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第二十話 『レイジ、怒る』

サブタイトル……考えるの地味に大変なのん(´・ω・`)


2017/05/19 時間の表現が若干間違っていたので修正



 王都へ帰ってきた俺たちは、既に日が沈みかけていることもあり、換金は翌日に回してギルドへと戻ることにした。



 「マスター、ただいま」


 「た、ただいま、です」


 「おかえり。無事で何よりじゃ」


 マスターは、いまだに警戒心バリバリで、すっぽりと外套を被ったままのフィルスに苦笑しながらも、返事をしてくれた。


 「それで、どうじゃった?」


 「あーそれがですね……」


 俺は報告がてらデボラルパルカとかいう魔獣と交戦した話をする。

 まあ、戦ったと言っただけで、細かいところは話していないが。


 「なに!? デボラルパルカが出たのか! 詳しい場所はわかるか?」


 おお? 俺の話を聞いた途端、マスターが随分と慌て始めた。

 こいつは思っていたより大事なのかもしれん…………正直、ちょっと面倒だなぁ


 そんな風に思いながらも、一応できるだけ正確に位置を知らせる俺。


 「その麻袋の中身は、その素材か?」


 「え? あ、はい。魔石が5つと外皮が1体分なら」


 「全部でなくてもよい。それを貸してはくれぬか? もちろん何かあれば売却値以上の金を払うと約束しよう」


 「あ、はい。どうぞ」


 そう言って俺が麻袋を渡すと、マスターはそれを掴んで大急ぎでギルドの外へと走って行ってしまった。


 「え~っと……よくわからんが、フィルスのFランク昇格は明日以降になっちまうかもな。すまん」


 「あ、いえ! そんな、レイジ様が謝ることではありません。それに、私は別に明日1日Gランクでいても特に困りませんから」


 「そうか……俺なんかは、ランクアップできると思ったらワクワクしちまってな。内心ずいぶん浮かれちまってたんだが……まあ、とりあえず宿に帰…………あ」


 そういえば、宿が1人部屋のままの問題が解決していなかった……

 今日も一緒に寝るなんて流石に精神衛生上よろしくない。


 いや、もちろんフィルスと一緒に寝るのが嫌というわけではないのだ。

 フィルスは可愛いし? スタイルもいいし? おまけになんかいい匂いもするし。


 でもダメなんだ。フィルスが今俺にこういった態度をとっているのは、あくまで自分を受け入れてくれているのが俺しかいないが故の依存のようなものであって、それ以上のものではないだろう。

 だから、いくら甘美な誘惑が目の前に転がっていようと、フィルスがきちんと自分を持てるようになるまでは、俺が自制しなければならないのだ。


 「というわけで、宿を探そう」


 「?? 何がというわけなのかはよくわかりませんが、宿を探すというのは賛成です。いつまでもあんなところで、レイジ様を私などと同じベッドで寝かせるわけにはいきませんからね」


 正直色々言いたいことはあったが、言っても無駄な気がしたのでスルーした俺は、新しい宿を探すべくフィルスと共に冒険者街へと繰り出すのだった――――――




 ――――――そして1時間後。


 俺たちは宿の一室にいた。

 え? どこの宿かって? 元々泊まっていた宿ですが何か?


 なんでも今の時期は祭りが終わってすぐらしく、帰省した冒険者が宿に長期滞在するため安宿は基本空きがないそうだ。

 むしろこの部屋だけでもとれたことを感謝しなければいけないレベルで部屋の空が無いらしい。


 少し背伸びをすれば空きもないこともなかったのだが……正直そこに金をかけるくらいなら、フィルスの装備を買い揃えてやりたい。


 最悪ギルドの部屋をまた、というのも考えたのだが、流石に一度出て行ったのにまたというのもなぁ……


 そんな事情ならせめて俺も祭りを楽しみたかった!


 まぁそんなわけで、明日はどうせ素材売却とフィルスのランクアップ待ちもあるので、宿を探そうと思う。

 きちんと探せば1つくらいあるだろう……と、思いたい。


 「ま、ないもんは仕方がない。今日は大人しく寝ることとしよう」


 「はい。では、どうぞ」


 そう言ってフィルスは俺にベッドに寝るように勧めてくる。

 この議論は昨日決着がついたと思っていたのだがなぁ……


 「いや、ベッドはフィルスが使いなさい。昨日散々説明しただろう?」


 「ですが、やはりレイジ様もベッドの方が寝心地はよろしいのではないですか?」


 「いや! 俺は床で寝る方が良い! はい、というわけでベッドで寝なさい」


 「ぐ、ぬぬぬ……わ、私も床の方が良いです! そういう事なら2人で床で寝ましょう!」


 「いやお前、さっきレイジ様”も”ベッドの方が寝心地が良いって言ってただろ? つまり、お前はベッドの方が良いってことだ。フィルスの言葉を借りるなら、嘘を吐くのは裏切りなのだろう? なら今俺に向けた裏切りの代償として、今夜は大人しくベッドで寝なさい」


