初めての・・・・・・
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魔法道具→魔道具
流血シーンあり
さらにストックがもう底が尽いた。
「お、お前! よくもバリーを殺しやがったな!」
「切り刻んでやる!」
仲間が殺された事を理解してから襲いかかって来たけど、何も考えずに突っ込んでくると痛い目を見るぜ。
「ぐあっ! な、何だ! か、体が!」
「くそっ! 体が重い! お前一体何をした!」
「俺が言う前に飛び出すんだから仕方ないだろ。それに敵に教える訳もない」
悪党二人がこうなったのは、別に難しい話じゃない。
飛び掛かってくる通路上にカーテンの幕をイメージした重力場をを作ってその場に踏み込んだら重力の重りに襲われるようにしたんだ。それに……。
「この隙を見逃す気もないけどね!」
「くっ、来るな! ぐあっ!」
最初に倒した悪党、バリーに刺した獲物を抜き出しながら近づき、さらにもう一人の悪党を切りつけた。
「こいつ! ぜってぇ許さねぇ!」
「人の人生を、それも女の子を襲った報いじゃないのか?」
倒してる間に如何にか重力場から抜け出したようだな。
「くらえ!」
「うおっ! っと、あっぶねぇな。お返し!」
「ちっ!」
ショートタガーを投擲した右手を突き出したまま、すぐに左手も突き出す。今ので終わるとか俺も思ってねぇよ。さぁ~て、うまくやれるかね?
「ちょっ! 何で避けるの! 俺の武器はそれしかねぇのに!」
「ふっ、そうかそうか。そんじゃあ、二人をやりやがった分、殴ってから殺してやるよ」
「お、おい! 丸腰相手にそんな事するのかよ! こっちにくんな! こっちに来るなよ!」
よしよし。相手も俺の焦った様子と言った言葉を信じてる様だな。これから俺を痛め付けるのを想像してるのか下品な笑みを浮かべながら近づいて来るのがいい証拠だ。
「はっ! 俺の仲間二人も潰しておいて生きて帰れると思うなよ。クソガキ!」
「生きて帰れるな、か。それは、……俺の台詞だ、ぜっ!」
「ぐあぁ! ぐぅうぅぅ! な、何が!」
最後の掛け声に合わせ突き出した右手で空気を掴むように握りしめながら勢いよく手前に引いた。そしていきなり倒れた最後の悪党の肩には、避けたはずのショートタガーが深々と刺さっている。けどまだまだ油断は出来ないな。すぐにうつ伏せに倒れた悪党に近づいて体重を乗せた片膝を背中に押し付けて……。
「さて、最後に言い残す事ってある? まぁ、憶える気は無いんだけどね」
「この、……化け物め」
「へぇ~、そうかい」
それ以上は、何もないな。さぁ、これで最後だ。
肩に刺さっていたタガーを抜いて首を刎ねる。
「…………」
今、初めて人と戦い、人を傷つけ、人を……殺めた。それに切った時の感触がまだ手に残ってる。あまり、いい気分には、ならないなぁ。それに……。
「やっぱり、まだ抵抗があるな」
斬りつけた右手が少し震えてる。魔物も初めて倒した。この世界は、いろんな命が軽い世界だ。今も俺の手で三人の命を奪った。人の命を奪うって言うのは、あまり慣れたくない。だけど、この世界で生きていくには、割り切らないといけないんだろうかね?
「あ、あの、大丈夫?」
「ん?」
誰だ? 今この場に居るのは、俺と、……あぁ、襲われていた女性が居たよな。
助けようとした人を忘れるだなんて、やっぱり少し疲れてるのか。俺?
