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第一話・新たなる動き


 水の国の王リーブルの護衛をしながらジュードたちは南下し、関所まで行き着いていた。王都が陥落してしまった以上、国王である彼を水の国に残しておく訳にはいかない。火の国ガルディオンで落ち着くまで保護することになったのだ。

 だが、関所には人だかりが出来ており、着の身着のままと言った様子の人々がリーブルの姿を認めて、泣きながら声を上げた。


「へ、陛下! 国王陛下よ!」

「ああっ……王様、リーブル様!」

「こ、これは一体……なぜ民が無事で……」


 それは、水の国の街や村に住む住人たちだった。それまで関所を見張っていた兵士たちも国王の姿を確認すると、その相貌を安堵に崩す。

 ジュードたちはそれぞれ驚いたように顔を見合わせ、リーブルは信じられないと言わんばかりの表情を浮かべながら人々の元へ歩み寄る。その足取りはやや覚束ない。

 すると、咽び泣く女性と手を繋いだ幼い少年が表情に満面の笑みを乗せて疑問に答えてくれた。


「あのねあのね、キレイなお姉さんがぼくたちを助けてくれたの。イヤな雨が降ってきてすぐにその人が来てね、家から出ちゃダメって教えてくれたんだよ」

「そ、そうか……そうだったんだね、教えてくれてありがとう。君は怖くなかったかい?」

「うん!」


 少年の言葉にリーブルは目に涙を滲ませると、少しでも目線の高さを合わせようと彼の目の前に片膝を付いて屈む。喜びに打ち震えながら少年の小さな頭を撫でるその手は、小刻みに震えていた。

 いずれもボロボロの酷くみすぼらしい格好だが、国王の姿を確認して安心したのだろう。逃げ延びてきた彼らの目には、ほぼ例外なく涙が光っている。


「……よかった」

「はい、本当に……ですが、その綺麗なお姉さんという方はどちらに?」


 そんな光景を眺めてジュードが呟くと、彼の斜め後ろにいたリンファが同意を示すように小さく頷く。だが、当の少年の言葉に出てきた「綺麗なお姉さん」とやらの姿が見えない。


「その方でしたら、やることがあるからと先に風の国に向かわれました。私たちは、この関所にいればきっと陛下にお会い出来るからと言われて……」

「イスキア様と仰る方でした、あちらこちらの街や村々を巡ってあの黒い雨から我々を助けて下さったのです」

「イスキアさんが……!」


 まだ年若い夫婦と思われる男性と女性の言葉を聞いて、マナは表情を輝かせた。

 シヴァが王都シトゥルスに現れた際、いつも行動を共にしていたイスキアの姿はなかったが、二手に分かれていたのだろう。シヴァはジュードたちの援護に、イスキアは住人たちの保護に。


「やることがある、か……これからオレたちも風の国に行くんだし、逢えるといいな……」

「……そうね、相方のことも話さなきゃならないものね」


 守らなければならない者は増えたが、これから向かう場所は風の国ミストラルだ。ジュードたちにとっては庭と言っても過言ではない。

 それに、風の国は魔物の狂暴化が進んでいない唯一の場所。これまでよりは随分と楽だろう。

 心を整理するにも、良い場所であった。


 * * *


「ほう……では、今回は随分と自信があるのだな?」

『はい、アルシエル様。贄は風の国に入国しました、ちょうど良い頃合いですわ』


 アルシエルは常の如く王城の玉座に腰掛けたまま、片手に持つ水晶へと視線を投じる。その球体にはヴィネアが映し出されていた。

 現在は風の国にいる彼女と、魔術を用いて連絡を取っているのだ。


『必ずや贄を捕まえて、アルシエル様の元に連れて行きます』

「分かった、期待している」

『は、はい……アルシエル様……』


 アルシエルの言葉にヴィネアは真っ白な頬をほんのり赤く染めると、嬉しそうに微笑む。そんな彼女の様子に口角を引き上げて一つ「フン」と鼻を鳴らした後、アルシエルは水晶を放った。

 すると、転がったそれは魔術の効果を失い、絨毯の上でただの球体へと戻る。


「アンヘルの具合はどうだ、メルディーヌ」

「はっ、外部から何らかの干渉を受けたようです。まさかワタシの精神操作の魔術を揺るがす者がいるとは思いませんでしたが……」

「ほう、それは興味深いものだな」

「しかし、ご心配には及びません。より強固な精神操作の魔術を幾重にも重ねて施しましたので、これでそう簡単には本来の記憶を取り戻すことはない筈です」


 メルディーヌの言葉にアルシエルは何処か満足そうに頷き、静かに玉座から立ち上がる。そんな彼を見てメルディーヌ自身も、跪いていた床から腰を上げた。


「イヴリースとアグレアスはどうしている?」

「はい、無事に魔心臓(・・・)との融合に成功致しました。これもアルシエル様のお役に立ちたいとの想いからでしょう、アレに耐え得るのは容易では御座いません」

「……そうか」


 緩慢な足取りで歩みを進めて行きながらも、返る言葉にアルシエルは一瞬のみ軽く眉を顰める。

 だが、すぐに何事もなかったかのようにその表情を戻すと、暗闇が広がる通路の先へと歩みを進めた。



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