 「あ、いや、ぐ……むぅ」


 フィルスは今まで母親以外とろくに話したことがなかったせいか、こういったやり取りは苦手なようだな。

 女の方が口が上手いなんていうのはよく聞くが、フィルスに限ってはどうやら違うらしい。


 俺が話は終わったと言わんばかりに寝転がって壁の方を向くと、ようやく諦めてくれたのか、後ろでベッドへ潜り込む音が聞こえた。



 さて、では日課のステータスチェックと行こうか。

 今日はあんなデカい魔獣を3体も倒したんだ。多少は上がっているだろう。



葛城(カツラギ) 玲仁(レイジ)

年齢: 0歳

Lv.13

種族:無形の魔素 古魔晶龍エンシェントクリスティアドラゴン

HP:500 (魔核:1000)

MP:76500

魔素量:78000

魔術適正:火SSS・水SSS・風SSS・土SSS・光SSS・闇SSS

魂容量:938/1033


 ふむ。レベルは3上昇。MPは15000アップの、魂容量は12アップ、と。

 前回とレベル1辺りの上昇値は同じだな。固定なのか?


 まあいいか。どうせそのうちわかるだろうし。

 それじゃあお次はスキルっと


・気配察知(Lv5/10)


 おお、ようやく上がってくれたか気配察知よ。

 毎日毎日使い続けてようやく……いやでも日数で考えたら十分早いのか。

 スキルなんて本来ポンポン育つものじゃないしな。

 魔力操作のせいで感覚がおかしくなっていたのかもしれん。


 まあでも、今の訓練方法に一定の効果があるとわかっただけでも良しとしよう。

 成果も無いまま続けるには、今の訓練はちと辛過ぎるからな。


 それじゃあ、あと何回か自己能力鑑定を使ったら俺も寝ますかね。

 お休み~





 ――――――そして、次の日の朝。


 「おはようございます、レイジ様。お加減はいかがでしょうか」


 俺はベッドで目を覚ました。

 一つだけ違うのは、フィルスが既に起床していることで、それはまあ、嬉し悲しいといった感じなのだが……


 「……フィルスさんや。俺がベッドで寝ている経緯を教えてはもらえんかね?」


 「はい。今朝は早く目が覚めましてですね。私が起きてベッドが空いているのに、レイジ様を床で眠らせ続けるというのはどうかと思ったので」


 「俺をベッドまで運んだ、と」


 「はい」


 う~む。まあ、本当にそれだけで裏が何もないなら問題はないのだが……この滲み出るのを隠しきれていないといった感じのどや顔が非常に怪しい。


 「で? フィルスはいつ頃起きたんだ?」


 「そ……それは……た、太陽が昇る、少し前、くらいです……かね。広義では」


 ……なんと雄弁な顔であろうか。それでは後ろめたいことがあると言っているようなものではないか。

 嘘を吐けぬとよく言われる俺の顔もこのくらいわかりやすいのだろうか。

 もしそうなら、なんというか……色々と納得はするが、恥ずかしいな……


 「ふむ……で? いつ頃なんだ?」


 「あ、いや、その…………今日になって1刻と少しくらいです……」


 1刻過ぎってことは、2時過ぎってとこか……昨日布団に入った時間はだいたい10時くらいだから、許容範囲内ではあるものの……いつもの睡眠時間を考えると、少し足りないだろうな。


 「はぁ……。フィルスよ。俺はギルドへ行って昨日のことと、お前のランクアップができるかどうかの確認をしてくる。だからその間だけでもお前は休んでおきなさい。腹が減っているなら飯が先でも良いが、食った後すぐ寝るのは良くないからなぁ……まあとにかく、寝る寝ないは置いておくにしても、体は休めておくこと。いいな?」


 俺はいつもより少し厳しめな口調でそう告げる。

 すると、フィルスはしょんぼりとこれまたわかりやすく肩を落として、弱々しく返事をした。


 「別にそう怒っているわけではないがな……俺のために色々しようとしてくれるのは嬉しく思うのだが、そのために自分を蔑ろにしてほしくないんだ。お前が俺を大切に思ってくれているように、俺もお前を大切に思っている。それだけは、わかっておいてくれないか? 俺はお前と共にいる。変に尽くそうとせずとも、どこかへ行ったりはしない。だからもう少し肩の力を抜け。まあ、すぐに変われとは言わないが、少し、考えておいてはくれぬか?」


