はじまりは 1
「ごきげんよう。」
それがアルと最後にかわした言葉
だってあなたは他のご令嬢と2人寄り添って行ってしまったもの
私だって理解してるのよ、親の決めた婚約者なんて
「嫌に決まってるわよね・・私だってそうだもの。」
今夜は王宮で開かれた舞踏会帰るにはまだ早いけれど
私は回廊を通って来た道を戻って行った
馬車は待機させているから家に帰るには困らない
両親には申し訳ないけれどもこうなった以上は仕方が無い
ため息を吐き、私はその場を立ち去った
翌朝は良く晴れた日だった
昨夜の事も何の感慨も無くぐっすりと眠った私だけれども
気が重いとしたら叔父に昨夜の事を報告しなければならない
両親は既に私が子供の頃に他界して
当伯爵家は母方の文官を辞してから叔父が名代として切り盛りをしている
私がアルバートと婚姻した後に譲り受ける予定だった
「叔父さま、私です。入ってもよろしくて?」
叔父は微笑みをたたえながら私を出迎えてくれた
「やあ、私の小さなお姫さま。」
そのいつもの笑顔が私は安堵した事は
きっと叔父は気がつきもしなかっただろう
「私、アルバート様とのご婚約を解消したいと思っていますの。」
叔父は方眉を上げて少し驚いた表情をしていたようだったが
直ぐに冷静さを取り戻し柔和な笑みをたたえた。
「そう、レティシアがそれで良いなら、私に異存は無いよ。
気になる他の貴公子はいるのかい?」
俯いて首を横に振る。
だって・・言えないの。理想の男性が叔父様だなんて
「いえ、特には。この度は私の我が侭で申し訳ありませんでした。」
叔父は目を細めながらこう言った
「私がアルバート君なら、君を離さないけどね。
彼も惜しい人物を手放したようだ。」
にっこりと微笑みながら「気にするな」と一言
私も「有り難うございます」と口にして私室へを戻った
叔父は私にとっては幼い頃からの憧れの人だった
お母様の義弟の叔父さま。お祖父様の再婚相手の連れ子が叔父で
実際には母とは10歳も年が離れている、私の方が年が近い
両親が無くなって文官だった彼が屋敷に戻ってきたのは19歳
母は男爵位をもつ祖父と2つ上の実兄がいる
伯父と叔父は折り合いが悪く、後妻の母親も既に他界している
お祖父様もすでにいらっしゃらないので
私にとっての身内は少ない
お父様は叔父が小さい頃から知っていたようで
「血は繋がらなくても良い義弟だね」と母に言っていたそうだ
私にとっては叔父さまは初恋の人で未だにそれ以上の存在になる男性はいない。
「きっと笑われるわね。」
今はまだ、夢を見ていてもいいかしら?
ねえ、叔父さま。