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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第九章~魔戦争編~
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第四話・四つの勢力


 これから、魔族との戦いになる。

 誰もがそれは理解していたし、各国の街や村の人間たちも覚悟していたこと。

 しかし、それはあまりにも突然だった。


「――陛下ッ! ミストラルから救援要請が!」

「な……ッ、なんだと? どういうことだ!?」

「それだけではありません! 同時にアクアリー、グランヴェルにも魔族の群れが放たれたと報告が……直にこのガルディオンにもやってきます!」


 謁見の間に飛び込んできた兵士の言葉に、アメリアは思わず玉座から弾かれたように立ち上がった。蒼褪めながら報告を向けてくる彼の言葉に、下唇を噛み締めると謁見の間にある大窓へ視線を投じる。

 そこから見える空に魔族がやって来るような姿はまだ確認できないが、各国に向けて放たれたのであれば確かにすぐにここにもやって来るだろう。


 一斉攻撃。

 四か国の中で無事なのは、この火の国エンプレスと隣国である風の国ミストラルだけだ。水の国アクアリーと地の国グランヴェルは都そのものが壊滅、王族は保護してあるが拠点らしい拠点はない。

 だが、アンデットの群れで溢れ返っているだろう水の国はともかく、地の国には街や村があり、そこでは多くの民が生活しているはずだ。

 都の騎士団が壊滅してしまった今、民を守れる者は誰もいない。このままでは魔族に殺されてしまう。


「……メンフィス」

「ふむ、やはり奴らも動いてきましたな。これでも遅い方です、向こうにもなにかしらの動きがあったのやもしれませぬ」


 どうすべきか――アメリアはそう思いながら傍らに控えるメンフィスへ視線を投じる。すると、彼は厳つい風貌に憤りを滲ませながら、吐き捨てるようにそう呟いた。

 ジュードたちが地の国から戻って既に一週間近くは経過している。その間になにも襲撃がなかったことはメンフィスとて意外に思っていた。本来ならば立て続けに攻撃を受けていても、おかしくはないはずなのに。


「……しかし、こうしてはいられませんな」

「ああ、各地に残っている者たちを助けねば……」

「それはもちろんなのですが、戦とはそう簡単なものではありませぬ。各国全てを制圧されてしまえば、こちらは完全に包囲されます。そうなる前に手を打ちませんと、盛り返すのは難しいでしょう」

「つまり、各国へ兵を送らねばならぬと……そういうことか……」


 もしも火の国以外の国が魔族に制圧されてしまえば、このエンプレスは東や西、更には海を越えて北からも襲撃を受けることになる。そんなことになれば勝ち目など消えてしまう。

 エンプレスとミストラルは隣り合っている国だ、ゆえにどちらかが陥落しない限り孤立はしないだろうが――逆に、どちらかが落ちれば支援も受けられない状態になる。

 急がなければ。アメリアとメンフィスはそう思いながら、固く拳を握り締めた。


 * * *


「じゃあ、みんな。……気をつけて」


 屋敷に戻っていたジュードたちは、ヴァリトラが作り出した精神空間(マインドスペース)で訓練を行っていたのだが、メンフィスの使いの者に招集され、そうもいかなくなった。

 謁見の間で話を聞いて即座に動くことになり――彼らの戦力は今回もまた、王都グルゼフの時と同じように分けられることになったのだ。今回はグルゼフの時よりも悪い、先日は三つに分かれたが、今回は四つ。不安ばかりが残る。


 風の国にはウィルとクリフ、地の国にはルルーナとグラム、水の国にはカミラとリンファ。

 そして火の国にはジュードとマナ、メンフィスが防衛に立つことになった。

 その他、風の国には王子のヴィーゼと彼が率いる騎士団が戻り、水の国の防衛にはエクレールが参加してくれる。あとは、それぞれの地方を守る精霊と神柱(しんちゅう)たちが参戦し、魔族を撃退するという手筈になった。


「グランヴェルとアクアリー勢はヴァリトラが送ってくれるわ、風の国行きのみんなはアタシが連れて行くから大丈夫よ」

「うに、イスキアの風の魔法なら一瞬で飛んで行けるはずだに」


 こうしている間にも魔族は各国へと迫っていることだろう。

 風の国には国王と騎士団が残っていることもあり、ある程度は大丈夫だろうが――猶予もないのは地の国グランヴェルだ。他国と異なり国全体が広い上に人口も多い、急がなければ守りきれない。


「おじさま、行きましょう」

「うむ、久方振りに大暴れしてやるとするか」

「――父さん!」


 ルルーナは仲間たちを一度見遣ってから早々に踵を返す、城の中庭ではヴァリトラが待っているはずだ。グラムは彼女の言葉に頷くと、その後に続くべく足を踏み出したのだが――背中にかかった声に肩越しにジュードを振り返る。