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと物思いに耽ってた所だから」
「そう、……ならいいのだけど、それに今のあれって魔法?」
あぁ、そりゃ他の人から見たら不思議に思うだろうな。
俺が投擲した武器が何も無い空間に止まりは浮かんで、次は、もう一度敵に向かって襲う事が誰にでも出来る訳が無い。種明かしは、もちろん唯一使える重力魔法で投げたタガーの慣性を殺してから浮かせた後は、背中から刺した。あっ、それと右手を突き出していたのは、重力と空中に浮かせたタガーを操る為だ。その方がイメージしやすかったからな。
「あれって何を指し示してるのか知らないけど、君の言う通り確かに魔法だよ。だけど教えるつもりはないよ?」
「いえ、そこまでは、詮索はしないわ。そうするとギルドの法律に逆らうから」
へぇ~、ギルドはそういう事も含まれるのか。
「なら、そうしてもらえると助かる。それにしても何故、襲われたんだ? 言いたくなければそれでも良いけど……」
「……いえ、命の恩人だもの。それくらい構わないわよ」
彼女からの話は、あまり陽気な話じゃなかった。この森の奥で異常発生してるかもしれないと三悪党の一人からそう言われて調査するためにここまで来たようで、動けなかったのは、ギルドから出る前に毒入りの酒を奢って貰ったとの事だけど……。高く売れると言われた人身売買、この世界は、どうやら奴隷制度もあるかもしれん。
「もし、その話が本当だったら今落ち着いて話してる場合じゃないぞ。毒を盛られたんだろ?」
「あぁ、確かに毒と言っても痺れ薬でただ動けなかっただけよ。貴方が戦ってる間に何とか解毒薬を飲む事が出来たの」
ん? 痺れ薬なら体が麻痺して動けないよな?
「なぁ、少し疑問なんだけど、麻痺していながらよく解毒薬なんて飲めたな。体が動かなかったんだろ?」
「動けないんじゃなくて、動き難いって言った方が正しいわね。実際襲われた時も動けなかった訳じゃないけど、どうしても動きが遅くなるからその間に倒されるって訳よ。これは、耐性スキルにも依存されるけど……」
ほうほう、つまりは、その耐性スキルが高ければ高いほど無効化、もしくは、なり難いって訳か。
「へぇ、そう言う事なら君は持ってるって事だよな?」
「えぇ、だけど耐性が低すぎて完全には、防ぎきれなかったけどね……」
そう言って苦笑して右手を見ながら開いたり閉じたりしないでくれるかなぁ。騒がしいのは、嫌いだけどしみったれた空気も嫌いなんだよね。
「まぁ、良かったじゃないか? こうやって俺も助ける事も出来たし、君も無事だったんだ。終わり良ければ全てよし! それで良いじゃないか」
「…………」
あ、あのぉ~、そんな呆けた顔もしないで下さい。人を慰めるだなんて慣れない事は、あまりするもんじゃないね。
「……ふふふっ、確かに貴方の言う通りね。助かったんだもの、過去の事で落ち込むのもらしくもないし。……そういえば恩人にまだ名前言ってなかったわね。私は、レイシアよ」
「俺の名前は、ソラ・クウサキだ。よろしく」
ふぅ~ん、レイシアって言うのか。綺麗な銀髪が腰まで伸びていて、鎧越しからでも分かる胸の大きさ、こ、これは、Fぐらいあるんじゃ……。だけど、出る所は出て引っ込んでる所は引っ込んでる。腰回りが引き締まってる。スカートの所為かすらっとした美脚が見える。顔もまた美人だ。青く透き通ったような碧眼、小さな鼻と口、その全て綺麗に整っている。……っと、いかんいかん、手を差し伸べてくれてるんだ。うわぁ~、手は細くて綺麗だ……。じゃなくて早く握手しろよ俺。おぉ、凄く柔らか……? 何だ、この違和感? 彼女が纏っている空気が変な感じがする……。
「ふふ、如何したの? 変な顔をしちゃって、ごめんなさい。私の手には触りたくなかったのかしら?」
「そんな訳が無いだろ! 美少女でこんなに白くて綺麗な柔らかい手に触りたくない訳がな……あっ」
思いっきり内心で思った事を暴露してしまった! ちょっとレイシアさん! 顔を真っ赤にして手を離し両手を胸元においてもじもじしないで下さい! 凄く可愛いです!
