第百十二話 『貴族も馬鹿なら勇者も馬鹿とかクソすぎる』
遅くなって申し訳ないです。
「――――と、いうわけだ。理解できたかな?」
俺は黙ってクソ貴族の話を聞いていたが、正直欠片も理解できなかった。
いや、言葉としては理解できているのだが、その行動があまりに短絡的過ぎて酷い。
こいつの言い分はこうだ。
お前は、この半月の間、まったく成果を出していない。
それは、貴様が我らをだまして国費を貪る詐欺師である証拠だ。
ランデルも、お前とグルで、国費を私用で使っているに違いない。
詐欺師の仲間なら、当然そいつらも詐欺師だ。
だから、全員処刑する。私は正しい。
……まあ、言いたいことはわかる。
しかし、欠片も証拠はなく、事実確認をしようとする素振りすらない。
まるで、私がそう考えたのだから、それが真実だとでも言わんばかりの行動。
それは、こいつの立場を考えれば、あまりに危険で愚かなことだ。
まるで暴君のようじゃないか。
「まあ、お前の懸念はわかる。それは確かに、警戒すべきだろうさ。だがそれは、証拠が出るまでは、あくまで懸念でなければならないものだ。それをお前は、独断と偏見で決めつけ、俺を殺そうとしている。それは、横暴が過ぎるのではないか?」
「ふんっ! 犯罪者風情が偉そうに。助かりたいからといって屁理屈をこねたところで、この決定は変わらん。貴様は死刑だ。貴様の仲間も死刑だ。ランデルは――――まあ、反省しているのなら、国の奴隷として飼ってやるのも良いかもしれんな」
「その決定とやらは、王の許可をもらっているものなのか?」
「王はワシに、財務管理を一任しておる。そしてこれは、国の財を守るために必要なこと。つまり、王の許可を得ているも同義というわけだ。わかったか?」
ふむ。つまりはこいつの独断、と。
それなら、この国を敵と断定するのはまだ早いか。
ま、こっちこそこいつは死刑確定レベルなわけだが……さて、どうするかな。
「……で、俺をこんなところに縛り付けて、何がしたいんだ? 俺は死刑なんだろ? なら、さっさと殺せばいいじゃないか」
「やけに落ち着いていてつまらんな、クズめ。クズはクズらしく、鳴き喚いて命乞いの一つくらいしてみたらどうなのだ?」
「……」
「ふんっ……まあ良いわ。貴様をこうして縛り付けているのは、罪を自白させるためよ。貴様が自らの罪を認め、その口でそれを語って懺悔をすれば、神々も少しは貴様に慈悲をかけてくれるであろうという、ワシの優しさよ。感謝するが良い」
つまり、自白を強要して自らの正しさの証拠としたい、と。
はぁ……こりゃ駄目だな。
この手の奴は、いくら口で言っても聞かないだろう。
いいとこ逆切れからのめった刺しだ。
普通に死刑で首ちょんぱとかなら核は大丈夫だから良いが、キレられたらどう攻撃してくるかわからんから、殺されたフリは無理。
なら、特にこれ以上捕まっているメリットも無いか。
敵もわかったし、何よりみんなが心配だからな。
ああそうだ、最後に聞いておくことがあったな。
「……ランデルさんは、今どうしている?」
「ん? 仲間が心配なのか? 安心しろ。奴は貴様と違って利用価値があるからな。きちんと王城の地下牢に、国賊としてぶち込んでおいた」
「そうか……情報提供感謝する。では、貴様と話すことはもう無いし、俺はそろそろ失礼させてもらおうか」
「は? ふははははっ!! 何を言っている。この状況からどうやって……にげ……なぁ!?」
俺は目の前のクズを無視して、手足の枷を膂力だけでぶち壊し、立ち上がって目隠しをむしり取る。
馬鹿が随分驚いて腰を抜かしているが、知ったことではない。
しかしこいつ……偉いくせに小物臭が凄まじいな。ある意味凄い奴だ。
とはいえ、その行いは万死に値するが。
フィルスや香奈に手を出したのが運の尽きだ。
どうせ今回が初めてではないのだろうし、別にいいだろ。
俺は目の前のバカをワンパンで黙らせると、それを担いで、悠々と部屋を出て行く。
姿も魔晶龍騎士に変えておく。
目指すは王城。
さっさと国王とやらに会って、事態の収拾を図らねばならん。
ついでに、こんなクズを重鎮にした文句も言っておかねばな。
