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第十四話 『仲間ができた』

お待たせしてしまい、申し訳ございません。


2017/02/09 微修正

2017/05/22 日本語の間違いを修正

 自分の命を救い死んだ一人の男。そしてその死を悼み、悲痛な叫びと共に涙を流す一人の少女。

 しかし次の瞬間、泣きじゃくる少女の前には死んだはずの男が立っていた。


 「な、なんで……あなたは確かに……」


 「言ったはずだよ、大丈夫だって。あの言葉は別に君を納得させるための方便なんかじゃないからね」


 「でも、今確かに消えて……消えた?」


 少女も俺が生きていることがわかり幾分か冷静さを取り戻したのか、俺の体が霧散し消滅したことに疑問をおぼえたようだ。


 「気が付いたか。そう、普通は死んでも死体が残るよね? ほんとはその時点で違和感をおぼえて欲しかったんだけど……まあ、それは流石に無茶な話かな。俺だって自分のせいで誰かが死んだら悲しいし、冷静でいられるかわからない」


 「あの、こんな言い方は失礼かもしれないですけど……なんで、生きてるのですか?」


 そう言う少女の表情には喜びと戸惑い、それから未知への僅かな恐怖が見て取れた。


 「ふむ。その疑問に答えてあげることはできるけど……その前に一つ、約束して欲しいことがある」


 「……な、なんですか?」


 「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。ただ、俺が死ななかった理由っていうのは、俺の他人に秘密にしておきたいことでね。約束して欲しいっていうのは、それを誰にも言わないでくれるかい? ってだけだよ」


 俺がそう言うと、少女はホッとしたように息を吐き緊張をほんの少し緩ませる。本当はもう少しリラックスして欲しいけど……まあ、無理だよね。


 「えっと、それは大丈夫です。言うなというなら誰にも言いません。例えどんな仕打ちを受けたとしても、墓まで持って行きます」


 「い、いや、流石に君が苦しい思いをしてまで秘密にしておくことはないから。どうしてもの時はキリキリ吐いちゃっていいから」


 「いえ! 貴方は私の命を救ってくださいました。それだというのに貴方が私への温情で話して下さるという秘密を、私が私のために漏らすなど……万死に値します! 大丈夫です。このフィルス=レーヴェ・ゼムレニア、たとえ地獄の業火に焼かれようとも、あなたの秘密は守り通して見せます!」


 お、おう。なんかものすごい重く受け止められてしまった。そんな絶対に言っちゃいけない秘密とかではないんだけどね……ていうかこの娘の名前、フィルスレーヴェっていうのか。苗字もあるみたいだけど、吸血鬼とか獣人にも貴族とかっているのかな。可能性としては吸血鬼側の方が高そうだけど、なんとなく。


 「え、えっと……とりあえず、こっちも自己紹介しちゃうね。俺の名前は葛城(かつらぎ)玲仁(れいじ)。レイジが名前ね。苗字は秘密だから名前で呼んでね」


 「! はい! レイジ様というのですね。とても素敵な名前だと思います! 私も改めまして、フィルス=レーヴェ・ゼムレニアと申します。あ、字はですね――――」


 フィルスレーヴェさんは近くにあった棒で地面にわざわざ名前を書いて教えてくれた。あ、フィルスレーヴェじゃなくてフィルス=レーヴェだったのか。名前に=とか入ってるとかっこよく見えちゃうのは俺が日本人だからなのかなぁ……でもまあそれなら呼び方はフィルスさんかレーヴェさんの方がいいのかな? 元の世界では世界中飛び回ったが、残念ながら名前に=の入った人と話す機会はなかったし、どう呼んでいいかよくわからん。