「あぅ、えぅ、え、えっとぉ、や、やっぱり、その、お礼は、か、体で返した方が、い、いいのでしょうか?」
「ちょっと待って、レイシアさん! 落ち着こうか、ね! 確かに魅力的な話だけど、まず落ち着こう、ね! そ、そうだ! お礼って言うのなら友達! そ、そうだ、それがいい! だから友達になってくれないか? いや、友達になってください! お願いします!」
頭を下げ、右手を出す。……けどやっぱり気になる。
顔を少し上げてレイシアさんの顔を窺うと、少し不満そうな顔をしてます。
あれ? どうしてそんな顔をするのですか? ま、まさか、ガチで体の方でもよかったと言うのか……。
「……レ、レイシアさん?」
「えっ? ……あ、あぁ、はい、そうですよね。あ、いや、そうね。よろしく、ソラさん」
「…………」
「……何よ? 言いたい事があるのならはっきり言った方がいいわよ?」
「えっと、それなら聞きたい事があるんだけど、たまぁ~に敬語とため口が出るよね? どっちが本当のレイシアさんなのかなぁ~って」
「……敬語の方よ。だけど、荒事集団のギルドで敬語なんてしたらなめられるから、こうやってため口にしているの……」
ふぅん、見る限りは、少しだけど言い難いんだろうな。
「あっ! それなら、俺と話してる時には、敬語でもいいじゃないか? 俺だって、騒ぎ事とか嫌いだし、レイシアさんも気が楽になるだろ?」
「え、けど……いえ、ソラさんの言う通り、普段慣れてる方が気が楽になりますから、お言葉に甘えさせてもらいます。それに、私もお願いしたい事が早速ですがあるんです」
「ん、何かな? 俺にできる事だったらやるつもりだけど?」
「いえ、とても簡単な事なんです。私を呼ぶ時は、呼び捨てにして欲しんです」
「えっ? 良いのか、それで? でもレイシアさんを呼び捨てにするのは……」
「ソラさんは、使いやすい敬語でもいいと言ってくれました。私も友達として呼び捨てで呼んで欲しいんです……」
「……分かった。それなら俺の事も呼び捨てにしても構わないよ」
「い、いえ、それは、命の恩人なのに……」
「よ・び・す・て! 分かった。レイシア」
「っ! は、はい! 分かりました。ソラ!」
うんうん。異世界で初めての美少女の友達が出来て幸先のいい一日になりそうだな。
「さて、お互い災難な目に合ったけど、無事一件落着して何よりだな。で、後の問題になるんだけど……、如何しよう、こいつら」
こいつら、って言うのは、まさしく俺が倒した。悪党三人衆なんだが……。
「それなら問題ありませんよ。ギルドカード、可能ならば死体をそのまま持ち帰る事が出来れば良いのですが……」
う~ん、俺の魔法を使えば出来なくもないけど、正直そこまでやる必要があるのかどうかだし、それと何より、凄く面倒くさい。
「それじゃあ、ギルドカードだけ拝借して帰ろうよ。今日は、疲れたから早く休みたい」
「分かりました。ならそうしましょう」
死体から物を取る行為に罪悪感が湧き上がるけど、人を殺しておきながら今更な悩みだな。悪党三人衆のギルドカードを手に入れた俺達は、そのままギルドの元に向かった。さっきの戦闘もあって少し長く感じたぞ。
「ふぅ、やっっっと着いたぁぁぁ」
「ふふふ、お疲れ様です。さぁ、早くギルドの受付の所まで行きましょう。ソラ」
まぁ、そうなんだよなぁ。よし、さっさと済まして早く宿の確保しに行かないとな。……? 何だ。周りがやけに静かだな。俺、……いや、レイシアの方を見て何か他の連中と呟いてるけど……。
「おい、今の。お前見たよな?」
「あぁ、見たぞ。あいつ銀聖のレイシアだよな?」
「それに、冷徹の姫と言われてるのに笑ってるよな? あれ」
な、なんか耳を済まして聞いてみれば、レイシアの話題で話し合ってるように聞こえるんだけど、そんな事を聞きながら後ろに居るレイシアに振り向けば……、あっ、顔を逸らして、顔真っ赤にしてらっしゃいますね。レイシアも聞こえていたのか。
「レイシア、君に今聞きたい事が出来たんだけど、ここで聞かない方がいいか?」
「はい……、出来ればそうして下さい」
なるほど、なりたくてそうなった訳じゃないって訳か。……後で聞いてやろう。今は、クエスト達成の薬草を渡さないと。
「すいません。クエストを達成してきました。この袋の中に薬草が入ってます」
「確認します。はい、確かに採取クエストの薬草ですね。少々お待ちください」
「すいません。その前に少し話があるんです。実は、私の方で同じ同業者に襲われ返り討ちにしてギルドカードを持ってきました。それがこれです」
レイシアに預けていた悪党三人衆のギルドカードを渡していた。それを確認した受付嬢は、手に持って調べたけど、その後に目が見開く程の衝撃があったらしいけれどすぐに表情を戻し営業スマイルに変えた。これがプロか。
「あのぉ~、ソラ? 私の聞き違いでなければソラが受けいてた採取クエストが薬草だと聞こえたのですが?」
「あれ? レイシアに言ってなかったっけ? 俺は、ギルドに来て冒険者になったばかりの新米なんだ」
ん? どうしたんだ。開いた口が塞がらない状態になったぞ? 今、変な事言ったか?
