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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第九章~魔戦争編~
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第五話・魔王出撃


「それじゃ、気をつけるのよ。こっちが早く終われば援護に行くわ」

「私たちのことより、ご自分のことを心配なさってください。……本当に残らなくてもよろしいのですか?」

「アンタまでクリフさんと同じこと言わせないでよね、リンファ。他にやることがあるでしょ」


 地の国の王都に行き着いたルルーナとグラムは、これから水の国に向かうカミラたちに向き直った。心配そうな表情を浮かべたリンファの言葉に、ルルーナは呆れたように双眸を半眼に細めると片手をヒラヒラと揺らしてみせる。

 リンファもクリフ同様、地属性は苦手――つまり、この地の国に残っても実力を発揮できない一人なのだ。それがわかっているからこそ、ルルーナは力なく頭を左右に振って早く行けとばかりに片手を払う。


「カミラちゃんたち、気をつけてな」

「は、はい! おじさんも……終わったらみんなで会いましょう」


 グラムはルルーナとリンファのやり取りを横目に見遣ってから、カミラやエクレールに向き直る。幸いなことに今はまだ魔族の姿が見えないが、もうそんなに時間はないだろう。水の国には既に魔族が上陸していてもおかしくはない。

 ここから水の王都シトゥルスまでは、まだ時間がかかる。急ぐに越したことはなかった。

 カミラは慌てたように何度も頷き、続いてエクレールと顔を見合わせる。


 そうして再びヴァリトラの背中に乗り込み、飛び立っていく様を見上げてひとつ息を吐き出す。

 共にガルディオンから出てきた兵力は、それほど多くはない。いくらヴァリトラが巨体とは言え、水の国に同行する兵士も同乗していたこともあり、そんなに多くの兵を連れては来れなかったのが現状だ。

 限られた戦力でどのように戦うか――かつて火の都を陥落から守り抜いたグラムであっても、守り切れるかと問われれば頷くことはできない。


 厳しい戦いになる。言葉には出さずとも、遠くの空に見えてきた一団を見れば嫌でもそう思うしかなかった。


 * * *


「どこが一番早く落ちるだろうな」


 一方で、魔族の拠点となっている旧ヴェリア王国跡地の王城では、魔王サタンが漆黒の外套を羽織り、屋上へと姿を現した。ゆうるりと吹きつける風を心地好さそうに全身で受け、大きく息を吸い込む。

 その傍らに控えるアルシエルは、次々に空へと飛び立っていくグレムリンの群れを見上げた。


「では、サタン様。私もそろそろ出立致します」

「しかし、見つけ出すことは可能なのか? あの場は所縁のある者しか立ち入れぬと聞いた覚えがあるが……」

「問題はございません、アンヘルはジュード王子そのもの……それに一度、精霊の里には足を踏み入れておりますので、迷うことなく辿り着けるかと」


 アルシエルの返答にサタンはまっすぐに目を向けたまま、低く喉を鳴らして笑う。

 狙いは――北にある水の国、精霊の里に祀られている聖石だ。

 ヴァリトラの力を秘めたあの石は彼ら魔族でも想像できないほどの力を持ち、あらゆる奇跡を起こすことで抵抗してくる。そのようなものを残しておけば今後の戦いにも弊害が出てくることは間違いない。

 そう判断してのことだ。

 早々に破壊し、この世から消し去ろうと言うのである。


「では、聖石はお前に任せる」

「はい、サタン様もどうかお気をつけて」


 そう告げると、アルシエルは己の背中から血のように真っ赤な翼を出現させた。背中を覆う長い髪が割り開かれ、大きく両翼を広げる。

 サタンは大空に飛び立っていく彼を見送ってから、南方へと視線を向け直した。

 悪戯に戦いを長引かせる気など、彼にはない。これまでアルシエルはサタンの復活のために全力を投じていたが、既にサタンはこうして完全なる姿を取り戻している。


 今後は――魔族のための世界へ作り変えるべく、人間を殲滅する。

 それだけで充分なのだ。ジュードの力があれば支配が楽になるというだけ、サタンにとって必ずしも必要な存在ではない。


「さて……暴れるのは久方振りだからな、少々ウォーミングアップといこうか」


 サタンは近くに聳え立つ木々へと視線を投じる。緩やかに吹きつける風が木の葉を揺らす様は、どこにでもある風景だ。

 けれども、サタンが真紅の双眸を見開くと、次の瞬間――いくつもの大木が大きく弾け飛んだのである。まるで木の内部から爆発したかのように。

 粉微塵に吹き飛んだ木であった破片は、吹きつける風にふわりふわりと流されていく。


 次に、上空へ飛び立っていく一匹のグレムリンを目に留めると、睨むようにその身を凝視する。

 すると、グレムリンの身は宙でピタリと止まり、程なくして喉奥から苦悶の声をひり出し始めた。背から生える翼が根元からねじれ、四肢が関節からゆっくりとひと回り。その動きが止まることはなく更に回り、やがて骨が折れる音と共にねじ切れてしまった。

 それと共に鼓膜をつんざくような悲鳴と、切れた箇所からはおびただしいまでの血飛沫が上がる。

 間もなくグレムリンの身は解放されたが、その時には既に絶命していた。魂の抜けた肉塊が重力に倣い、大地へ落ちていく。


「ふむ……甦ったばかりではこの程度か、まあよい……」


 物言わぬ屍と化した遺体から興味を失くしたように視線を外すと、再び空に目を向けた。大きく息を吐き、先ほどのアルシエルと同じように背中から――漆黒の大きな翼を出現させる。まるでコウモリのような形状をした巨大な翼を。

 近くにいた他のグレムリンの群れは恐れ戦き、クモの子を散らすように我先にと空へ飛び立っていく。

 サタンの両翼がひとたび羽ばたくと周囲には猛烈な突風が吹き荒れ、城の屋根や壁を斬り刻んで破壊した。


 しかし、サタンはそれにも気を向けることはなく大空へと舞い上がり、薄く笑みさえ浮かべながら海に――否、海の先へ視線を投じる。

 水の国にはアルシエルが、風や地の国には部下を向けた。サタンが向かうのは――南にある火の国、王都ガルディオンだ。

 サタンは口角を引き上げて笑うと、再び背中の翼を大きく羽ばたかせ南へ向けて飛び出した。



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