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第二十四話・交信能力の違い


「申し訳ありませんでした、わたくしが余計なことを言ってしまったばかりに……」


 宿の食堂に集まったウィルたちの元に顔を出したエクレールは、椅子に腰を落ち着かせて申し訳なさそうに視線を下げていた。

 時刻は既に夜の二十一時を回っている。食堂には彼ら以外の宿泊客の姿は見えない、あの騒ぎで疲れたのだろう。皆、借りた部屋で休んでいるものと思われる。

 そんな中、ウィルたちはこの食堂で何をしているのかと言うと――ジュードとグラムが帰って来るのを待っているのだ。


「いや、構いませんよ。少なくとも俺たちは知れてよかった……と、思う」

「そうね、遅かれ早かれ知ることにはなっただろうし……あのジュードがヴェリアの王子様だなんて、未だに信じられないけどさ」

「でも、本当に間違いはないの? カミラちゃんは、確かヴェリアの第二王子は死んだって言ってたわよね?」


 ウィルたちには、エクレールを責め立てる気は微塵もない。

 ジュードが言うように、彼女はこの街を必死に守ろうとしてくれたのだ。それに、彼女がジュードの素性を告げたのも、悪意からのものではない。

 マナはそこまで考えて納得したように小さく頷く。彼女がなぜあのような様子でジュードを見ていたのか、その謎がやっと解けたのだ。亡くなった筈の兄にジュードがよく似ていたから期待していたのだろう、この人は兄ではないのか、と。

 ルルーナはグラスに入った水を呷ると、そっと一息吐きながらエクレールに問い掛けた。


「う、うん、ヘルメス様が仰ったの。弟は魔族に喰われたって……」

「わたくしも聞きました、でも……間違いはありません。あの方はわたくしと同じ力をお持ちなのです」

「それは私とウィル様も見ました、ジュード様と同じ交信(アクセス)能力を……」


 リンファの言葉に驚いたのはウィルを除く面子だ、エクレールがその力を見せた時、あの場には逃げ惑う住人とウィルやリンファしかいなかった。そのため当然と言えるのだが。


「ね、ねぇ、それじゃあ……魔族との戦いにも充分勝機って……あるわよね。エクレール王女がジュードと同じ能力を持ってるってことは、あれだけの力を発揮出来るってワケでしょ?」

「……そうね、水の王都での力を考えると……」

「わたしも、エクレール様がジュードと同じ能力を持ってるだなんて初めて知った。わたしが一人でヴェリア大陸を出る時はそんなお力は持ってなかったから……」


 水の王都でメルディーヌと交戦した際、ジュードは水の神柱(しんちゅう)オンディーヌの力を借り受けた。あれほどの力をエクレールも発現出来るのであれば、魔族との戦いでも充分に勝ち目はある。

 アルシエルと言われる現在の親玉がどれほどの強さを持っているかは定かではないが、無謀な戦いとまではいかないだろう。先程見た風の神柱シルフィードの強さを考えれば、特に。

 だが、その考えは不意に聞こえてきた声により否定された。


「それは難しいによ」


 ――ライオットだ。今まで何処にいたのか、共にやってきたイスキアの肩に乗っている。

 イスキアの頭にはトール、手の平にはノームが乗っていた。

 マナはライオットの言葉に軽く眉尻を下げると、否定の意味を問う。なぜ無理なのかと。


「無理って……どうして?」

「うに……どう説明すればいいか分からないに……」


 すると、ライオットは助けを求めるようにイスキアを見上げる。当のイスキアはウィルたちの傍まで歩み寄ると、己の身に乗る三人の精霊を広い長テーブルの上に下ろし、己は近くの椅子に腰を落ち着かせた。

 そして「う~ん」と小さく唸った末に静かに語り始める。


「そうねぇ、ジュードちゃんとエクレールちゃんは少し違うのよ。簡単に言うと、エクレールちゃんはジュードちゃんよりも素質が上ね」

「そ、そうなんですか!? ジュ、ジュードよりも……上……?」

「ええ、でもそれはあくまでもマスターとしての素質(・・・・・・・・・・)だけの話だけれど」


 イスキアのその言葉は、ウィルたちを驚かせるには充分だった。今、目の前で小さくなっているこの可愛らしい王女が、ジュードよりも優れた素質を持っているのだと言う。

 言われて「はい、そうですか」と頷ける話ではないし、簡単に信用出来ることでもない。実際に当のエクレール本人も不思議そうに目を丸くさせている。


「エクレールちゃんはジュードちゃんよりも優れた素質を持っているけれど、交信の対象はあくまでも精霊(・・)なのよ」

「……? 交信って、そういうものなんじゃないの?」

「ふふ、ライオットから聞いたけど……あなたたち、水の王都や精霊の里でのジュードちゃんのことは覚えてる? 四神柱(ししんちゅう)()に近い存在であり、精霊(・・)ではないのよ?」


