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蒼竜世界の勇者 -鍛冶屋が勇者になる物語-  作者: mao
第六章~出逢いと別れ編~
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第六十一話・見えた希望


「あ、いたいた! ジュード!」


 昼食を終えたマナたちは朝から姿の見えないジュードを探して、朝同様に聖殿へと足を運んだ。彼女たちは朝食を終えてから聖石を調べていたのだが、その頃のジュードはと言えばウィルとイスラに付いていたため、顔を合わせる機会がなかったのである。

 その後、ジュードはラギオと共に書庫に足を向け、マナたちはその間に昼食を食べに家に戻ってきていた。完全に入れ違いになっていたのだ。

 ジュードはどうしているか、マナはルルーナやリンファと共に彼を探し――そして聖石の間でようやく見つけた。

 マナの声にジュードは開いていた本から顔を上げると、すっかり元気になったと思われる彼女たちの姿にそっと眦を和らげた。ちびは真っ先に舌を出して駆け寄り、ジュードの傍らに腰を下ろすと上機嫌に尾を揺らし始める。


「あ、みんな。身体は……もういいのか?」

「うん、あたしたちはもう大丈夫よ。ウィルたちはもうちょっと安静が必要みたいだけど……そっちはどう? 何か見つかった?」

「いや、全然ダメ。さっきラギオさんにこっちも見せてもらうことにしたんだけど……」


 ルルーナとリンファはちびとマナに遅れること数分、ゆったりとした歩調で歩み寄ると彼の傍らに積まれた古びた本の一冊を各々手に取り、数ページほど捲る。だが、その風貌はいずれも複雑そうに歪んだ。


「……なにこれ、字なの?」

「そうなんだよ、全く読めなくてさ。ラギオさんたちも読めないって言ってたから、どうしようかなって……」

「ライオット様やノーム様でも駄目ですか?」

「申し訳ないナマァ……」


 ルルーナはジュードの隣に腰を落ち着かせると数ページほど何とはなしに捲った末に、早々に諦めたように深い溜息を洩らす。リーブルの力になりたいと思うリンファも、流石にこのミミズが走ったような文字を前に成す術もなく、困惑を露わにノームに目を向けたのだが――当のノームやライオットも申し訳なさそうに俯くばかり。精霊二人にも頼れそうにない。完全にお手上げ状態だ。

 マナはリンファの横から書物を覗くが、即座に渋面になると目を背けてしまう。彼女もジュードに負けず劣らず文字には弱い。


「やっぱりウィルが元気になってから見てもらうしかないかなぁ……もう本の読み過ぎて頭痛が……」


 そこでジュードは開いたままだった本を閉じると、両手を上へと伸ばす。ずっと下を向いていたために凝り固まった身を解そうと言うのだ。その後に両手を後頭部の辺りで組むと、後ろへと体重を預ける。彼の後方には聖石を安置する台座があった。

 ――しかし、ジュードが台座を背凭れにするかの如く寄り掛かった時だった。


「うわッ!?」

「な、なに!?」


 不意に、それまでずっと沈黙していた聖石が蒼白く、そして力強い輝きを放ったのだ。

 突然のことにライオットとノームはジュードの頭の上から転げ落ち、ルルーナとリンファは思わず身構える。マナはジュードの片腕にしがみつき、ちびは腹這いになった身をそっと起こした。ジュードは台座を振り返り、警戒を露わに光を放つ聖石を見つめている。

 何事だろうと恐る恐ると言った様子で静かに立ち上がると、自由な逆手でそっと聖石に触れてみた。マナはそんなジュードの様子を、彼の腕にしがみついたまま心配そうに見守る。


「……え、なんだ、これ……字?」

「わ、わ、ほんとだ! ……ね、ねえ、ジュード! この本、光ってるよ!」


 すると、ジュードが触れた部分からふわりと光が溢れ出し、宙に文字列を刻み始めたのである。ルルーナとリンファは座していた地面から慌てたように腰を上げて、その文字を視線で追う。そんな中、マナは自分がしがみついているジュードの手に握られている古びた書物が淡い輝きを放っていることに気付き、彼の後ろ髪を引っ張った。

 髪を引かれる鈍痛とマナの声にジュードは己の手にある書物と、目の前で輝く聖石とを何度も交互に眺めた末に仲間たちと顔を見合わせる。考えることは――恐らく、皆同じだ。


「……まさかとは思うけど、このミミズみたいな字を聖石が解読してくれてるってこと?」

「考えられることですが……なぜ聖石が……?」


 ルルーナが口にした憶測に応えたのはリンファだ、怪訝そうな面持ちで宙に浮かぶ文字列を視線のみで辿る。その文字は書物のものとは異なり、彼女たちにも読めるごく一般的なものであった。

 ライオットとノームはその文字を固唾を呑みながら見つめている。


「聖石には竜の神の力が宿ってるに、ライオットたちが困ってるのに気付いて協力してくれてるのかもしれないに」

「それで、なんて書いてあるの?」

「ええっと……神の剣携えし巫覡、清浄なる錫杖と共に我宿す時、奇跡の力を与えん……」


 ジュードの腕にしがみついていた身を離すと、マナは上着のポケットから手帳を取り出した。そしてルルーナが読み上げるその言葉を素早く記していく。相変わらずこちらもミミズが走ったような乱雑な字ではあるのだが、マナは自分さえ読めれば問題ないとしている。特に気にした様子はない。


「神の剣?」

「多分、聖剣のことだに。あれは竜の神が世界を変えるために勇者に与えたもの、今もヴェリア大陸に祀られてる筈だによ」

「じゃ、じゃあ聖剣を貸してもらわなきゃならないってこと? でも聖剣ってくらいだから勇者様の血筋――つまり王族にお願いする必要があるんじゃないかしら……うう、貸してくれるかなぁ……」

「清浄なる錫杖は多分カミラさんが取りに行ったものナマァ、あの錫杖は前の姫巫女さんが使った神聖なもので、あらゆる傷を癒すことが出来たんだナマァ」


 ライオットとノームの説明に耳を傾けながら、ジュードとリンファは改めて顔を見合わせる。これが本当に彼らの探しているものであるのかは定かではないが、ほんの僅かにでも希望が見えたのだ。心なしかリンファの顔にも嬉々が滲み出ているような気がした。


「聖剣と錫杖が必要なのね、カミラちゃんが戻ってきたら相談してみましょ。もし聖剣を王族に借りなきゃいけないなら……やっぱりカミラちゃんにお願いするのが一番だと思うわ」

「ああ、でも……ふげき、ってのは?」

「巫覡……男性版のシャーマンのことですね、姫巫女様とは異なるのでしょうか……」

「で、でも、もしかしたらこれで王都の人たちを何とか出来るかもしれないのよね!?」


 マナは次々に増える情報を手帳に記していきながら、込み上げる期待と嬉々に自然と表情を和らげる。これでもしかしたら解決出来るかもしれない――そう思えば、溢れ出る感情を抑え切れなかったのだ。ジュードとリンファ、ルルーナはそんな彼女に目を向けるとしっかりと頷く。

 だが、ライオットとノームだけは互いに顔を見合わせ――何処か心配そうに彼らを見守っていた。


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