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第十七話 『フィルスの実力①』

今話では戦闘まで行きません。

タイトルかな? とも思ったのですが、良いタイトルを思いつかなかったので、分割ということにしました。

……何とも言えない話のタイトルを考えるのって、難しいですよね!


2017/02/15 誤字修正

 おはよう諸君。俺は今宿屋の一室に居る。

 そして目の前には下着姿の犬耳少女の寝顔が……Why?

 いや待て落ち着け。落ち着いて今に至るまでの流れを思い出すんだ。



 昨晩、宿の部屋に入った俺は、相変わらずベッドで寝ることを拒否し続けるフィルスを説得した。

 俺の体は特殊だからフィルスと違って肉体の休息は必要ないんだという事を懇切丁寧に説明したら、フィルスがしぶしぶ折れてくれたのだ。

 そしてフィルスはベッドに寝て、俺は床で寝た。

 で、目が覚めたら俺もフィルスもベッドで寝ていた……うん、わからん。


 (ベッドが恋しくて潜り込んでしまったのか? 戦場を駆けずり回り、ろくな寝床などないことなんてしょっちゅうだったこの俺が? ……いやいやまさか)


 とにかくこの状況はマズい。何がマズいって俺の社会的地位とか信頼とかがマズい。

 今の状況の危険性を察知した俺は、フィルスを起こさないようにそっとベッドから這い出――――――ようとした。

 しかし! なんと! 俺の体はフィルスの足でしっかりとロックされていた!


 (なんでや! これじゃあ逃げ場がないじゃないか!)


 後から考えれば、一旦魔素化してから戻る、という至極簡単な脱出方法があったんのだが、異性慣れしていない俺にそんな状況で冷静な判断などできようはずもなかった。



 そんなことをしているうちに(何もできていないが)フィルスが目を覚ましてしまった。


 「おはようございます、レイジ様」


 …………終わった。


 「あーその、うん。おはよう」


 しかし、フィルスは何事もなかったかのように俺の体から足を外すと、ベッドから出て服を着始めた。


 (ん? え? どゆこと? もしかして異性として全く意識されてないとか? それはそれで複雑なのだが……)


 イマイチ状況が掴めなかった俺は、意を決して本人に聞いてみることにした。


 「なあ、フィスルさんよ」


 「? はい。なんでしょうかレイジ様」


 「いや、怒ったりしないのかね」


 「?? 何をですか? ……あ、もしかして同じベッドに入っていたことを言っておられるのですか?」


 フィルスは心底わからないといった顔で少し考えてから、納得したような顔をした。

 俺としては君のそのリアクションに納得がいかないのだがね。


 「いや、もしかしなくてもそうなんだが……」


 「怒るも何も、レイジ様をベッドまでお運びしたのは他ならぬ私自身ですから。怒る理由がありません」


 …………は? 自分で運んだ? あーつまりあれか。結局昨日の俺が床で寝るというのを了承したのはポーズだけで、本当は全然納得していなかったと。そういうわけか。


 「それはあれか? やっぱり俺がベッドで寝るべきとか、そういう話か?」


 「はい。確かに昨晩はレイジ様の御話を聞いて一度納得はしたのですが、やはり私だけベッドを使わせていただいているのはどうも居心地が悪くて。それによくよく考えたら、そもそも問題有る無いの話ではなく、そもそも従者である私が主人を差し置いてベッドを使うなどあり得ません! しかし、既にお休みになっているレイジ様を起こしてまでする話でもなく……仕方がないのでレイジ様の目を覚まさぬように、そっとベッドまで運ばせていただきました」


 やっぱりそういう事か。というかなぜ俺は運ばれている時に目を覚まさなかったし……


 「まあ、それはわかった。それじゃあなんで一緒に寝ていたんだ? というかなぜ下着? 恥ずかしくはないのかね」


 しかし、この世界にも上の下着があって本当に良かった。無ければ俺は目を覚ました直後、再び夢の世界に旅立つことになっていたかもしれない。


 「えっと……正直、主人であるレイジ様と同じベッドに入るというのは気が引けたのですが、お目覚めになられたときに私が床で寝ていたら、私はレイジ様に嘘を吐いたことになってしまいます。忠誠を誓った相手に嘘を吐くというのは、裏切りに等しいですから、それだけは避けたかったのです。それから、服を脱いでいたのは、森の中を移動して汚れたままの服では、レイジ様の御体を汚してしまうかもと考えて……替えの服ももうありませんでしたし……申し訳ございません」


 うん。まず俺は君の主人ではないのだがね。まあ、それは良いとして、だ。

 嘘、ねぇ……確か昨日フィルスは「わかりました。それでは今晩はベッドを使わせていただきます」と言っていたな。

 つまりあれか。自分がベッドで寝ていれば嘘を吐いたことにはならないから俺をベッドに入れてもセーフだと。そういう事ですか。


 (屁理屈じゃねーか!)


