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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第二章〜魔族の鳴動編〜
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第四十七話・動き出す世界


「ジュード!!」


 カミラの体調が落ち着いてから、ジュードは彼女と共に小屋を後にした。

 そして彼女の案内で、鉱山近くの休憩小屋へと戻ったのである。

 そこには、はぐれた仲間達がジュードとカミラを待っていた。

 ウィルとマナが真っ先に駆け出し、二人の安否を確認し始める。その後にルルーナがゆったりと歩きながら続いた。

 リンファは出血が酷かった為か未だ立って走り出すことは叶わず、駆けていくオリヴィアの背を馬車の近くに座り込んだまま見つめる。


「ジュード、大丈夫なのか? どこか怪我とかは?」

「あ、ああ。大丈夫だよ。少し打撲みたいな痛みはあるけど問題ない」

「カミラちゃん、無事だったのね。もう、無茶ばっかりするんだから」

「ご、ごめんなさい。ルルーナさんは、ちゃんと休めた?」


 各々、再会を喜び合う姿には安堵が色濃く滲み出ている。

 ウィルはジュードやカミラの間に入り肩を組んでいるし、マナはそんな様子を見て心底安心したように満面の笑みを浮かべて見守る。ルルーナは人知れず小さく安堵に吐息を洩らした。

 オリヴィアは駆ける勢いそのままにジュードに飛び付き、いつものように甘えた声を出して再会を喜ぶ。

 リンファは、そんな彼らの様子を僅かにも表情を和らげて見守っていた。


 鉱石は馬車に積まれ、一行は水の王都シトゥルスへと戻ってきた。国王には言ってきたらしいが、王女であるオリヴィアを送り届ける為である。

 本来はそのまま発つ予定ではあったのだが、そのオリヴィアに連れられるままジュード達も再び王城へと足を向けることとなった。


「――お父様! ただいま戻りましたわ!」


 謁見の間に足を踏み入れると、オリヴィアはジュードの傍らを離れ玉座に座る国王の――父の元へと駆け出していく。国王は帰ってきた愛娘を出迎えるように玉座から立ち上がり、彼女の後ろに見えるジュード達を視界に捉えて表情を和らげた。


「おお、戻ったか。無事で何よりだ。目的のものは無事に手に入ったかな?」

「はい、問題ありません。これでエンプレスに戻れます。色々とありがとうございました」

「いや、私は何もしていないよ、……ん?」


 玉座の前まで歩み寄ったジュード達は、それぞれ国王へ深く頭を下げた。しかし、国王はそんな彼らに対し柔和な笑みを浮かべると小さく頭を左右に揺らす。彼にとっては過去に愛した女性に似た存在と出逢えただけでも嬉しい出来事であった。

 彼らの誰にも深い怪我がないことを確認し、国王は一つ安堵を洩らしはしたが、すぐに一人足りないことに気付く。緩やかに目を丸くさせながら彼らに改めて視線を巡らせた。

 そんな様子に気付いたウィルは、会釈程度に軽く頭を下げて説明を向ける。


「申し訳ありません。リンファは消耗が酷く、先に部屋で休ませる方が良いかと医務室に……」

「なんと……そうであったか、リンファほどの者が……」

「陛下、また魔族が現れたんです。今後は……もっと増えるかもしれません、リンファは魔族と戦って……」


 どうやら、リンファは国王からの信頼が厚いらしい。だが、続くウィルの言葉に思わず息を呑み、程なくして表情を曇らせながら一度視線を下げた。

 魔族が今後も現れる――更に、リンファでも激しく消耗するほどであれば対抗策を練るのも難しい。

 だが、その隣でオリヴィアは不貞腐れたように唇を尖らせると、つんと明後日の方を向きながら口を開く。


「お父様、リンファなんて使えませんわ。わたくしの護衛だと言うのに――ほらっ、こんな傷を負うハメになりましたもの! 護衛が姫であるわたくしの身に傷を許すだなんて!」

