アンリ殿下 3
「ご苦労であったボーモント伯爵代理、堅苦しい挨拶は抜きにして座るといい。」
相変わらず艶やかなアンリ王太子殿下をまぶしく見つめながら恭しく頭を下げた
血縁上では従兄弟になるが、自身はオーリングの末席の者そうは言っても不敬があってはいけないのでそれとなく挨拶を交わし失礼の無い程度に腰掛けると殿下が従者に目配せをして退室を促した。
「エド。やっと息抜きができる、くつろいでよ。」
くしゃりと笑うアンリ殿下は巷では「麗しの君」と呼ばれ目が合えば倒れてしまうという噂の美丈夫だ
エドワードと同じ翡翠色の瞳を持ち掻き揚げた薄茶の髪がサラサラと頬を撫でる
自分が男という事を忘れて見ほれてしまうのは彼の持っている魅力そのものに違いない。
「アンリ、早速だがオーリング商会の各支部からの報告書に目を通してもらえないか、
国内外で特に変わった動きをしている者はいないが・・・。」
「が?」
怪訝な顔をなさるその顔を絵姿にして市井で売れば良い商売になるだろう
おっと、思考にさらわれる所だった
「隣国のアリースタのミカモ王女が結婚相手を探されているようですよ。」
「あの巫女姫か・・恐ろしい魔力を操り人の心まで見通すというあの姫が。」
心底嫌なんだろうその顔色が白く血の気を失っていく
アンリ殿下はミカモ王女のお気に入りという話は有名だ。
くくっと笑いをこらえていたら突然思いついたという表情でこちらを見ている
「なあエド、公爵の籍に戻れ。これは妙案だ!
エドが本来の従兄弟に戻れば王位継承権もある立派な令息になる!私の代わりにっ。」
「冗談じゃない。私では王女にとって不足だろう、それに気に入られてるのは君だろ!」
「確かに」とつぶやいたアンリだが「今の発言は不敬だぞ」と苦笑いしつつ
「だけどエド。エルメンタル公爵はお前の復籍を心待ちにしているんだぞ。」
そう、何度も打診され父は私を公爵家に戻したいと願っている。
でも私はいなくなったらレティーはどうなるんだ、
あの金しか気にしないオーリングに食い尽くされて
きっと政略の駒にされる・・そんな事は断じて出来ない。
私はレティーを守りたいんだ、誰にも傷つけさせやしない。
義姉の忘れ形見の小さなお姫さま。あの子の幸せを見届けるまでは絶対に。
「まだレティシアは独り立ち出来ていないからね
次代の伯爵が決まらない限りは見届けるつもりだよ。」
「では、お前の幸せはどうするつもりなんだ?」
言われて初めて気がついた、自分の幸せなど考えた事が無い事に。
「考えたことが無いな。」
殿下は呆れたような顔をして私に諭す
「では、エド。淑女を幸せにするにはどうしたら良いと思う?」
「ある程度の地位がある人間に嫁ぐ方が苦労も無くて幸せだと思うが・・。」
「それだけ分かっているなら結構。」
アンリ殿下は疲れたようにソファーにうなだれた。