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第十一話 『魔法陣を解析してみた』

今回は来月の旅行に備え、試しに18時指定で予約掲載機能を使ってみました。上手くできてるでしょうか? ちょっとドキドキします(笑)

はい、どうでもいいですよねすみません。ではどうぞ。


2017/01/30 誤字修正

2017/01/30 最後の方の時間に関する描写を修正。設定忘れて素で書いてしまいました。すみません……

2017/02/07

・時間の単位の説明、前にしてましたね。1/30に慌てて直した意味なかったです。というわけで再修正。

・行間修正

2017/03/14 誤字修正

2017/04/28 クレアさんのセリフの口調を一部修正

 大量の荷物を背負ってギルドに帰ってきた俺は、それを見て何か聞きたそうにしている皆を尻目に自室へと向かうと早速荷物を紐解き始めた。気になっている皆には悪いが、俺もこの荷物の中身が気になっているんだ。今は自分を優先させてもらう。


 荷物を床に並べた俺はとりあえず魔法陣の書き写された紙を探すことにした。魔導具なんかも気にはなるが、効果もわかっていない魔道具をいじるよりは魔法陣の本の方が有用であると判断したためだ。

 本を1冊ずつ見ていくとそのほとんどは研究の記録のようだったが、半数ほど見たところでそれらしき本を発見した。

 そこには魔法陣の写しとその効果、その他備考がちらほらといった感じで書き込みがされており、若かりし頃のクレアさんの研究への熱が伝わってくるような気がした。彼女の努力の結晶、ありがたく使わせてもらうことにしよう。


 クレアさんに借りたランタンの明かりを頼りに本を読み進めていくと、そこには下位四属性に加え、光と闇属性の魔法陣まで描かれていた。とりあえず俺は試しに昨日最初に使ったウォーターボールの魔法陣を見てみることにした。


 (ふむ。やっぱり魔法陣に書いてあるのは神代言語っぽいな。え~と......なんだこれ? 文章っていうよりただの単語の羅列にしか見えんな。書いてある単語は、水、球、静止、加速......だけかな。他はよくわからん記号だか模様にしか見えん。これにも何か意味があるのか? 研究している人と一緒に見ていければ早いんだろうけど、俺が神代言語を読めるなんて教えるわけにもいかないしなぁ)


 などと心の中で愚痴をこぼしながらも、謎を解き明かすべく他の魔法陣も見ていった。

 そしてようやくすべて読み終わった頃には、閉じた雨戸の隙間から朝日が差し込んできていた。どうやらずいぶんと長いこと読みふけっていたらしい。だがその甲斐あってこの魔法陣というものの持つ法則はだいたい把握することができた。あとは既存のものでない、新しい魔法陣を作ってみて無事起動すれば無事完了といったところか。

 正直クレアさんの研究成果がなければこんなに早く読み解くことはできなかっただろう。それだけ彼女の研究は凄いものであった。よく神代言語が読めないのにここまでやったものだと感心する。


 「さて、寝るか」


 魔法陣の解読が完了して一気に気が緩んだ俺は、そのままベッドに横たわり意識を手放した。




 目を覚まして窓の外を見ると、お天道様は既に下りに入っており実に中途半端な時間となっていた。


 (こりゃ今日はもう仕事は無理かな?)


 この時間から魔獣を狩りに行ったところで、帰ってくる頃には冒険者協会は既に買取を終了してしまっているだろう。俺に素材を保管しておける魔導具や倉庫があれば狩りでもよかったのだが生憎俺にそんな大層なものはない。

 そこで俺はガイスさんに魔術付与のされた袋を見せてもらおうと思っていたのを思い出した。あれが再現できれば俺の荷物の問題も解決する。思いついたら即行動だ。


 というわけで俺は早速ギルドの1階へと降りてきていた。しかし1階にはエルバルトさんを含め誰の姿もない。居るのは休憩スペースの注文を一手に引き受けてくれている料理人さんだけだ。

 居ないものは仕方がないので俺は2階へと戻りランタンを持つと、クレアさんの店へと向かった。本当はまだ行くつもりはなかったのだが、ちょっと作ってほしいものがあるからな。必要な金額の確認がしたかったのだ。




 クレアさんの店につくと、店の中にはなぜかエルバルトさんがいた。


 「あれ? マスターなんでこんなところに居るんですか?」


 「おお、レイジ君か。そりゃこっちのセリフだわい。儂はこのクレア婆さんとは昔からの腐れ縁でここにはたまに来ておるのじゃが、お主のような若いもんがこんな汚い店に何の用じゃ?」