 血の繋がりなどなくとも、グラムとジュードは確かに父子なのだ。これから戦に向かう父が心配にならないはずがない。

 だが、グラムは声を上げて笑うと片手を軽く揺らしてみせた。


「はっはっは、なんという顔をしとるんだジュード。父さんなら大丈夫だから、お前は……な?」


 言葉途中に、グラムの視線はカミラへと向く。自分よりも彼女の心配をしてやれと、そう言っているのだ。

 クリフは片手の人差し指で己の頬を掻いていたが、程なくして先を行くルルーナの後を追いかけた。


「お嬢、本当に俺が行かなくてもいいのか?」

「あなたが来てどうするのよ、地の国じゃ満足に力を発揮できないでしょ。大体が私たちの固有属性に合わせて振り分けられてるんだから」

「そ、そりゃそうなんだけど……」

「おじさまやガイアスがいるんだから大丈夫よ。あなたこそ、人の心配ばかりしてないで自分の心配してちょうだい」


 そう言われてしまえば、それ以上の反論はできない。クリフは困ったように眉尻を下げて、片手で後頭部を掻き乱す。

 各々足を進め始めたのを見遣り、ルルーナは「じゃあね」と最後に一声かけて再び中庭へと歩みを進めた。ジュードとマナはガルディオンに残るが、他のメンバーはすぐにでも各国に向かわなければならないのだから。

 ヴィーゼやエクレールは、既に城の外や中庭で彼らの到着を待っているはずだ。


「……ね、ねぇ、ウィル。あたし行かなくて大丈夫?」

「大丈夫だって、クリフさんやヴィーゼ王子が一緒なんだしさ。いざって時はイスキアさんやトールもいるし」


 外へと向かう道すがら、マナは隣を歩くウィルに心配そうに声をかけた。一刻を争う状況と言うこともあり早足だ、遅れないように小走りになりながらその隣を駆ける。ウィルは足を止めることなく横目に彼女を見遣り、何度か頷いてみせた。

 ミストラルに分けられた戦力は安定している方だ。風の神器を持つウィルと、雷の神器を持つクリフがいるだけでも随分違うだろう。それだけでなく、ヴィーゼの騎士団や国に残っている戦力もかなりのものだ。


 それでも、絶対に大丈夫だと言える保証はない。マナは口唇を噛み締めると、どこか泣きそうな顔で改めて口を開いた。


「ちゃ、ちゃんと生きて帰ってきてよ。話したいこといーっぱいあるんだからね!」

「ああ、わかってる。マナも……気をつけろよ。いくら聖剣持ったジュードがいるって言っても、なにがあるかわからないんだしさ」

「う、うん!」


 ヴァリトラに送ってもらう面々は中庭に、風の国に行く面々は城の外へと向かっていく。クリフと共に城の外へと急ぐウィルの背中を、マナは心配そうにずっと見つめていた。

 ウィルとてマナのことはもちろん、仲間が心配だろう。本来ならばもっと時間を作って別れを惜しみたいところだが、状況がそれを許してはくれなかった。


「カミラさん、本当に大丈夫? 本来ならオレが行かなきゃならないのに……」

「リンファさんやエクレールさんがいるから、わたしは大丈夫。ヴァリトラも加勢してくれるって話だし」


 中庭に足を踏み入れたジュードは、隣を歩いていたカミラに一声かけた。

 恐らく、水の国が一番の激戦区になる。あの国が現在どのような状況になっているかもわからない他、他の国には存在している神柱が不在なのだから。

 その激戦が予想されるからこそ、ヴァリトラだけでなくジュードと同じ能力を持つエクレールが水の国に向かうことになったのだ。今回はライオットもジュードの傍を離れ、エクレールの力となるべくノームと共に水の国行きのメンバーに組み込まれている。


「メンフィスさんも言ってたけど、このガルディオンには多くの戦力と王族の方々が集まってる……ここを落とされるわけにはいかないの。だから、ジュードはガルディオンを守って」


 今や、この火の王都ガルディオンは彼らの本拠地だ。

 他の国の面々が必死に拠点を守り切ったとしても、戦力が集中しているこの本拠地が陥落すれば全てが水の泡。纏まりかけた希望もバラバラになってしまう。ジュードやマナの責任はこれ以上ないほどに重大だ。

 この王都ガルディオンは、仲間が戻ってくる場所――謂わば「帰る場所」なのだから。


「……うん、わかった。ライオット、ノーム。みんなを頼んだぞ」

「任せるに!」

「はいナマァ!」


 水の国の防衛を早く済ませれば済ませるだけ、隣接する風の国や地の国の助けになってくれるだろう。早く終われば援軍を送り出すことができるのだから、上手くいけば挟み撃ちにできる。

 心配は尽きないが、ジュードはそれ以上はなにも言わないことにした。あまり言い過ぎると、逆に彼女たちの負担になってしまう。

 代わりにエクレールに視線を向けてみると、彼女はにこりと優しく微笑んで小さく頷いた。


 見送りにはテルメースやリーブルが来ている。誰もが皆、心配そうな表情で彼らを見つめていた。



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