 「そっか、えっと……なんて呼んだらいいかな? フィルスさん? レーヴェさん? それともフィルス=レーヴェさんの方がいいのかな?」


 「お好きなように呼んで頂いて問題ありません。それに私のような者相手に敬称も不要です。どうぞ、呼び捨てにしてください」


 う~ん。こっちとしては会ったばかりの女の子を呼び捨てにする方がハードル高いんだけどな……というかなんでさっきから彼女はこんな腰が低いのだろうか。確かに俺は彼女を救ったのかもしれないが、それにしても過剰なのではないだろうか。出会ったばかりでどんな奴かもわからない俺に……

 というか俺、さっきから子供相手みたいな気分で話しちゃってるけど失礼じゃなかったかな? 俺は精神年齢は30歳だけど外見はこの子より少し上程度だからな。でも師匠の影響か、敬語って苦手なんだよね……特に自然に敬語が出てこない相手だと。


 「えっと、それじゃあフィルスさんって呼ばせてもら――――いますね。え~と、それじゃあ俺の生きていた理由だけど、あ、いや、ですけど」


 「あの、私相手に敬語は必要ありませんので、どうか話しやすい口調でお話し下さい」


 「うっ……ごめん。敬語って苦手で。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね。それじゃあ改めて、俺の生きていた理由だけど――――――」


 そうして俺は自分の持つスキル、魔素化と肉体構成魔素固定化について、種族的な部分を避けて簡単に説明した。


 「つまり、レイジ様の御体は”魔素”という魔力の元になるもので構築されており、肉体の死そのものにはあまり意味がない、という事ですか?」


 ほう。一回説明しただけできちんと理解できているあたり、彼女は理解力や適応力が高いのかもしれない。フィルスさんはクレアさんやエルバルトさんと違ってまだ若いから、新しいことを受け入れられるだけの柔軟性や余裕があるのかもしれないな。

 さて、俺の説明はこんなところかな。後は――――――


 「まあ、そういうわけだけど……そういえば、君はこれからどうするんだ? さっきは確か、居場所も生きる術もないって言ってたよね? 今後、生活の当てはあるのかい?」


 「そ、それは……」


 やっぱりか。先ほどまで彼女は生きることを諦め、死のうとしていた。それは彼女の人を殺したくないという優しさからくる行動ではあったが、それだけが理由ではなかったのだろう。

吸血鬼はヒト族や亜人から嫌われている。それは半吸血鬼(ダムピール)も同じのはずだ。そしてこんなところで吸血衝動と一人で向き合っていたあたり、おそらく吸血鬼側とも良い関係ではないのだろう。もし吸血鬼が半吸血鬼を受け入れているのなら、この成人時の吸血衝動に対して対策を講じていない訳がない。

 それに、もしかすると親もいないのかもな。そうでなければ一人でいる理由もわからないし。まあ、獣人の親の方と一緒に居ないのはわかるが。今の彼女の反応を見る限りでは、いないと考えた方が妥当だろう。


 「良ければ、君のことも、少しでいいから聞かせてくれないか? 会ったばかりの怪しい男では嫌かもしれないし、力不足かもしれないが、良ければ君の力になりたい」


 「そんな! そんなことないです。レイジ様は会ったばかりで得体のしれない、それも半吸血鬼の私にこんなにも優しく接してくださっています。それだけでも信じるには十分な理由になります。それに、力不足などではありません。先ほど私を救ってくださったレイジ様の優しくも行動力のある御姿を見れば、それはわかります。どうぞ、何なりとお聞き下さい」


 そう言うと彼女は地面に片膝をつき、恭しく頭を垂れる。

 いや、だから腰が低すぎだって。片膝つくって……相手に忠誠を誓うときにとるポーズとかじゃないの? それともこっちの世界では違うのか? できれば違っていてくれ……


 「えっと、じゃあとりあえず1つ。なんでさっきからそんな腰が低いんだ? 俺に助けられたことに恩義を感じてくれているのはわかるんだが……それにしたってへりくだり過ぎな感じがするというか……」