 「汚い店で悪かったね。良いんだようちは。この外観でも来てくれる客を選んでるのさ」


 辛辣なセリフとは裏腹に二人はなんだか楽しそうにしている。二人とも歳が近そうだし、昔からの腐れ縁なんて言ってるけど色々あったのかもしれないな。気の知れた仲って感じだし。


 「それで、さっそく何かわからないことでもあったのかい?」


 俺が二人の様子を眺めていると、クレアさんがこちらに声をかけてきた。


 「あ、いえ。ちょっと欲しいものがありまして。昨日の資料を読んでわかったことの試験も兼ねて作っていただけないかと。と言っても手持ちがあまり無いので今回は確認だけですが。あ、あとランタン。ありがとうございました」


 そう言って俺はクレアさんにランタンを返す。


 「はい、どういたしまして。それで、試してみたいことっていうのはなんなんだい? 昨日の今日だっていうのにもう何かわかったのかい?」


 「はい。本当はまだちょっと情報が足りないのですが。まあでも一応形にはなるかなと」


 「何が足りないんだい? こっちで用意できるものなら用意するよ?」


 「はい。あの、魔術付与のされたものが沢山入る袋があるじゃないですか。あれを今一度見てみたかったんですよね。もしかしたら何かわかるかもって」


 「ん? あの遺跡からたまに見つかるやつかい? それならあたしも一つ持っているよ。ちょいと待ってな」


 そう言ってクレアさんはそのまま店の奥へ引っ込んでいった。

 クレアさんが店の奥へ行くと、マスターが話しかけてきた。


 「さっきから婆さんとなんの話をしておるんじゃ? 儂、置いてけぼりなのじゃが」


 すみません。ぶっちゃけ早々に存在を忘れていました。


 「えっと、マスターはクレアさんが昔魔法陣について研究していたのはご存知でしょうか?」


 「うむ、知っておるよ。儂と婆さんが知り合ったのもそれがきっかけじゃったしの」


 へぇ、そうだったのか。てことは昔研究に協力したりもしたのかな?


 「その研究を昨日俺が引き継いだんですよ。まあ引き継いだと言っても、店に来て魔法陣に興味があるって話をしたら資料をいただいたってだけなんですけど」


 俺がそう話すとマスターは少しばかり驚いた顔をした後、なんだか納得したような顔をしてしきりに頷き始めた。


 「ふむ。あの婆さんもなかなか見る目があるのぅ。ま、人の心の中が見えているように感じることが多い薄気味悪いババアじゃし、当然と言えば当然かもしれんがの」


 「薄気味悪くて悪かったね。あんたは顔に出やすいからわかりやすいんだよ。レイジ君もそこそこわかりやすいけど、あんたはレイジ君と違って全く隠す素振りもないからね。顔を見ているだけで会話が成立するくらいさ」


 うぐっ。やっぱり俺はわかりやすいのか……


 「っと、はいレイジ君。これだろう? 見たかったっていうのは」


 そう言ってクレアさんはガイスさんの持っていたものとよく似た小さな袋を渡してくれた。魔素の気配も感じるし、本物っぽいな。


 俺は早速袋を裏返したり魔素の気配や流れを探ったりあえて魔素を流し込んでみたりしながら袋の仕組みを探っていく。すると、魔素を意図的に流し込むと同時に袋が淡い金色の光を放ち、魔法陣が浮かび上がってきた。

 金色の魔力光? 六属性以外にも属性があるのか、それとも別の要因なのか。とにかく魔法陣を読んでみよう。

 俺はクレアさんやマスターが固唾を呑んで見守る中、魔法陣の内容を読み取っていく。


 (え~っと......こりゃ複雑だな。記号で単語がつなぎ合わさり、別の意味を成しているものまである。なんだかカタカナで書いてある英語を見ているようで実にわかりにくい)


 「クレアさん。何か書くものとかないですか?」


 俺がそういうとクレアさんは凄まじいスピードで店の奥へ入って行き、紙と羽ペン、インクを持ってきた。その曲がった腰でよくそのスピードが出せるな......ある意味すげえわ。


 「これでいいかい?」


 「あ、はい。大丈夫です」


 俺はその紙に魔法陣のことをメモしていく。流石にここまで面倒な構成だと、メモしながらでないとやってられない。


それから約20分後、魔法陣の解読を終えた俺は、袋へと流す魔素を止めた。しかし、それと同時に袋から何かが割れるような嫌な音がしたと思ったら袋がびりびりに裂けてしまった。


