第九十九話 『さらっと新事実をぶち込んでこないでくれませんかね』
「さてと……んじゃあ改めて。香奈にリカちゃん。これからよろしくな」
グライツさんが帰った後、俺は改めて二人に挨拶をする。
さっきのはなんか慌しくなっちゃったし、白雪の紹介もしそびれちゃったので、一度仕切り直しだ。
「うんっ! よろしく、レイジにぃ!!」
「…………」
元気に挨拶を返してくれる香奈に対し、黙ったままのリカちゃん。
礼儀正しい印象を受けていたのだが、どうかしたのだろうか?
「……リカちゃん?」
「……あの、ずっと気になることがあったのですが、聞いても良いものかと……」
? なんだろう。別に隠し事をするつもりはないから全然いいけど……
「いいよ、何でも聞いてくれて」
「……では、あの……どうして邪神教徒を誰も生け捕りにしなかったのでしょうか? 生け捕りにした方が、アジトの場所などを聞けたのでは?」
ん? なんでいきなりその話? まあいいか。
「あれは――――だって、リカちゃん瀕死だったし、それにそんな細かい調整はまだできないんだよね。加えて言えば、奴らのスキルとかよくわからないから、下手に捕縛しても危ないし……まあ、安全優先という事で――――」
あれ? でも、あれって古龍の時の――――
「やっぱり、お兄さんが古龍様だったんですね。すみません。かまかけました」
「え、ええ~!? レイジにぃが、あの古龍だったの!? え? どゆこと!?」
気づいていたのはリカちゃんだけで、香奈には伝えてなかったみたいだな。
「……いやまあ、これから話すつもりだったから別にバレたのはいいんだけどさ。なんでわかったの?」
「え? だって、腰の刀……それ、同じのですよね? 古龍様と別れてから合流するまでに受け渡したというのも考えられなくはなかったですけど、間の時間を考えると、それもちょっと違和感があって……古龍様は結局その刀使いませんでしたし、そんな急いで返す必要があるものなら、元々借りる必要もなかったんじゃないかと……」
あー、まあ確かに。
あの時はとにかく急いでたからな~
王様とかにも見せちゃったし、何か言い訳考えとかないとな。
「あはは……ま、そうだよな。まあそういう訳で、改めて……古龍で冒険者の、レイジだ。これからよろしくな。それから、今話題に上がったこの刀は白雪と言って……ほれ、出すぞ?」
(ん……了解)
俺は白雪を、二人の前に実体化させる。
「白雪……よろしく」
いきなり目の前に現れて挨拶をする白雪に、二人とも目をパチクリさせている。
うむ、なかなか良い反応だな! 実に面白い。
「え、えっと……よろしく、白雪ちゃん」
そして先に回復したリカちゃんが、何とか白雪に挨拶を返す。
やっぱり、リカちゃんの方が全体的に落ち着いていて、しっかりしてるっぽいな。
それに比べて香奈は、まだちょっと子供っぽいと言うかなんというか……まあ、俺としてはその方がなんか妹っぽくて、可愛く思えたりもしているのだが。
「はっ! えと……その……よ、よろしく……ね?」
「ん……よろしく」
それから数秒差で復活した香奈も、白雪に挨拶をするが、リカちゃんに比べてまだ戸惑いを感じられる。
まあ、このまま混乱させとくのもかわいそうだし、説明しておいてやるか。
「白雪は、この刀に宿る意思、みたいなものでな。まあいわゆるインテリジェンスウェポンってやつだ。刀の状態だと俺限定の念話しかできないが、こうして人の姿をとらせてやれば、誰とでも普通に話せるようになる」
「へ~、流石異世界。ほんとにそんなのあるんだ~」
「でも、わたしの製作者は過去の勇者。故に、異世界だからと言えるか、というのは正直微妙」
香奈の何気ない感想に対し、白雪がいきなり驚きの新事実をぶち込んでくる。
そういえば白雪の出自は確認していなかったが、まさか勇者作だとは……勇者すげえな。
「そうだったのか。全然知らなかった」
「ん……刀鍛冶だった勇者が作った二口の最高傑作の片割れ。それがわたし」
