番外編・過去を語りませんか
特に読まなくても話の展開に支障はないと思われる番外編。
ジュード、カミラ、マナ、ウィル。彼らの過去のお話。
本編とは異なり、定期的に更新していきます。
「ウィル、どうかしたの? 元気がないように見えるけど……」
「え? あ、ああ……いや、なんでも……」
それは馬車での移動中。
カミラがふと口にした言葉から始まった。
彼女の言葉に、仲間の視線は一斉にウィルに集まる。すると彼は幾分居心地悪そうに苦笑いを一つ。
それに続いて、マナも軽く眉尻を下げて肩を疎ませた。
「そうね、今日はなんだか物静かな気がするわ」
「そ、そんなことないって」
「……そうでしょうか」
ガタゴト。
馬車が揺れる。
鉱石が積まれ、行く時よりも窮屈になった馬車内部。ウィル以外は全て女性だ。ジュードは今現在、外で手綱を握って馬と馬車を走らせている。
そんな中で、女性陣の視線と質問攻めがウィルを襲っていた。女性と言うのは、気になるとなかなか退いてくれない。
そこには、純粋な心配も含まれてはいるのだけれど。
リンファにまで訝られて、ウィルは軽く頭を垂れて小さく吐息を洩らした。諦めたように。
「……ちょっと、昔の夢を見てさ」
「あ……」
そこで、小さく声を洩らしたのはマナである。彼女は昔からジュードやウィルと家族のように育ってきたからこそ、ウィルの過去も当然知っているのだ。
ウィルは有名な商人の家に生まれたが、魔物の狂暴化で大切な家族を全て殺された。グラム・アルフィアの到着があと少し遅ければ、当時まだ幼かったウィルも助かってはいなかった、マナはそう聞いている。
しまった、と言うような表情を滲ませるマナに気付いたウィルは、ふと薄く笑って小さく頭を横に揺らした。
「あ、ああ、違うよマナ。そっちじゃない」
「……え?」
「その、それもまあ……あるにはあるけど……昔、ジュードと喧嘩したなあ、って」
「しょっちゅうじゃない、昔は喧嘩ばっかりしてたでしょ」
マナの間髪入れぬ返答に、ウィルは言葉に詰まった。
そうだ、確かにそうだ。昔は喧嘩ばかりだった気がする。
ウィルがジュードと知り合ったのは、十にも満たない九歳の頃だった。お互いにまだまだ幼くて、子供で。喚き散らしながら取っ組み合いの喧嘩をしたこともある。
そんな日々があったからこそ、今では互いの内を理解し認め合えるようになったのだけど。
ウィルは困ったように頭を垂れると、片手で自らの横髪を掻く。幾分バツが悪そうに。
「俺、ジュードと初めて逢った時にさ、早速喧嘩したんだよ。確かその場にはマナはいなかった」
「ウィルもこれから一緒に暮らすんだ、ってグラムおじさまに聞いたのは覚えてるけど……」
どうやら、マナは細かいことまでは覚えていないようだ。
無理もない。当時のマナはウィルよりも幼く、六歳か七歳程度だ。記憶は残っていても、幼い子供の身では喧嘩した雰囲気など事細かに記憶はしていないだろう。
「その時にさ、俺……あいつに物凄く酷いこと言っちまったんだよ」
ぽつり、と。
呟くように洩らしたウィルに、マナはリンファと顔を見合わせ、カミラとルルーナは不思議そうに小首を捻った。
それは、彼らがまだ幼い頃のお話――――……。