 「へ? あ、え?」


 俺はあまりのことに完全に固まってしまった。なんで? なんで裂けちゃったの? 弁償? 弁償だよな。でもこれって買えないんじゃ……どうしよう。


 「いいんだよそんなの気にしないで。形あるものはいつか壊れる。今がその時だったというだけ。私としては、むしろあなたが作業を終えるまで持ちこたえてくれたことに喜びすらおぼえているわ。そんなことより何かわかったの? 色々メモしていたみたいだけど。あれ、魔法陣だったわよね? どうやって展開したの? 私が魔力を流した時は何も起きなかったわ。それに金色の魔力光なんて見たことないわ!」


 クレアさんは俺を慰めながらもすさまじい勢いで質問を飛ばしてくる。でも、怒ってないのかね?


 「あの、怒らないんですか? 弁償とか......」


 「当たり前さね! 私にとってはね、そんなちょっと便利なだけの袋なんかよりも目の前にある新しい知識の方が何百倍も価値があるんだよ。あの袋は未知の塊であったが故に価値があったけど、あなたが私以上の何かをあの袋から読み解いてくれたのならそれで十分。現に私は今、すっごく興奮しちまってるよ! 諦めてしまったはずの夢への熱が、私の中で蘇るのを確かに感じたんだ! ああ、そういえば何か作りたいものがあってこれを見たとかいってたね? どうだい? 欲しかった情報は手に入ったかい?」


 クレアさんはどうやら袋が破れてしまったことに関してはほとんど気にしていないようで、むしろ俺の解読結果に興味津々だった。長年研究していただけのことはあるってことか。これは是非とも彼女の期待に応えなくてはな。


 そして俺も新しい発見にテンションが上がっていたのだろう。秘密を隠すことも忘れ、今わかったことを興奮気味に話し始めた。


 「とりあえずわかったことを話していきますが、俺は専門的な知識のない人間ですので何かあれば遠慮なく発言してください。ではまず袋に付与されていた魔法陣ですが、属性は……そうですね。空属性とでも言うべきでしょうか。他の魔法陣では属性が書き込まれていた基礎の部分に、空間制御についての書き込みがありました。それからこの術式が魔力を流し込まなくても機能し続けていた理由ですが、こちらは予想通り空気中の魔素を吸収して利用していたようです。で、俺が欲しかったのはこの大気中の魔素を利用する術式でした。これがあれば自動で半永久的に稼働し続ける魔道具を作ることができますからね」


 俺が実に満足げに話を終えると、クレアさんとマスターはぽかんとした顔をしてこちらを見ていた……ん? どうしたんだろ。二人ともそんな顔して。


 「えっと、レイジ君」


 「はい。なんでしょうクレアさん」


 「あなた今、基礎部分に空間制御について書いてあったって言ったかしら?」


 「? はい。言いましたね」


 それがどうかしたのだr……あ、やべっ


 「あなたはこの神代の言語を読むことができるの?」


 クレアさんは信じられないものを見るような目で俺を見てくる。あーどうしよ。なんて言い訳したら納得してくれるかな。正直言い逃れのしようもない気もするけど。諦めるにはまだ早い。うん。