 「………はい。ありがとう、ございます」


 よく見ると、俯くフィルスの目は潤んでおり、それなりに俺の言葉は響いているようだった。


 (これ以上は無粋というものか)


 そうして俺は部屋の戸を閉じた。

 こういったことは俺と一緒にいるのでは考えづらいだろうと、一人になる直前の今だからと言ってはみたが……さて、どうなることやら。




 俺がギルドに到着すると、こちらに気が付いたマスターは、随分と気まずそうな顔をする。

 ……何かあったのだろうか。


 「おはようございます。今日は、昨日のことと、フィルスのランクアップのことを伺いに来たのですが……何かありましたか?」


 「う、うむ。まずはお主に謝らねばならぬ。昨日預かった素材だが……盗まれてしまった……」


 「そう……ですか。まあ、それは良いです。収入は減りますが、今日明日の生活が困窮するほど金がないわけではないですし、元々臨時収入みたいなものでしたからね。また稼いできますよ」


 俺はマスターを元気づけようと、努めて明るい態度で気にしていない旨を伝えるも、マスターの表情は依然として暗いままだ。

 正直俺はその気になればあんなのよりずっと強い魔獣も乱獲して来れるし、本当に気にしていないのだが……


 「あの、本当に気にしてませんから、そんなに――――」


 「ああいや、それは……わかった。無論、その言葉に甘えて何の補償もせぬというわけではないが、今はそのことでこんな顔をしておるわけではないのじゃ」


 んん? なら他にも問題があるという事だろうか。

 ……そういえば昨日は随分慌てて出て行ったが、そっちの絡みか?


 「昨日、デボラルパルカのことで随分慌ててましたが、そのことに関係が?」


 俺のその発言に、マスターは一層顔をしかめる。当たりか……


 「うむ……そうじゃな。お主には話しておくべきか。お主にも関係のある話じゃからな。さて、どこから話そうかの。まずは――――――」


 マスターの話は、要約すると実に単純で、実に腹立たしいものであった。


 このギルド『クリスタリア』は、とある貴族に目を付けられており、以前から妨害が激しかった。

 俺がマスターに出会った時の件も、それ関係だったらしい。

 そして今回、デボラルパルカの素材を証拠に冒険者協会へ危機を訴えに行ったが、麻袋を開けると中身がただの獣の死骸に替わっていたそうだ。

 俺を疑わないのか? とも思ったが、マスターはギルドから飛び出した後、間違いがあってはいけないと、すぐに袋の中を覗いて中身を確認したらしく、その時点では、きちんとデボラルパルカの素材が入っていたそうだ。


 そして道中麻袋を手から放したのは一度きり、そしてその一度とは、その貴族の手の者に絡まれた時であったらしい。

 絡んできた奴の話も要領を得ず、今考えればどう考えても時間稼ぎが目的であったとのこと。

 まあ、要は置き引きのようなものだな。


 そして協会でそんな醜態を晒してしまったところ、兼ねてからその貴族との関係が噂されていた大ギルドの一つ、ギルド『グジャシュニク』のマスターの一言がきっかけで、場の空気が”クリスタリアは嘘つきギルド”といった感じになってしまった。


 一応今日派遣される協会の調査員が何かしらの証拠を見つけて帰ってきてくれれば、その疑いも晴れると思うが、そんな奴らが何の介入もせずに傍観しているとは思えない、とのことだ。


 ならそもそもなんでその貴族はウチを潰したがっているのかを聞いてみると、前にマスターがその貴族に虐げられていた者をギルドに迎え入れて助けたのが気に食わないらしく、それ以来何かとギルドを潰そうと嫌がらせをしてくるのだそうだ。

 そして自分が不利になると、証拠などを金と権力でもみ消す。

 もっとも、今回のような盗難含め、犯罪じみたようなことをするのは初めてのことらしいが。


 まったく……典型的なクソ貴族だな。

 マスターには世話になったし、ここは既に俺にとっては大切な居場所の一つだ。

 やむを得ない事情があるならともかく、そんな屑のわがままのために潰される訳にはいかない。


 しかし、今回のことは組織同士のいざこざ。力でどうにかできることは少ない。

 そうなると、俺にできることも極端に少なくなってくる。

 俺はこの世界に来たばかりで、社会的地位や影響力どころか、人脈すらろくに無いからな……

 だがそれでも何もしないで見ているのは性に合わん。


 俺はマスターにより詳しい事情や、その貴族を含め、関係ありそうな貴族や有名な貴族のこと、その他組織のことなどを、たっぷり3時間ほどかけて聞き出した後、フィルスにも相談すべく、宿へと帰るのであった。


水曜から二泊三日で旅行に行く予定なので、次の更新は遅くなるかもしれません。

一応、明日までに次話を書き終えることができれば、予約投稿しておくつもりではありますが、ダメだったらすみません。

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