 まあしかし、フィルスにも悪気があったわけでもないし、別に迷惑だったというわけでもない。まあ、なかなか刺激的な目覚めにはなったが。

 それに俺が黙っているからフィルスもだんだんとしょんぼりして涙目になってきちゃってるし……それはそれで、ちょっとかわいいけど。


 「別に怒っちゃいないよ。ただ起きたらあんな状況だったから気になっただけだ」


 俺がそう言うと、フィルスは許してくれるんですか? といった感じでうつむいたまま視線をこちらに向けてくる。


 (こ、これが女の子の必殺技”上目使い”というやつか! しかも涙目で…………くっ! なんて破壊力だ。まるで逆らえる気がしない)


 俺は未だ不安そうにしているフィルスの頭を撫でてやる。すると、ようやく安心できたのか、先ほどまで纏っていた悲しそうな雰囲気が消えたように感じた。

 まあ、雰囲気なんて感じ取らなくても、凄い勢いで振られている尻尾を見ればそんなの一発でわかるんだがな。




 さて、朝から一騒動あった俺たちだが、宿の食堂で朝食をとった後、ギルドへと向かっていた。


 「今日から私もレイジ様と同じ冒険者なのですね。なんだか感慨深いです」


 「まあ、俺もなったばかりだけどな。今日から二人で頑張って行こう」


 「はい!」



 ギルドに着くと、既にマスターが受付で待機していた。今日もギルドにはマスター1人しかいないようだ。


 「おはようございます、マスター」


 「お、おはようございます」


 「おお、待っておったぞ。ほれ、ギルド証じゃ」


 そう言ってマスターは笑顔でフィルスにギルド証を渡す。

 一方、それを受け取るフィルスはかなり堅くなっており、まだまだ緊張しているようだ。


 (まあ、無理もないか。この様子だと指導役も俺がやった方がよさそうだな)


 「マスター。少しお願いが」


 「ん? なんじゃ?」


 「フィルスの指導役、俺に任せてはもらえないでしょうか。未熟なのは承知しておりますが、お願いします」


 「別に構わんよ。レイジ君の実力なら危険はそうないじゃろうし、この間教わったばかりなら教えることもわかっているじゃろうからの。それより、この間受けていったクレミナ草の納品依頼は大丈夫そうか?」