 「ああごめんなさいね、変なこと聞いて。でも安心して。私も、この横にいる馬鹿たれも、あなたが秘密にしたいというなら絶対に他言したりしないわ」


 そう言うとクレアさんは横にいるマスターに凄まじい眼光を向ける。正直ちょっと怖い。


 「そんな目で見んでも言いふらしたりせんわい。ましてや彼はウチのギルドの一員じゃしの」


 マスターはそう言うと俺の目を見て、大丈夫だと言わんばかりの表情を浮かべる。


 ……これなら、大丈夫かな。誰にも言わないんじゃやりにくいし、この二人には他の人に言えないレベルの秘密も多少なら話してしまってもいいかもしれない。


 「わかりました。大丈夫です……確かに俺は神代言語を読むことができます」


 俺がそう言うと二人は驚愕の表情を浮かべる。


 「それは、いったいどこで習得したのかしら?」


 「あーえっと、まあ簡単に言えば女神さまに押し付けられたというか、話すのにこっちの言語使うのが面倒だからおぼえろ、みたいな感じで」


 「は? 女神様から? 女神さまとお話し? え?」


 クレアさんは俺の言葉にかなり困惑している様子だ。マスターなんて言葉すら出でいない。

 やっぱりこっちの世界では神の存在が認知されているとはいえ、話をするっていうのはそうそうあることではなかったようだ。まあ、そりゃそうですよね。


 「まあ、そんなことはどうでもいいんですけどね。そんなことより今から魔法陣を描きますので、それを組み込んだ魔導具が作れるかの検証をお願いできますか?」


 「はっ! え、あ、もちろんよ! むしろ是非やらせてほしいわ! 費用の心配も無用よ! 新しい魔導具の製作に携われるなんて職人冥利に尽きるってものだわ!」


 俺の言葉にハッとした様子で我に返ったクレアさんは俺の両手をがっちりと掴んで了承の意を伝えてきた。申し出は非常にありがたいが、顔が近い。


 「えっと、それでは早速描いちゃいますので、その……」


 俺が掴まれた手に視線を送ると、クレアさんは慌ててその手を放す。


 「ごめんなさいね。私としたことが年甲斐もなくちょっと興奮しすぎちゃったわ」


 まあそれも仕方ないだろう。長年研究し続けてきたことの答えが目の前に転がっていたら誰だってテンションが上がる。


 「そういえば、さっき空気中の魔素とか言っておったが、それはなんじゃ?」


 クレアさんが落ち着いたところでいつの間にか再起動していたマスターがそんな質問をしてくる。どういうこと? もしかしてこの世界の人たちは魔力の回復原理とか魔素について知らないのか?


 「えっと、空気中を漂う魔力の元というか、そんな感じのものですけど……もしかして認知されてないんですか、これ」


 「魔力の元じゃと!? どういう事じゃ!? 魔力については今でも各国で研究が進められておるが未だにそれが何なのかはわかっておらん。お主にはそれがわかるのか?」


 おお? 今度はマスターを興奮させてしまった。しかし魔素を利用した魔導具を見ないのは扱いが難しいからかと思ってたが、そもそも存在自体認知されてなかったとは。もうこの際だからこの二人には色々ぶっちゃけちゃってもいいから言ったらまずいことを判断してもらおうかな。


 「えっと、はい。ついでに言えば魔力操作のスキルレベルが最大値まで上がると魔素干渉というスキルに上書きされて、それも最大値になると魔素操作というスキルに上書きされます。俺は今その段階です。さっき魔法陣が起動したのもおそらく魔素を流し込んだからかと。元々あの魔法陣自体、魔力ではなく魔素を原動力にするものでしたから」


 「ちょ、ちょっと待って。規格外のことが重なりすぎて頭痛くなってきた……」


 「安心せい。儂もじゃ」


 そんなことを言いながら二人は頭を抱えて天井を見上げている。ふふふ、残念ながら二人に俺のために人柱になってもらうことは既に決定済だ。この程度で動揺してもらっては困る。といっても今の段階でこれ以上話すことはないけどな。二人が気持ちや情報の整理をしている間に俺は魔法陣を描き上げてしまおう。


 そうして俺が魔法陣を描き終えると、二人は既に落ち着いていたようで俺の手元をガン見していた。そんなに興味がおありですか。まあ、でしょうね。俺だって興味津々だったし。


 ちなみに言うと、今俺が描いているのは風呂を沸かすための魔法陣だ。既存の風呂にお湯を張るのだと範囲指定が難しかったので、今回は土魔法で浴槽を作るところからお湯を沸かし、保温し続けるところまで全自動で行ってくれる持ち運び用携帯風呂を作ることにした。

 ただこの魔法陣には1つだけ欠点がある。それは魔素でしか動かないことだ。空気中の魔素を使うんだからいいじゃんと思うかもしれないが、そう簡単な話ではない。確かに実行中は空気中の魔素を使うのだが、起動と停止には術者本人が魔素を流し込む必要があるのだ。まさか起動しっぱなしにするわけにもいかないしな。俺には街や街道に風呂を設置しまくるような酔狂な趣味は無い。そもそも離れたらお湯が冷めるしな。つまり実質俺専用になってしまうわけだ。