「どうしたんだ。レイシア?」
「い、いえ。何でもありません。(私が知らない名の知れた冒険者かと思ったのですがまさかギルドに入ったばかりだなんて……)」
何かレイシアが目の前で見ている事が信じられない顔をしてるけど、大丈夫だろ。
「お待たせいたしました。……どうしたのですか?」
「いえ、何でもありませんよ。それでクエストの報酬が貰えるんですよね?」
「はい、こちらがソラさんのクエスト報酬になりますが、レイシアさんの方になるのですが……」
レイシアの方だけど少しの間に三個のギルドカードを机の上に出した。これってさっき渡したあの悪党の持ってた物だな。
「レイシアさんが持って来てくれたギルドカードの事なんですが、その内の一人が指名手配の賞金首でその賞金も加算します。それと他の二人も黒い噂が絶えないので正直の所、助かりました」
へぇ~、まぁ、あんな事に関与するような奴が真っ当な生き方なんてしてないだろうなぁと思ってたけど、受付嬢からかなり黒いって言われるなんて相当だぞ。
「それも踏まえた上でこの報酬金をお受け取りください」
「ナターシャ、先に言うけど倒したのは私じゃなくてソラなの。だからそれは、ソラに渡して欲しいんだけど」
おぉ、レイシアに渡す袋を持った手が止まった。そして受付嬢、ナターシャさんからも信じられない顔して見られた。
「……レイシアさん。面白い冗談ですね。いくら何でもギルド登録初日で他の冒険者、それも格上に戦って勝ったって言ってる様な物なんですよ」
「そうよ。実際その通りだもの」
「……どうやら本当のようですね」
ナターシャさんはレイシアの真剣な目を見て判断したようだけど、これっていつまで続くんだよ。報酬を貰って早く休みたいんだけど……。
「あのぉ~、俺は、早く休みたいので、済ませてくれませんか?」
「……そうですね。すみませんが少々のお時間をください」
そう言い残して受付の奥に消えて行って、ほんの数分後に一つの板を持ってきた。何だ。それ?
「これは、【審判の審議】と言う魔道具で事実なら真ん中の魔方陣から白い魔力の球が出来て青に染まります。ですがもし、嘘をついているというのなら青ではなく黒く染まります。ですがどちらでもなければ白い魔力の球が浮かびます」
なるほどね。要は、俺が倒した事を未だに信じられないからこれで調べようって訳か。
「まぁ、話を聞いて大体分かったけど、これってどう使うの?」
「板の両端に描かれている魔法陣に両手を置いてください。その後に私が問います。貴方は、質問にはい、いいえで答えてください」
「分かった。……よし、準備で来たぞ」
「では、問います。貴方は、この三つのギルドカード保持者と戦い勝ちましたか?」
「はい」
随分簡単な質問だな。何かこういうのってやけに遠回しに言ってくるもんだと思ってたけど、俺の偏見だったかな?
「……青、ですね」
まぁ、事実だし。板の中心の魔方陣から出て来るのは、青い色をした魔力の球が出て来る訳で。
「ありがとうございます。次は、レイシアさんも調べさせてもらいます」
「これって俺の疑いを晴らす為に用意したんだろ? ならレイシアには、関係ないじゃないか」
「そう言う訳にはいきませんよ。その場に居合わせたのは、レイシアさん以外に居ないのですから。では、レイシアさんお願いします」
「分かったわ」
レイシアも俺と同じように両手を置いた。
「では、問います。貴女は、先程出た結果通り、ソラさんが三人の冒険者を倒した。っと言うのは嘘である」
「いいえ」
ほぉ~よく考えたなナターシャさん。俺の時は、倒したっと言う事実を問いて、レイシアには、見た光景そのものを問いてるのか。よく考えたな。
「これも……青色ですね」
レイシアの方は、俺が戦った光景を見ている。そして倒した事も知っている。だからそのものを嘘だと問い、否定した後、青が出れば嘘を否定してる事になる。
「大変、失礼致しました。本当にソラさんが倒したのですね」
「まぁ、疑いが晴れればいいんだけど、その報酬も俺が貰っていいのか?」
「はい、倒した人が受け取る決まりになってますので」
そうなのか、それじゃあ有難く貰って……? あ、あの、ナターシャさん? 何で袋を持った手を離してくれないんですか? まだ他に何かあるって言うんですか?