 ……あ、フィルスのことばかり考えていてすっかり忘れていた。


 「あ、忘れてました。クレミナ草は宿にあるので、今持ってきます。その間にフィルスに冒険者のこと、色々と教えてやっていただけますか?」


 「そりゃもちろん構わんよ」



 そうして、マスターなら大丈夫だろうとは思いつつもフィルスを1人にしておくことが不安だった俺は、ダッシュで宿まで戻り、クレミナ草の入った麻袋を持ってきた。


 「はぁ……はぁ……ただいま、もどり、ました」


 「レ、レイジ様? 大丈夫ですか?」


 「はぁ……はぁ……だい、じょうぶ」


 「そ、そこまで急がなくても大丈夫じゃったんじゃがのう」


 「いえ、俺がフィルスのこと心配で急いだだけなんで」


 俺の言葉にマスターは半分呆れたような顔をし、フィルスは尻尾を振って満面の笑みを浮かべている。

 フィルスさんや。そんなに尻尾を振っていては、マスターに気づかれるのではないかと心配になるのでちょっと落ち着きなさい。


 「そこまで心配せんでも大丈夫じゃて……まあ、事情があるんじゃろうというのはわかるが」




 そうしてクレミナ草を無事納品した俺は、ギルドを後にした。

 ちなみにクレミナ草納品の報酬は大した額ではなかった。やはり魔獣退治の方が金になるのかな。


 「さて、フィルス。これからお前の実力を見るため、森へと向かう。何か準備しておきたいものはあるか?」


 「そうですね……武器が無いので、剣が一振りあると助かります。無ければ無いでどうにかできなくもないのですが……」


 ふむ。まあ、そうだわな。無い時にどういった工夫を見せてくれるのかは興味があるが、それはまたの機会にしておくか。


 「剣には何かこだわりはあったりするか? ただの数打ちでは駄目というならそれなりに金も時間もかかるだろうが……まあ、何とかするつもりだ」


 「いえいえ! 数打ちの安物で十分でございます! そもそも私は、そのような高級な剣など手にしたこともございませんので」


 「わかった。それなら助かる。それで? 他には何かないか? 防具とか」


 「いえ、結構でございます。お金もそこまで余裕はないと聞いておりますし。それに、レイジ様は初仕事で、ナイフ一本防具なしでの大立ち回りとしたと聞きました。それならば、私もそれくらいやってのけなければ、レイジ様の従者は務まりません」


 いや~そんなことはないと思うぞ? まあ、強いに越したことはないんだけどさ。


 「別に、無理する必要はないんだからな? 変に怪我でもされた方が困るし」


 「ありがとうございます。ですが、大丈夫です」


 ふむ……無理している感じはしないかな。本当に大丈夫なのだろう。


 ちなみに、エリシュの森から王都までに出会った魔獣は全て俺が1人で相手している。

 フィルスの戦闘力は不明だったし、ちょっと前まで死にそうになっていた女の子に戦わせるのは気が引ける、というのが主な理由だ。

 なので、フィルスの戦うところを見るのは実は今回が初めてだったりする。正直、少し楽しみだ。




 そんなわけで、商業区画で数打ちの1mほどの鉄の剣を購入した俺たちは、近場の森へと向かった。

 だがしかし、あまり浅いところでは他人の目があるかもしれないので、テストをするのは少し奥へ入ったところだ。

 確かに危険性はいくらか増すが、最悪俺が居れば大丈夫だろう。


 何も説明をしないまま森の奥へと入って行く俺の後ろを、フィルスは何も言わずについてくる。

 今回は短期の実力テストなので、帰ってくる時よりスピードも出しており、道もあえて歩きにくいところを選んでいるのだが、フィルスの足取りは非常に軽く、苦も無く俺についてきている。


 (ふむ……全然余裕そうだな。これなら移動に関してはとりあえず合格かな)


 もう移動のテストは必要ないと判断した俺は、あえて歩きにくい道を選ぶのをやめ、森の中を進んで行った。




 そうして森の中を移動すること約半刻。周囲に程よい数の魔獣の気配を感知した俺は、フィルスのテストをすべく足を止めた。


 「さて、ではここで実力を見させてもらおうと思う。準備は良いか?」


 「はい。いつでも大丈夫です」


 「では、戦う前に1つ。今周囲にいる魔物の数と種類をわかる範囲で俺に教えてくれ」


 「そうですね……獣型の魔獣が8体ほどと、これは……ゴブリン、でしょうか。それが12体。そして少し離れたところにも3体ほど。これは、残念ながら私では種類までは判別できません」


 (ほう……凄いな。そこまでわかるとは。やはり鼻や耳が良いのだろうか?)


 現在、俺が気配察知でとらえている魔獣は、狼型が8体、ゴブリンが12体、それから更に奥の方に大型の魔獣が5体。

 フィルスが察知した正体不明の魔獣というのはおそらくこの大型魔獣のことだろう。

 俺の気配察知の届くギリギリのところにいるこの魔獣のことまである程度察知できているのなら文句なく合格と言えるだろう。

 ちなみにこの魔獣の正体は俺にもわからない。出会ったことのない魔獣の気配は、察知しても漠然としかわからないからな。もしヤバそうなら俺が相手をすることにしよう。


 「では俺は隠れて様子を見ているからな。いざとなったら出てくるつもりだが……健闘を祈る」


 それだけ言うと、俺は近場で最も背の高い木の上に登り、気配を殺す。


 すると、程なくして狼型の魔獣の気配が変わり、こちらへと進路を移したのがわかった。

 おそらくこちらに気が付いたのだろう。


 (さて、お手並み拝見といこうじゃないか)


そうして今まさに、フィルスの冒険者としての初陣の幕が切って落とされようとしていた――――――


というわけで、次回へ続きます。


明日明後日は予定があるので投稿できるかわかりませんが、なるべく急ぐので許して下さい。

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