「オリヴィア……」

「ここは是非とも、ジュード様のようなお強い殿方に残っていただくべきですわ。魔族が現れてもジュード様ならコテンパンに叩きのめしてくださいますもの!」


 そう激昂しながら、オリヴィアは自分の片腕を国王へと差し出す。

 そこには、白い肌に刻まれた蚯蚓腫(みみずば)れが浮かんでいた。大きさにして二センチほどだ、言わずもがな小さいものである。が、王女として過ごしてきたオリヴィアにとっては傷と言うべきものなのだろう。

 国王は緩やかにも眉尻を下げて困ったように笑った。

 ジュード達が水の国までやってきたのは、水の属性を持つ鉱石を手に入れる為だ。前線基地で戦う者達の為に少しでも優れた武具――更に言うのであれば、竜が吐く炎のブレスから身を守る防具を造る為である。

 彼らはすぐにでも火の国エンプレスまで戻り、早速作業に取り掛からなければならない。水の国に留まって魔族退治をしている暇はないのだ。


「オリヴィア、ジュード君達はすぐにエンプレスに戻らなければいけないのだよ」

「ええぇ……では、ジュード様みたいにお強い殿方を迎え入れてくださいな、そうすれば我が国は安泰ですもの。出来ればジュード様のように勇敢でお優しくて素敵な方が良いですわ」


 いつものことながら繰り出される娘の駄々に、国王は困り果てたように苦笑いを零す。

 だが、そんな様子を見守っていたウィルは神妙な面持ちで一度視線を下げると、一歩足を踏み出して口を開いた。


「……陛下、厚かましい願いで恐縮なのですが、一つ宜しいでしょうか?」

「うん?」

「リンファを、我々に預けては頂けませんか?」


 それは、突然の願いであった。ジュード達も何も聞いていない。

 だからこそジュードもマナも、そしてカミラやルルーナも一斉にウィルに驚いたような視線を向けた。

 それは国王やオリヴィアも例外ではなく、皆一様に双眸を丸くさせてウィルを見つめる。


「リンファを、君達に?」

「はい、彼女の力は俺達だけでなく――きっと、多くの人の役に立ってくれます」


 ウィルの言葉に、国王は暫し考え込むように片手を顎の辺りに添えて黙る。立ち上がっていた身を静かに玉座の上に戻して座ると小さく、そして低く唸るような声を洩らした。

 ジュードは斜め後ろからウィルの横顔を見つめ、その真剣な風貌に気を引き締める。ウィルとは既に長い付き合いだ、彼がどれほど真剣な気持ちで頼んでいるかは容易に理解出来た。


「陛下、オレは魔法がダメですから……彼女の気功術には本当に助けられました。全員が無事に戻ってこれたのは、彼女の協力があったからだと思っています」


 だからこそ、即座に助け舟を出した。それに、ジュードがリンファの気功術に助けられたのは事実である。

 魔法を受け付けない特異体質を持つジュードに対し、リンファの扱う気功術は何よりも大きな助けであった。更に負傷したジュードが戦線離脱を余儀なくされている今、彼の穴埋めをしてくれたのもリンファだったと言える。前線をウィル一人で戦っていたらどうなっていたことか。

 だが、我に返ったオリヴィアは不愉快そうに表情を顰めると癇癪を起こしたように声を上げる。


「リンファなんていても役に立ちませんわ! 皆様の足を引っ張るだけですわよ!」

「役に立たないって言うなら尚更だ。そんなに彼女が憎いのなら、もう解放してやってくれ」


 ウィルにとって、オリヴィアの言葉は我慢のならないものだった。

 リンファがどれだけの過去を経験し、そして生きてきたのか。それを仲間の中で唯一知るウィルは、どうしても彼女をオリヴィアの護衛のままにはしておきたくなかったのである。

 魔族が今後も現れる可能性を考えれば、リンファは水の国に留まった方が良いのかもしれない。そうは思うものの、感情が――心がそれを許してはくれなかった。

 間髪入れずに返ったウィルの言葉に、オリヴィアは一気に血が頭に上るような錯覚を覚える。自分の言うことに反対する声や反論は何よりも許し難いものなのだ、これまでは自分に反論をしたり異を唱える者など誰もいなかったのだから。


