸い馬車は自動車ほど早くは無いし、ましてやここは街中。歩行者と共用の道は馬車が走るにはあまりに開放的過ぎて、速度を落とさざるを得ない。

 それに対し、こちらが走るのは屋根の上。障害物も何もないこのルートは実に快適で直線的な動きで自由に移動ができる……というほどでもないが、馬車に比べれば移動の制約は少ない。


 ここが下町なら本当に移動は直線でできたのだが、ここは生憎貴族の屋敷が建ち並ぶ第一区画。屋敷と屋敷の間隔は広く、高さもまちまち。

 屋根の上の移動は最早、対象に気付かれにくく、対象を見失いにくい以上の役割は果たしてくれそうにない。


 故に”追い縋る”なのである。これでも龍に転生したおかげか、前世より身体能力は向上しているのだが、それでもなかなか辛いものがある。というより、向上していなければとっくの昔に見失っている。




 そうして必死に馬車を追っていると、先ほどのグレデルンブ邸に比べ、二回り以上は大きく、それ以上に気品にあふれた見事な屋敷の前で停車した。

 ここが彼女の住む屋敷なのだろうか。それともただ次の目的地に到着しただけなのか……


 向かいの屋敷の屋根の上からそのまま観察していると、馬車の御者が門番といくつか言葉を交わした後、馬車ごと屋敷の中へと入って行く。

 その後もしばらく様子を見ていたが、その態度や雰囲気から察するに、おそらくここが彼女の屋敷なのだろう。


 屋敷の場所を記憶した俺は、彼女の家についての情報をマスターに聞くべく、一旦ギルドへと戻ることにした。




 ギルドへ着くと、疲れた顔をしているマスターが、努めて明るく振舞っている、といった態度で出迎えてくれた。

 もはや隠し切れぬほどに疲弊しているにもかかわらず強がっているその姿は、見ていて痛々しく、むしろ余計に心配になる。


 「聞きたいことがあって来たのですが、その前に……俺たちギルド員の前でくらい、無理はしなくてもいいんですよ?」


 俺がそう言うと、マスターはどこか自覚もあったのか、バツが悪そうに苦笑いをする。


 「いやはや、そんな風に言われてしまう程か……参ったのぅ」


 そう言って気を抜いたマスターの表情には、肉体よりも精神的な疲労が色濃く表れており、今にも倒れてしまうのではと心配になってしまう。


 (これは……早めに解決しないとな)


 「まあ、儂のことはそんな気にせんでも良い。それより、聞きたいことがあるのじゃろ?」


 「……はい。レティアという名の貴族の娘に心当たりはありませんか? 15前後程の歳で金髪、屋敷の場所は――――」


 「いや、そこまで言わんでもわかる。おそらくそれはジウスティア家のレティア様のことじゃろう。しかし、なぜレティア様のことを? 儂の聞く限りでは彼女は非道な行いをするような人間ではなかったはずじゃが……今回の件に何か関わっておるのか?」


 「あ、いえ。ただ、今日彼女がグレデルンブ子爵家の屋敷から出てくるところを見たので、何かあったらと思い一応確認をしておこうと」


 俺のその言葉を聞くと、マスターはあからさまに安堵したように息を吐いた。


 「彼女の名前はレティア・ジウスティア。ジウスティア侯爵家の長女で、歳は、数えで15じゃったか。今日が運命の23日じゃから……ちょうど明後日が誕生日になるの。ちょうど成人する歳という事もあって、かなり大きなパーティーを開催するらしい。ま、儂らにはあまり関係のない話じゃがの」


 (侯爵家……誕生日……魔晶龍信者……)


 この話を聞いた瞬間、俺の頭に漠然とではあるが、ある作戦が浮かんだ。

 現状では作戦というのもおこがましい程度のものだが、成功すればあるいは……


 あと、こっちは後でもいいことだが、運命の23日ってのが地味に気になる。この世界の暦かな? 後でフィルスに聞いてみよう。


 「レティア様のことを中心に、もう少しジウスティア家のことについて教えていただけませんか?」


 「? それは別に構わんが……無理だけはするでないぞ。儂はもういい歳じゃし、ギルドのメンバーも少ない。お主のギルドを救おうとしてくれる気持ちは嬉しいが、このギルドは、お主のような有望な若者がその未来を棒に振ってまで救う価値のあるものではないからの」


 「……わかりました。善処します」


 ホントはいざとなれば無理してでも助ける気満々だけどな。


 「……まあよい。さて、ジウスティア家についてじゃったな。まず領地は――――」


 それから約1時間ほどかけてジウスティア家のことを色々聞いた俺は、フィルスの待つ宿へと帰るのだった――――


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