 「それは……当然のことです。私は獣人で吸血鬼ですから……」


 そうか……この世界では獣人を含む亜人は差別の対象。そしてその亜人にすら嫌われている吸血鬼。

 それだけでも相当なものだろうに、彼女は半吸血鬼なせいで唯一味方でいられる吸血鬼からも侮蔑の目で見られる。誰からも認められない存在。

 そんな境遇のせいで、自分は誰よりも下位の存在であると思ってしまっているのかもしれないな……


 「言いにくいことを聞くようだが……家族は?」


 「はい。父は私が生まれるとすぐに母と私を里から追い出したそうです。その母も、私が10歳の時に病に倒れ、間もなく息を引き取りました」


 「そうか……すまない」


 「いえ、大丈夫です。最早過去のこと。心の整理は済んでおります」


 やっぱり家族はいなかったのか。しかし半吸血鬼の娘が生まれた途端に妻と娘を捨てたっていうこの子の父親には腹が立つな。詳しい事情を知らないから俺からは何も言えんが、もしやむを得ない事情があったとしても、フィルスにはそいつを1発殴る権利くらいはあってもいいと思う。


 「では最後の質問だ。今後、人間からの吸血が必要になることはあるか?」


 俺の問いかけに、フィルスは一瞬ビクッとして黙りこくる。


 「あるんだよな? 正直に言って欲しい。こちらに気を遣うならなおのことな」


 「……半吸血鬼(ダムピール)は、成人すると人の血でしか渇きを癒すことができなくなります」


 「吸血の頻度は?」


 「個体差もあるそうですが、およそ3日に1度。量はさほど必要ありませんが、長く空けるとそれに比例して量も増えます。そして10日ほどで禁断症状が出始め、15日ほどで今日とほぼ同じ状態になります」


 ……思ったより深刻だな。これでは血を供給できる人間が常にそばに居ないと死んでしまうだろう。


 「血は直接の摂取以外の方法ではだめなのか?」


 「流して間もない血なら一応は大丈夫ですがその分必要な量が多く、やはり吸血による摂取が最も好ましいと言われています。これは吸血鬼(ヴァンパイア)も同じで、生き血に含まれている何らかの物質が必要らしく、体外に出ると時間経過と共にその物質が大幅に減少してしまうそうです」


 ふむ。これに関してはその物質がわからないと対策も取りにくいが……色々試してみれば何か方法も見つかるかもな。


 「しかしそうなると、血の従者みたいなのがいなければ生きるのすらままならないのではないか?」


 「……はい。ですので半吸血鬼(ダムピール)は基本的に長生きできません。吸血鬼(ヴァンパイア)と違って、秘術により人間を従えることもできませんし」


 吸血鬼には人間を従える能力があるのか。元の世界ではそういう話もいくつか読んだことがあるが、その能力は厄介だな。吸血鬼が嫌われる理由の一端には、その能力への恐怖もあるのかもしれないな……


 「では色々わかったところでもう一度聞くが、生活の当てはあるのか?」


 「…………ありません」


 やっぱりな。ま、乗り掛かった舟だ。最後まで面倒をみようじゃないか。何よりここで放り出すのでは後味が悪いし、先ほど散々苦しい思いをした理由が無くなってしまうからな。


 「それなら、俺と一緒に来るか? 別にずっとじゃなくてもいいぞ? 生活が安定して送れる当てが見つかったのならそちらを選ぶといい」


 ……つい咄嗟に言い訳をしてしまった。だが許せ。生まれて早30年。俺には女の子と一緒に生活をした経験などないのだ。それどころか、仲良く話をしたことすらあまりない。早い話、俺には異性に対しての耐性がほとんどない。師匠と生活していた時も、勉強は師匠に教えてもらっていただけで学校になんて行ってないし。


 「あの、ご迷惑では……正直生活の当てなど、見つかる気が……」


 「わかっているさ。別にこっちだって一時預かりみたいな適当な気持ちで言っているわけではないし、見つからんだろうとも思ってはいる。ああ言ったのは俺は別に君を縛るつもりはないと伝えたかっただけだ」