「リンファが何の役に立つと言うんですの!? 姫であるわたくしを守れず、護衛として全くの無能! 何を考えているか分からなくて気味が悪いではありませんか! そんなあの女のことなど――――!」


 オリヴィアが捲し立てるように怒声を上げる中、不意に辺りがどよめいた。ざわざわと周囲にいた兵士達は困惑し、そして程なくして薄く控えめに――だが、確かな(あざけ)りを込めて笑う。

 ジュードやマナ、カミラやルルーナは驚いたように改めて双眸を丸くさせ、言葉を失った。然しものオリヴィア自身も声を失ったかの如く二の句を継げずに呆然と佇んでいる。

 それもその筈。オリヴィアが捲し立てる最中に、ウィルが床に両手両膝をついたからだ。――所謂、土下座である。

 両手と両膝を床につき、ウィルは深く頭を下げた。そんな姿は体裁を特に強く気にする水の国の民から見れば、酷くみっともなく、滑稽に映る。直接罵声を張り上げることはしないが、周囲にいる兵士達からは馬鹿にするような微かな笑い声と、兵士同士で囁き合う声が聞こえた。

 しかし、ウィルはそんな声に気を向けることはしない。


「ウィル……」


 マナは兵士達を威嚇するかの如く睨み付け、ジュードは予想だにしないウィルの行動にただ呆然と立ち尽くすしか出来なかった。それは、あまりにも予想外の行動だったのである。

 国王は暫し驚いたようにウィルを見つめていた。



 医務室で休むリンファの元に国王がやってきたのは、夕方のことだった。

 王都シトゥルスに戻ってきたのが昼前。リンファは戻ってからと言うもの、押し寄せる疲労感に抗えずにずっと眠っていたのである。依然として彼女の身には血液が足りていない。

 そんなリンファは、扉が開く微かな音に反応して目蓋を上げた。


「ああ、すまない。起こしてしまったか」

「――! へ、陛下! も、申し訳御座いません……!」

「いや、そのままで。疲れているのだろう」


 医務室に入ってきた国王の姿に、リンファの頭は即座に覚醒を果たす。慌てて起きようとした彼女を見て、国王は優しく笑うとそんな様子を制した。

 それでもリンファは納得したような表情はしなかったが、国王は彼女が身を横たえる寝台に歩み寄ると、その頭をやんわりと撫で付ける。


「リンファ、君を本日限りでオリヴィアの護衛から解くことにする」

「陛下……っ! そ、そんな……私は……!」


 思ってもいなかった言葉に、リンファは双眸を見開くと弾かれたように慌てて身を起こした。解く、と言うことはつまりはクビだ。

 だが、国王は優しく笑ったまま小さく頭を左右に揺らした。


「いいかい、リンファ。よくお聞き。ジュード君達が君の力を借りたいと私に頼み込んできたんだ」

「……え?」

「いや、正確にはウィル君かな。驚いたよ、謁見の間で土下座までしたのだから」


 ゆっくりと語られる言葉に、リンファは思わず言葉を失った。

 水の国は体裁を特に気にする国だ。当然リンファはそれを身に染みて理解している。

 地の国の闘技奴隷(とうぎどれい)であったリンファとて未だ一部の者には受け入れられておらず、時に嘲笑の的になるのだから。

 そんな国で土下座などすれば、どのような目で見られることか。


「リンファ、分かるな? 彼はそうまでして君をオリヴィアから解放したいと思ったんだよ」

「陛下……」

「娘が君に辛く当たるのを知っていながら、嫌われるのが怖くて――私は君に何もしてやれなかったな」


 その言葉は、リンファにとって更に予想外のことであった。

 国王自身も知っていたのだ。オリヴィアがリンファに対し、酷く当たっていたことを。リンファは両手で顔を覆うと、溢れ出す涙を隠した。喜びなのか、悲しみなのか。既に彼女自身にも分からない。