 その言葉にマナやカミラは不思議そうに首を捻り、ルルーナとリンファは何事か考えるように黙り込んだ。そして、軈てその視線はいつものようにウィルに向く。解説や説明を求めて。

 当のウィルはイスキアの言葉を頭の中で整理すると、軽く眉を寄せた。


「……つまり、ジュードの交信能力の対象は精霊だけじゃない、ってこと……か?」

「お兄さ――いえ、ジュードさんは四神柱との交信が可能なのですか……!?」

「そう、その通りよ。エクレールちゃんは精霊であれば、上級精霊や大精霊問わず交信は出来る。でも、ジュードちゃんはそれに加えて四神柱との交信も可能なの。だから、メルディーヌを退けるほどの力も出せたのよ」


 ジュードが今この場にいなくて良かったと、ウィルもマナも思った。本人がいれば既に頭から煙を出していることだろう。現在、カミラやマナとて理解出来ているかは危うい。だと言うのにジュードに理解出来るとは到底思えなかった。

 頭の中で情報を整理していきながら、ウィルは気になる点を幾つか纏めていく。


「……素質はエクレール王女の方が上なのに?」

「そうよ、エクレールちゃんはジュードちゃんよりも豊富な精神力を持ってる。だから交信可能時間もエクレールちゃんの方が長いわね」

「じゃあ、どうしてエクレール王女は四神柱との交信が出来ないんですか?」

「そうねぇ、血の影響とでも言えば良いかしらね」


 ルルーナやリンファと言った比較的冷静な面子は話に付いてきているようだが、マナやカミラに至っては既にお手上げ状態らしい。互いに顔を見合わせて不思議そうに首を捻るばかり。

 イスキアが語る話はエクレールも関心を寄せているらしく、水の入ったグラスを両手でそっと握りながら続きの言葉を待っている。


「四神柱と言うのはね、マスターではなく勇者の血を持つ者がだ~い好きなのよ」

「でも、エクレール王女も勇者の子孫なんじゃ……」

「そうよ。でもエクレールちゃんは父親の勇者の血よりも、母親の精霊族の血を色濃く受け継いだの。逆にヘルメス王子は勇者の血を濃く継いだけれど、精霊族の血が薄い所為で交信能力は持ってない」


 そこまで言われれば、全て語られずともウィルやルルーナ、リンファならば理解は出来る。エクレールも納得したように目を伏せて何度か小さく頷いていた。


「……ジュードは、勇者の血と精霊族の血を両方継いだのか」

「ええ、その通りよ。勇者の血と精霊族の血、あの子の身体にはその二つが半分ずつ、ちょうど良い割合で流れているの。だから四神柱と心を通わせることも出来るし、精霊族の血で彼らとの交信も出来る」

「素質はヘルメス様やエクレール様の方が上でも、半分ずつ血を持つジュード様は両方の恩恵を受けられると言うことですね……」


 話は大体理解出来た。

 つまり、ジュードは勇者と精霊族の両方の血を受け継いでしまったために、精霊のみならず四神柱とも交信出来る、と言うことだ。

 恐らく、魔族に狙われるのもそのためだろう。魔族はその力がほしいのだ。


「……ジュードは、やっぱりヴェリアの王子なんですか?」

「そうよ。あの子は死んだと言われていたヴェリアの第二王子、ジュード・エル・ヴェリアス本人。ヘルメス王子の言うように、ジュードちゃんは確かに一度魔族に……サタンに喰われたことがあるわ」

「……!?」


 ウィルとしては、どうしてもそれが知りたかった。ジュードは本当にヴェリア王家の人間なのか、と。

 尤も、本当に王子であろうとなかろうと、彼らの認識はほとんど変わらないのだが。

 しかし、イスキアが続けた言葉にウィルだけでなく、マナたちもその表情を強張らせた。サタンと言うと、現在進行形でジュードを欲している魔族の長だ。

 そのサタンに喰われたことがあると言うのなら、なぜ無事だと言うのか。

 けれども、イスキアはそれ以上語ることはせず、にこにこと表情に笑みを浮かべながら座していた椅子から立ち上がった。


「イスキアさん!」

「うふふ、今日はここまでにしておきましょ。これからはアタシも同行させてもらうから、いつでもお話出来るわ。……疲れたでしょう、あなたたちも今日はもう休みなさい」


 それだけを告げると、イスキアはにこやかに微笑んだまま静かに踵を返す。ライオットたちはそんな彼の背中に飛び付くと、ウィルたちに小さく手を振りながら宿を出て行ってしまった。

 ちょうど良いところで話を止められてしまったが、イスキアの言うことは尤もだ。今日一日で色々なことがあり過ぎた、少し頭と情報を整理したいところではある。

 口には出さないが、誰もがそう思っていた。



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