「二口? ってことは、白雪みたいな刀がもう一口あるってことか?」
「そう……わたしの姉妹刀、『黒椿』。赤黒い刀身と、黒に赤の椿が描かれた鞘が特徴」
「在処は?」
「不明。ただ、少し違うけど、あれにもわたしと同じような、精神の穢れに呼応して持ち主を蝕む能力が備わっている。もし誰かの手の内にあるなら、その持ち主は既に人でない可能性が高い」
ふむ……そうか。
であるならば、もし所在がわかっても慎重にいかねばな……
あ、というか今更だけど……
「そういえば、俺って大丈夫なのか? その、呪い? みたいなの」
あの時つい聞きそびれて、そのまま何もないからすっかり忘れていたが、これは結構大事な問題だ。
「ん……あるじの魂は強力で、そう簡単に侵せないどころか、下手をするとこっちが危ない。それに、何かに守られている感じがして、そもそも干渉し辛い。だから、完全に欲に取り付かれ、堕落でもしない限りは、どうにかなるようなことはない……と思う」
ふむ……魂が強力って言うのはよくわからないが、どうやら魂魄保護スキルのおかげでどうにかなっているらしい。
それならまあ手放す必要はないだろうし、もし何かあれば手放すよりは対策を考えたいところだ。
白雪はもう、仲間なんだからな。簡単には切り捨てたくない。
「レイジにぃ、本当に大丈夫なの、それ? 私、レイジにぃに何かあったら――――」
「大丈夫だよ。何か変化があれば、白雪が教えてくれる。それに、人じゃなくなるも何も、俺は既に種族的には人じゃないからな」
俺が香奈を安心させるため、冗談交じりにそんなことを言うと、香奈も肩の力を抜いて、少し笑ってくれた。
完全に心配がなくなったわけではなさそうだが、ひとまずは大丈夫だろう。
「さて、まあ自己紹介はほどほどにして、だ。ひとまず途中だった旅支度を再開しよう。あまりダラダラやってたら、また旅に出る機会を逃しかねない」
「え? レイジにぃ、まだ準備終わってなかったの?」
「ん? ああ、全然。むしろ始めたばっかでお前らが邪神教徒を追いかけていったって聞いて、慌てて飛び出したって感じだな」
「あ~……なら、私たちも手伝うよ。私たちはもう終わってるし、どうせもう城からは出てきちゃったしね」
ふむ。やはり二人は挨拶に来ただけではなく、完全にこちらに合流したという事で良かったみたいだな。
正直、魔導具を作る時間を考えると、今日どころか、明日の出発も怪しいが、最低限のものを作ったら、後は出先でどうにかしたほうがよさそうだな。
ってことは、収納はひとまず、今ある簡易版で良いとして、水筒は流石に欲しいよな。
コンロとチャッカマン、その他小物は後でいいや。
とりあえず、必要そうなものを多めに買い込んでいけばどうにでもなるだろう。
あと必要なのは……あ、野宿の時の寝床があったな。
「そういや、香奈たちは何を持ってきてるんだ?」
身軽そうな見た目からして、例の収納袋は持ってるんだろうが、荷物を把握しておかないと、必要なものもわからんからな。
「あ、うん。えっとね……え~っと……」
「もう、なんで覚えてないのよ。寝袋に毛布、水筒に干し肉が六日分。それから六級ポーションが一つに、金貨と銀貨が10枚ずつでしょ?」
「あはは……そうでした」
「どうせお兄さんに会えるってんで、ほとんど聞いてなかったんでしょ」
「うぐっ! そんなこと……あるけど……」
あはは……でもまあ、思ったより大したものは持ってなさそうだな。
ごく一般的な旅セットって感じだ。所持金はちょっと多めだし、ポーションも持ってるけど。
となると、色々こっちで準備しないとかなぁ……よしっ!
「そういう事なら、色々準備が必要そうだな。それじゃあパパッと準備しちゃいますかね。出発の目標はは明後日! 香奈たちにも手伝ってもらうつもりだから、よろしくな」
「「「はいっ!」」」
こうして俺たちは、明後日旅立ちに向けて、大急ぎで準備を進めるのであった――――