 国王はそんな彼女の頭を撫で付けたまま、そっと眦を和らげて笑う。


「明日からはオリヴィアの為ではなく、この世界の為に――今も魔物に怯えている人達の為に戦っておくれ」

「……っ、陛下……」

「行っておいで、リンファ。君を必要としてくれる人達と共に」


 国王から告げられる言葉に、リンファは声もなく何度も頷いた。言葉が出ない――否、言葉にならなかったのである。

 国王は変わらず優しげな瞳で彼女を見つめると、小さく声を洩らして笑った。


「だが、無理はせんようにな。私にとっては、君も可愛い娘のようなものなのだから……」

「私などには勿体無いお言葉です、陛下……」


 リンファは優しく――何処までも優しく己の頭を撫でる国王の言葉に、抑え難い嬉々を感じて小さくそう呟いた。


 * * *


 城を後にしたジュード達は、宿へ向かっていた。リンファが本調子ではない為、出発は明日に見送りとなったのだ。

 城に泊まらないのは、居心地が悪いからである。謁見の間で土下座などしたのだ、兵士からは嘲笑の的にされるだけでしかない。そんな中で一泊しようなどとは思えなかった。

 しかし、ジュード達にはウィルを責める気など全くない。

 自分達より一歩前を歩くウィルの背中を見つめて、ジュードは口を開いた。


「ウィル」

「……どうした」

「よかったな」


 ジュードもマナも知っている。

 ウィルは人並み以上にややプライドが高いと言うことを。本来ならば人前で土下座をするなど、有り得ないことなのだ。

 そのウィルが、人前で土下座までして頼み込んだのだ。彼がどれだけ真剣だったのかは、長い付き合いである二人にはよく分かった。

 ジュードの言葉に「ああ」と短く返すウィルは、彼らを振り返らない。バツが悪いのだろう。

 そこで、ジュードは暫し考え込む。どうすれば彼をいつもの調子に戻せるかを。そして、程なくして見えてきた武器屋に気付く。すると、ジュードは企み顔で改めてウィルの背中に声を掛けた。


「ウィル、武器屋だ、武器屋」

「……」


 当然、前回と同じように即座に却下が返ることを予測してのことである。

 ジュードの言葉にウィルは足を止めて、そちらを見遣った。何を思うのか、彼にしては珍しく深く考え込むように黙り込んだまま。

 あれ? とジュードとマナは顔を見合わせる。そんなに気にしているのだろうかと心配になったところでウィルは小さく溜息を洩らし、そこでようやく仲間達に向き直った。


「武器屋ねぇ……ジュード、武器欲しいのか?」

「え、あ。そりゃあ、うん」

「分かったよ」


 紫紺色の双眸を細めて呟くウィルに、ジュードは目を丸くさせると数度瞬きを打つ。そして向けられる問いは聊か意外なものであったらしく、ぎこちなく頷いた。

 すると、ウィルはまた改めて暫し黙り込みはしたが、ややあってから薄く苦笑いを滲ませながら頷く。意外過ぎる返答に言い出したジュード本人の反応が遅れるほどであった。

 だが、やがてジュードは歓喜に表情を破顔させ、マナはウィルの隣に歩み寄る。


「ちょ、ウィル……いいの?」

「いいの。今回のことでよく分かった、あいつには武器が必要だってな」

「リンファさんが入ってくれるなら、ジュードの復帰も近いかもしれないもんね」


 今後も魔族と遭遇してしまう可能性はある。そんな時に、自分で自分の身を守れる武器がなければどうにもならないのだ。

 今回は運良くリンファが落とした短刀を持っていたから良かったが、なければあの魔族二人との戦いがどうなっていたかは分からない。

 マナに続いてカミラもウィルに歩み寄ると、穏やかに笑いながら告げる。リンファの気功術があれば、ジュードが肩に負った傷の治りも多少は早くなる筈だ。それ以外にも、魔法を受け付けないジュードにとって彼女の気功術は何かと助けになってくれるだろう。