「それにしてもお強いんですね。ソラさん。ギルド初日に上ランク二人と犯罪者をあしらえるだなんて」
「ま、まぁね。不意打ちから一対一に持ち込んで何だけど……」
「それでも凄いですよ。それでなんですけど、ソラさんは、この後用事とかありますか? もし無ければわた――」
「あぁ! そういえばソラ! 色々あって疲れてるのではありませんか! それでもう泊まる宿とかは、決まってるのでしょうか!」
「うおぉ! どうした急に! い、いや、泊まる宿はまだ決まってないけど……」
「なら私が泊まってる宿にしましょう! 安くて美味しい食事が食べられますよ! ほら、報酬も貰いましたし、早く行きましょう! 案内しますから!」
「はぁ! ちょっとまっ! ってか何時の間に持ってる訳! ってか、首! レイシア止まって! 首が、襟首が締まって! い、息が……!」
レイシア、襟首を掴んで引きずらないで! やばい……、息が、出来ない。
「あらあら、それではソラさん、明日も来て下さいね。(暇があればお茶でも誘おうと思ったけれどレイシアさんの反応、もしやしなくても惚れてますねぇ。これは、面白くなってきました♪)」
「不味いです。まさかナターシャが目を付けるだなんて。明日からギルドには行かない方が……。いえ、冒険者である以上生活費を稼ぐ為には、必ず立ち寄らなければなりませんし、一体如何すれば……。ブツブツ」
頼む、レイシア……戻って、来い。もう……限界。
数分後 ~とある一軒の宿屋の前~
「本当に申し訳ございませんでした!」
「いや、もういいから。そう思うなら早く顔を上げてくれないかな。こっちが恥ずかしくて申し訳なく思っちゃうから……」
土下座! ……っとまでは、行かなかったけど。凄い勢いで頭を下げて謝ってきた。まぁ、窒息寸前まで追い込まれたから謝るのは当たり前なんだろうけど、もう少し人気が無い所でも出来たと思うんだよ。ここ、宿屋の前、そして人が行き来する大通り、そして頭を下げて謝る美少女、目立つなと言う方が無理があるよねぇ。
「で、ですが、私が危険な状態にしたのは確かですし……」
「あぁ~、まぁ、そりゃそうだけどさ。俺が天に召される前に気づいてくれたし、もういいって、ね」
「はぁ、ソラがそう言うなら……、で、でも本当に申し訳ありませんでした」
まぁ、戻ってこれたって言っても臨死体験中の三途の川に入る一歩手前で戻ってこれたのが良かった。このまま渡っていたら天国で家族が全員集合になってしまう。俺の両親は、ちょっとした事件に巻き込まれて祖父母は、二人とも寿命でもう居ない。文字通り天涯孤独で心が折れて立ち直れなくなった時もあったけど、楽しい事や嬉しい事もあった。だからこそ俺は、この新しい世界を見て回って楽しみたい。
「ほ、ほら! そんなに落ち込むなって! 俺は生きてるだろ。確かに初めて死ぬかもと思った相手がレイシアだったとは思わなかったけど」
「うぅ……」
「けれど、レイシアと友達になれた事の方が、凄く幸運だなぁ。って思ってるんだよ。だからもう気にするな」
「はうぅぅぅ!」
ん? どうしたんだ? 顔を青ざめたり赤らせたりして……、具合でも悪いのか?
「レイシア、具合でも悪かったならそう言えばいいのに」
「い、いえいえ、具合が悪いって訳じゃありませんから! ほ、ほら、早く入りましょう!」
お、おい、レイシア。そんなに腕を掴んで引っ張るなって。レイシアに続くようにレイシアが泊まってる宿屋に入って行く。すると、なかなか広いリビングで、玄関先から見えてた受付の所まで引っ張ってくれた。部屋の雰囲気も人も何人かいて繁盛してる様でいい所だな。それにしてもやっぱり腕を引っ張られた時にも違和感を感じるんだよな。やっぱりレイシアが纏ってる空気とか雰囲気が怪しいと思ってるんだけど、何故そう感じるんだ?