 ま、試作機だしな。この辺は要改良という事で。


 「できました。現状だと魔力と魔素の魔法陣の共生が難しくてすぐにできそうになかったので、とりあえずこれは魔素を扱える者にしか使えないのですが、どうでしょうか?」


 俺がそう言って描いた魔法陣をクレアさんに差し出すと、クレアさんはそれをまじまじと見つめる。


 「これは......確かに既存の魔法陣ではないね。完全にオリジナルだ。いいだろう。とりあえず試しに作ってみよう。といってもあたしじゃテストできないからね。試運転は任せるよ?」


 「はい。よろしくお願いします」


 俺の言葉にクレアさんは一つ頷く。


 「それじゃあ早速だけど、これはどういう用途で使う魔法陣なんだい? 形状の希望なんかはあるかい?」


 「そうですね。まずこれは何もないところに風呂を作る魔法です。携帯用風呂って感じですかね。その魔法陣を起点に風呂を形成するので、設置しやすく小型のものが好ましいですかね」


 「ふ、風呂? それだけかい?」


 俺の言葉にクレアさんが驚きの声を上げる。なんでそんな驚いているんだろう。風呂は大事でしょう!

 クレアさんの言葉に俺が何言ってるんだろうみたいな顔をしていると、クレアさんは突然大きな声で笑い始めた。


 「はっはっはっ! 世紀の大発明とも言うべきこのオリジナル魔法陣の構築技術を使って最初に作ったのが風呂って。あんたはそんなことのために魔法陣を研究していたのかい?」


 言われてみれば確かにそうかも。この世界に来て日が浅い俺にとっては魔法の技術を身に着けたくらいの感覚だったけど、こっちの世界の人たちにとっては常識を覆すほどの大発見なのだろう。


 「いえ、それだけというわけではないのですが......」


 「そんなのどっちでもいいさ! いや~それにしても最初からこれとはね。まったく、あんたからは野心ってもんを微塵も感じないよ! はっはっは!」


 そう言って笑うクレアさんは実に楽しそうだ。俺の感覚がずれているのはもうこの際仕方ないので、楽しそうならもうそれでいいや。


 「あ、それとさっきの袋の魔法陣もぱぱっと描いちゃうので、できれば作っていただけると嬉しいのですが」


 アイテムボックス的なものは俺の魔法陣学習の目的の1つでもあったからな。ぜひとも作ってほしい。


 「全然かまわないよ。その袋に関しては、あたしの分も作っていいかい?」


 「ええ、全然いいですよ。世間に広がらないのなら俺は別に何でもいいですから」


 俺がそう言うと突然クレアさんは少し怒ったような顔をして俺に詰め寄ってきた。


 「そういうわけにはいかないよ! レイジ君は世間知らずっぽいし知らないのかもしれないけど、新規の魔法陣や魔法っていうのは開発者が魔導管理協会に申請することで一定期間それによって得られる利益や権利を独占できるもんなのさ。そしてそれによって莫大な利益と、魔法を作り上げた者としての名誉が得られる。だからみんな必死に研究するし、他人に自分の技術を開示したがらない。レイジ君がしたことはね、今までのただ魔法陣を組み合わせて偉い顔していた魔法開発者なんて鼻で笑えるくらい凄いことなんだよ。別に野心を持てなんて言わないけどね、自分のしたことの価値くらいは自覚しとかなきゃだめだよ」


 お、おう。魔法陣には特許みたいなのが存在するのか。確かにそういう事ならほいほい他人に渡すわけにもいかないわな。でも申請か……申請なんてしたら絶対噂になるよな。それは嫌だなぁ。


 「えっと、わかりました。でも袋自体は壊してしまったお詫びみたいなものなので自分の分を作るだけなら気にしないでください。販売や譲渡をする場合は俺に断ってからでお願いします……ってことで良いですかね?」


 「ああ、それならまあ問題ないね。でも魔法陣を見られて盗まれたりしたらことだからね。使い終わったらこの紙はそっちで管理しておくれ。魔導具自体はすぐに作れるから今から作っちまうよ。そうだね、1刻くらいしたらまた来てくれるかい? そのころには完成しているはずさね」


 1刻、か。確か1刻=2時間だったよな。


 「わかりました。それでは一旦失礼します」


 こうして魔導具の作成を依頼した俺はクレアさんの店を後にするのだった。

 

はい、風呂には入れませんでした! すまない、レイジ。

次回は試作機のテストも兼ねて風呂に入ります。流石にここまで来て入れないなんてことにはならないはずなので。たぶん。

風呂と大容量の袋を手に入れたらノルマ達成なので、おそらく話が進むと思います。やっとですね。お待たせして申し訳ない。

では、また次回お会いしましょう。

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