「ああ、……まあ、完治するまでは無理するなよ――って、あいつどこ行った?」


 鍛冶屋として、腕や肩が負傷して武具を造れないのは致命的だ。だからこそウィルは口煩く言うのである。彼の養父であるグラムが、まさに今そんな状況にあるのだから。

 改めて念を押そうとしたウィルであったが、つい先程までジュードが立っていた場所に、既にその姿はない。

 それもその筈、ジュードは真っ先に武器屋の前へ駆けて行っていたのだから。そして、店屋の前でウィルや仲間達に声を掛けた。


「ウィル、何やってんだよ、早く!」

「ああもう、あいつは……今行く、あんま肩に負担掛かるのとか選ぶなよ! 身の丈に合ったモンにするんだぞ!」


 そんなやり取りを聞きながら、マナは声を立てて笑う。カミラも微笑ましそうに彼らを眺め遣り、ルルーナは呆れたように双眸を細めた。だが、その表情には僅かに楽しげな色が覗く。

 そして、先に向かうジュードやウィルの後を追い、彼女達もまた武器屋へと向かっていった。


 王都シトゥルスの宿――その屋根の上には、そんな彼らを見下ろす二つの人影があった。


「どう? シヴァ」

「やはり子供だな」

「ええ、そうね。でもアタシは好きよ、あの子たち」


 それは、仲間とはぐれたジュードを拾った旅人――シヴァとイスキアであった。

 二人は騒ぎながら武器屋に入っていくジュード達を見守り、そして小屋で交わしたものと同じく短い言葉のやり取りを一つ。

 ふふ、と何処か楽しそうに笑うイスキアを横目に、シヴァは静かに口を開いた。


「伝えなくていいのか」

「ジュードちゃんに? 伝えてどうするのよ、混乱させるだけだわ」

「知っておいた方が良いような気もするが」

「そうね。でも出来ることなら……自分が持つ宿命に気付かず、平和に生きてもらいたいじゃない」


 返る言葉に、シヴァは改めて武器屋へ視線を戻す。中でジュード達が何を言い合い騒いでいるかは、彼らの知るところではない。

 これ以上魔族に関わることなく、平和に生きてほしい。イスキアの願いはそれだ。しかし、それが難しいことはシヴァにもイスキアにも分かっている。


「出来ると思うのか」

「無理でしょうね」


 シヴァの問いにイスキアは悩むような間も置かずに答えると、懐からカードを取り出す。そして、束になったカードの山から一枚を取り出すと、そこに描かれている絵柄に視線を向けた。

 カードには、雷に打たれる塔の様子が描かれている。全体的に見て雰囲気は暗く、見る者に不安や焦燥さえ与えてくるほどだ。


「何度カードを広げてみても、出てくるのは決まって――破滅を表す塔のカード。この世界の崩壊、破滅を暗示している……」

「……」

「でも、この未来は何としても変えなければならない。行動次第で幾らでも変えられる筈よ」

「だから、俺達がいる……か」


 相棒から返る呟きにイスキアは小さく頷くと、取り出したカードを懐へ戻す。そして屋根に座り込むと軽く上体を前に倒し、膝に片肘を乗せて頬杖をついた。

 表情には楽しげな笑みを滲ませて。


「そう、アタシ達はジュードちゃんを守ればいいの」

「陰ながらか?」

「出来ればね」


 先日――ジュード達が鉱石を取りに行く際にも、二人は街の近くで彼らを見守っていた。姿を現すことなく、陰ながら。理由は様々にあるが、彼らは極力姿を現すことを避けているのだ。

 ジュードを拾ったのも、偶然などではない。ずっと見守っていたからであった。

 シヴァは暫く相棒の背中を見つめていたが、イスキアは飽きることなく武器屋を見下ろしている。

 だからこそ、それ以上は余計な言葉を向けずシヴァは橙色に染まりゆく空を仰いだ。


 燃えるような夕焼けが何処までも美しい。

 この世界の崩壊など、誰も予測出来ないほどに。



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