 俺がそう言うと、フィルスは黙ってしまった。雰囲気からして、どうやら真剣に考え込んでいるようだ。

 俺がそのまま黙って待っていると、考えがまとまったのかフィルスは再び口を開いた。


 「申し出はありがたいのですが、それではレイジ様には何のメリットもないのではないでしょうか?」


 「そんなことはないぞ? 俺は確かに冒険者ギルドに属しているし、仲間と呼べる人も何人かはいる。だが俺は彼らにまだ本当の意味で心を開くことはできない。秘密は……明かせない。だから、そういう仲間が欲しかったんだ。色々相談して、共に歩む仲間が。俺は君以上に異端だからな。本当の意味では、俺はまだ独りぼっちなのさ。だから……よければ俺の仲間になってくれないか?」


 そう言うと、フィルスはずっと下げていた頭を上げる。そんな俺を見つめる彼女目には、不安と期待が入り混じっているようだった。


 「そのような大役、私などでよろしいのでしょうか?」


 「ああ。むしろ君のような子の方がいい。言い方は悪くなってしまうが、君には俺以外頼れる相手がいないだろう? ならば裏切られる心配もない。もちろん相性なんかもあるだろうから初めからなんでもペラペラ話すつもりはない。だから本当の意味で仲間になるのは、しばらく一緒に居て、お互いが大丈夫そうかなと思ってからになるだろうな。だからこれは、仮契約みたいなものだ。ようはお試し期間だな。お気軽にご参加くださいみたいな?」


 「ふふっ……適当な気持ちでないと言いながら……お気軽にって……ふふふっ」


 俺の言葉にフィルスの表情が緩む。

 む? 可笑しかっただろうか。おちゃらけ過ぎたかな? まあでも、ようやく笑ってくれたようで良かった。さっきからずっと余裕のない感じだったからな。これならもう大丈夫だろう。


 「はっ! も、申し訳ございません。せっかくの申し出だというのに私は……」


 しかしすぐにせっかく笑ってくれた彼女の顔が、先ほど以上に緊張した面持ちになってしまった。そんな気にすることはないと思うのだが、俺が黙っていたからバカにしていると勘違いされたとでも思ったのだろうか。


 「いや、良いんだ。場を和ませようと少し茶目っ気を見せてみただけだからな。笑ってくれたのなら、むしろ成果は上々といったところだからな。それで、どうする? 別に返事はすぐでなくてもいいぞ? 考えたいならまた来るからその時でも――――」


 「い、いえ! それには及びません」


 フィルスは俺の言葉を慌てて遮ると、再び頭を垂れ、俺に(ひざまず)く。


 「このフィルス=レーヴェ・ゼムレニア。この身の全てを貴方様に捧げます。ご期待に添えるよう尽力いたしますが故、どうかよろしくお願いします」


 か、硬い。そこまで畏まらなくてもいいのだが……まあ、彼女としては俺しかいないのだから必死にもなるか。ま、この関係の改善は追い追いかな? 時間が解決してくれるってこともあるだろうし、ひとまずお互い慣れるまでは放っておいていいか。


 「お、おう……まぁ、とりあえずよろしく」


 「はい! よろしくお願いします!」


 元気よく返事をした彼女の顔には、憑き物が落ちたような晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいた。

フィルスちゃんが仲間になりたそうにこちらを見ている。

▶仲間にする

 仲間に誘う

 むしろ仲間にしてもらう


 というわけで仲間ができました!

 別にギルドの皆が仲間でない訳ではないのですが、秘密の共有できる仲間ではなかったので。

 仲間もできたことですし、そろそろストーリーも進み始めるかな?

 といってもまだざっくりとしか決まっていないのですが。

 それでこの後の話でなのですが、きちんと設定を加味しながら進めていかなければいけなかったりします(予定)。

 なので時間がかかってしまう事もあるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。


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