「すみません。彼が泊まる宿を探していてこの宿を紹介したんですけど、部屋って空いてますか?」
「いらっしゃいませ。【癒しの翼】へようこそ! お泊りですね? 今空いてるお部屋は……、ってレイシアちゃん? ここで一体何してるんだい?」
「奥さん。紹介します。新しく冒険者になったソラです。今、泊まってる宿を探している所を紹介して連れて来た所なんです」
「初めまして、ソラって言います。よろしく」
「そうかい。こちらこそよろしく。あたしは、ウーラだ。この宿を兼営してる店主の妻だよ。さて、泊まれる宿を探してるんだったね。丁度空いてる部屋があるよ。泊まって行くかい?」
何故だろう? この異世界って女性のレベルが高い様な気がする。ウーラさんは、茶髪の肩から腰の中間まで伸びて、少しはねっ毛がある。目は、少しつり目で、しっかりしてる。本当に美人が多いな。夫も絶対にイケメンだろうな。
「はい、泊まります」
「それなら、一泊一銀貨だよ。それと朝食と夕食は出すけど、朝は、九時まで、夜は、六時から十時までだからね。それを超えたら食べられないから気を付けなよ。それとおかわりもしてもいいけど、その時は、別途料金になるからね。分かったかい?」
「分かりました。それなら一週間お願いします」
「なら七銀貨だよ。部屋は……、!」
何だ? 急ににやぁっとした顔をしたけど……。
「二人部屋も用意できるけど、二人ともそちらに変えるかい?」
「何言ってるんだ。ウーラさん!」
「あうぅ! えぅ!」
気まずいぞ。友達になった日から同部屋って無理に決まってるだろ! レイシアだってそう思うはずだ! 横に立っているレイシアの顔を窺うとレイシアも見ていたのか目線がぶつかり、顔を真っ赤にして頭を下げてきた。……何してるの。レイシア?
「ふ、不束者ですが、これからもよ、よ、よろ、よろしくお願いします!」
「それ違うからな! 普通は、お前が否定する所だからな! 後、お互い一人部屋だ! 分かった! ウーラさん。俺が泊まる部屋の番号は何です!」
「何だい。つまらないねぇ。部屋は、二〇三号室だよ。ほら、その部屋の鍵さ。……因みにその隣の二〇四室の部屋がレイシアだよ」
「それを聞いた俺にどうしろってんだよ……。ほら、レイシア行くぞ」
「で、でもやっぱり最初は、お互い同士分かってから……、はっ! ま、待ってください! ソラー!」
「……なんかあの二人、面白くなりそうだねぇ」
ソラが階段を上がり慌ててその後を追うレイシアを見て、無邪気な笑みを浮かべていた。
「まったく、ウーラさんは、何を考えてるんだ。」
そういう事をするのならもっとお互いの事を分かってからで、……何故同室になる事を考えてるんだ俺……。駄目だ。別の事を考えよう。この宿って三階建何だな。俺達は、二階の部屋で近いからっと、見つけた。
「レイシア、俺この部屋だから先に寝るよ。お休みぃ~」
「は、はい。ソラもお休みなさい。また明日」
フゥ~、さて、俺が泊まる部屋はどうなって……、うん、何処をとっても普通の部屋だ。左の壁沿いの端にベットがあって足を向ける方には、クローゼットがある。そして机はベットと同じように右の壁沿いの端にある。
「この部屋までの渡り廊下で扉があったけど、きっとトイレか風呂のどっちかだろ」
まぁ、限りなく前者の方な気がする。何せ風呂が高級だぁーっとかその辺りだろ。はぁ~、それにやっと今日の一日が終わった。今日だけでも濃い一日だったな。初めてのクエスト、初めての魔物、初めての対人戦、初めての……。そして最後に異世界で初めての友達が出来た。
「これで最後に音楽でも聞きながら眠れたら最高だなぁ~」
ベットに飛び込んだ後、そんな事を考えたけど、まぁ、出来る訳が――。
「いって! な、何だ! 一体何が落ちて……。ヘッドフォン? 何でここにヘッドフォンが……?」
頭に何か当たったかと思えば、ヘッドフォンがある。た、確かによくよく考えたら、異世界に召喚される間に身に着けていた物が急に消えるなんておかしい。見上げて見ても何もない。ただ天井があるだけだ。
「寝る間に自分で疑問を増やすんじゃねぇっての」
まぁ、出て来たからには、ヘッドフォンを付けて寝るんですけどね。俺の物だし。この謎も明日になって調べよう。今日は、寝る。では、お休みぃ。
ブックマークの登録数が増えました。
この小説を読んでくれて嬉しい限りです。
正直次の投稿には、時間がかかりそうですが早く投稿できるように頑張ります。