皆を助けにも行きたいが、そんなことをしても一時凌ぎにしかならんし、今は信じるとしよう。
まあ、勇者二人に半吸血鬼だ。そう簡単には捕まるまいよ。
「――――ここが王城か……」
独房に捕まっていた軍施設らしきところから、パパっと荷物を回収してきた俺は、城門前に降り立つ。
施設は、ちょろ~っとだけ騒がしくなってしまったが、怪我人は出ていないはずなので問題ない。
白雪の入ったカバンを取り上げた相手が悪いのだ。うん。
「貴様! 何者だ!!」
当然のごとく、門の前にいた衛兵が、俺を警戒し、手に持った槍を構える。
まあ、空から人を担いだ奴がいきなり降りてきたら、普通はそうだわな。
「古龍だ。さっさと通せ。この国の王に用がある」
「なっ!? こ、古龍だと!? って、その肩に担いでいるのは、ベルマド様ではないか!! いくら古龍といえど、そのような無法、見逃すわけには――――」
「黙れ!! このクズは、我の大切な仲間を理不尽な理由で処刑しようとしたのだ!! それを我は、気絶させるだけで済ませ、この国の法に則り処罰をさせるために連れてきたのだ!! いきなり王都ごと滅ぼさぬだけ、ありがたいと思うが良い!! わかったらさっさと通せ!! 我は今、とても機嫌が悪い上に、急いでいる。今もなお、仲間がこの国の兵に追われている状態なのでな。邪魔をするのであれば、命こそ奪いはしないが、容赦はせんぞ?」
「し、失礼いたしました!!? す、直ぐに国王陛下へ伝えてまいりますので、少々お待ちください」
「いらん!! 待ってられんのでな。悪いが勝手に行く。邪魔をしなければそれで良い」
「は、はいっ!!」
うむ、完全に声が恐怖で上擦っているな。
少し申し訳ないような気もするが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
俺は門を勝手に押し開け、中へと入ると、そのまま入り口まで駆けて行く。
まったく、無駄に広い庭園だな。
左右に広がる多くの花々は大変美しいが、今はその広さがただただ煩わしい。
玄関空けたら王様がいるのが理想だな、うん。
「そこの賊! 止まれ!! この俺が俺がいる限り、ここで悪さはさせないぜ?」
俺がもうすぐ城の入り口というところまで来たところで、中からなんだかやけに自信満々の声が放たれ、人らしき影が現れる。
でもまあ、俺は賊じゃないし、止まらなくてもいいよね?
そう思って、そのまま駆け抜けようとするが、
「止まれって――――言ってんだろっ!!」
その人影が、俺に向かって剣を振り下ろしてくる。
それのせいで、俺は後ろに下がることを余儀なくされ、その足を止めてしまった。
普通に受けることも一瞬考えたが、本能がその考えを否定した。
"あの攻撃は危険だ"と。
「……我は賊ではない。故に、こうして止められる謂れも無いのだが?」
「はっ!! そんな見てくれで何言ってやがる! てめぇはモンスターだろう?」
「その問いには肯定する。我は古魔晶龍である。この国の王に、取り急ぎ話がある。いいから通せ。でなければ、容赦はしない」
しかし、この男……見た目がやけにアジアンだな。
あ、こいつがスレブメリナに配属された勇者なのかな?
それなら、「この俺がいる限り――」みたいな、さっきの痛いセリフにも納得がいく。
「黙れ、モンスターが!! 古龍だか何だか知らねえが、モンスターなら狩る対象だ。俺の糧にしてやんよ」
あ~、あれだこいつ。
人の話を聞かない系男子だ。めんどくせぇ……
こんなのがいるなら、さっきの門番の人が王様に伝えてくるのを大人しく待ってればよかった。
いや、こいつはそれでも突っかかってきそうなくらいアレだけど……
てか、この世界にはモンスターである魔晶龍を信仰の対象とする宗教だってあるくらいなのに、知らないのかこいつ?
モンスターは皆敵で、狩る対象って……勉強不足過ぎるだろ。
この国の人間は、一体こいつにどんな教育をしているんだ……まあ、どうでもいいか。
「では、力ずくで退いてもらうことのなるぞ?」
「ハッ!! いいぜ、来いよ!!」
はぁ……なんでこうなったかなぁ……




